じじいの葬式出してやんなきゃな。
私も一度家に帰るか。母さんとゆかりんが私を待ってる……。
私はじじいの顔に白い布を掛け、遺体安置所を出ようとした。
入り口に看護婦? さっきの人か? が、立っていた。
「お帰りですか?」
「うん。とりあえず色々やらなきゃならない事もあるから」
そう私は答える。
「帰らない方がいいですよ」
「は?」
「帰らない方がいいです」
「えっと……。は?」
何だ? この人。何を言っているんだ?
赤茶色のショートヘアでブラウンの瞳。
ずいぶん背が低いな。ゆかりんより低そうだ。
って言うか……。子供?
しかも外国人? ドイツ系っぽいな。
ぶかぶかの白衣の袖をまくって何とか着ている感じだ。
さっきは気が動転していて気付かなかったけど……。
本当にこの子看護婦?
「ゲームをしませんか?」
彼女はポケットからカードを取り出した。
「えっと……」
「少しの時間でいいんです。ワタクシと遊んで下さい」
「悪いけど、私急いでるんだ。すぐに家に帰らないと」
へんな子だな。もしかしてどっかの病室から抜け出して来たのかな?
私はマジマジとその看護婦を見た。
やっぱしどう見ても子供だ。十二三歳くらいかな。
ま、私だってまだ十五だけどさ。
「ごめんね。今度落ち着いたら遊んであげるから」
「あ……」
私は入り口を塞いでいた子の脇をすっと通り抜けて遺体安置所を出た。
「待ってくださーい」
カードを両手に広げたままその子は追いかけて来た。
「ごめんねー。今度、今度ねー」
その子は一生懸命走って追いかけてきたけれど私の脚には追いつけず、その姿は小さくなっていった。
そのまま私は病院を出て家まで駆けていった。
「お母さん……。嘘よこんな……」
金髪の女の横でエンジェルが膝を落とす。
やはりおれはこの金髪の女を知っている。
昨日や今日の話じゃない。ずっと前だ。
そうか。ここは日本だったな。テツオの祖国。
テツオは死んでもあの子供は今まで生きてきたのか。
まさかそいつの人生の幕をこんな形で引いてしまうとはな。
エンジェルの肩が震えていた。
おれは金髪の女の胸に耳を当ててみた。
心臓の鼓動は聴こえなかった。
「救急車を……。お母さんを病院に……」
涙でくしゃくしゃにした顔でエンジェルは携帯を取り出す。
「あたしのも電池切れてたぁぁぁ」
ちょっと落ち着け。エンジェル。
おれはエンジェルの震える小さな肩を背中からそっと掴んだ。
指に着いたチャンの血が彼女の肩に着いた。
可愛い。なんて可愛いんだ。
彼女の背中にぴったりとおれの体が密着していた。
ほら、おれの鼓動が聞こえるかい?
おれの両手が彼女の肩から胸へ移動する。
ハッと彼女は振り向き、涙でいっぱいの黒い瞳がおれを見つめる。
おれの手にすっぽりと収まる胸。温かかった。
おれの指を彼女の白いスカートの中へ滑り込ませた。
下着の上から彼女の形に沿って指を上下に動かす。
彼女の抵抗は無かった。
ショックのあまり茫然としているようだ。
白いセーターを脱がせ、おれは彼女を床に寝かせた。
ぷちぷちとブラウスのボタンを外す。
そして白いブラジャーから彼女の胸を解放した。
おれは彼女の顔を見た。
天井を見つめる黒い瞳はうつろで生気が無かった。
だが止まらない。
白いスカートも白い下着も全て剥ぎ取った。
生まれたままの姿でエンジェルはおれの前に横たわっていた。
「あっれぇ。おかしいな」
何度も電話を掛けているのに繋がらない。
母さんにも、ゆかりんにも。
ほんっとにあいつら、いっつも充電すんの忘れるよな。ったく。
私は走っていた。
今日は訳のわからない事が多すぎて混乱している。
今は母さんとゆかりんに会いたい。
無性にそう思った。
そうだ。今朝の事ゆかりんに謝ろう。
私は別にゆかりんの事が嫌いな訳じゃないんだ。
ただ……。その……。いっつも、母さんと仲良さそうで……。
私の知らない事を二人で隠しているみたいで……。
ちょっとイライラしてただけなんだ。
ゆかりんがおどおどしてるから、つい……。
私ね、ゆかりんの事ホントのお姉ちゃんだと思ってるよ。
いつも私の事助けてくれたよね。
私が水色の髪だから小さい頃はよくクラスの子に虐められてた。
教室に乗り込んできたゆかりんは格好良かったよ。
あはっ。ちょっと足が震えていたけどね。
ゆかりん。ごめんね。
私は羨ましかっただけなの。
その黒い髪と瞳が羨ましかっただけなの。
小さくて可愛らしいあなたが羨ましかっただけなの。
私は走った。息を切らして走った。
「はぁはぁ……。つ、着いた……。づかれたぁ」
ぜぇぜぇと肩で息をしながら私は家のドアを開けた。
「あれ? まだ帰って来てないの?」
真っ暗な家の中へ私は入った。
床がびっしょりと濡れていた。
「わっ……。床がびちょびちょじゃん。何こぼしたんだよぅ」
ゴッっと足に何かが当たる。
「何だコレ?」
私は手探りで家の明かりを点けた。
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁ」
思わず叫んでいた。
苦しい……。胸が苦しい……。壊れる……。壊れてしまう……。
私が……。壊れてしまう……。
さっき足に当たった物が私を見ていた。
大きな黒い瞳で。
部屋の隅に母さんがうつ伏せで倒れている。
その隣に頭が半分しかない男が転がっていた。
「はぁはぁ……。可愛い……素敵だよ……おれの……おれだけのエンジェル」
隣の部屋から声がする。男の声だ。
怖い……。隣の部屋へ行くことが怖い。
私は逃げ出したい衝動に駆られた。
だけど同時にお腹の底からマグマのような怒りも湧いてきていた。
拳を握り締め隣の部屋へ向かった。
そこで見た光景は私の精神を崩壊させることに十分なモノだった。
寝そべった男がゆっさゆっさと自分の股間の上で何かの塊を揺らしていた。
恍惚の顔で。よだれを垂れ流して。気持ち良さそうに。
周りには細い腕と足が二本ずつ転がっていた。
嵐が起こった。蔵王連邦が次々と噴火する。
圧縮された大気は街を国を世界を押し潰していった。
そして月が地上に落下した。