プロヴァンスみたいに「私ぜんぜんえっちじゃないです」みたいな顔して肌の露出が大胆な子っていいですよね。
読み返すと背中が痒くなりますね……。
ロドス・アイランド製薬 とあるラボ
そこは関係者と言えど、簡単に立ち入ることができる場所ではない。
ロドスの最高責任者が一人、ケルシー。彼女の研究室を訪れる一人の男がいた。
ドクター――ケルシーと同じ最高責任者の一人。過ごしてきた記憶のほとんどが欠落しているが、今もその任を全うしている男。
同じ立場にある同士、気の知れた仲であるはずだが――彼女の研究室の前で立ち尽くす彼の顔は、苦悩に満ちていた。
「ケルシーは一体何の用があって……なんだろう、お腹が痛くなってきた」
具体的な要件を教えてもらうことなく呼び出されたドクターは、胃のあたりを手で抑えながら慎重に彼女のラボへと足を踏み入れた。
「ケルシー、失礼するよ」
「あぁ、すまないなドクター。適当にかけてくれ」
彼女のラボは相変わらずだった。
幾重にも立ち並ぶ精密機械。無数のレントゲン。綺麗に山積みされた書類。
しかし、決して歩きづらい訳ではない。むしろ道しるべになっている。
何度来ても代わり映えのしない室内にある椅子に腰かけ、ドクターは切り出した。
「それで、なにかあったのか?」
「……一つ、頼みたいことがあってな」
「……頼み?」
ドクターはオウム返しをしながらも胸の中から疑心の眼を向けていた。
「私にはまだまだオペレーターに関する理解が足りないと思ってな。特に、種族ごとによって特性というものは大きく異なる。それはお前も理解わかっているな?」
「あぁ、もちろんだ」
「そこでだ、私は時間がある時に彼らについて調査をしようと思ったんだ。しかし、中々一人では難しくてな。そこで、ドクターの手を借りたいんだ」
「……まぁ、そういうことなら構わないよ。互いに命を預け合う仲だ、親睦をより深めるきっかけにもなるからね」
「そう言ってもらえると助かる。さて、頼みたいのはこれでな」
そう言って彼女がドクターに手渡した資料には、とあるオペレーターの指名と人体図が記されていた。
「……これは、プロヴァンスか?」
「あぁ。彼女は今、発情状態に陥っている。そこで、彼女にこれを飲ませてやって欲しいんだ」
ケルシーが差し出してきたのは一粒の錠剤。
解毒剤の一種であると説明されたそれは、通常より少し大きい。
「……これを飲ませるだけでいいのか?」
「あぁ。だが、それを飲ませる前に……彼女の尻尾を触ってきて欲しいんだ」
「尻尾? なぜ?」
「発情状態の場合、ループスの尻尾が性感帯になるかどうか――私はそれを知りたいんだ」
「いやいやいや! ちょっと待て! それを男である俺にやらせるってどうかしてるぞ! 女性がやる方がいいだろ!?」
「はぁ……ドクター。これは貴方の為でもあるんだぞ」
ケルシーは至極真面目な顔で言った。
内容こそふざけているが、彼女は本当の本当に真面目な顔をしていた。
「ロドスには複数名のループスがいる。もし、彼女たちが発情期に突入したらどうする? 何の対応策も知らず、考える暇もなく精気を吸い取られるぞ」
「え……待ってくれ。発情期って、そんな大変なものなのか……?」
「あぁ。男であれば見境なく犯し尽くす。ロドスの男性オペレーターたちも被害に遭う可能性が高い。特に……アンセルやグレイは為す術なく犯されるだろうな」
「なっ……! それは絶対に阻止しないといけないな!」
「おい、どうして今の言葉でスイッチが入るんだ」
何はともあれ、ドクターはケルシーの頼みを快諾した。
その動機には流石の彼女も呆れていたが。
「ドクター、改めて言うが彼女には近づきすぎるなよ。カメラは部屋に付けてある。尻尾を一撫でしたら連絡してくれ。くれぐれも近づきすぎるな」
「勿論だ。任せてくれ」
意気揚々とラボを去ったドクターの背中を見届けて――ケルシーは笑っていた。
「頑張れよ、ドクター。皆誰もが獣なのだからな」
◇
数時間前 田園別荘
天災トランスポーターとしての仕事を終えて、僕はロドスに戻ってきた。
ここは基地の一部を田園風景に改装したフロア。僕はここが好きだ。天災がなくて、けれど自然の風景をいつまでも堪能できるからね。
人工的だけど、ここも一つの自然の中だ。
「すぅー……ふぅー……なんだか、空気が美味しく感じるよ」
「――それはね、ここで栽培しているラベンダーたちのおかげよ」
「……? あぁ、パフューマー。こんにちは。ここで会うなんて珍しいね」
「こんにちは、プロヴァンス。確かに頻繁には来ないけれど、時々ね?」
僕に声をかけてきた女性はパフューマー。医療オペレーターだ。
植物の栽培に詳しい人で、香りが強い花の栽培をしている。
「そうなの?」
「えぇ。温室の中で花を育てるのもいいけれど、たまには広々としたところで時間を過ごしたくなるものなのよ」
「そうだったんだ。あそこに咲いているピンクとか紫の花がそうなのかな?」
「えぇ、そうよ」
当たり前のように咲いていたから気にしていなかったけど、なるほど、彼女のおかげでここの風景は完成されているんだね。
このままご飯でも食べようかな。
「ねぇ、良かったらここでご飯食べない? 外に行くと色んな花を見るから、そういうのも少し勉強しようと思っていたんだ」
「わぁ、本当!? じゃあご一緒させてもらおうかしら」
それから僕たちは、ゆっくりと流れる時間の中で久しぶりに会話というものを楽しんだ。
戦場なんかじゃできないような、穏やかなひとときだった。
◇
「それじゃあ、そろそろ定期健診の時間だから行くわ。今日はありがとう。また今度、時間があったら一緒に食事しましょう」
