二階の部屋の襖は開いていた。
男の臭いと女のにおいが入り混じってぼくの鼻をつく。
最初にぼくの目に飛び込んで来たものは筋肉質の大きな尻。
ごつごつとした大男のでかい背中。
ビリビリと破かれていく制服のブラウス。
血だらけで横たわる……サヤカ……ちゃん……。
大男はぼくの気配に気付き、サヤカちゃんの服を破く手を止めた。
そして振り向く。
大男の脇の隙間からサヤカちゃんの大きな胸があらわになっていたのが見えた。
大男はぼくを一瞥しただけで、すぐにまたサヤカちゃんの方に視線を移す。
今度は赤いチェックのスカートを剥ぎ取っていた。
そして薄いピンク色のショーツに手を掛ける。
大男はぼくのことなど気にも留めていない。
そうだよな。勢いよくここまで来たのはいいけれど、結局何も出来ずにただ足をガクガクと震えさせているぼくなんて、物の数じゃないよな。
多分この大男は部屋に蝿が一匹入ってきた程度にしか感じていないのだろう。
畜生め。
ぼくは持っていた一眼レフカメラを両手で振り上げ大男めがけて振り下ろした。
四つん這いになってサヤカちゃんに覆いかぶさっていた大男の腰にガツンと当たった。
その瞬間ブンっと太い腕がぼくの顔に飛んできた。まるで蝿を追い払うように。
ぼくはボールのように隣の部屋へ転がっていた。
鼻血が噴き出す。右の奥歯が二本折れていた。
……痛い。痛すぎる。怖い。怖すぎる。
格好つけて飛び込んだのはいいけれど、結局ぼくなんて何も出来ない。
そうだよ。そもそもぼくなんかにどうにか出来る訳がないじゃないか。
ぼくは生まれてこの方、殴り合いの喧嘩なんてしたことがないんだ。
ぼくなんかに勝てる訳がない。
逃げよう。もう痛いのは嫌だ。殴られるのはご免だ。
セルマちゃんが警察を呼びにいったじゃないか。
すぐに来てくれるさ。すぐに助けてくれるさ。
今ならまだ、逃げられる……。
「ねぇ。お薬ぃぃ。もう我慢出来ないのよぅ。お願いぃ。お薬ちょうだいよぅ」
え? レ……オナ……?
転がって天井を見上げているぼくの顔の上に逆さまに見えたのはレオナの顔。
虚ろな目で口からは涎を垂れ流していた。
「お……くす……りぃぃぃ……ちょうだいよぉぉぉ」
レオナの顔がぼくの顔から胸辺りにずるずると移動する。
あんなに見たかったレオナの胸が目の前にあった。
「レオナ……。そんな……」
ぼくはぎゅっと目を瞑った。涙がぼくの目に滲んできた。
空気の抜けたボールのように潰された乳房。
左側の乳首がプラプラと取れかけていた。
レオナの顔はぼくの股間まで移動していた。
カチャカチャとぼくのベルトを外そうとしている。
「アタシいっぱいいっぱい気持ちよくしてあげるからぁ。ね? お願いよぅ」
レオナの内腿がぼくの顔の両脇にあった。
毎日のように想像していたものがぼくの目に前に……。
無かった。無かったんだ。大きな穴がひとつ開いていただけだったんだ。
「うわぁぁぁ……」
ぼくは起き上がり、泣きながらレオナを抱きしめた。
レオナは壊れかけた玩具のように「くすり……」としか言わなくなった。
ごめんな。レオナ。
ぼくね、君が入学式の帰りにレイプされた事知っていたんだ。
君が白い車に連れ込まれる所をぼくは見ていた。
ぼくはその車を追いかけたよ。
ようやく追いついた時、すでに君は車から捨てられていたところだった。
ぼくは君に声を掛けることすら出来なかった。
怖かったんだ。
君はふらふらと破れた制服を押さえながら、歩いていた。
ぼくは卑怯者だ。結局見ないふりをしていたんだ。
またぼくは君を見捨てるのか?
レオナの動きが止まっていた。
壊れかけの玩具は完全に壊れたのだ。
なぁ……………………………………………………………
………………………………………………楽しかったかい?
ぼくの大事な人をここまでぶっ壊して。
レオナをここまで追い込んで……。
ぼくはレオナを静かに寝かせ、自分の制服を脱いでボロボロの体に掛けてやった。
見開いた両目をそっと閉じさせる。もう恐ろしい物を見なくても済むように。
ぼくはゆっくりと立ち上がり転がっていたサヤカちゃんの竹刀を拾う。
大男の巨大な棒がサヤカちゃんの小さな穴を押し広げようとしていた。
おいおい、サヤカちゃんも壊す気かい? お前も壊される方の気持ちを味わいなよ。
ズボッ……。
え? って感じで大男は振り返った。
ぼくは大男の尻の穴に竹刀をぶっこんでやった。
ズブズブと剣先をめり込ませていく。
「あぎゃっ」
三分の一程を残して竹刀が入ったところで大男は四つん這いのまま動かなくなった。
大男は白眼をむき、竹刀の突き刺さった尻の穴からじわじわと汚い血が流れて畳に染み込んで行く。
「サヤカちゃん、しっかり……」ぼくはサヤカちゃんの側へ駆け寄る。
……気を失っているようだ。鼻血が酷い。口の中も切れている。
血だらけのサヤカちゃんの頬は大きく腫れ上がっていた。
そして左の足首が有り得ない方向に曲がっていた。
「何で……。何でこんな事するんだ……。何でここまでしなきゃならないんだ……」
ぼくはギリっと折れた奥歯を噛んだ。
「うぐぐぐ……」
うめき声をあげながら窓の近くでうずくまっている男がぼくの視界に入る。
ぼくはその男に近づき髪の毛をわし掴みにして起き上がらせた。
「え、ちょ、ちょっと、やめ、やめて……。は、鼻が折れちゃってるんだよ。すごく痛いんだ。びょ、病院……、救急車……」
そしてぼくは無言のまま、その男の顔を窓ガラスに叩きつけた。