四葉真夜の息子ドブカス概念 作:ペニスリン
2094年5月20日 七草邸
放課後、真昼は真由美と共に七草邸へと来ていた。
高いコンクリートの外壁に囲われたモダンな豪邸だ。
真由美と共に乗ってきたコミューターから降りると屋敷の入り口で七草
家の使用人が扉を開けて二人を迎えいれる。
玄関で靴を脱ぎ、用意されたスリッパに履き替える真昼に、真由美は申し訳無さそうな表情で話しかけた。
「急に誘ったのに来てくれてありがとう」
「全然、気にしないでください。七草先輩みたいな美人からのお誘いを断るなんてことしませんよ」
「まあ、四葉君は口がお上手ね? でもありがとう。そう言ってくれると私も気が楽になるわ」
真由美は薄っすら頬を染めるが、歳上の余裕なのか軽く微笑み言葉を返した。
「夕食まではまだ暫くあるから応接室に案内するわ。紅茶でも飲みましょう」
そうして広い屋敷の中を案内する真由美について行きながら真昼は今日の事を思い返す。今に至る経緯だ。
今日の放課後の事だ。生徒会の仕事も終わり、下校しようと真昼がリムジンの運転手に連絡をしようとした時、肩を軽く叩かれて振り返ると困り顔をした真由美がいた。
「七草先輩? どうかしましたか?」
真昼の言葉に真由美は何かを言おうとして言い淀むが、真昼が黙って真由美の顔を見つめ続けていると意を決して口を開いた。
「あの、突然の事で申し訳ないのだけれど……今日、この後時間は空いてるかしら?」
「この後ですか……?」
真昼が訝しんで聞き返す。
「ええ。実は父が四葉君を夕食に招待したいと言ってて、それで急な事だけど四葉君さえよければうちに夕食を食べに来ない? もちろん、都合が悪ければ断ってくれてもいいのよ? 元々、父が急に言い出した事だし」
真由美の話す事情に真昼は『あぁ』と合点がいった。
真由美の父、つまり七草家当主が真昼が高校に進学したのを期に娘の真由美を使って接触を図ってきたと。
もともと真昼が実家に住んでいた頃は母の真夜が、真昼に接触したい七草家の招待や要望を全てブロックしていた。
だが去年の師族会議での真昼の当主代理としてのお披露目と、一高に通うに当たって、使用人付きとはいえ親元を離れての一人くらし。
おまけに娘と同じ生徒会役員ともなれば、七草からしたらまたと無い好機だ。
真夜に邪魔されずに家に招待できる。
そこまで読んだ真昼は笑顔を浮かべて真由美の誘いを受ける。
「いえいえ、せっかくのお誘いですし十師族同士、友好を深めるのも勤め。喜んでご相伴に預かります」
「助かるわ、ならコミューターで一緒に私の家に行きましょう」
「はい」
━━こうして真昼は七草家に来る事になった。
案内された応接室は四葉邸のものとは造りが違う、シックな内装になっている。
七草家の使用人が入れた紅茶を飲みながら真昼と真由美は夕食までの時間を談笑して過ごしていると、真由美が自身の父の思惑について真昼に話だした。
「実はね……父が今日、四葉君を食事に誘った理由に心当たりがあるの」
「……と言うと?」
「少し前に四葉君と十文字君が決闘をしたでしょう。あれもね、父が十文字君に提案した事なのよ」
「そうでしたか……十文字先輩も随分唐突に決闘を申し込んできたので、僕もあの時は驚きました。 七草当主殿が十文字先輩を焚き付けたのは、やはり僕の固有魔法の事で?」
真昼の言葉に真由美は真面目な表情で頷く。
「そうよ。四葉君が新入生勧誘週間の時に起きた乱闘騒ぎを鎮圧した時の事を父に話したら『確かめねばならない』と言って、十文字君に貴方と決闘するように言ったの」
「? 同じ首都圏を管轄にしている七草家と十文字家とはいえ、十文字先輩が七草家の指示を聞いたのですか」
「そうじゃないわ。十文字君も最初は父の提案を断っていたわ。……それでも最終的には父に押されて貴方に決闘を申し込んだけど。悪く思わないで欲しいのだけれど……ここ数年で四葉家はかなり勢力を伸ばしているでしょ? 私はそれが必ずしも悪いことだとは思わないのだけど、父はその事をかなり気にしているの。それに十文字君も少なからず思う所があるみたいだから」
