※この作品はR-18です。

せっちゃん今日も頑張る!   作:山崎 響

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Episode8 お酒や煙草は二十歳になってから

 ロリコンの俺が裸の少女を見たのに全く欲情しなかったのが不思議でならない。

 どうやら怪我はしていないようだ。白い肌には傷ひとつなかった。

 あのリュウにそっくりの醜い殻が少女を守っていたのだろうか。

 

 俺はクリムの腕の中の子供の顔を覗き込んだ。

 まるでサナギから飛び出た蝶のように美しい。

 

 ウォーターブルーの髪とどこまでも透明感のある白い肌。

 そこには俺が愛してやまない少女の顔があった。

 だけど……違う。セルマにそっくりだがどことなく違う。

 髪の色や背中の羽だけじゃない。

 

 ……でも何故か愛しい。

 それはセルマを想う気持ちとはまた違っていた。

 そう。まるで自分の子を想う親のようなそんな気持ち。

 リュウのような殻に包まれていたからか?

 よくわからない。

 

 クリムの目が優しくその子供を見つめていた。

 まるで母親のように。

 

 子供の背中にあった羽はいつの間にか消えていた。

 

「お……母さん……」

 寝言か。ウォーターブルーの髪の子供の閉じた瞳には涙が浮かんでいた。

 

「何故でしょうか。わたくしも涙が止まらないのですが」

 クリムは愛おしそうにその子供を抱きしめていた。

 

 とりあえずこの子供をどこかへ寝かせてやろう。

 小さな町だが人の往来はそこそこあるようだし、露店も何軒か出ていた。

 宿屋のひとつやふたつあるだろう。

 

 

 

 カランコロン

 ドアを開けると安っぽい鐘が鳴る。

 俺たちは怪しい看板が出ている建物に入った。

 クリムが宿屋だと言っていたので、まぁそうなんだろう。

 

 店に入ると汚くて古い木のテーブルが四つと大きめのカウンターがあった。

 カウンターには埃だらけのグラスが山積みされている。

 宿屋というよりは田舎のバーのようだった。 

 

「いらっしゃいっ。いい部屋あるよー。なんなら女も呼んでやるよぉー」

 ご機嫌な顔で宿の親父は愛想を振りまく。

 がっちりとした体格の白人だ。白い髪と白い髭が白熊のようだった。

 

 だが親父は俺たちを見てあからさまに仏頂面になった。

「なんだ、ガキかよ。ったくガキども、勝手に入ってくるんじゃない。久々の客かと思ったじゃねぇか」

 

「客だ」

 そう言いながら俺は懐のポケットをまさぐる。

「あれ? 金がない……。おいクリム、金持ってるか?」

「お金なら、前の街で使い切ってしまいましたけど……」

「ま、マジかよっ」

 

 宿屋の親父は腕組みをして俺たちを見下ろしていた。

「オラ、店が汚れるじゃねぇか。金がねぇならとっとと出ていきな。キタネェガキがっ」

 シッシッと親父は手の甲を振っていた。野良猫でも追い払うように。

 

「小馬鹿にされておりますね」

「そうだな。このナリじゃ仕方ねぇけどな」

「殺りますか? テツオさま」

 クリムはチャキっと左腕を親父に向ける。

「ま、待て待て待てぇ。お前のソレはシャレにならん。別に俺はここで騒ぎを起こす気はねぇよ」

「でもテツオさまを馬鹿にするような輩は許せません」

「お前、この頃ちょっと過激だよ……」

 

 

「漫才は終わったのか? ガキども」

 親父はちょっとイライラした様子でこちらを睨んでいる。

 

「ピッ」

 ……お、来たか。しっかし便利だね。オマエ。

 

「これで文句ないだろ」

 俺はバシっとテーブルに金貨を一枚叩きつけた。

 

「な、き、金貨ぁ。なんでお前みたいな汚いガキがそんなもん持ってるんだ?」

 親父は砂だらけの金貨を持って、俺たちをまじまじと見ていた。

 

「やっぱり殺りますか? テツオさま」

 クリムが俺の耳元でささやく。

「いや、お前はちょっと黙ってようか……」

 

 俺は親父を指差しちょっと偉そうに言ってみた。

「さぁ、さっさと部屋に案内しろ。金を払ったんだから俺たちは客だぜ」

 

 親父はにやっと笑って頷いた。

「お前の言う通りだ。金を払えば客さ。ガキだろうが乞食だろうが牛だろうが蛙だろうが、金さえ払えば誰でも泊めるぜ」

 親父はカウンターの中からごそごそと瓶を二本と小さな箱を取り出した。

「酒だって煙草だってあるんだぜ。飲むかい?」

 

