※この作品はR-18です。

ガンダムSEED Return:A   作:触手スライム

20 / 25
20話

 ――C.E. 71年 2月3日。ユニウスセブン跡地近郊、デブリベルト宙域。

 

 ヘリオポリスを脱出して以降、アークエンジェルはカガリが提案した情報工作と囮(デコイ)の運用が功を奏し、ザフトの追撃を見事に振り切っていた。

 ユーラシア連邦の軍事要塞【アルテミス】へ向かうのをやめ、身を隠すようにデブリの海でサイレントランニングを続けている。

 もちろん、艦内は戦闘配置が敷かれ、緊張感は保たれている。しかし、前回の記憶を持つマリュー・ラミアスやナタル・バジルールにとって、現在の状況は拍子抜けするほど平穏だった。

 

「アルテミスでの拿捕も、クルーゼ隊の執拗な追撃も無い……。

 ……嘘のように静かな航行ね」

 艦長席でチューブ入りの飲み物を口にしながら、マリューがほっと息を吐く。

「ええ。とはいえ、民間人の収容によって水と食料の消費ペースは想定を上回っています。早急に補充しなければ第八艦隊との合流に支障を来すでしょう」

 副長席のナタルも、疲労は見せつつも、かつてのギリギリの死闘に比べれば余裕のある表情で端末を操作していた。

 

「だからこその、オーブの無人補給基地、ってわけだ。

 そろそろポイントに着くはずだが……」

 ムウ・ラ・フラガがモニターを覗き込む。

 その時、周辺警戒に出ていたエニル(エニス)の声が外部スピーカーから響いた。

 

『アークエンジェル。目的座標のデブリに着いたわ。

 あたしの方からアレに接触するけど、船外作業服を着せてカガリを呼び出しておいて貰える?』

「ええ、お願いエニス」

 エニルの言葉にマリューが答えると、横でナタルが艦内アナウンスをかける。

 

 直後、メインモニターに映し出されていた巨大な瓦礫の塊が、ゆっくりと二枚貝のように割れていく。

 そこにあったのは、数隻のマルセイユIII世級輸送艦を二段に重ね、長い桟橋が取り付けられたものだった。

 

「これが無人補給基地か」

 艦橋にいた誰かが口にしたが、【中古の輸送艦(無人デポ)】が出てきたのは、ある意味で納得のできる光景だった。

 

 一度アークエンジェルに帰投したエニルは、カガリを乗せて無人補給基地へと入っていく。

 輸送艦の艦橋に入ると、オーブ軍のコントロールパネルが表示されており、指揮官クラスの許可でしか利用できないようにロックされているシステム画面が映っていた。

 

「カガリ、お願いね」

「任せろ」

 エニルは安全を確認しながらカガリを誘導し、あっさりとそのコントロールを彼女に譲る。

 そして、カガリは迷いなく国防軍の最高権限コードを入力した。

 途端にシステムが起動し、補給拠点としての電源や通信設備が稼働を開始する。

 すでに範囲内にいたアークエンジェルに向けて誘導信号を出そうとした、まさにその時だった。

 

 突如、回線に割り込んできた通信が響く。

『――みつけたぞ、カガリ』

 

「え、なんだよこれ!? 聞いてないぞ!」

「あー……網を張られていたみたいね」

 カガリは唐突なことに驚き、エニルは冷や汗をかく。

 一方、アークエンジェルの艦橋では、施設が稼働状態になったのか、輸送艦のライトが点滅し艦の誘導が始まったことを確認していた。

 しかし、それだけでは終わらなかった。無人基地のすぐ近くにあった、全長1000mにも及ぶただの巨大なデブリだと思われていた塊に、次々と眩いライトが点灯し始めたのだ。

 

『こちら、オーブ所属の特務艦タキリ。補給所に停泊しようとしている艦、応答せよ』

 その威圧的な通信と共に現れたのは、彼女たちの想像を絶する光景だった。

 

「な……ッ!? なんだあれは……!」

 ムウが驚愕に声を失う。

 瓦礫に偽装されていたのは、コロニー建造時の足場を再利用した超巨大なステーション艦だった。

 その船体には無数の船外タンク、そして数隻のマルセイユIII世級を無骨に貼り合わせていた。

 アークエンジェル級を優に四隻は停泊させられるであろう、規格外の大きさ。

 