「こちらこそありがとう、また花について教えてね」
いつの間にかお昼の時間は終わっていた。
彼女は医療オペレーターとしての仕事があるので行ってしまったけれど、僕はなにもやることがないからここに残ることにした。
「本でも読もうかな。部屋で読むより、こっちの方が落ち着きそうだ」
そう思って席を立とうとした瞬間――妙な気配を感じた。
殺意とか、敵意とか、そういうのではない。
まるで視界の悪い夜。狼の群れに囲まれた時のような緊張感。
ずっと見られていたような不気味な気配。
振り返ると――でも、誰もいなかった。
「…………」
ここはロドス。このフロアは人が少ないけれど、他の一般オペレーターも近くにいる。
だから、万が一にも身の危険を感じたら助けを求めることは可能だけれど……今の気配は、助けを求める暇なんか与えてくれない類のものだった。
「今の、気配は……」
ボウガンは部屋に置いてきたのに、無意識に構えようとしていた。
そもそも、ここのセキュリティはそんなやわじゃない。部外者が簡単に入ってこれるような場所じゃないんだ。
そんな一般的なことすら忘れるほど、僕は緊張していた。
「はぁっ……はぁっ……」
動悸がする。手汗はひどいし、背中を悪寒が走った。
でも、何度見まわしてもここはさっきとなんら変わりない。
人工的な田園風景が広がって、パフューマーが育てた花々の匂いがする、憩いの場所。
「……部屋に、戻ろう」
さっきまで味わっていた料理がどんな味だったのか、思い出せない。
読書する気なんて消え失せて、今嗅いでいる匂いも曖昧になってきた。
脳裏によぎる赤い影。
理由は自分でもわからない。でも、分からないからこそ、恐ろしい。それだけは分かる。
ロドスに居ると極稀に視界の隅に現れるその色が、天災とは別の意味で恐ろしかった。
◇
プロヴァンスの自室
自分の部屋に戻る途中でさっきまでの動悸が収まった――代わりに、別の症状が現れた。
体が熱いんだ。最初はご飯をたべたから体温が上がっただけかと思ったんだけど、時間が経てば経つほどに悪化していった。
咳や鼻水といった症状はないので風邪ではないと思う。けれど――何故か無性に体が熱い。
服を脱いでも、エアコンの温度を下げてもまだ熱い。まるで体内で熱暴走しているかのように。
でも、自然と喉は乾かない。そしてなによりも――体が疼く。
「はぁっ……はぁっ……ぁぁっ……」
無意識に、手が動く。
そうしたいと思っているんじゃない。そうしたいと思わされているんだ。
こうなった理由は分からない。とにかく、僕はいま――発情していた。
「んぁぁ……んっ……はぁっ……」
触る前から水まみれで、今では氾濫しっぱなしでシーツを汚している元凶。
僕は、自分の指で自分自身を慰めていた。
止まらない心臓の高鳴り。
頭から離れない欲情。
それらを収めるためにただひたすら穴の中を掻き回して、排水して――なのに、体の疼きは無くならない。
「あぁあッ! アッアッ、イクッ、イッちゃう……!」
寧ろ、触れば触るほど、達すれば達するほどに悪化するんだ。指が勝手に動いて、掻き乱される。
朧げな視界で時計を見ると、部屋に戻ってから三時間近く経過していた。せっかくの休日なのに自慰ばかりするなんて、僕ははしたないな……。
体中汗まみれ。股はびしょびしょ。
気持ち悪いから、お風呂にでも入ろうかな――なんて考えていたら、部屋のドアが勝手に開いた。
「……え?」
「プロヴァンス。失礼するよ」
あれ、おかしいな。ちゃんと鍵はかけておいたはずだったんだけど……どうしてドクターがいるんだろう?
「……すまない。あまり君のことは見ないようにするから、我慢してくれ」
「……どく、たー?」
体が熱いからかな、意識がぼんやりする。彼のシルエットがぼやける。
ドクターが近づいてくるのが音で分かっても体が上手く動かない。
「ごめんプロヴァンス。我慢してくれ」
ドクターが僕に触れた――その瞬間、さっきまでとは桁違いな快楽の波が僕の頭の中に広がった。
「ああぁぁぁあぁぁぁッッッ!?」
獣の鳴き声が響いた。
理性も、知性もない、情けなくて猥褻な乱れ声が。
「やることが終わればすぐに解毒薬を飲ませてやるからな! 少し辛抱してくれ!」
ドクターは遠慮なく僕に触れてきた。
「あぁぁあぁッだめっだめっ、からだ、おかしッああぁぁあぁあッッッ!」
うつ伏せにされただけで、頭がおかしくなるくらい気持ちよくなっちゃった。
あっ……ドクターの手、濡らしちゃった……。
「それじゃ、いくぞ」
「フーッ! フーッ!」
お尻を突き出す姿勢にさせられて、次の瞬間――尻尾の付け根を彼の手で掴まれて、僕の視界は激しく点滅した。
「んおぉぉおおぉぉおぉッッッ! っはぁあぁぁっああぁぁあッッッ!」
さっきまで自分の指で刺激していたのとは比べ物にならないくらいの波が、押し寄せてきた。
――ダメッ、まって……しっぽは……びんかん、で……
体が勝手に暴れる。痙攣しすぎて、ドクターが支えてくれないと落ちてしまいそうだ。けれど、ドクターは手を放してくれなくて、そのまま先端に向けて手を動かし始めた。
感触が、付け根から先端に向かって一気に襲ってきた。
「ほあぁぁっぁ……! ……かはっ……ひゅっ…………」
もう、無理。声を上げるどころか、呼吸すら上手くできないくらいだ。
お尻が屋根を突き破るんじゃないかってくらい突きあがって、股からは透明な汁がとめどなく溢れ出た。
あぁ、こんなに濡れちゃあ、寝るに寝れないなぁ。
「……もしもし。見たとおりだ。もう解毒薬を渡してもいいよな? ……あぁ。あぁ、分かった。それじゃ」
ドクターは誰かと話していたようだけど、相手は誰だろう? 解毒薬って、なんだろう?
