熱々のステーキが俺の目の前にある。いい匂いだ。
俺の腹がぎゅるぎゅると鳴る。
健康状態の悪そうなこの売り物の体に少しでもツヤを出そうってのかな。
しかし……。何の肉だよコレ。
まぁ食ってみるか。腹も減ったし、どうせ夢だしな。
俺は手づかみで肉にかぶりつく。じゅわっと脂が口の中に広がる。
結構ウマイ。上質な牛肉みたいな味がする。
俺の向かいに座った乳でか女も肉にかぶりついていた。
「おい、マギー」
「何よ? ん? 何であたしの名前知ってんの?」
マギーは口の周りに肉の脂をべっとりと貼り付けて俺を見る。
「さっき、腹の出た男が言ってただろうがよ」
「ふぅん……。っていうか、あんた口の利き方おかしくない?」
「はぁ? 何だよ口の利き方って」ジロリと俺は鋭い目で睨む。
マギーはちょっと驚いたような顔をしていた。
あぁそういうことね。
大体夢の中での俺の立場というものがわかってきたよ。
俺は奴隷でお前は奴隷商。
だけどな、そんな夢の設定にいつまでも付き合ってやる気はないぜ。
「まぁいいわ」
そう言いながらマギーは小さな鏡を取り出し自分の顔を覗きこんでいる。
ぐいっと自分の口の脂を拭っていた。
腹のふくれた俺とマギーは密林の中の小さな小屋を出る。
そこは見たこともないような怪しい木々に囲まれていた。
頭上には薄い光が射し込んでいる。
俺は濁った川を覗き込んだ。
川に映った小さな体。五歳くらいだな。
風通しのいい麻の上下。少し黄色っぽい。足には分厚い布を巻きつけている。
ボサボサの長い髪を後ろに纏めていた。
マギーは胸と腰に布を巻きつけたような格好で腰には巨大なナタのような物が両側にぶら下がっている。
「しゅっぱぁつ」
背中にリュックのような物を背負ったマギーは俺の手を握り元気に言った。
「マギー、俺はどこに連れて行かれるんだ?」
「んー? まぁ近くの街の貴族の所ね」
「さっきの腹の出た男が貴族? また新しい夢の設定が出てきたな」
「設定? なんのこと?」
「いや。何でもねぇよ」
俺はマギーに手を引かれ密林を出た。
かなり深そうな密林だったが、小屋はかなり入り口側にあったらしい。
三十分も歩かない内に開けた場所に出た。
ちらほらと草の生えたでこぼこの荒地がどこまでも広がる。
夢とは言えこの暑さ。耐え難い。
こんな荒地じゃすぐに死んじまうな。
よし、その街とやらまでマギーに連れて行ってもらおうか。
そしたら隙をみて逃げてやる。
街の少女に色んな事してやる。
奴隷として売られるなんて夢でもご免だぜ。
「あちぃよ。疲れたよ。足がイテェよ。どこまで歩くんだよぉ。なぁマギー。聞いてんのか。オイ」
マギーはちらりと俺の方を向いた。
ぐいぐいと引っ張っていた俺の手を離し、小さく溜息をつく。
「だらしないわねぇ。あと少しよ」
「あと少しってさっきも聞いたぞ。どこまで行っても同じ景色だ。いつになったら街に着くんだよ」
「そうねぇ。明日のお昼くらいまでには着くと思うわ」
「はぁ? そんなに遠いのかよっ」
「遠くないわよぉ。あたしひとりだったら日暮れまでに到着するわよ」
マギーはちょっとあきれた顔をする。
あのなぁ。俺の体はガキなんだよ。体力だってねえんだ。
筋肉バカのお前と一緒にするんじゃねぇ。
あれ? ちょっと待てよ。
「おい、さっきの腹の出た男もこんな道をひとりで歩いて帰ったのか?」
「ん? ああ、あの人には専用の乗り物があるのよ。結構速いわよぉ」
「お前はその乗り物とやらを持ってないのか?」
「あんなに高いもの買えるわけないでしょぉ」
何だ? 乗り物って。車みたいなもんか?
