四葉真夜の息子ドブカス概念 作:ペニスリン
2092年8月 沖縄
クルーザーでの遊覧中、大亜連合所属と思われる潜水艦からの魚雷攻撃を達也が雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)で塵に還して無事に別荘まで帰ってきた真昼達は詳細を国防軍に連絡、夜になって恩納基地から事情聴取をしに風間玄信大尉と名乗る魔法師の軍人が別荘にやってきた。
「━━では攻撃を受けた理由に心当たりは?」
実直そうな風間大尉からの質問には真昼が答える。他の四人も事情聴取に同席してはいるが四葉次期当主として真昼が答えると事前に決めていた。
ソファーに座り対面の風間大尉を見ながら薄ら笑いで答えていく。
「心当たりなんてあり過ぎて特定できませんよ、なんせ四葉ですから。相手が大亜連合なら尚更、100万通りの理由があるでしょうし」
風間は平然とした態度を取り続けるが内心は気が気じゃ無い。
目の前に座る面妖な雰囲気を漂わせる少女にも見える少年はあの四葉家の次期当主なのだ。
十師族の中でも一等の秘密主義でその全貌を知る者はいなかったが2年前から徐々にベールに包まれていた部分が公表されるようになり、それに合わせて権勢も強まりつつある。
唐突な方針転換とそれによる影響力の増加は二十八家や軍でも不気味に思われている。
当主、四葉真夜の息子と四葉深夜、現司波深夜の子供の公表は日本魔法界を大きく騒がせた。
(この少年が四葉真昼、次期四葉家当主……微笑んでいるが凄まじいプレッシャーだ。四葉家の次代はこれほどのものか! それに彼の後ろに控えている二人が四葉深夜の息子と娘、こちらも只者ではないな)
「……そうですか、分かりました。ご協力感謝いたします」
風間大尉が別荘を出て行き、達也と深雪が見送りに着いていく。
「戦争の臭いがするね〜」
真昼の独り言に深夜が反応する。
「真昼さんは大亜連合と戦争になると考えているの?」
「うん。そもそも戦争する覚悟でもしなきゃ僕達四葉に魚雷なんて撃って来ないって。まあ多分、向こうは僕達が四葉だって気づいて無かっただろうし、僕達が沖縄にいるとも思って無いかもよ」
「そうね……せっかくの旅行だけれど予定を繰り上げて早めに帰りましょうか」
「ま、その方がいいかもね」
━━━━そんな話しをしていたのが2日前。
今、真昼と司波家の5人は国防軍の恩納基地にあるセーフルームの一つに保護されている。
国防軍から事情聴取を受けてから2日後、大亜連合が突如として沖縄への軍事進行を開始。
あの後、風間大尉からの誘いで恩納基地に遊びに行った達也と、国防軍に話しをつけた真夜の伝で恩納基地に避難できる事になった5人。
だが基地内にいた大亜連合に内通していた兵士達が突如として室内に乱入し銃を向けてきたが運悪く達也は外の様子を見に行っており不在。
仕方なく真昼は突入してきた兵士達を皆殺しにする事になった。
━真昼視点━
セーフルームに血の匂いが充満している。
人を殺したのは初めてだけど大した事ないなと思う。
得意なセルフマリオネットを使っての高速移動で乱入してきた裏切り者達を皆殺しにした。手に硬化魔法をかけて高速で相手の身体に拳を突き刺した。
血飛沫と共に身体を貫通した腕が真っ赤に染まっている。
「べとべとして気持ち悪いなぁ」
深夜ママや穂波ちゃん、深雪ちゃんは兵士が乱入してきてからの一瞬の出来事に唖然としている。
兵士が銃を向けてきた次の瞬間には兵士達は血を吹き出して床に倒れ伏しているんだ、唖然とするのも当然の話しだ。
セーフルームの壁や床に飛び散った血飛沫と倒れ伏す兵士の血溜まりの中に立ち尽くす僕を見て偶々、一緒になった民間人の家族が喚いている。