話を聞いた真昼は、なるほど、と納得いった。
七草家当主は言わずもがな、十文字家も我が家を警戒しているのかと。
それも仕方ない事ではあるが、余り十師族の政争に関与しない十文字家も七草家と組めば厄介な相手だ。
とは言え四葉家の覇道を止めるつもりは真昼にも四葉の一族達にも無かったが。
「よくわかりました。今日の夕食に招待いただけた訳も……僕が十文字先輩との決闘に勝利したからですね」
真由美は重苦しく頷くと、ぽつぽつと父との会話内容を真昼に話しだす。
「四葉君が十文字君に勝った日の夜に、私は父に決闘の内容を話したの。もともと、立ち会いをして内容を報告するように言われていたから。十文字君の魔法が発動せずに四葉君が圧倒したと言ったら、『そうか』とだけ言って、ずっと何か考え込んでいてね。それで今日の朝になって、四葉君を夕食に招待してきなさいって」
「なるほど、当主殿自ら僕に話を聞きたいという事ですね」
「だから、先に貴方に謝らせて。本当にごめんなさい。父はきっと貴方や四葉家についてあれこれ聞くと思うの。たぶん……不快な思いをさせてしまうわ。……だから、ごめんなさい」
対面に座る真昼に、本当に申し訳なさそうに謝罪をする真由美。
それを見て立ち上がった真昼はゆっくりと真由美の座るソファーに向かい、顔を伏せる真由美の隣に腰掛けた。
「七草先輩が謝るような事ではありませんよ。当主殿も十師族や魔法界の事を考えての事でしょうし」
(本格的に探りを入れようって腹かな? まあ話す気なんてさらさらないし。でも夏になれば九校戦もある。手は抜くにしろ負ける積もりはないし、そうなるとこれからも魔法や家の事を追及されそうだな。とりあえず今は、七草先輩を適当に慰めて仲を深めるとしようか)
真昼の言葉に伏せていた顔を上げる真由美。視線の先には優しく微笑んでいる真昼の顔。
「四葉君……」
━真由美視点━
四葉君……私の後輩の一人。
たぶん一高の一年男子の中では一番有名な男の子。
十師族の中でも筆頭格と言われ始めている四葉家の当主代理であり、正式な次期当主。
文武両道で一科生、二科生の区別無く誰とでも分け隔てなく接する、気さくな優等生。
生徒会書記の仕事も直ぐに憶えて、さくさくと業務を終わらせる。
生徒会副会長の私は事あるごとに四葉君に生徒会の仕事の相談、一科、二科の確執の相談と彼が入学してから頼りにしっぱなしだ。
同じ十師族だからというのもあるかも知れないけど、十文字君とはまた違う頼もしさがある。
本来であれば先輩である私が、彼の事を助けなければいけないのに……
私はその彼を現在進行形で困らせてしまっている。
(これも、あの狸親父のせいだわ)
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
父が四葉に執着しているのは子供の頃から知っていた。
昔、父と四葉家の現当主、四葉真夜さんとの間に何かあった事は察しているけれど、まさか息子の四葉君にまでちょっかいを出すとは思ってもみなかった。
別に父が四葉に執着するのは構わない。
理由はどうであれ、四葉を追い越したい父の施策で七草家は大きくなったし、一時期は四葉家と並んで十師族の双璧とも謳われた。
でも最近は七草は四葉家の二番手に落ちている。
三年ほど前から秘密主義で表に顔を出さなかった四葉家が積極的に陽の光が当たる表側に出るようになった。
今では日本のCAD、魔法工学メーカー最大手にまで登り詰めたFLTの創業オーナーである事や、魔法師の精神面のケアに関する研究など。
特に四葉家は一族を合わせても傘下魔法師の人数は十師族の中でも一番少なかった筈なのにFLS(フォア・リーブス・セキュリティ)や四葉の魔法関連企業に所属する魔法師は600人を軽く超えている。
