※この作品はR-18です。

ガンダムSEED Return:A   作:触手スライム

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29話

 ――プラント(【ジュール】邸・応接室)。

 

「よく来てくれたわね、レコアちゃん。さあ、遠慮せずに」

「お招きいただき、ありがとうございます。ジュール議員」

 豪奢な装飾が施されたジュール家の客間にて、プラント最高評議会議員である【エザリア・ジュール】は、満面の笑みでレコアを迎え入れていた。

 シルバーの短髪に、大人の気品と美貌を備えた彼女は、タカ派の重鎮としての厳しい顔を完全に引っ込め、まるで未来の娘を品定めするような熱烈な視線をレコアに送っている。

 その横で、イザーク・ジュールはひどく居心地が悪そうに腕を組んでそっぽを向いていた。

 

「私のことは【おかあさん】でもいいのよ? あ、まだ早いかしらね、フフフ。

 ならエザリアでもいいの。ほら、ね? ……イザークそんな顔で睨まないの。

 しかたないわね、若い二人で、ゆっくりお話しなさいな。お茶はここに置いておくわね」

「ありがとうございますわ」

 ジュール家の使用人の存在を忘れた様に、自分でお茶をテーブルに置くと、エザリアが上機嫌な様子でウインクを残し、部屋から出ていく。

 パタン、と重厚な扉が閉まった直後。

 レコア――その内面にアスラン・ザラの人格と本来のレコア・ザラの人格を宿した少女は、優雅な笑みをスッと消して、大きな溜息を吐き出した。

 

「……どうしてジュール議員がいらっしゃるのよ?

 専用機(ジンハイマニューバ)の運用の打ち合わせだと伝えていたはずだけど」

「仕方ないだろう! 母上がどうしてもお前を出迎えると言って聞かなかったんだ!」

 イザークが頭を抱える。

 二人は、この後のプラントの破滅を回避するため、早急に手を打たなければならなかった。

 しかし、今の彼らはただのエリート赤服に過ぎない。

 だからこそ、昨日レコアが父親(パトリック・ザラ)から引き出した「専用の戦隊を用意してやる」という親バカな提案を利用するしかなかったのだ。

 

「……いいか、母上は絶対に扉の向こうで聞き耳を立てているぞ。言葉は選べよ」

 イザークがひそひそ声で警告する。

「分かっているわ。……アレの所在や、今後の工作活動のためのカモフラージュでしょう?

 だから、あなたは嫌がっていたけど効果的なんだから、イザークをだしにしたジュール議員の懐柔策を実施するわよ」

 二人の言う【アレ】とは、後にプラントを破滅に導く大量破壊兵器【ジェネシス】のことである。

 それを早期に発見し、破壊工作を行うためには、プラント本国で自由に動ける防衛部隊の権限が必要だった。

 

 レコア(アスラン)はコホンとひとつ咳払いをすると、扉の向こうに聞こえるよう、ワザと少し大きめの、甘ったるい女言葉で話し始めた。

「お父様がね、私に専用の戦隊を用意してくださるっておっしゃったの。

 でも私……もし部隊が編成されるなら、イザークと一緒に組みたいわ」

「なっ……!」

 あまりに直球なモーションに、イザークが素でギョッとする。

 扉の向こうからは、エザリアが「あらあら」と嬉しそうに息を呑む気配が微かに伝わってきた。

 

「あの足つきに追撃の手を緩めないって決まったみたいだけど、私たちが地球に降下するにしても、私たちには自由に動ける足(戦艦)がないもの。

 イザーク隊かレコア隊を作って、一緒に地球を旅できたら素敵だと思わない?

 あと、イザークが気にしていたシホ・ハーネンフースも呼びましょうよ、決着がつけられるわ」

「お、おう。……ふん、お前がどうしてもと言うなら、俺の部隊に入れてやってもいいぞ」

 イザークも慌てて尊大な態度を取り繕い、カモフラージュの会話に乗る。

 だが、その直後に二人はグッと顔を寄せ合い、誰にも聞こえないほどの極小の囁き声で本題に入った。

 

「(シホ・ハーネンフースは関係ないだろう!)」

「(ダメよ、本当に私が候補になっちゃうわ。ちゃんと他の候補もいないと)」

 レコアとイザークはしばらく睨みあうと、軽く息を吐く。

「(……ニコル・アマルフィはプラントに置いておきましょう。また失うわけにはいかないわ)」

「(……ああ。それに、母上の懐柔と説得は、俺を中心に動いたほうがいいだろう)」

 