「中立国のオーブが……デブリ帯の裏に、こんな途方もない軍事施設を隠し持っていたというの……!?」

 ナタルが愕然と呟く。それは、前回の記憶を持つ彼女たちでさえ全く知らない、歴史の裏側に隠されたオーブの異常な開発力だった。

 

「相手と通信をつないで」

 マリューの指示で、メインモニターに相手の姿が映し出される。

 そこにいたのは、オーブの軍服に身を包んだ威厳ある初老の男と、レドニル・キサカだった。

 

「私は、アークエンジェル艦長のマリュー・ラミアスです」

『うむ。およその事は聞いている。

 私は特務艦タキリの艦長、オキタだ。

 ヘリオポリスの避難民を収容してくれていることにも感謝する。

 補給や整備もあるだろうから、本艦に停泊してくれ』

「お伺いしたいのですが。我々を保護していただけると……?」

 マリューが恐る恐る尋ねると、オキタ艦長は深く頷いた。

『無論だ。ここは中立国オーブの領土も同然。

 ましてヘリオポリスの避難民を救助してくれた相手だ。

 疲弊した者たちを見捨てるような真似はせん。物資の補給と休息を許可する』

 その言葉に、アークエンジェルのクルーたちは安堵の息を漏らした。

「了解しました。感謝します」

 

『こちらエニス。カガリと一緒にいるけど案内するわ』

 エニルの操る紫のジンの先導に従い、アークエンジェルはオーブ特務艦【タキリ】の巨大な曲面ドックに停泊するため、静かに進んでいった。

 

* * *

 

 アークエンジェルの着底後、フラガ大尉を艦橋に残し、マリューとナタルはタキリ級の湾曲面に艦を停泊させると、ランチでタキリ内の疑似重力区画に降り立った。

 そしてエニルのジンから降りたカガリもそこにいた。

 

 出迎えたのは、オーブの軍服に身を包んだ二人の男だった。

 一人は、海千山千の猛者であることを思わせる、鋭い眼光と豊かな髭を蓄えた歴戦の将――タキリ級特務艦長、ジュウゾウ・オキタ三佐。

 もう一人は、マリューとナタルが知る男、オーブ軍のレドニル・キサカ一佐だった。

 

「地球連合軍、アークエンジェルの諸君。よくぞたどり着かれた。

 先程も挨拶させて頂いたが、私はこの特務艦タキリの艦長、オキタだ。

 事情は我が国の【お嬢様】の護衛から聞いている」

 オキタ艦長は、周囲の空気を圧するような威厳に満ちた声でそう告げた。

 その背後で、キサカが胃の辺りを押さえながら、マリュー達の後ろに隠れるように立っていたカガリをジロリと睨みつけていた。

 

「……探しましたよ、カガリ様。

 コペルニクスから突然姿を消されたと思えば、まさか地球軍の最新鋭艦に乗っておられるとは」

「うっ……。い、いや、これはだなキサカ……エニスが色々と手配してくれて……」

 カガリは表向きは「護衛に守られているお嬢様」という建前を装いながら、ひきつった笑いを浮かべた。

 

「あの、民間人の収容はどうなりますか?」

 マリューが尋ねると、オキタ艦長は深く頷いた。

「とはいえ、連合の兵士になっている者については、こちらでは対応できない。

 それはおわかりですな」

 その言葉にマリューは頷く。

「はい。私たちが連合軍に合流できれば除隊手続きもできるのですが……」

「事情があったのだと、納得するしかないですな」

 

 一方、カガリはキサカに促されるように少し離れた場所へ移動すると、周囲に地球軍の耳がないことを確認し、声を潜めて話し始めた。傍らには護衛としてエニルが寄り添っている。

 

「……すまなかったな、心配かけて」

「まったくです。代表がどれほど気をもまれたか……。ですが、ご無事で何よりです」

 キサカが深くため息をつく。

「キサカ、彼らはヘリオポリスの難民も抱えている。

 できる限りの物資を回してやってくれ。ジンの補充とストライクの補修もだ。

 それから……私はあの艦を降りるつもりはない」

 カガリの矢継ぎ早の指示に、キサカは静かに首肯する。

 オーブ首長の娘としてのカガリの真っ直ぐな決意を、彼は誰よりも理解していた。

 

「承知いたしました、カガリ様。

 こちらの表立った対応は、オキタ艦長と私にお任せを。

 貴女はあくまで【護衛付きの民間人】として振る舞ってください」

「ああ、頼む」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。