「よく眠れたか?」
白髭の親父はテーブルにパンを並べながら二カッと笑う。
「クリム姉、こっちこっち」
せつが手招きする。
俺はクリムに支えられて部屋を出た。
クリムが椅子を引いた。
「テツオさま。どうぞ」優しくクリムは言った。
「で、この子たちに聞いたんだがよ。アンタら東に向かってるそうだな」
親父がマグカップのスープを片手に言った。
「ああ。特にあては無いんだが米の飯が食いたくてな」
俺は固いパンを一口かじった。
「お前らあの高い壁の街から来たんだろ? だったら西に向かってるぜ?」
「なんだって!」
俺はジロっとクリムを睨む。
「え、いや、だって、こっちかなぁってなんとなく……」
「方向音痴だったんだね。クリム姉」
まぁ。別に……。いいんだけどさ。
「なぁ、親父。それでここはどこなんだ?」
「へ? そんな事も知らないで旅をしてたのか? 馬鹿なのか?」
親父は半笑いで呆れ顔だ。
「殺りますか? テツオさま」クリムが俺の耳に囁く。
クリム……。もしかしてそのフレーズが気に入ったのか?
とにかく自分のいる場所もわからんのでは話にならん。
何で今まで気付かなかったのだろう。
「まぁ昨夜アンタに話したような気がするが」
親父はそう言って俺を見た。
昨夜、親父が何を言ったかなんて覚えてる訳ねぇだろ。
「うーんそれにしても、おれ相当酔っ払ってたのかな。昨夜のあんた、大人だったような気がするんだが」
「気のせいだ。そんな事どうでもいいから、ここの場所を教えろ」
俺はパンをもう一口かじり、スープで胃の中に流し込んだ。
「ああ」
親父は頷き、薄汚れて丸まった茶色い筒のようなものを取り出した。
それをくるくるとテーブルに広げていく。
「地図か?」
親父がテーブルに広げた物。それはなめした皮に書かれた世界地図だった。
「少し前に来た客が忘れていった物なんだがな」
親父はそう言って地図を指差す。
「あんたらが今いる場所はここだ」
なんだか見覚えのある世界地図だった。
親父の指差した場所は中国の西の方。
まぁ中国という国がこの世界にあるのかどうかは知らないが。
「なぁ、親父。ここって中国なのか?」
「中国? なんだそれは。聞いたことが無いな。国名か?」
「違うのか?」
「ああ。それにここはどこの国にも属していない」
「属していない?」
「無政府状態ってやつさ」
無政府……。確かに街の外は無法地帯ではあったが。
でもそれであんな高い壁や近代的な街を作れるもんなのか。
この町みたいなものならともかく。
「なんか納得いかないような顔をしているな」
「ああ。前に居た街には軍隊もいたようだし、秩序もあった。国がなくてあんな街が造れるとは思えないな」
「ああ、あの街のことだな。あそこは租界だよ」
「租界?」
「欧州から来た連中が造った街さ。あの壁の中だけに文明と治安がある」
「他にもそんな街があるのか?」
「そうだな。ここから東はここみたいなただ人が集まっているような町が多いかな。まあ、国があったとしても小国ばかりさ」
せつがテーブルに身を乗り出し好奇心でいっぱいのキラキラした目で地図を食い入るように見ていた。
「なぁ、おっちゃん。日本、日本はどこにあるんだ?」
せつがブルーウォーターの髪を揺らしながら親父に尋ねる。
「日本? ああそれなら……」
親父がつーっと指を右に滑らす。
「一番東の端にあるこの島だ」
極東の島。見覚えのある形。俺の故郷。
この訳のわからない世界にも日本はあるのか。
そうだな。日本人がどうのって言ってた奴も居たしな。
「私、日本に行きたい」
せつが真剣な目で言った。え? 俺に言ってるのか?