「すまない、またせた。これを飲めば楽になれる。顔を向けてくれ」
ドクターはペットボトルと白い粒を持って私に近づいてきた。彼の言うことに従うことが正しいのだけれど――本能が、それを拒んだ。
『彼を襲え』 『ちょうどいい雄がそこにいるぞ』
『ここなら誰にも邪魔されることはない』 『ドクターは非力だ』
『考えるな』 『体の渇きを潤すにはそれしかないぞ』
僕はイエスもノーも言わなかった。
だって、それは僕の声で、僕本来の意思なんだから。
ドクターをベッドに引きずり込んで、馬乗りになった。
差し出してくれたペットボトルは床に落ちた。あーあ、水を無駄にしちゃったね。ドクターは悪い人だ。
「プロヴァンスっ!? なにを――」
「……ドクター。こづくり、こづくりしよっ?」
ブラジャーも外して、僕は完全に裸になった。こんな姿を男の人に見せるのはドクターが初めてなんだからね。
あっ、グローブとソックスは……まぁいいや。
「なんかねぇ、からだがうずくんだぁ……だから、どくたー……こづくり、しよ?」
僕は――ドクターを見ながらそう、呟いた。
彼の――不自然に盛り上がっている一部分に向けて、囁いた。
「ま、待ってくれプロヴァンス! 俺はただ、頼まれただけで――」
「しらなーい。ねぇ、ドクター……ぼく、おかしくなっちゃってるからさ……これからなにをしても、それはぼくのせいじゃないからね……恨まないでね?」
それから僕は、ただ本能に従って行動をした。
何も考えないで、ただただ体を動かすのは愉しくて――すごくすっごく、気持ちよかったよぉ。
◇
ケルシーのラボ
プロヴァンスの部屋に仕込んだ隠しカメラが移す映像は、期待以上のものだった。
彼女の昼食に仕込んだ媚薬は一般的なものではない。
私独自の加工を施すことで、ループス特有の発情期を強制的に誘発させるのだ。
普段は温厚な彼女であっても、今ではただの理性のない獣――雌犬と成り下がっていた。
それにしてもドクターはずっとやられっぱなしだな。少しは反撃に出ればいいものを……ふっ、まぁいい。いい記録が取れそうだ。
「ケルシー。レッド、見つからなかった?」
――あぁ、大丈夫だ。どうやら気配は察知されていたようだがな……仕事をする時は、あまり尻尾に夢中になるなよ。
「分かった」
……レッドがこれを持っても効果がなかったということは、やはり体内に摂取しないと効果を発揮できないということか。では、食べずに効果を発揮させるならどうすればいい? ……ドクターには、引き続き『協力』してもらわないといけないな。
なんだ、やっと形勢逆転か。……おぉ、意外とドクターもえげつないことをするんだな。まさか常備している理性回復剤がこんな場面で役に立つとは。仕事で活用してもらいたいものだがな。
まぁいい。ひとまず用は済んだ。
後のことは当事者たちに任せよう。
それに、プロヴァンスの記憶は症状が現れた頃からおぼろげなはずだ。ドクターがどういう風に誤魔化すのか見物だな。
◇
翌日 事務室
腰が痛い。
すごく、すーっごく腰が痛い。椅子に座っているだけで腰が痛いから、尻尾をクッション代わりにしているけど、それでも少し痛い。
こんな痛みは生れて初めてだけど、原因は分かっている。
昨日、僕は何故か発情してしまって、その勢いでドクターと……ドクターと、え、え……えっちなことを、した。
微かすかに覚えているのは、僕が自室に戻った後、ひたすらに自慰に耽っていたくらいで――正気に戻った時、時計の針はぐるっと一周して六の数字を指していた。
視界に映るのは、横で力果てたドクターと空っぽの理性回復剤。
水と白く濁った液体で汚れたシーツ。
ぬるぬるして、べたついた僕の秘部。
意外と冷静に状況を分析して――理解したら、急に顔が熱くなった。僕は男の人とそういうことをシテしまったという事実を、改めて痛感して悶えた。
しかも、僕は行為の最中の記憶がない。寝ぼけていた頭が一気に蒸発してしまった。
あぁ、どうしよう。一体僕はここでどんなことを彼とシテいたんだろう……ドクターが目を覚ました時、僕はなんて声をかければいいんだろう……。
「んっ……あ、ぷろ、ヴぁんす……」
「っ! ……ドクター?」
そんなことを考えていたらドクターが目を覚ました。まだ心の整理ができてないのに! どうしようどうしよう、どうしよう!? とりあえず謝る? でもなんて謝れば――
「ぅあっ! ぷ、プロヴァンス! これは、その……本ッ当に申しわけないっ!!!」
「……え?」
寝ぼけていたドクターは意識が覚醒するや否や、見事な土下座を放った。マトイマルが時々使うこれは、東方における最高級の謝罪らしい。
床に頭を擦りつけるドクターを見て、だけど僕は不思議と嫌な気はしなかった。
発情した以上、こうなってしまうのは仕方がないことだ。
寧ろ、僕のせいでドクターの体に悪影響がないことの方が不幸中の幸いというかなんというか。
「顔を上げて、ドクター。僕は別に怒ってないから……ところで、どうして僕の部屋に入ってこれたんだい?」
「……あー、それはだな」
「こーらっ、目を逸らさない」
ドクターの顔を無理矢理こっちに向けた。
「ねぇ、昨日のことは全く記憶がないんだけど、どうして僕の部屋に来てくれたの? もしかして僕に何か変なことでもした?」
「……プっ、プロヴァンス、すまない……せめて、服を着てくれないか……」
「え? ……あっ」
ベッドの上で見られたとはいえ、正気に戻ってから見られるのは流石に恥ずかしいね……
「……えっち」
「いや、今のは俺のせいじゃないだろ……?」
うるさい。ドクターのばーか。えっちすけべ不法侵入者。
詳しい話を聞く前に、まずはこの部屋の惨状をどうにかすることと――昨日の夜から何も食べていないこの胃袋に、何かを詰め込む方が先かもしれないね。
「ドクター。とりあえずシャワー浴びよ。あと、部屋の掃除手伝って。詳しい話はご飯を食べながら聞かせてね」
「わ、わかった」
◇
あの後、ドクターから事の経緯を聞いた僕は事務室にいる。
納得はできても――作業中でも頭の中は昨日のことで一杯だ。
――発情期を抑える薬を飲ませようとしてくれたドクターに僕は、なんてことを……。
納得というか、本当に申し訳ない。
今朝ドクターは謝ってくれたけど、話を聞く限りじゃ僕が謝るべきだよね?