十師族の中でダントツに一番多く魔法師を抱える家だ。
当然、一族以外の外部の魔法師を取り込んでの事だろうが、それにしては多すぎる。
父以外にも他の十師族の当主も四葉に、不自然な魔法師の増加について追及したがのらりくらりと、はぐらかされるばかりらしい。
気づけば、十師族の双璧であった四葉と七草には大きな差が広がっている。魔法力のみならず経済力や政界、財界への影響力まで。
父はここ数年、いつも気が立っている。
陰謀好きの父の四葉に対する執着も度を越してきている。
その矛先が後輩である四葉君に向いてしまった。
私が止めなければいけないのに……父のサングラス越しの目に写る狂気に押されて、私は四葉君を家に連れてきてしまった。
きっと不快な思いをさせてしまう……なのに。
(どうして、そんな優しい顔で私を見るの……)
私の隣に座る彼が、優しく話かけてくる。
「当主殿の思惑は横に置いて、僕達は食事を楽しみましょう? 七草先輩と夕食を共にできて僕はうれしいですよ」
「もう、そんな事言って。その割にはお昼はよくリンちゃんと食べてるくせに」
四葉君の言葉がうれしくて、つい子供っぽい言葉を吐いてしまった。
顔が熱くなる。
「あれ? もしかして焼いてます? リンちゃんとお昼を共にしてること」
「そんなんじゃありません! て、えまってリンちゃん?貴方、リンちゃんて呼んでるの?いつの間に……やっぱりそう言う関係なんじゃ」
本当にいつのまにリンちゃん呼びに……四葉君は上級生には先輩呼びが基本なのに。
それにリンちゃんも、私が呼んでもリンちゃん呼びを嫌がる時があるのに、歳下の男の子にそんな呼び方を許すかしら。
「違いますって。リンちゃんは研究者志望じゃないですか、それでうちのFLTに将来、来て欲しくてずっと"口説いて"たんですよ」
「本当に〜? じつは歳上趣味とかじゃなくて?」
「本当です。それに歳上も歳下もありませんよ。その人が好みかどうかだけでしょう」
「へぇ、以外と明け透けに言うのね。でも本当にリンちゃんとは何もないの? 昨日も二人で昼食を食べたのでしょう。リンちゃん、今日学校になんの連絡もなく休んだのよ」
登校して教室に行っても、いつも私より先に席に着いているリンちゃんが今日はいなくて、結局授業が始まっても来ずにいた。昼休みに連絡を入れても出なかったし……風邪でもひいたのかしら。
「それは心配ですね……昨日も生徒会室で"美味しく食べた"だけですし」
「そう、やっぱり風邪かしら」
「そうでしょうね」
明日も休むようなら家にお見舞いに行きましょう。
「ふふ。それにしてもリンちゃんねえ〜。私のことも真由美ちゃんって呼んでいいのよ?」
私は余裕な態度の四葉君を少し困らせたくて、揶揄う。
「真由美ちゃん、ですか。いいですね、ならこれからは真由美ちゃんと呼びましょう」
「な⁈」
自分から言い出して情けないけれど驚いてしまう。
もっと恥ずかしがったり、狼狽えた顔が見たかったのに。
逆に私が狼狽えてしまう。
本当に四葉君は私が今まであった事のないタイプの男の子だ。
「なにか?」
「い、いえ……まさか本当に呼ばれるなんて思わなくて」
「なら七草先輩呼びを続けましょうか?」
そう言った四葉君の顔はどこか私の反応を楽しむような表情だ。
私から言った手間、今更もとの呼び方にしてとは言えない。
恥ずかしいし、情けない。
「……真由美ちゃんて呼んでいいわよ。その代わり私も真昼君て呼ぶからね」
「はい。真昼君と呼んでください」
真昼君は笑顔でそう言った。
「…………もう」
顔が熱いわ。本当にこの子は……なんだか制服の下がじめっとする。匂わないかしら……。
「それより真由美ちゃん」
さっそく真由美ちゃん呼び……
「なにかしら?」
「どうやら先程から僕達の会話が盗み聞きされてるようですよ」
「え⁈ そんなまさか、いくら父でもそんな事は……する、かも?」
まさか本当に? あの狸親父が盗み聞きを? 盗聴機でも仕掛けた?