「あはは。お嬢ちゃん。ここから歩いていったら何年かかるかわからんぜ?」
親父は膝を叩いて笑う。
「日本には、お母さんとお姉ちゃんがいるんだ。私……帰らなきゃ」
いや、だから何で俺に言うんだよ。せつ。
だけど日本か。俺も帰りたいな。いい思い出なんて何も無いけどな。
ん? 待てよ……。俺の頭に何かが過ぎる。
何で今まで気付かなかったんだ。
俺は子供の体でこの世界で目を覚ました。
厳ついマギーはグラマラスボディの女になっていた。
クリムの容姿は変わってなかったが左腕がロケットパンチだ。
だったら髪の色がウォーターブルーになって背中に恐竜の羽が生えるくらいの事はあるんじゃないのか? なぁ、せつ……。
性格はあいつとは全然違うし、クソ生意気だけど。
「せつ……。お前ってやっぱり本当はセルマなんじゃないのか?」
俺はテーブルに身を乗り出しているせつに言った。
せつはきょとんと俺を見ていた。
「セルマってお母さんの名前だよ」
「な、なんだとぉー!」俺は驚き三メートルほど飛び上がった。
「テツオさま、知らなかったんですか?」
少し冷めたスープを飲みつつ、クリムが言った。
「く、クリムぅ。なぁんで教えてくれなかったんだよぉ」
「え、だ、だって……」
くるりと俺は振り向きせつの両肩を掴む。
「せつ、本当に日本に……日本にセルマがいるんだな」
「ああ。絶対にいる。間違いなくいる。私の帰りを待ってる」
どこからその自信がくるのか全くわからないが。
「とにかく、こうしちゃいられねぇ。行くぞクリム。日本だ。俺は日本に行く。一日も早く!」
「わ、私も連れて行ってくれ。頼むよ」そう言ってせつが立ち上がった。
「落ち着け。お前ら」親父は煙草を取り出し火を点けた。
「歩いて行く気かよ。ここからどれだけ遠いかわかっているのか?」
ぐ……。そうだ。馬車は大破してしまっている。ずんぐりとした馬みたいな奴もどこかへ行っちまった。
「ここから東はしばらく砂漠が続く。馬車がなくっちゃあっという間にミイラだぜ」
親父は肩をすくめあきれ顔だ。
「ちょっとこっち来な」
そう言って親父は立ち上がり外へ出た。
俺はその後を付いて行く。クリムとせつも付いて来た。
宿屋の脇の倉庫。そこには馬車があった。お世辞にも立派な馬車とは言えないが、車輪や造りはしっかりとしている。
「お前らにこれをやるよ」
「え……。親父……。嬉しいが馬がいなくちゃただの粗大ゴミだぜ?」
ピンっと親父は丸い物を俺に弾いて寄こした。
「え……。金貨……」
「お前が昨日俺に寄こした奴だ。餞別にくれてやる。馬の一頭くらい買えるだろ」
親父の白髭が眩しいぜ。
クリムが親父に近寄り、親父の顔を見上げる。
「どうしてわたくし達にそんなに親切にしてくださるのですか?」
クリムがそう言うと親父はポリポリと頭をかいた。
「おれの娘の名前、セルマって言うんだ」
そう言って親父は悲しげに笑った。
俺達は宿屋の親父に別れを告げ、この町の泉の周りの露店を見て回っている。
なかなか馬を売ってる行商人がいない。
「困りましたね。テツオさま」
「うーん。金さえあれば何でも手に入る訳でもねぇんだな」
俺とクリムは泉の前の草むらに腰を落とし頭を抱えていた。
馬かぁ。困ったな。せっかく馬車が手に入ったというのにな。
俺の頭の上ではヒヒンといななく動物の鳴き声。
そして「きゃはははは」と、せつの楽しそうな笑い声。
ポタリと俺の背中に垂れる生温かいしずく。
ったく。うるせえな。
「せつぅ。俺がこんなに悩んでんのに何遊んでやがんだ」
俺は振り向きせつに怒鳴る。
さすがに温厚な俺でも怒るよ。せっちゃん。
馬と遊んでる場合じゃねえだろうが。
……ん? 馬?
振り向くとクリムが馬車に乗っていた。せつは馬の首にまとわりついている。
「テツオさま。遊んでないで行きますよ?」
「え? あれ? 遊んでたのって俺なの? そうなの?」
俺達は泉のある町を後にした。
昨日逃げた馬が一頭クリムの元に帰って来たのは幸いだった。
やけにクリムに懐いてやがる。
さっき俺がエサをやろうとしたら腕をかぽっと噛まれた。
「きゃはは。ラクーマ、ラクーマ」
クリムの隣で楽しそうなせつの笑い声がする。
「ラクーマっていうらしいですよ。この馬」
クリムが手綱を握りながら振り向き俺に微笑みかける。
まぁ。名前は大事だからな。ラクーマね。ラクダ馬? 安易だな。
ある程度食料や必需品も買い込んだし、しばらくは何とかなるか。
さて、あの高い壁の街に立ち寄るべきか。違うルートを行くべきか。
……あの街は危険過ぎるな。別のルートを行くべきだろう。
俺は地図を眺めていた。宿屋の親父にもらった地図だ。
世界地図とこの周辺の地図。
黄色いひよこたちがパタパタと俺の元に戻ってきた。
ありがとうな。ぴーちゃんの分身たち。
でもまだ金貨の形から戻ってない奴がいるぜ。
砂漠の道を俺たちを乗せた馬車はゆっくりと東へ進んでいった。
名 前 テツオ
職 業 ひよこ使い
装 備 砂漠のフード
旅のマント
風通しの良いズボン
柔らかい皮の靴
パンツはストライプのトランクス派
武 器 ぴーちゃんの黄色い分身たち(とっても便利)
レベル 3
H P 20
M P 35
特 技 ひよこ乱舞 酒を飲むと二十八歳
名 前 クリム
職 業 テツオ専用の奴隷(だけど幸せ)
装 備 看護婦の帽子
白いTシャツ
白衣(大きめ)
白いミニスカート
看護婦の靴
下着はもちろん白
武 器 左腕
レベル 12
H P 64
M P 0
特 技 手厚い看護 ロケットパンチ(後で拾いに行く)
名 前 せっちゃん
職 業 ?
装 備 頭にてぬぐいを二つ折り
黒いスタジャン(背中に髑髏の刺繍入り)
黒い皮のキュロット(脇にKill the Kingのロゴ)
黒い先の尖ったブーツ(ヒールは低め)
何故か下着は水色
武 器 熱い魂
レベル ?
H P ?
M P ?
特 技 謎の治癒技術
背中に恐竜の羽が出たり消えたりする
飛べるかどうかは不明(まぁ飛ぶんだけどさ)