そりゃあ、後半からは彼もノリノリだったらしいから、そこは抑えてほしかったけど……でもそっかぁ、ドクター、僕の体を見て興奮してくれたんだ。ふふふ。
「プロヴァンスさん? プロヴァンスさーん?」
「……ぇっ? あ、あぁ。エイヤフィヤトラちゃん。ごめん、どうかした?」
あぁ、駄目だ駄目だ。今は仕事中なんだから集中しないと。
「はい、さっきシエスタの火山に関するデータが届いたんです。やっぱり、火山の膨張がどんどん深刻化しているって……」
「そっか……住民の避難は順調だよね? 移動都市の建築はまだまだ時間がかかりそうだけど、命があればやり直すことはできるからね」
「……そう、ですよね! 私、あの火山が噴火するまで調べ尽くして、火山のせいで誰かが亡くなるなんてことがないようにします!」
「頑張ろうね。僕に手伝えることがあればなんでもするからさ」
エイヤフィヤトラちゃんはロドスにいるオペレーターの中でも幼い女の子だ。
鉱石病にかかって聴覚に障害をきたしている。幼くして重症化しているだけでも不幸なのに、彼女の両親は既に他界している――火山の火砕流によって。
けれど、同情の念を彼女へ向けるのは失礼だ。
僕は、彼女の為にできることをしてあげたいと思う。
未来を蝕む鉱石病なんか気にならなくなるくらいにね。
「それにしても、君の研究資料はいつ見ても分かりやすいよねぇ。……あれ? ボールペン買い替えたの?」
彼女の机にある究資料や報告書はいつもきれいに整えられている。
ただ、普段と違う点として――ボールペンが変わっていた。
「そうなんですよー。先輩が買ってくれたんです!」
「そうなの?」
……とても嬉しそうな笑顔だ。
彼女はドクターのことを『先輩』と呼んでいる。曰く、天災研究においての専門家なので彼のことを『先輩』と敬意を込めて呼んでいるんだとか。
そこに敬意以外の感情が含まれているんじゃないかとついつい勘ぐってしまうのは、きっと僕の邪推だろう。
――もし、昨晩のことを伝えたら……いや、何を考えているんだ、僕は。
というよりも、彼女がドクターに関する話題を口にする時はとびきりの笑顔になるのを僕は知っている。
だから、今更それについて変な気持ちを抱くのはおかしいんだ。
そう……きっとこれも、昨日のせい。
「丁度インクが切れちゃって、新しいデザインを探そうかなって相談したらわざわざ買ってくれたんですよ! 先輩ってすごいですよね!」
「そうだね。ドクターって細かい所にも気づくから、だからこそ私たちは彼に戦場での指揮を任せられるんだろうね」
「そうですよね!」
彼女の純粋な瞳に映る自分が酷く矮小な何かに見える。
あぁ、駄目だ。ドクターのことを考える度に僕は自分の気持ちを再認識させられる。
僕は――きっと、ドクターが好きなんだと思う。
オペレーターの中には、僕と同じ心境の人がいるかもしれないけれど。
一緒に時間を過ごしてきて芽生えた信頼関係に過ぎないかもしれないけれど。
でも――今朝、目が覚めた時。
隣に彼がいたのを確認した時、僕の胸に芽生えた感情は紛れもない喜びだったんだ。
ずっと抑え込んできた自我。
それが、発情という一つのアクションのおかげで変わってしまったのかもしれないね。
「おーい、ちょっとお邪魔するよー」
「あっ! 先輩、こんにちは!」
「っ……。やぁ、ドクター」
「あ、あぁプロヴァンス。お疲れ」
まさかこんなタイミングでドクターが現れるとはね。噂をすればなんとやら、天災オペレーターの僕達でもびっくりだよ。
「? なにかありました?」
……エイヤフィヤトラちゃん、君のような勘のいい子供は……いや、やめておこう。。
「あぁ、いや、今朝廊下ですれ違っただけだよ」
「そうそう、それだけそれだけ」
「ふーん……でもなんか、お二人とも今日はよそよそしくないですか?」
どうして子供っていうのはこういう時だけ勘が鋭いのかな?