「いえいえ、どうやら可愛らしい子達のようですよ。今の会話を聞いて随分と慌てていますから」
ニコニコしながらそう言った四葉君の言葉に私は頭を抱えてしまう。
(まったく!あの子達は!)
「香澄ちゃん!泉美ちゃん!こっちに来なさい!」
扉の向こうに叫ぶように言うと、ゆっくりと扉が開き中学校の制服を来た双子の妹達が渋々と入って来て私と真昼君が座るソファーの前に並んで立つ。
「本当に貴女達は……真昼君はお父様が招待されたお客様なのよ、それを扉のそとから話を盗み聞きなんてして失礼でしょう」
私がそう注意すると香澄ちゃんが不服そうな顔をした。
……それはそうと泉美ちゃんはなぜ、そんなキラキラした目で真昼君の事を見つめているのかしら。
「だってお姉ちゃんが男と二人きりで応接室にいるから、変な事されるんじゃ無いかと思って!」
「なんて事言うの!変な事なんてしてません!もう、真昼君に謝りなさい」
「うう、だってさぁ」
拗ねたように言い訳ん続ける香澄ちゃんに、また声を荒げそうになると真昼君が横から静止してくる。
「まあまあ。二人とも悪気はなさそうですし、僕達も聞かれては不味い話はしてないですし」
「……そうだけど、やっぱりちゃんと言っておかないと。香澄ちゃん、ちゃんと謝りなさい、今直ぐに」
「……すみませんでした」
渋々だけど謝る香澄ちゃんと違い、泉美ちゃんは微動だにせず、ずっと真昼君を見つめている……この子は。
「泉美ちゃん、貴女よ。ちゃんと真昼君に謝りなさい」
「は⁈……も、申し訳ありません。あ、余りのお美しさに私、思わず見惚れてしまいまして! 先程のご無礼をお許しください!真昼様!」
「はぁ、まったく。本当に私の妹達が失礼な事をして、ごめんなさいね」
「本当に気にしていませんから」
そう言ってくれるけど、これは七草家の躾けの問題だ。
父の放任主義は嬉しい事だけど、教育はちゃんとしてくれないと。
そんな真昼君と妹達の予期せぬ邂逅があった一時、真昼君に四葉の次期当主にぎこちない態度の香澄ちゃんに、瞳を輝かせて、あれこれと真昼君に質問を投げかける泉美ちゃん。
真昼君はおおらかに対応してくれていたけど、私は胃が痛くなったわ。
その後、使用人さんが夕食の準備が整ったと私達を呼びにきて四人で食堂に向かうと、食卓にいつもより少し豪勢な食事が並び、父が既に席に着いていた。
真昼君が食堂に入ると父は立ち上がって真昼君を迎えいれるけれど、後ろに続いて入った香澄ちゃんと泉美ちゃんには胡乱な顔を向けていた。
「四葉の次期殿、この度は急な招待にも関わらず、我が家に来て頂きありがとうございます」
「お気になさらず。招待して頂き嬉しくおもいます」
父と真昼君の挨拶から始まった食事も、最初は和やかな雰囲気だったと思う。父は真昼君に何も喋らず、もっぱら私と泉美ちゃんで真昼君をお喋りでもてなしていた。
でも食後の紅茶を飲んでいた時、父が唐突に真昼君に言葉を投げかけた。
「四葉殿、では四葉の当主殿と被ってしまう、この場では真昼殿と呼ばせて貰っても構わないかな?」
「もちろんです」
「ありがとう。では真昼殿に聞きたい事があるのだが」
「なんでしょう」
父が話だすと泉美ちゃんも口を挟むことはしない。もちろん私も香澄ちゃんも。
「十文字の次期殿と決闘を行ったそうだね」
「はい」
「その際、十文字の次期殿は魔法が発動できなかったと。それは事実かな? 他にもクラブ勧誘期間の時にも同じく、当事者達の魔法が発動しなかったとか」
やはり父はその事を聞き出す為に。机の下で手を強く握ってしまう。
「事実です」
「そうか、それは四葉家の精神干渉魔法かなそれとも、君固有の魔法なのかな」
