――アークエンジェル(艦橋)
エニルと入れ替わりで将校サロンを出た後、マリューはカガリの腕を掴むようにして艦橋へとやってきていた。
「んで、どういうことだよ」
不満げな態度で待ち構えていたのは、ムウだった。
ラクスの来訪から艦橋に詰めていた彼は、説明を求めていた。
それは艦橋にいる他の士官も同様で、マリューとカガリは一斉に視線を集めていた。
「彼女達の来訪については、どうしても必要だったのよ」
マリューはサロンを出た後にカガリと話した筋書きを思い出していた。
話し始めた矢先、呼び出されたナタルが艦橋に入ってくる。
「まず、この話は機密事項なので、この場以外での口外は禁じます。
……実はここにいるカガリさんは、オーブ連合首長国の首長、ウズミ・ナラ・アスハの娘で、カガリ・ユラ・アスハなの」
それを聞いた全員の目がカガリに向かい、その視線が真偽を問うていた。
「事実だ。私がヘリオポリスに来訪していた時にあのような事件があり、民間人の救助に協力してもらうことを条件に、こちらも対応していた」
カガリが堂々と話す。
「って、ちょっと待て。ひょっとしてエニスは……」
フラガがカガリを見て問いかける。
「そうだ。このタキリに来ているキサカの部下で、オーブ宇宙軍所属の私の護衛だ。本名はエニル・エル一尉という」
「だぁー! 色々おかしいと思ったんだよ。
あの補給基地にしても、お嬢ちゃんと一緒に出ていくしさぁ!」
フラガは頭を抱えながらそう言い放つ。
「それで、本題に戻るのだけど……ここで引き渡していない志願兵の件もあり、カガリさんを第八艦隊まで連れていくことになりました。
それと、護衛を増やしたいということで、さっき来た子たちがエニル一尉の部下になるそうです。
モビルスーツパイロットとオペレーターですが、一応、彼女たちも表向きは傭兵という扱いになります」
「だぁー! いや、お嬢ちゃんがここで降りて、他の将校を乗せればいいだろうが!」
「だめだ。私はこれでも国防軍司令官権限も持っている。
わたしがこの件を最後まで対応する」
カガリの威厳ある言葉に、艦橋にいる面々が息を呑む。
「そういうわけで、ごめんなさい。断れなかったの。
……ナタル、悪いのだけど四人部屋を用意して、エニスさんと同室で。
あと、艦の案内もお願いするわ」
――アークエンジェル、艦内通路。
新しく「傭兵」として艦に乗り込むことになった三人の少女たちが、一度タキリに荷物を取りに行ったあと、アークエンジェルに戻ってきた。
彼女たちの施設案内という貧乏くじを引かされたのは、副長のナタル・バジルールだった。
<マリューは上手く誤魔化していたが、ラクス・クラインと一緒に来たんだ。
プラントの人間だろう……しかし、以前の記憶には無い者達だが、カガリやマリューは知っている様子だった。
ああ、くそっ、どうしたらいいんだ。
とりあえず、マリューとカガリにもう一度話をしなければ、エニルも捕まえて色々と決めなければいけない>
ナタルは案内をしながら、これからのことを悩んでいた。
「こちらが第一食堂だ。食事の時間はシフトで決まっている。
各自で確認しておくように。……それと、軍艦である以上、勝手な行動は慎むように」
ナタルは終始、眉間に深いシワを寄せたまま渋面で案内を続けている。
その隣では、案内役の手伝いとして呼ばれたフレイ・アルスターが、ルナマリア・ホークとすっかり意気投合していた。
「ねえルナマリアさん、その服すっごく可愛い。どこのブランド?
コペルニクスで買ったの?」
「あ、わかる!? あれね、プラントの――じゃなくて、オーブのお店で一目惚れしちゃってさ!