とりあえず話題を逸らそう。
「気のせいだよー。そういえば、そのボールペンっていつ買ってもらったの?」
「一週間くらい前ですね。あっ、先輩! これありがとうございます! すごく使いやすいです!」
「そっか。いや、喜んでもらえてなによりだよ」
「えへへっ……好きな人からの贈り物を見ていると、なんだか心が癒されるんです」
好きな人? 好きな人かー、そっかー。エイヤフィヤトラちゃんはドクターのことが好きなんだなー。うん。知ってた。
「あまり大人をからかうなよ……あぁ、そうそう。俺がここに来たのは一応ちゃんとした理由があるんだよ」
冗談じゃないですよ! って反抗するエイヤフィヤトラちゃんに口で返事をする代わりに、書類を手渡したドクター。
いなし方が慣れているね。
「この間の健康診断の結果だ。だいぶ鉱石病の進行を抑えられていると思うよ」
「わぁ、本当ですか!? ありがとうございます!」
「それじゃ、俺はこの辺で」
「えぇっ! もう行っちゃうんですか?」
「この後もいろいろとやらないといけないことが残っているんだ」
やいややいやとエイヤフィヤトラちゃんが引き留めようとした。でもその努力虚しく、ドクターは出入り口に到着してしまった。
「プロヴァンス。この子のことを頼むよ」
「……うん、任せてよ!」
事務室には僕と彼女しかいない。それに、彼女は大抵のことを一人でこなしてしまう。だから僕が頼まれる必要はない――でも、なぜだが無性に嬉しかった。
そして彼の背中がドアに隠れて見えなくなって、不意に心の中が寂しくなった。
「…………」
「もうっ、先輩ったら。また子ども扱いして……」
「あはは……それだけエイヤフィヤトラちゃんのことを気にかけてくれてるってことじゃないかな?」
「えー? そうですか?」
「うん、そうだよ。きっと、そう」
そう、彼は優しいんだ。誰にだって平等に。恐ろしいくらいに。
◇
事務室での仕事を終えて、僕は一人になった。
エイヤフィヤトラちゃんはムースちゃんと一緒にペットのことで用事があるとかで、どこかに行ってしまった。
時刻は午後六時。晩御飯を食べてもいい時刻だ。
いや、どこだろうと食べられるときに食事はするべきか。
「問題は、何処で食べるかだね」
廊下を歩きながらそんなことを考えていると――視界に、『赤』が入り込んできた。
「っ?!」
頭の中で警鐘が鳴る。理性を置き去りにして、本能が体を支配する。
恐怖という感情。どうしてこうなるのか故は不明だけど、だからこそこの恐怖は本能的なものなんだろう。
「はぁっ……っ……」
無意識に呼吸が浅くなる。それに、体動かない。動け、怖くなんかない。怖くなんか――
「プロヴァンス? なにしてるんだ?」
声が、した。
金縛りを解いてくれる声が。
冷たくなっていった体がだんだんとほぐれていく。それでも震えが残る体をなんとか動かして、僕は後ろを向いた。
「……あぁ、ドクター……ごめん、ちょっと、腕を借りても良いかな……?」
「え、あぁ。いいけど」
視界がやけに暗い。防寒具なしで凍土に行ったみたいに声が震えていて情けないや。でも……あぁ、暖かいな……。
「……なにか、嫌なことでもあったのか?」
「……ううん。発作みたいな、ものだよ」
「それって……いや、落ち着くまで端にいよう。大丈夫だ、俺はここにいる」
手を引かれて、廊下の端に移動した。
それでも僕はまだ凍傷を受けたように震えている。
まるで前後の感覚がなくなったみたいだ。
自分がどう立っているのかもわからない。
ただ、傍にいるドクターの温もりだけが頼りだった。
「……ごめんねドクター。忙しいのに……」
「気にしなくていい、他になにかできることはあるか?」
「大丈夫……そこにいて。それだけで、いいから」
どれくらいの時間が経ったのかは分からない。けど、酷く長かったような気がした。
震えは収まった。もう大丈夫。でも――まだこうしていたい。もっとドクターと一緒にいたい。
……駄目だ。この感情はきっと、彼に対する甘えだ。
「……ありがとう、ドクター。もう、大丈夫」
「本当に大丈夫か? まだ顔が青いぞ」
「大丈夫だから、ドクター……僕が、か弱い女の子に見えるのかい?」
「いや、でも――」
「あっ、ドクター! ちょっといいですか!」
この声は……あぁ、アーミヤか。ちょうどよかった。このままドクターのことを連れて行ってもらおう。
「実は、次の作戦について相談したいことが……」
「あぁ、アーミヤ。えっと……」
「……僕は医務室に行くよ。じゃあね、ドクター。アーミヤ」
僕はそのまま人混みに紛れて、二人の前から立ち去った。
後ろから何か声が聞こえたような気がするけど、きっと気のせいだ。
さて、何処に行こうかな。ドクターのおかげで……お腹が減ってしまったよ。
◇
田園別荘
またここに来てしまった。
いや、別にここが曰く付きだとか、何か不気味な気配を感じるとか、そういう訳じゃないんだ。
気分をリフレッシュしながら何か食べたいなと思ったら、自然とここに来てしまっただけ。
僕は、昨日とは別の料理を注文した。
「…………」
話し相手はいない。
昼間とは違って、夜は風景が見えづらい。その代わりに虫の鳴き声が絶えず聞こえる。
これが人工的なのか、もしくは自然的なのかは分からない。でも、静かな夜にぴったりの交響曲だ。
心が落ち着くよ。
「ドクター……」
不意に、彼の名前を呼んでしまった。
ご飯を食べ終えたら、後はお風呂に入って寝るだけだ。あぁ、でも尻尾のケアをそろそろしないと……昨日、濡れたまま放置したからすっかり乾燥してしまったよ。
でも――。
「誰かと話したいな……」
「――良かったら、俺が相手をしようか?」
「えっ?」
ついうっかり、振り向いた。
まさかここで彼の声を聞くことになるとは思っていなかったからね。きっと、彼の目には僕の間抜け面がはっきりと見えているに違いない。
僕の傍には、ドクターがいたんだ。
「どうして……」
「あー……なんとなく」
「それ、ほんと?」
「……ごめん。君がよくここに来るのを、前から見ていたんだ」
「……ふーん」
なんで? って聞いてしまいたくなったけど、聞いたら負けな気がした。なので、僕はただ黙って彼を見つめた。
「……そういえば、体調はどうだ? マシにはなったか?」
「うーん、ビミョーかな」
「……あの後、医務室には行ったんだよな?」
「内緒」
「……プロヴァンス。俺、なにか間違えたか?」
「……あははっ。ごめんごめん。つい意地悪したくなって」
「驚かせないでくれ。普段温厚な人ほど起こると怖いってことくらい知っているぞ」
「ごめんってば。でも、どうして僕がここによく来るのを知っているのか教えてくれたら体調も良くなりそうだよ」
「……ずるいな、君は」
今度はドクターが静かになっちゃった。
明らかに悩んでいる感じだけど、君は優しいから教えてくれるよね?