「その事はお話できません。家の機密に関わる事ですので」
「機密ね……四葉家は、ここ数年で随分情報を公開してきているが、FLTに関してや魔法師のメンタルケアに関する研究など。私も多数の魔法師を抱える身でね。魔法師のメンタル面の研究にはかなり興味があるのだよ」
父が両手を机の上で組み、その手に顎を乗せる。
サングラス越しに真昼君を見る目が細まる。
「なにを仰りたいのですか」
「四葉家はほんの僅かな期間で多数の魔法師を配下にしている。スカウトをするにしても魔法師の数には限りがある。魔法の発動には精神が多いに関係している、そして恐らく君の固有魔法は相手の精神に干渉して魔法の発動に妨害をかける事ができる」
「……」
真昼君は黙って父の話を聞いている。
他人の魔法を詮索するのはマナー違反だ。たとえ十師族の当主であっても、私は真昼君を先輩として守らなければいけないのだろう。
でも声を出す事ができない。父の雰囲気が私が口を挟む事を許さない。
香澄ちゃんも泉美ちゃんもすっかり顔を伏せてしまっている。
「魔法師の魔法の発動を阻害する程の精神干渉。キャストジャミングとはまた違う理屈による魔法師特攻の能力。私はね真昼君、君があるいは四葉が他者の精神に干渉して、後天的に人に魔法演算能力を与える技術を得たと考えているのだよ」
父の話に私も妹達もはっとしてしまう。いま話された父の言葉が本当だとすると四葉は好きに魔法師を増やす事ができる。
これは十師族で最強なんてレベルの話じゃない。
魔法は魔法師は国防において重要なファクターであり、各国は魔法師の数や魔法技術で国家間のバランスを取っている。
もし、四葉が自由に魔法師を作れるのなら、文字通り世界の秩序が崩壊して場合によっては新たな世界大戦の火種になる話だ。
私は真昼君を横目で見る、さっきまでと変わらない。薄っすらと笑みを浮かべたままだ。
「……だとしたら、何だと言うのです?」
「魔法師を量産できるのだとすれば、それは十師族とはいえ、四葉家単体で保有していい力ではない。君もよく理解していると思うが、魔法とは国家間のバランスを保つ重要なものだ。それを一つの一族だけで管理するには危険が大きすぎる。政府か、若くは十師族で共同で管理すべきだと思うが……君はどう思うかね?」
「……確かに、ただの人を後天的に魔法師に出来るのならば、それは世界秩序に対する脅威と言ってもいい、当主殿の仰るように政府か十師族で管理すべきものでしょう……本当の事であれば」
「本当の事であれは……ね、では四葉は後天的に魔法師を作る力は持っていないと?」
「はい。持っていませんよ、私の魔法が誤解を与えてしまったようですね……本来は秘密にしなさいと母から言われていましたが、このまま誤解され続けるのも四葉にとってはいい事とは言えない。私の固有魔法について教えましょう」
本当にこのまま真昼君に自身の魔法について話させていいのだろうか。
父のやり方はまるで脅迫しているみたいだ。
いくら真昼君が四葉家の次期当主てはいえ、今はまだ未成年の学生だ。
それでも私は口を開く事が出来ずに真昼君は自身の魔法の事を話はじめた。
「話すとは言っても詳細までは話せませんが、でも僕の魔法は魔法師を作る事までは出来ません。僕の固有魔法はマインドセット、精神干渉系魔法です。他者の精神、特に魔法師に対しては魔法演算領域に干渉して精神的な負荷を与える事で、魔法の発動を阻害する事が可能な魔法です」
真昼君の説明に父も口元を僅かに引き攣らせた。きっと私も同じだ。
魔法戦において絶対的な強さの魔法じゃない。
だから十文字君もファランクスを発動出来ずに負けた。
しかも真昼君は普通に魔法を使えていた。