これだから猿は……感謝の一言も出ないなんて。
「ヒイィィィィィィィ‼︎‼︎血、血が、あ、あ」
「こらこら、セーフルームではお静かに、お猿さん達」
「……真昼さん怪我は⁈」
「してないよ深夜ママ」
我に帰った深夜ママが心配そうな顔で僕に怪我の有無を聞いてきたけどこの程度の敵なら擦り傷一つ負わないから平気。
僕は隅で震えている猿達を無視して家族のもとに歩みよる。
深夜ママはもう大丈夫みたいだけど深雪ちゃんは少し震えている、怖がらせちゃったかな? 穂波ちゃんが深雪ちゃんの背中をさすってる。
「大丈夫?深雪ちゃん。怪我はしてないかな?」
「だ、大丈夫です……それより真昼さん、血が」
「僕の血じゃないから大丈夫だよ」
「ですが……『化け物が!』真昼さん危ない⁈」
深雪ちゃんが何か言おうとした時、背後から叫ぶような声と共にバン‼︎と銃声がした。
一人仕留め損ねていたみたいだ。実戦は初めてだから油断しちゃったな。
真っ直ぐ深雪に飛んで行く弾丸を六眼が捉える。
僕はこの状況から弾丸を無効化できる魔法は持ち合わせていない。
六眼で追えてはいるけど障壁魔法も間に合いそうもない。
しょうが無い、達也も直ぐに戻って来るだろうし即死はしないでしょ。
僕は身体を僅かに横にズラし深雪ちゃんと弾丸の間に入る、弾丸が腹部に直撃して僕の内臓をぐちゃぐちゃにシェイクしながら背中から抜けて背後の壁にめり込んだ。
訓練で貢おじさんに殴る蹴ると受けてきたけどこの痛さはその比じゃないな、腹に焼けたパイプを捩じ込まれたみたいだ。
僕は弾丸を受けた勢いのままに後ろに倒れこむ、後頭部に柔い感触を感じた。この柔らかさは穂波ちゃんのおっぱいだ。
「真昼様!真昼様!いやあ!」
「真昼さん!よくも真昼さんを……死になさい」
穂波ちゃんが僕を背後から抱き抱えてお腹に空いた穴を手で抑えてくれる。痛いよ穂波ちゃん……
深夜ママは激昂して僕が殺し損ねた奴に魔法を放った。なんの魔法だろう……敵がのたうち回っとてる。
「……痛いよ、穂波ちゃん……あんまり強く押えないで、内臓がでちゃうよ」
「黙ってください!血が……達也君はどこに」
「真昼さんもう少しの我慢よ達也がもう直ぐ来ますからね」
深夜ママも穂波ちゃんも泣きそうな顔をしてる。僕がベッドの上以外で女を泣かせちゃうなんて……結構泣かせてるかも。
僕に縋り付く二人の横で深雪ちゃんが正気に戻ったのか、床を這うように四つん這いで僕の前まできた。腰でも抜かしたのか、顔にはベッタリと僕の血が付着していた。
「あ、あぁ……真昼さん私をかばって……ごめんなさい、ごめんなさい」
涙を流しながら謝罪の言葉を繰り返す深雪ちゃんの頬に手をやり優しく撫でてあげる。
「謝らないでよ、深雪ちゃん。僕は四葉家の次期当主だから……家族を守るのは僕の役目だから」
「でも……こんな」
「平気だよ、妹を守れたんだから……あぁ可愛い顔が血で汚れちゃって」
僕の言葉に深雪ちゃんが涙を止めてくれる。
「妹……ですか?」
「そうだよ。僕は深夜ママのお腹で育ったからね、達也も深雪ちゃんも僕の可愛い弟(ブラザー)と妹(シスター)だよ」
深雪ちゃんの頬を撫ぜる僕の手に深雪ちゃんの手が重ねらる。
君達二人は僕の大事な兄妹だ。達也にはもっと強くなって僕を楽しませて欲しいし、深雪ちゃんにはもっと成長して僕を気持ちよくして欲しい。
だから僕がちゃんと守らないと。
あ、達也が来たみたいだ。六眼が此方に走ってくる達也の姿を壁越しに捉えた。
「深雪!!!! これは、何があったんだ……⁈真昼!」
いの一番に深雪の心配をした達也が血まみれで死体だらけの室内を一瞥すると漸く怪我をした僕に気づいてくれたみたいだ。
穂波ちゃんに抱かれる僕の前、深雪ちゃんの隣りに膝をつく。