「……誰にも言うなよ?」
「もちろん」
ほらね。
「その……いつからか、君のことをなんとなく見つめてしまうときは何度もあって……それで、君が普段どういうことをしているのかとか、何が好きなのかとか、気になったんだ」
「恥ずかしがっていてらしくないね。というか、それいつから?」
「……シエスタで、君が命を顧みずに火山に突入したのを見た時からかな」
「なるほどねぇ……つまり、僕の水着を見て惚れたってわけだね?」
「……いや、違うから」
「えっち」
「やめてくれ」
その反応、明らかに図星じゃないか。
「ちなみに……昨日見た僕の裸――どうだった?」
周りに誰もいないのを確認して、彼の耳元で囁いた。
ドクターは面白いくらいに驚いてくれた。同時に、すごく顔を赤く染めていた。
「まぁ……その、すごく、良かったよ」
「具体的にどこが?」
「言わなきゃダメか?」
「だーめ。勝手に僕の部屋に入ったんだから、そのくらいは教えてよ」
「……まさかだけど、発情していないよな?」
「ループスの発情期はね、場所なんてお構いなしで、目の前に男がいたらすぐに……まぁ、そういうことをし始めるレベルだからね。今こうして君と普通に会話しているのが何よりの証拠だよ」
「……その、予想以上に胸がデカかったし、太腿がめちゃくちゃ柔らかかったし、喘ぎ声がすげぇえろかった……」
「……へー」
なんか、改めて聞くとこっちも恥ずかしくなるね。あー、ご飯食べると体も温まるなー。
ていうか発情した僕ってそういう感じだったんだ。……なんか、気になっちゃうな。
「ねぇ、ドクター。これから尻尾のケアを部屋でしようと思うんだけど、よかったら話し相手になってくれないかな?」
「普段は独りでやってないか?」
「今日はそういう気分なの」
「……分かった。昨日のこともあるからな。付き合うよ」
「あー。そうやって大人ぶるのなんかやだなー」
ふんっ、てわざとらしく鼻息を荒げて、そっぽを向いてやった。
彼の反抗めいたため息が首の後ろから漏れ聞こえたけど無視し続けた。すると、ドクターは僕の視界に回り込んできて、言った。
「じゃあこうしよう。体調が芳しくないオペレーターをヒアリングをするために同行させてもらう……どうだ?」
「うふふ。いいよ」
まぁ、僕と一緒にいたいからって言ってくれればそれだけでよかったんだけどね。
何はともあれ、今夜も彼と一緒に過ごせると思っただけで、僕は嬉しかったんだ。
◇
プロヴァンスの自室
誰にも見られていないことを確認して、僕はドクターを自室に招いた。
鍵はちゃんと閉めた。
これで誰も部屋に入ることはできない。
今夜も、二人きりだ。
「僕はベッドで手入れをするから、ドクターは適当に座ってね」
「……じゃあ、その椅子を借りようか」
「うん、いいよ。なんだか緊張してない?」
「いや、昨日もここにいたけど……女性の部屋に入るのって初めてだったなと……それに、昨日は非常事態だったからそういうことを意識する暇もなくてな……」
「ふーん……えっち」
「いや、なんで?」
「そういうこと意識する人は皆えっちなんだよ」
「……逆に、女性の部屋に入り慣れてる男ってどうなんだ?」
「……ドクターは、そうはならないでね?」
そんな感じで僕たちは雑談をしていた。
やっぱり彼と話していると落ち着く。
一人で尻尾の手入れをしていたらきっとこうはならなかった。さっきまでの震えも寒さも忘れてしまうくらいの楽しい時間を、僕は過ごせた。
話していくうちに気付いたんだけど、ドクターの視線が変なんだよね。
僕は尻尾を見ながらしゃべっている。でも彼は僕の顔じゃなくて、どこか別の場所を凝視しているような……ていうか、なんだか厭らしく感じるよ?
「ねぇ、ドクター。僕の体、どこか変?」
「へぇっ!? い、いや。どこも変じゃないぞ!」
「えぇー? ほんとうにー?」
丁度尻尾のケアが終わったから、尻尾で彼をぐるっと囲んで問い詰めた。
ふふっ。逃がさないよー。
「ほらほらー、言ってみなってー。もしかして僕の胸でも見てた?」
「いや、違うんだプロヴァンス。ちょっと服の構造が気になっただけで別におかしいってわけじゃ……」
「? 服の構造? まぁ、これは外套みたいなもので、下は薄着だけど……」
彼が何を気にしているのか分からなかったから外套を摘まんだ。そしたら、ドクターの顔は見る見るうちに赤くなっていった。
「……プロヴァンス。それって、下着じゃ、ないんだよな?」
「え? 当り前じゃん。どうしたの?」
「いや、すまない……それ、肌が透けて見えるから、なんか……ごめん、忘れてくれ」
…………。
僕はこれが普通だと思っていたんだけどさ……面と向かって言われると恥ずかしいね……。
「……ドクターのバカ。すけべ」
「その、なんだ……新しい服、用意して貰うか?」
「っ……! べ、べつに僕は平気だもん! ほら、普段は外套で全身が隠れているから――」
僕の言葉を聞いているのかいないのか、ドクターは眼を白黒させながらこっちを見つめていた。
なんだい、その顔は。何か言いたげだね。
「……言っとくけど、この姿は毎日見てるよね?」
「いや、前から思っていたんだがな……その姿、外套のせいで下に何も履いていないように見えるんだよな……」
「……へぇっ?」
顔が、熱い。
いやいや、それじゃまるで僕が露出狂みたいじゃないか。
「……しーらない」
僕は恥ずかしさを紛らわせるが如く、彼の体に向けて顔ごと突っ込んだ。
顔色を彼に見られたくなかったというのが、本音かもね。
◇
「あの、プロヴァンス。そこに顔を置かれると色々と困るというかなんというか……」
顔を突っ込んだ先は、硬かった。それと独特な匂いもした。
ドクターがしどろもどろな声を出しているのが面白くて、僕は腰をしっかりと掴んで離れないようにした。
「知ってる。ていうか、ドクターだってそういうつもりで来たんじゃないの?」
「っ。いやいや、そんなつもりは……」
もうっ。そうやって白々しいこと言って。
「僕ね、昨日の記憶が全くないんだ。ドクターがどういう風に僕のことを悦ばせてくれたのかっ、知りたいなー」
自分で言っておいて、恥ずかしい。
だけど、僕はそのつもりだ。
そういうことをするために彼を呼んだんだ。
「…………」
彼は何も言わない。
でも、黙って見つめていたら観念したかのように口を開いた。
「……はぁ。一回だけだぞ。昨日みたいにはできないから」
「うん、大丈夫。……きて?」
体を起こして、無防備になった。ドクターは僕を押し倒して、覆いかぶさって――唇を塞いでくれた。
「んっ……ふぁっ……」
柔らかい。それに暖かい。
何かが僕の口の中に入ってきた。ぬるぬるしてて、柔らかいけど芯は硬い。あぁ、これはドクターの舌か。
口の中を勝手にまさぐられるのは変な感じだけど、気持ちいい……。
「ちゅぅっ……んっ……あ゛っ……?」
ドクターの手が僕の胸を這った。誰かに肌をなぞられるのはこそばゆい。
でも、くすぐったさはすぐに上書きされた。
手が行きつく先――終着点は、僕の乳房。
「あはっ……んっ……おっぱい、好き?」
「当り前だろ」
「尻尾とおっぱい、どっちが好き?」
「んー……おっぱい」
「ふふっ、えっち、ぃ……あぁん」
そんなねちっこく乳首を弄らないでよ。もうおっぱいの柔らかさに飽きちゃったの?