魔法師と非魔法師では、魔法師に戦闘の圧倒的なアドバンテージがある。
真昼君は魔法師同士の対称戦を強制的に非対称戦にする力を持つってことね。
「なるほど……魔法演算領域に負荷をかけて魔法の発動を阻害ね、どれ程の効力があるのかな?」
「お父様、それ以上は……」
まだ真昼君から情報を聞き出そうとする父に思わず口出ししてしまった。
父が私を見る、睨まれてはいないのに圧を感じる。
「平気ですよ真由美ちゃん……当主殿、お答えしましょう。最大出力で負荷をかけ続けたら相手の魔法演算領域が焼き切れて、以後……魔法が使えなくなります」
……本当にとんでもない力だ。今の話を聞いた上で真昼君と戦う事になったら相手の魔法師は常に自分の魔法演算領域を焼き切られないか気が気でないだろう。
実際にマインドセットを使われなくてもストレスで魔法発動に支障が出るかもしれない。
「……なるほど、よくわかったよ。相当に強力な魔法のようだ。最後に聞くが本当に魔法師を作る事はできないのだね?」
「はい。そのような力はありません」
真昼君がきっぱり否定すると父は一つ息を吐き、表情を緩めた。
それだけで食堂に漂っていた緊張の糸が解ける。
妹達も強張っていた身体を楽にして汗を拭っている。
「……本当に君は顔だけじゃなく胆力も母君に似ている。疑いをかけてしまってすまなかったね。申し訳なかった」
「いえ、十師族、国の事を思えばこそと理解しています」
「そう言ってくれると助かるよ……所で先程、娘の事を真由美ちゃんと呼んでいたように聞こえたが」
「ちょ⁈ お父様⁈」
「はい。真由美ちゃんには仲良くして頂いています」
「真昼君まで⁈」
急な話題転換に上擦った声が出てしまった。
「たしか君にはまだ、婚約者など発表されていなかったね……」
「僕に婚約者はいませんよ」
そうだったの?
「ならば、君さえ良ければ、うちの真由美などはどうかな? 奔放な所はあるが魔法師の資質も、器量も充分にある。身体もいたって健康体だ」
「もう⁈ お父様!いきなり何を仰って」
「それはとても魅力的なお話ですね。でも僕達はまだ学生で、出会ったばかりです。今日のこの場で決める訳にもいかないでしょう。ですが、そちらさえ良ければ僕は前向きに婚約の話を考えたいと思いますが」
あぁ、もう頭が回らない。真昼君と婚約? まだ出会って数ヶ月なのに? それに私には既に婚約者が、いや私も彼も婚約に乗り気じゃないし、形だけのものになっちゃってるけど。
真昼君も前向きに考えたいなんて……やっぱり歳上趣味なの?
でも、婚約か……十師族の娘である以上、遅かれ早かれ婚約や結婚からは逃れられないけれど。
真昼君かぁ……あり、かな。
顔立ちは整っているし、優しくて、性格も合う。
一科生や二科生の施策についても価値観が合う。
……もしかしたら、私の結婚相手としては一番いい人かも。
頭の中が茹で上がり、思考があちこちに飛び、気付いたら私は外に停めてあるコミューターの前まで真昼君を見送りに出ていた。
「真由美ちゃん?」
コミューターの前に立つ、真昼君が私を見て声をかけてくる。
いけないぼーっとしてちゃ、私は七草家の長女かんだから。
「ごめんなさいね。色々と、それに婚約の話も」
「今日は謝ってばかりですね。僕は全く気にしてしませんよ。真由美ちゃんとの食事も楽しかった」
またこの子は平気でそんな事を言う……
「私も真昼君との食事は楽しかったわよ。でも父の手間、前向きに考えるって言ってくれたのでしょうけど、本当に気にしないでね? 真昼君はモテるでしょうし、在学中に好きな人が出来る事もあるでしょう」
「そんな寂しい事を言わないで下さい。確かに当主殿の手間、ああ言いましたが……」
