僕は広い応接間に通された。
洋風のその部屋は外国の映画に出てくるようなクラシックな家具が置かれ、僕の座った本皮貼りのソファはふんわりと僕のお尻を包み込んだ。
何かすごい。日本ですか? ここ。
「今お菓子もって来るね。ちょっと待ってて」
カオリは僕に冷たい紅茶を出して微笑んだ。
「う、うん」
僕の紅茶を持つ手が緊張で震えていた。
ドドドドドドドドドド
「ん? 今、金色の物体が駆け抜けて行ったような……」
僕は眼鏡を人差し指で直した。
だぼだぼのシャツを着て、サラサラの金色で腰まで伸びる長い髪。
その女の子は一瞬僕と目が合ったがすぐに駆けていってしまった。
「きゃはは。待ってー」
サヤカがその後を追いかける。
「こらーセルマちゃん、ちゃんと服を着てぇぇぇぇ」
そして子供の服を持ちながらカオリが走る。
「………………」おいしい紅茶だ。
少しばかりの時間が流れた。
ん? 静かになったな。
「ぜぇぜぇ。騒がしくてごめんねアキラくん。こ、これお菓子……」
カオリは息を切らしながら手作りのクッキーを持ってきて僕の正面のソファに座った。
「はは。こっちこそ、サヤカが騒がしくてごめんな」
僕は笑いながら言った。
「ううん、そんなことないよぅ。同じくらいの子が家に来てくれるなんて初めてだったから、セルマも嬉しくてはしゃいじゃったみたい」
その割にはあの子には表情がなかったな。と、いうか感情がないような……。
僕はそれが少し気になった。
「あれ? サヤカは?」
「サヤカちゃんなら、セルマと一緒に隣の部屋で寝ちゃったよ」
「ええ? まったくサヤカのやつ人の家で……」
僕はこれ以上迷惑をかけるのもアレなんでサヤカを連れて帰ろうと立ち上がった。
「あ、待ってアキラくん。お願い。もう少し寝かせてあげて」
「え……」
カオリの細い指が帰ろうと立ち上がった僕の肩にそっと触れた。
「か、カオリちゃん……」
「お願い……。今起こしたらかわいそうだよ」
「う、うん」
僕はちょっとドキドキしながらふかふかのソファにまた座った。
「氷溶けちゃったね。新しいの持ってくるよ」
そう言ってカオリは新しく氷が入った紅茶を持ってきてくれた。
僕とカオリは高そうなテーブルに向かい合わせに座っていた。
カオリの汗がうっすらと首筋に流れる。
セミの声が五月蝿い。日差しは西へ傾き始めていた。
「あ、あの、アキラくん、奥様は、おうち? 引越しの荷物の整理とかしてたりする? 引き留めて悪かったかな」
カオリはしどろもどろな感じで言った。
「あ、いや。荷物は明日届くんだ。それに僕に奥様はいないよ」
「え……」
「はは。色々あってさ。逃げられちゃった」
「えー。そうなんだ……」
「うん」
僕は笑いながら冷たい紅茶に口をつける。
「見る目のない奥さんだね」
カオリはちょっと怒ったように言った。
「え……? あ、いや、あいつのせいじゃないさ。僕は情けない男だよ。仕事ばかりでロクに家にも帰らなかった。愛想つかされても仕方がないよ」
僕は力なく笑う。
「アキラくんは情けなくなんかないよ。そんな人だったら私付き合ったりしてないもん」
気のせいかカオリが涙目に見えた。
そう。僕とカオリは付き合っていた。
と言っても中学生の頃のかわいいお付き合いだ。
一緒に学校から帰ったり、街で買い物したり……。
あ、一回だけキスしたな。僕そんなの初めてで……。
多分カオリも初めての……。多分な。
あれはカオリが転校することになって……。
そうだ。学校からの帰り道だ。
最後に一緒に帰ったあの日。彼女の家の前で。
彼女の唇と僕の唇が触れただけの幼いキス。
僕はカオリの瞳から柔らかそうな唇に視線を動かした。
その感触を思い出した僕は少し恥ずかしくなり視線を壁の方へ逸らした。
なんかへんな気分になってきた。
おいおい人妻に変な気起こしちゃいかんだろ。
で、でもカオリの汗がブラウスに染みて、さっきよりもブラの形がクッキリと……。
いやいやいやいや……。ダメダメダメダメ……。落ち着け僕とジュニア。
あ……やばい……。立ってきた。ばれたらやばい。恥ずかしい。
「トイレはどこですかぁ!」
僕は二オクターブほど高い声で言った。
「えっ……ふふ……、ここを出て廊下の突き当たりを左……」
カオリは少し笑ってドアの方を指差した。
「あーりがとうぅ」
僕は立ち上がり小走りでドアへ向かう。
「あ、アキラくん……」
「はひっ?」
ちょっと前かがみの僕はドアの方に体を向け、顔だけカオリの方へ振り向く。
「あの、リビングは覗かないでね」
カオリはちょっと目を伏せて言った。
「へ? そりゃ勝手に開けたりはしないけど……。何で?」
「う、うん。とにかくダメだよ」
「わかったよ」
ちょっと良く分からなかったが。そして僕はトイレへと向かう。
………………………………………………………………。
立ってるとなかなか出てこないものだ。
あ~あ。溜まってるのかなぁ。ここんとこシてないしなぁ。
シたのいつだっけ?
忘れたなぁ。出て行ったあいつともそんなにシた記憶が無いなぁ。
いつも仕事で帰るの遅かったしな。
あいつも最初は起きて僕が帰るのを待ってたんだけどね。
いつからかみんな寝静まって真っ暗なアパートに帰るのが当たり前になっていた。
暗い部屋に入ると、サヤカが眠そうな目をこすって出迎えてくれたっけ。
あいつは寝てたけど。
ん、ちょっと落ち着いてきたか。これなら出そうだ。ジョジョジョ……。
でもだからってなぁ。浮気することはないよね。小学生の子供がいるんだよ。
はぁ~あ…………もっとちゃんとあいつの話聞いてやればよかったかな。
今更言っても仕方ないことだけど。
ふぅ……ピッピッ。しかし立派なトイレだな。
僕は用を足した後トイレを出た。
廊下を応接室まで歩く。
ん? リビングってこの部屋のことかな?
リビングは覗くなって言ってたな。何でだろう?
見られちゃ困るものでもあるのか?
あ、さては洗濯物を畳む途中だったとかでカオリの下着が散乱しているとか……?。
カオリはどんな下着履いているのかなぁ。
そうだよ。僕付き合ってたというのにカオリのハダカどころかパンツすら見たことがないじゃないか。
あ~。いかんいかん。何考えてるんだ僕は。
で、でも……見たい……。かぶらなくてもいい。見るだけでいいんだ。
そう、ちょっとだけ……。
僕はリビングの引き戸をそっと開けた。