「どく、たぁ……ちくび、イジめにゃっ、いで……」
「プロヴァンスの声が可愛くて、ついな」
「んっ……えっち……ひゃぅっ……!」
親指と人差し指で挟んで、ずっとこりこりしてくるんだもん。キスしてても声が漏れちゃって恥ずかしいな……。
「んふっ……ふぅっ……っ!?」
あ、きた。
片方の乳首が解放されたけど、それは休憩の合図なんかじゃない。これからもっとすごいことが来る予兆だ。
天災オペレーターとしての勘かな? いや、女としての勘だね。
「んんっ! はっはっ、あぁっ……!」
さっきまでとは違う荒い声が、出ちゃう。
下着越しに、そして段々と下着の中を侵してくる指。
デリケートな部分から聞こえる水音。
昨日、自分でシたときより気持ちいいのは、誰かに――好きな人に弄ってもらえるからかな? ……違う、ドクターは分かっているんだ。僕の、弱点きもちいいところ。
「ねぇ、どくたー……もしかして、ぁッ、他の人とも、こういう、こと、ヤッ、てるの?」
「そんなわけないだろ。寧ろ誰ともできなくて欲求不満だったよ」
「えー、へんたいじゃん……じゃあ、なんでこんなに、ッ、うまいの?」
「……男なら誰しも、こういう知識は自然と身につくものなんだよ」
「えー? ドクターってやっぱり……だめっ、まってッ! なんか、へんッ……!」
お腹の裏側の、弱いところ。指先で押し続けると気持ちよくなれるその部位だけ執拗に弄られた僕は――いともたやすく、達せられてしまった。
……あー、下着もパンツも濡れちゃったなぁ。
「あっ……はぁっ……」
「可愛いな」
「……う、うるさいっ」
「君のそんな顔を見れるのは俺だけだと思うと妙に興奮する」
「うぅっ……えっち!」
なんだか余裕の笑みを浮かべていてむかつく。僕だってドクターのことを気持ちよくできるんだから。
「ドクター。見せて」
「えっ」
「良いから速く、脱いで!」
「わ、わかったから」
普段は厚着をしているから決して見ることのできないドクターの体。
太腿や脚からは毛が濃く生えていて、男なんだなって再認識させられた。そして――暗い部屋の中でもわかるくらい、彼の半身は硬く直立していた。
――大きい……これが、僕の中に……。
昨日も自分の中に入っていたとはいえ、その姿を改めて見ると不安になった。でも……大丈夫。怖くはないから。
「じゃあ……いただきます」
果たして今の言葉は正しかったのか。いや、もう考えなくていいや。
僕はただ、それを味わえばいいんだから。
「うぉっ……」
やっぱり大きいね。口で咥えただけで息苦しくなるよ。
たしか、男の人ってこの先端の、丸い部分が弱いんだよね。カリって言うんだっけ?舌でべろべろ舐めたり、咥えてしごいたりと……あっ、ドクター、腰引いてる。
「プロヴァンス、そのやり方、どこで……」
「ふぇっ? ふぁひめてふぁよ?」
そりゃ、僕だって一人の女の子なんだから、性知識くらいはあるさ。失礼しちゃうね。
そんなドクターにはこうだっ。手のひらで先端をぐりぐりして、裏筋は僕の唾液で匂いが上書きされちゃうくらいべちゃべちゃにしてあげる。
ねっ? 気持ちいいでしょ?
「やばい、プロヴァンス……もうっ……」
「だーめ。まだ我慢して」
ビクビク震えて、ぷるっと膨らんできた。でも駄目だよ。外で出しちゃ勿体ない。
そんなぁ、って情けない声を上げるドクターに微笑んだ。
握るとすごく硬くて、びくびくしてて、まるで独立した生き物みたいだ。少し臭いけど――でも、この匂いを嗅いでいると、なんだか頭がくらくらしてくるよ。
少し放置して。時間をおいて。そして再開する。
今度はドクターが達しないように優しく握って、ゆっくりと竿をさすりながら――耳元で囁いた。
「ねぇ、ドクター……シよっか?」
彼は――黙って頷いた。もう口を動かすことも考えられないのかな? じゃあ、頑張って耐えているドクターにはご褒美が必要だね。
下半身を守ってくれる布を全て脱ぎ捨てる。あっ、今この姿で外に出たら、本当に露出狂になっちゃうね。
「ドクター……ここ、ここにいれてぇ」
竿を入れてもらう入り口を自分の手で拡げて、見せつける。もうこれじゃ発情している時と変わらないかな?