「ま、いいや。とにかくちょっと休ませてくれよ」
「はぁ~あ。仕方ないわねぇ」
俺は荒地の脇に転がる岩に腰掛けた。
マギーも二本のナタを岩に立て掛け、俺の隣に座る。
でかいケツが俺の脇腹に寄り添っていた。
リュックの中から水筒のようなものを出して俺に渡す。
俺は中の水を一気に飲み干した。
太陽は容赦なく俺を照りつける。
頭がクラクラする。さすがにこの日差しにやられたか。
俺はマギーの膝に倒れこんでいた。
パチパチと音がする。
俺は固い岩の上で目を覚ました。
辺りは真っ暗で、少し肌寒い。
焚き火の赤い炎が俺を照らしている。
「あら。起きた?」
マギーは焚き火をしながら何かのカタマリを炙っている。
「食べる?」
そう言ってマギーは細い木の棒に差したカタマリを俺に渡した。
俺は無言でそれにかぶりつく。
肉か。さっきの肉と同じ味がする。
「子供の肉はおいしいでしょ」
脂だらけの口でマギーは言った。
あー、ハイハイ。子供の肉ね。俺と一緒に閉じ込められていた奴らのか?
別に夢の中だ。何の肉だって構わないさ。
それにしても……。
長くねぇか? いつまで続くんだ? この夢は。
一回寝て起きてるぞ。夢の中で。
俺は肉を咀嚼しながら考えた。
体はガキになってるし、見たこともない場所にいるし、訳のわからない状況だし。
とにかくこれが夢であることは間違いないだろう。
こんな事が現実であるはずがない。
だが別の心配が俺の頭をよぎる。
俺がここに来る前の最後の記憶は対向車のハイビームだ。
……事故ったな。
俺は意識が戻らない重体か、それとも……。
これは“死ぬ瞬間に見ている最後の夢”なのかもしれない。
夢から覚めた時が死ぬ時だとするならば、この世界は夢ではなくなる。
現実に戻る事が無いのなら、この夢が俺の現実と言ってもいいだろう。
なら目が覚める前にこの世界を楽しむかな。
「子供の肉と聞いても平気で食べてる子初めて見たわ……」
マギーは驚いた顔で俺を見ていた。
「なぁ、マギー」
「何よ……。あたしあんたのことちょっと怖くなってきたんだけど」
「お前さ、この憐れな子供たちに名前を付けたりした?」
「え? 付けないわ。可愛そうになって殺せないでしょ」
何か変な感じがした。マギーも何か考えている風だった。
「なんか以前に同じ質問をした気がする」
「あたしも聞いた気がする」
沈黙が流れる。火に炙られた子供の肉は真っ黒に焦げていた。
「俺は頭の禿げた黒人マッチョマンに聞いたんだ。お前が牧場主なら“食われる為だけに生まれて育てられる牛に名前を付けたりする?”ってさ」
俺がそう言うとマギーは唇を震わせて立ち上がり、ふらふらと俺に近づいて来た。
「あんた……。テツオ?」
「え?」
子供の肉を放り投げ、思いっきりマギーは俺に抱きついてきた。
「嬉しい、嬉しいよぅ。こんな所であんたに会えるなんてぇ」
ちょ、ちょっと……く、苦しい。乳で俺の顔を挟むなっ。
い、息ができねぇ……。
「あ、ごめん。大丈夫? テツオ……」
そう言ってマギーは俺を胸から離した。
「気をつけろ! ハゲ!」
「もうっ。今はちゃんと髪の毛あるでしょう」
まぁ、俺が子供になっているくらいだからマギーが女になっていても不思議はない。
俺はマギーの太腿に座り、でかい乳に頭を乗せていた。
「あたしね、気が付いたら森の中にいたの……」
目に浮かんだ涙を拭いながらマギーは話し始めた。
いや、お前の身の上話なんて興味ねぇから。
「あたしの店に警察が乗り込んできて銃で撃たれたわ。パンパンパンって」
「で、お前は死んだのか?」
「多分ね。すごく痛かった。血がいっぱい出て……。痛かったよ……」
「まぁ、お前の場合自業自得ってやつだろうがな」
「あんただって人の事言えないじゃない」
もしかして俺は勘違いをしているのか?
ここは夢の中なんかじゃなくて……。
“死後の世界”
「なぁ、マギー。この世界って何なんだ?」
俺はマギーに尋ねる。
「さぁ。わからないわ。ただあたしたちが知っている世界じゃないことは確かね」
わかんねぇのかよ……。
とにかくそう簡単にこの夢は覚めない気がしてきた。
俺はマギーのでかい乳を枕にいつの間にか眠ってしまっていた。
名前 テツオ
職業 奴隷
装備 麻の服
麻のズボン
厚手の布の靴
武器 なし
レベル 1
HP 8
MP 0
仲間 マギー
職業 奴隷商