「深雪、その血は」
「真昼さんのものです……私を守って」
「……真昼が深雪を守ってくれたのか……ありがとう」
礼をしてくる達也に深夜が急かすように声をかけた。
「達也、早く真昼さんを」
「わかりました」
そう言って達也は立ち上がり僕に向けてCADを構える。
精霊の目を使っているな、身体がムズムズする。
「お兄様なにを!」
深雪ちゃんが僕を抱きしめるようにして達也から僕を守る。
そうか深雪ちゃんは知らないんだった。深夜ママが深雪ちゃんに説明する。
「深雪さん、大丈夫よ。達也は今から再成で真昼さんを治すの」
「……成生」
「そう、達也の固有魔法」
深夜ママはそう言いながら僕から深雪ちゃんを優しく引き剥がした。
達也の目が僕に始めるぞと言ってくるから僕は軽く微笑んで頷いた。
達也のCADが淡く光ると僕の身体の情報が一瞬で書き換えられる、怪我をする前の状態に。
「……ありがとう達也、服まで元通りじゃん」
「ついでた、血塗れだと気持ち悪いだろう」
僕を立ち上がって軽く身体の状態を確かめるけど文字通り元通りだ。
達也の魔法が凄過ぎてぽかんとしている深雪ちゃんの頭を撫でてあげると勢いよく抱きつかれた。
「あぁ良かった、本当によかった」
僕も深雪ちゃんの背中に手を回して抱き返した。達也が胡乱な顔で見て来るが大丈夫だよ、まだ手は出さないから……まだね。
ドサドサと足跡を立ててまた兵士が入って来たが、今度は聴取に来た風間大尉みたいだ。室内の様子に驚いている。
「これは、いったい⁈ 四葉殿ご無事ですか!」
「大尉、平気ですよ。それよりごめんね、国防軍の兵隊さん殺しちゃった」
「いえ、この者達は敵に内通していた離反者共ですから。それよりお怪我は?」
「大丈夫だよ。僕達を狙ったのかな」
「違います。あの者達はあちらに居られるご家族が狙いだったようで」
そう言って風間大尉は部屋の隅でまた怯えている猿の家族に顔を向けた。
「へー、あのお猿さん達が。なに者かな?」
「国防軍と取引をしている企業の社長とそのご家族です」
「そうたんだ」
まあどうでもいいか。風間大尉も四葉が巻き込まれたからか顔が真っ青だ。心配しなくても殺したりしないよ。
「まあお猿さん達の事はいいよ、それよりさもっと安全な場所を貸してくれないかな?この部屋も汚れちゃったし」
「それでしたら防空司令室にご案内いたします」
「よろしくね……達也?」
部屋を移動しようとしていたら達也が僕と風間大尉の方に歩いてくる。
目が完全に据わってるよ……何かやる気かな。
「風間大尉」
「……何だね?」
「戦闘状況は?」
達也の質問に答えていいものか悩んでるみたいだ。風間大尉が此方に目を向けてくるから頷いて返した。僕は君達の上官じゃないんだけどな。
「すでに複数の海岸で敵部隊の上陸を許している、敵艦隊により一部海域の制海権を奪われている。市街地では敵に寝返った者達がゲリラ攻撃を仕掛けておりこの基地から敵殲滅の為に空挺部隊を出動させている」
たんたんと状況説明してくれたけどヤバいじゃん。沖縄は国防軍の管轄で十師族は手を入れて無いんだけどこの体たらく、海軍も空軍も何をしているんだか。情報部の連中もうちに探り入れてる暇があるなら身内の内通者を監視するとかできないのかな……。
「……かなり不味い状況ですね。風間大尉、お願いがあります」
達也が風間大尉にお願いね……
「軍のアーマースーツと歩兵装具一式を貸してください」
やっぱり、風間大尉も険しい表情になった。
「……理由は?」
「奴らは深雪に怪我を負わせる所でした、幸い真昼が守ってくれはしましたが、それでも許せるものではありません。奴らには報いを受けてもらいます」
「……一人で戦うと?」
「これは俺の私怨ですから」