「た、たばこ……酒……」

 そう言えばこの世界に来てから前の街でもこの町でも煙草を吸ってる奴を見かけなかったな。どこの店にも売ってなかったし。まぁ煙草どころじゃなかったんだが。

 

 思うんだが、煙草なんてもんに中毒性は無い。酒はわからんが。

 体は別に煙なんて求めてはいないんだ。

 煙を欲しているのは心さ。

 空っぽの心を煙で満たしていくこの快楽。

 やめようとする奴の気が知れないね。

 

「一本もらおうか。親父」

「おっ。そうこなくっちゃな。酒も飲むかい?」

「いただこう」

 

「テツオさま、大丈夫ですか? あなたは五歳の子供なんですよ」

「お前はこいつを連れて部屋に行ってろよ。なぁ親父、そのへんの部屋をつかってもいいんだろ?」

「ああ。勿論だ。好きな部屋を使ってくれ。どうせ客なんて一人もいねぇんだからよ」

「……わかりました。ほどほどにしてくださいね。テツオさま」

 クリムは子供を抱いたまま一番手前の部屋へ入っていった。

 

「あの女、あんたのコレかい」

 親父はニヤニヤしながら小指を立てる。

 

「とりあえず、酒を注げ。あと煙草だ」

「おっと、そうだったな」

 

 トクトクと心地よい音がする。琥珀色の液体がグラスに注がれる。

 シュボっとマッチのような物で俺の咥えた紙巻煙草に親父は火を点けた。

 

 すぅっと久しぶりの煙を胸いっぱいに吸い込んだ。

「ぐえっげほっげほっ……」

 吸い込んだ煙が俺の喉と肺を刺激する。

「み、水……」

 つい俺はそばにあったグラスの中の琥珀色の液体を飲み干してしまった。

 

「お、いい飲みっぷりだねぇ」

「うぎゃぁぁぁぁぁ」

 や、焼ける。喉が……胸が……。やっぱり……ムリだったかぁ……。

 

「お、おい。大丈夫か?」

 親父は心配そうに俺の顔を覗きこむ。

「なんか、あんたを見てると子供って感じがしなくてな。何でだろうな。いや、悪かったよ」

 親父は酒をチビチビと舐めながら謝っていた。

 

「なぁ、それより腹減ってないか? じゃがいものスープくらいしか出せないけど食うか?」

「ぜぇぜぇ。ああ。そうだな」

「ちょっと待っててくれ。お前の連れにも持っていってやるよ」

 陽は傾き外は薄暗くなっていた。

 

 

 

 俺はテーブルに突っ伏して寝ていた。

 さすがに酒と煙草が幼い体に与えたダメージはでかい。 

 

「スープを持っていったんだが、お連れさん二人とも寝ちまってたな」

 親父は戻って来て、コトンとテーブルにスープを置いた。

「ま、起きたらまた作ってやるよ……って……え? おい……。誰だ? お前……」

 親父は驚いたような声を出す。

 

「あ?」

 ムクリと俺は顔を上げる。

「客の顔を忘れちまったのか? アルツハイマーかなんかじゃねえのか。親父」

 あれ? なんか……。声が……。カン高い子供の声じゃない。

 もう変声期を迎えてしまったのか俺は。なんておませな体だ。

 

「さっきのガキなのか? ちょっと見ない間にずいぶん成長したなぁ……」

「成長?」

「ひっく……。まぁいいや。これで安心して飲めるってもんよ」

 何言ってんだ……この酔っ払いがぁ……。

 

 親父は嬉しそうに椅子に座り、グラスに酒を注ぎなおした。 

 

 

「ういぃっく……。なぁ親父ぃ」

「ん? 何だ?」

 俺と親父はじゃがいものスープと干し肉を肴に酒を飲んでいた。 

 

 俺はぐでぐでになりながら親父に話しかける。

「あんたは独りもんかい?」

「あ、ああ。見ての通りさ」

「独りって寂しいよなぁ」

「そうだな。寂しいな」

「その歳までずっとかい?」

 俺がそう言うと、親父は寂しそうに笑ってくいっと酒を喉に流し込んだ。

 

「ちょっと前まで女房と子供がいたよ。子供はそうだな、ちょうどさっきのあんたくらいの歳だった」

「逃げられたのかよ」

「いや……。死んだ」

 

「病気かい?」

「殺されたんだ」

 グラスを持つ親父の手が震えていた。

 

「穏やかじゃねぇな」

 俺は干し肉をかじりながら、また酒を体に流し込む。

 いつの間にか普通に酒が飲めていた。

 そして胸いっぱいに吸い込んだ煙を「ぷはっ」と吐き出す。煙草もうめぇ。

 何より親父と目線が一緒ってのがいいね。

 話をする度に見上げるのも首が疲れるんだぜ。

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