……ううん、意識ははっきりしてるんだから、発情なんか――
「プロヴァンス!」
「あんッ! そんながっつかなくても僕は逃げないよ」
あっ、すごい。ドクターが僕の体の中をごりごり抉ってくる。
あんなおっきな棒が根元まで入っちゃった。あッ、すごいッ、息、できないッ。
「どくたぁッ、これすごいよぉッ奥の壁、ごりごりしてりゅッ!」
さっきイッたから子宮が下りちゃったのかな? 先端がポルチオに当たって、気持ちいい。
――やだっ、僕今すごい下品な顔をしてる。やらしい声でドクターのこと興奮させちゃってる。
「どくたぁッ! どくたぁッ!」
どうしよう、またイきそう。でもドクターも苦しそうだね。僕の狭いお腹の中で膨らんでいるのがよくわかるよ。
「どくたー、イく? 僕の、お腹にっぜんぶだすっ?」
「フッ、フッ、射精だす、射精だすぞっプロヴァンス!」
「キてっ、いっぱい、だし――ああぁあぁぁッッッ!」
お湯が直接注ぎ込まれる感じがする。次第に暖かさが広がってきた。
なんだか、すごい幸せな気分だなぁ。
「はーっ、はーっ……」
「あっはぁっ……ドクター、すごく、気持ちよかったよぉ……」
「俺も、よかった……やばかった……」
「ほんとぉ? 嬉しいなぁ……」
初めてのセックス。大好きな人に覆いかぶされながらするセックスはすごく気持ちよくて、温かった。
あぁ、勿論、昨日は僕が発情していたからノーカウントだよ。
達成感と暖かさに浸っていたら――なんか、お腹の中で膨らみが。
「……ねぇ、ドクター? もしかしてまだシたりないの?」
「……いや、まぁ、その――」
「ドクター……ドクターがしたいなら、いいよ? 続けても」
「いいのか?」
「うん……あっ、でもさドクター」
大事なことなので、眼を見て告げた。
「もし子供ができたら……責任、取ってくれるよね?」
「……当たり前だっ!」
「きゃっ!?」
ドクターは僕に抱き着いて、僕ごと体を起こした。
ベッドの上で胡坐をかく彼の上に乗るような体勢だ。下から何度も何度も突き動かされる姿を直視されるのは……恥ずかしいね。
「どくたー、みないでっはずかしっ……! あぁっ、あんッ!」
「これからもっと恥ずかしいことをするんだから、いちいち気にしていたら身が持たないぞ!」
「えぇッ、それッ、あッだめっ、イクッ、イ゛ク゛ぅッ!」
やばい、すごい気持ちいい。ドクターに恥ずかしい姿を見られていると思うと、それだけで興奮しちゃう。
「恥ずかしい体位が好きなのか? プロヴァンスはえっちだな! さっきよりも締め付けてくるぞ!」
「んはぁっ! ごめんなさい! えっちな女の子でっごめんなさいぃッ!」
さっきと変わらない硬さでごりごり削られて、僕はあっけなくイってしまった。またお腹が暖かくなっていく。ドクターも肩で息をしていた。股から白い液体がぼたぼたと零れていて、厭らしい。あっ、ドクターのことも汚しちゃった……ごめんね?
「んふぅ……ちょっと、休憩……」
僕はうつ伏せに倒れた。
二度も出された僕の秘部からは白くて粘ついた体液が大量に零れていた。
あと下半身が汗……じゃないけど、なんか透明な汁でびしょ濡れだよ。
そろそろお風呂入ろうかな。
「あっ……うわ、すごい……」
試しに股に手を伸ばして、どろどろの体液を触ってみた。
初めて見たけど、なんかクリームみたいな見た目だね。でもすごく臭い……これが男の人の精子か……
舌でちろりと舐めてみたけど、やっぱり青臭かった。
「んー。ドクター。ドクターの精子苦いよー。……ドクター?」
何度か呼んでも返事がない。視線を背中に向けると――なんだかぎらついた目をしたドクターがいた。
「……そうだな、プロヴァンス。精子は苦いんだ」
当たり前のことを呟いて、お尻を鷲掴みしてきた。
「きゃっ……」
「ごめん、プロヴァンス。休憩は終わりだ」
「えっ? ちょ、まって。まだ腰がっ、ふぁッ?! あ゛ッ! はいッてッ!」
ダメッ、ダメだよドクター。こんな後ろから一方的に侵されたら、僕、またイくっ……なんで、僕が痙攣してるのにドクターは腰を止めてくれないのぉ……。
「だ、め……ぇっ……まっ……まだ、イク゛ッ……!」
ドクターが性欲おばけになっちゃった……僕、もう腰が上がらないのに……うつ伏せに寝たままバックで突かれてるぅ……ッ……あっ、まって、おく、ごりごりしちゃだめっ……ドクターの体重全乗せのおちんちんがポルチオ刺激してっ……イッッッ……!
「プロヴァンス……射精だすぞっ……!」
待って! もう無理! もうこれ以上出されても飲み込めないから! 全部体の外に溢れちゃうから! あっ、おちんちんふくれ――
「~~~~~~ッッッ!!!」
今までにない獣みたいな叫び声は、枕に顔を埋めることでなんとか抑えた。こんな声、隣の部屋に聞こえたら……恥ずかしいもん。
これでもう、何度目かな? 流石にドクターも落ち着いて……えっ、どうしてお腹の中でまだ大きくなっているの? ねぇ、まって、うごかしちゃッ、あッ、だめッ! おく、とんとんしないでぇ……!
「プロヴァンス。あと一回。あと一回だけだから……」
もう……これじゃ明日も腰が痛むじゃないか。
結局、僕の身も心も休まったのはドクターが手持ちの理性回復剤を飲み切った後だった。
……悔しいけれど、後半からはほとんど記憶がない。
◇
自然と、目が覚めた。
僕の目の前では腰痛の原因である彼が安らかに寝息を立てている。
体を起こして部屋を見れば、まぁやっぱり目も当てられない惨状が広がっていた。
ベッドの上は体液塗れ。臭いが酷くて、早く喚起しないと青臭さが壁にこびりついてしまいそうだ。
互いに服は床に投げ捨てっぱなし。
尻尾のケア用品も置きっぱなし。
ドクターが服用した栄養剤も転がっている。
はぁ……この光景を見ると、結局発情していようがいまいは関係な……いやいや、大丈夫。今の僕にはちゃんと理性があるんだ。ちゃんと、普通のお付き合いを――。
「…………あっ」
ドクターの半身が、まだ堅い。つまりまだ足りないってことなのかな?
「…………」
僕は舌なめずりをしてそれを手に取った。
どくどくと脈打って、熱がある。昨日のおかげですごく青臭いソレを、僕は丹念に舐め始めた。
ふふふ、ホント無防備なんだから……無防備なドクターが、悪いんだよ?
〈終〉