「私怨による復讐であっても、それが制御されたものであるならば問題ない。捕虜や降伏した兵士への虐殺は許可できないが、我々の目的は最初から敵兵の撃退もしくは殲滅だ降伏勧告をする積もりもない、君を私の部隊に迎えいれよう」
とんとん拍子で話しが進み達也は風間大尉の部隊と共に出撃準備をしに部屋を後にした。
猿の家族達は僕達とは別のセーフルームに案内されたみたいで僕達は今、巨大なモニターが設置された薄暗い防具司令室にいる。
穂波ちゃんがコンソールを操作してモニターを切り替える。
画面には黒いアーマースーツを着た達也が敵兵を塵に返すのが映っている。
やっぱり強いな達也は、僕のマインドセットを使っても、いや使う以前に達也の知覚範囲に入った瞬間に魔法を使う間もなく僕も分解されるな。
僕の六眼はサイオンの動きやエイドスの書き換えを分子レベルで見分けられるし魔法式も見た瞬間に理解できるけど、知覚範囲は達也の妖精の目の方が遥かに大きい。
「お兄様……」
達也が敵を殲滅していく様子を深雪ちゃんが静かに見ている。
今まで邪険な扱いをしていたけどこの旅行でかなり心境に変化があったみたいだ。
お兄様ね……僕も呼んでくれないかな。
暫くは達也達が優勢だったが海岸に上陸した敵兵を殲滅した後、状況が一変した。
海岸から20キロの海域に展開した敵艦隊に苦戦している。
達也が手にもつライフル型の武装一体型CADから仮想の銃身が伸びて艦隊に発砲するが届いていない。
マテリアル・バーストを使うつもりかな? あれなら確かに戦略級の威力を出すけどまだ理論段階のはずだ。
でも見てみたい。達也が戦略級魔法を使う姿を。
「……奥様、達也君の援護に向かう許可を頂けませんか?」
「……貴女は私のガーディアンなのだけど」
「穂波さん」
見かねた穂波ちゃんが深夜ママに戦場に出たいとお願いしている。
確かに穂波ちゃんなら障壁魔法で達也達の役に立つだろうけど……
「穂波さん、許可なら真昼さんに取りなさい。ガーディアンとは言え、四葉の人間が戦場に出るなら次期当主である真昼さんの許可がいるわ。達也は勝手に出て行ってしまったけれど……」
「真昼様……」
穂波ちゃんが懇願するように僕を見つめる。
そんな目で見ないで欲しいな……深夜ママは流し目で、深雪ちゃんも不安そうに見てくる。
どうしようかな……穂波ちゃんを行かせるか……でも無茶しそうだしなぁ、まだまだしたいプレイがいっぱいあるし、達也の戦略級魔法を近くて見たいし……僕が行くか。
「ダメ」
「そんな!真昼様お願いします!このままだと」
「わかってるよ。だから僕が出るよ」
「え⁈ 真昼さんが?」
深夜ママが驚いたように僕の方を見てくる。
僕が行くとは思わなかったのかな。
「まあね、なんか危なそうだし」
「何も貴方が出なくても……なぜ達也をそこまで気にかけるの?」
不思議な事を聞いてくるな、そんなの決まってんじゃん。
「僕はお兄様だよ」
そう言って僕は防空司令室を後にする。僕もアーマースーツ借りよ、装備室って何処かな……
後ろから扉が開く音がして背中に軽く衝撃がくる。
「深雪ちゃん」
「……真昼様、どうか、どうかご無事で」
真昼様? まあいいか背中に抱きつく深雪ちゃんを安心させる為に振り返って抱きしめる。
「大丈夫だよ、僕を信じて」
黒いサラサラした髪を梳かすように撫でると深雪ちゃんが見上げてきた。大きなお目々が涙でキラキラしている。可愛いけどまだ身体が出来上がってない、後2、3年ぐらいかな。
「ご武運を……」
「うん!全力でお兄様を遂行する!」
そう微笑みかけて僕は一人戦場を目指して行く、弟(ブラザー)の待つ戦場へ。
━━その日、僕は目撃した。艦隊を一撃で消滅させる圧倒的力の奔流を