 密談が一段落すると、レコア(アスラン)は再びエザリアを騙すため、わざとらしい大きな声を上げた。

「まあ、照れなくてもいいのに。イザークはやっぱりシホ・ハーネンフースが気になっていたのね」

 レコアがすかさずフォローを入れると、扉の向こうのエザリアが「うちの息子に女っ気が……!」とさらにテンションを上げているのが気配で分かった。

 これでエザリアへの対策はひとまず充分だろうと判断した。

 

「(……ラウ・ル・クルーゼ隊長を押さえるのは難しいわね。

 あの人、【NJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)】のデータ漏洩や、【アラスカ】の件でも絶対に裏で噛んでいるはずよ)」

「(ああ。当時そばにいた俺は、奴が何をしているのか疑問に思っても理解できなかった。だが、動きを封じる手段は探さねばならん)」

 イザークの険しい目に、レコアも小さく頷く。

 そして話題は、最大の難関であるパトリックの暴走(【オペレーション・スピットブレイク】等の強硬路線)の阻止へと移った。

 

「(……父上の件は、ラクス・クライン経由で情報をシーゲル議長に渡して、最悪の場合は事前脱出させるのが現実的かしら?)」

「(……お前の兄(アスラン)がラクスの婚約者なんだから、お前が兄に言ってなんとかしろ)」

「(えっ!? わ、私が……?)」

 イザークの無茶振りに、レコアは思わず変な声を出してしまった。

<いや、確かにレコアの兄が婚約者だが、俺にどうしろと言うんだ>

<お兄様、そんなだからダメなんですよ。

 少し真面目な話があるからラクス様と二人でお茶会がしたいと兄に伝えて、日取りが決まったらお菓子を持ってお茶会をすればいいじゃないですか。

 婚約者の妹とのお茶会くらい何でもないですよ>

 

 イザークとアスランはそれ以上話を進めることができなかった。

 結局のところ、今の自分たちだけでは解決できない問題が多すぎた。事情を知る者が少なすぎるのだ。

 状況を動かす鍵は、やはり自分達の隊が編成され、地球へと降りた後だろうと意見が一致する。

 

「……とにかく、お父様には私から上手く言っておくわ。部隊の編成と、足となる戦艦の件、楽しみにしていてね」

「ふん、せいぜい期待せずに待っていてやる」

 

 そこからは、ジンハイマニューバのカスタマイズについてイザークと話し合った。

「私としては中距離戦主体で【MMI-M8A3 76mm重突撃機銃】と盾を持って、あの機体の足止めができればいいと考えているの。

 補給を考えて武器はジンと同じものね」

 レコアの中のアスランは、フェイズシフトに対して効果の出ないジンの武装であれば安心してキラの足止めか、それとなく支援ができると踏んでいた。

「いや、意図は理解できるが、例えば地上戦になることを考えると、【M68パルデュス 3連装短距離誘導弾発射筒】を脚部に標準装備するようにして、火力を上げてもいいのではないか?」

「いや、それだと運動性が……」

 

* * *

 

 ジンハイマニューバの話になると、エザリア・ジュールはその場を離れていた。

 書斎に入ると、机に座りながら先程聞いた話を吟味する。

<つまり、レコアちゃんはイザークに気があるけど、シホ・ハーネンフースという子をイザークが気にしているのも気になっているのね>

 エザリアは頷きながら、初めて聞いた他の女の影に少し嬉しそうにしていた。

 

<地球に行くというのは、恐らく足つきが地球に降りたら、自分たちもついて行って、観光もかねて色々見て回りたいという事かしら?>

 地球云々の部分については、エザリアは首をかしげる。

 

<イザークが戦隊長になればレコアちゃんもそこに入ると言っていたし、そうなれば今回面倒な事態を引き起こして、イザークの経歴に泥をつけたクルーゼ隊から下ろせる。

 これはパトリックも同じことを考えているでしょうし、望むところでしょう。

 足か……一度地球を見せるのは悪くないし、イザークに決着をつけさせるための時間にもなるわね。

 ……そうだわ、たしか次のアイビー級ができるから実験目的で地上に送って、ハネムーンの予行演習がてら、戦闘は禁止としてカーペンタリアで地上における飛行訓練でもさせたらいいんじゃない?

 プラントに帰ってきたら、そのまま守備隊に入れれば、あとは式をあげるだけになるわ。

 そうそう、シホ・ハーネンフースも調べて、隊に入れるように言わないと>

 エザリアのデスクではいくつもの申請書や調査指示書が作られていた。

 

 

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