フレイちゃんもそういうの好きなの?」
同年代の少女たちのキャピキャピとした会話が響き、ナタルはさらに頭痛を覚えるようにこめかみを押さえた。
そんな前方の三人から少し遅れて歩きながら、アグネスとメイリンは声を潜めてヒソヒソと話し合っていた。
「……ねえ、メイリン。さっきの、見間違いじゃないわよね?
ヤマト隊長……女になってなかった?」
アグネスが周囲を気にしながら、信じられないものを見たという顔で問いかける。
「ええ、びっくりしました。でも、ラクス様がさっきすごい勢いで……あちこち触って確認してましたから。
どうやら、女性でもあり、男性でもあるみたいですよ」
「じゃあエル隊長と同じってこと!?
信じられない……。あんな朴念仁の男だったのに」
アグネスは複雑な表情でため息をつく。
<前の記憶の時は、ちょっといい男だと思って落としてやろうかとも考えていたのに……。
あれじゃあ、どう接していいかわからないじゃない>
微妙な顔つきになるアグネスに対し、メイリンは目を輝かせてワクワクしていた。
「でも、面白いじゃないですか!
隊長が女の子なら、服の趣味とか化粧品の話とかで、前の時よりももっと仲良くなれるかもしれませんよ?」
「あんたねぇ……。ほんっと、そういうところ図太いわよね」
呆れるアグネスをよそに、メイリンは楽しげに笑っていた。
* * *
――アークエンジェル、女性用ロッカールーム。
タキリでのキサカたちとの話し合いを終え、ようやくアークエンジェルに帰投したカガリは、大きく伸びをした。
「ふぅ、ようやく一息つけるな……」
そう言いながらロッカールームの扉を開けた瞬間。
ドンッ! と、背後の扉が乱暴に閉められ、カガリはロッカーの扉と長身の女性の腕の間に閉じ込められていた。
「うわっ!? エ、エニス!?」
「……おかえりなさい、カガリさん。少しお話ししましょうか」
目の前には、笑顔を浮かべてはいるものの、目が全く笑っていないエニル・エルが立ち塞がっていた。
「ま、待て! 私だって好きで色々と面倒ごとを起こしてるわけじゃ――」
「あの三人のことよ」
エニルはカガリの言い訳をピシャリと遮り、冷ややかな声で詰め寄った。
「聞いた経歴では、全員が素人同然じゃない。しかもプラントの住人よ。
そんな素性の知れない連中を、いきなりあたしの部下にするってどういうこと?
部下ってことは、必然的に護衛対象であるあなたの近くに置くことになるのよ。何を考えてるの?」
真っ当すぎる指摘に、カガリは冷や汗を流す。
<エニスから見れば当然の疑問だよな……。
だが、あいつらが優秀なパイロットとオペレーターだなんて言えるわけないし、前の経験があるから絶対に裏切らないなんて説明できるはずもない……っ>
カガリは視線を泳がせながら、どうにか言い訳をひねり出した。
「あ、あいつらは大丈夫だ!
私が直接話をして、見込みがあると思ったんだ!
それに、人手不足のこの艦なら、猫の手でも借りたいだろ?」
「あのねぇ……」
エニルは深くため息をつき、カガリの額を指先で軽く小突いた。
「猫の手を借りて、その猫に引っ掻かれたら世話ないわ。
あなたに何かあったら、あのキサカにあたしが殺されるのよ?
……少しは自分の立場と、護衛する人間の胃の痛みを考えなさい」
「うっ……す、すまん……」
カガリが小さくなって謝ると、エニルはそれ以上追及するのを諦めたように腕を下ろした。
「はぁ……まあいいわ。あんたがそこまで言うなら、少ししごいて様子を見てみるわ。
ただし、使い物にならないと判断したらすぐに艦を降ろすから、そのつもりでいなさい」
「あ、ああ! 任せる!」
カガリはホッと胸を撫で下ろすが、エニルはまだ納得しきれない様子で首を振っていた。
<本当に、何かの気まぐれじゃなきゃいいのだけど……>