真昼君が近づいてきて、私の頬に片手を添えて、反対の手を腰に回してきた。
(え?なにこれ⁈ 急になんなの……真昼君、顔が近い)
真昼君の体温を感じて、緊張で身体から汗が滲み出る。
整った綺麗な顔が私の顔のすぐ横に来た。
耳に彼の唇が僅かに当たった。
「……真由美ちゃんの据え膳なら、僕は食べたいですよ」
「あぁ……」
熱いと吐息と甘い言葉が耳から入り私の脳を蝕んだ。
頭から背筋を通り腰までビリビリとナニかが駆け抜けて、お腹の奥がジンジンとして、噴き出したものがショーツの中を汚した。
力が抜けて震える身体を真昼君が支えてくれる。
目の前には鼻が当たりそうに距離に真昼君の顔があった。
アメジストみたいな紫の瞳に反射して写るのは蕩けた目に、だらしなく口を開けた恍惚とした女の顔。
私の口から出た吐息が真昼君の顔に当たって私に返ってくる。
身体がだんだんと熱くなり、私の意識はプツリと途切れた。
今、私は暗い自室の天井を見ている。窓から入る月明かりが照らす、壁掛け時計の針は2:00時を指している。
「はあ、はぁはぁはああ♡」
肌寒いはずの気温も今の私にとっては汗が出るほどに熱い。
汗や汁が染み込んだベッドのシーツの感触が背中に伝わり不愉快だけど、止める事が出来ない。
真昼君を見送ってから何時間が経っただろう。
シャワーを浴びて、ベッドで目を瞑っても脳は冴えたまま真昼君の言葉を繰り返し再生する。
今までに無いくらい、股間から溢れてくる熱い蜜で左手を濡らしながら自分を慰め続ける。
偶の発散なら直ぐに終わって、心地のよい気怠さのなかで静かに眠りにつけるのに。
「ああ♡、なんで、鎮まらないの⁈♡ だめぇ、はやくやめないとぉ♡」
最初は静かな水音だったものも今では、ぐちょぬちょぐちゅっと粘り気を帯びた下品な音に変わった。
室内は私の体温を溜め込み、湿気と熱でジメジメとしている。
突起やワレメの表面を浅くなぞっていた指も今は、どろどろとした熱い蜜を垂れ流す穴を激しく掘っている。
流れ出た臭い体液が整えた黒い陰毛をべとべとにする。
ザラザラとした場所を指先で擦ると、尿とは違う透明な液体がプシュプシュと吹き上がる。
「うくうぅぅぅ♡ イぐぅまたイッちゃう゛♡ っ真昼君♡ 真昼君‼︎♡」
真昼君の顔が脳に強く映し出されると、身体が痙攣を始めて背筋に甘い電流が流れる。
「イグう♡イッぐううぅぅぅぅう♡」
限界まで引き攣ったお腹の奥が、弛緩して腰が大きく痙攣して、上半身が寝転がったまま両足が曲がり、下半身だけが浮き上がり踊るように激しく揺れ動く。
漏れ出す体液を出さないように手のひらで股間を強く抑えてもビチャビチャと隙間から溢れ出てベッドのシーツに染み込んでいく。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はぁぁ♡やっと寝れる……♡」
朝、目覚めた時、部屋は悲惨な状況だった。びちょびょに濡れたシーツに半裸の私、髪はボサボサで身体は気怠い。
「あんなにしたのはじめてね……」
私は妙にカピカピしている左手を見る。
何度か握っては閉じてを繰り返すと、嫌な匂いが鼻についた。
「くっさ……」
今日の学校は疲れそうね。休みたいけど、生徒会副会長としてそういう訳には行かない。
憂鬱な気分で部屋の窓を開けて室内に漂う性臭を換気する。
見上げると太陽が私を照らして、窓から吹き込む風が火照った身体を冷ましてくれる。
私をこんな風にした原因の男の子の事を思い出すと、自然と口元が緩んでしまう。
昨日の夜、たった一度耳元で囁かれただけでこの様だ。
でも不思議と悪い気はしなかった。
きっと私は初めて恋をしたんだ。