※この作品はR-18です。

ガンダムSEED Return:A   作:触手スライム

30 / 56
30話

 C.E. 71年 02月4日

 ――アークエンジェル(艦橋)

 

 艦橋にはマリュー、ナタル、ムウとそれ以外にも志願兵を除く士官がいた。

「昨日の話で、新たに傭兵が四人加わることになりましたが、キサカはカガリの傍につくことになり、アグネス・ギーベンラート、ルナマリア・ホーク、メイリン・ホークが戦闘に参加することになります」

「ええ、それはわかりました。

 しかし、なにが問題なのでしょう」

 エニルの言葉に、マリューが首を僅かに傾げる。

 

「はい。ラミアス艦長。

 申し訳ないのですが、アグネス、ルナマリアのモビルスーツパイロットとしての技量の確認をしなければ、フラガ大尉やバジルール少尉に戦闘時の配置について説明できません。

 それにパイロットのシフトも考える必要が出てきています。

 それはオペレータも同じでは無いでしょうか?」

「それは、確かにそうね」

 エニルの説明に、マリューとナタルが頷く。

 

「ん、でもよ。技量なんてどうやってはかるんだ」

「艦の外にある、デブリ帯での行動を許可してもらえれば、デブリを資材に見立てることもできますし、行動を共にすることである程度の技量は見えます。

 その際メイリンにオペレータを任せれば、艦橋でも技量の確認ができるでしょう。

 加えてシミュレーターで対戦してもいいと考えます」

 ムウの問いかけに、エニルが答えた。

 

「まあ、しないよりはいいだろうし。

 たしかに今の状態でシフトに入れるのも、実戦に出すのも不安だからな」

 ムウは納得して言った。

 

「確かに今なら物資の搬入などで時間はありますが、艦長。問題が……。

 本艦は現在、タキリに停泊しており、ザフト艦もいます。

 ジンのみを動かすにしても、慎重に行動しなければ例の条件に抵触する可能性も」

「タキリ艦長とに相談して、アイビーの戦隊長にもデブリ帯での活動の了承を貰いましょう。

 もし、どちらかが難色を示すようであれば、シミュレーターのみで確認するように」

「了解しました」

 ナタルの指摘を受けてマリューが方針を示すと、エニルはそれに同意する。

 

「ちなみに、エニスは今の状態だとどんな案を考えているんだ」

「前衛に私とキラ、艦の直掩にアグネス、ルナマリアです。

 フラガ大尉は遊撃が一番良いかと考えています」

「……キラを下げると言わないんだな」

「それを言うには、技量が未知数です。

 少なくてもヘリオポリス内で戦闘を乗り越えたキラの方がましかと、モビルスーツの能力差もありますし」

「なるほどねぇ」

 ムウとエニルの会話が終わったかと思うと、エニルは何か考えるようにしたあと顔をあげる。

 

「せっかくですから、三人の力量を見るのに合わせて遅れているキラをはじめとする志願兵の教育も進めたいです。

 体力作りとして護身術、簡素でも志願兵向けの士官教育、国際法の座学ですか」

「それについては同意見ね。

 ……ナタル、スケジュールの調整できるかしら」

 マリューはナタルにそう言って確認する。

 

「すべてに我々がかかわることはできませんが、分担すればどうにかなりますね。

 本日の午後からであれば、体力作りとして護身術を教えるラミアス艦長による近接格闘戦講座。

 その後に、私が志願兵向けの教育と国際法の講座。

 とすれば問題ないかと、いかがでしょうか」

「ええ、直接接すれば人となりもわかるでしょうし、それでいいわ」

ナタルの提案にマリューが了承する。

 

「あたしは午後、待機任務ですのでパイロット控え室にいます。

 デブリ帯での作業はともかく、お話しした機体カラーの変更についてマードック曹長に伝え、シミュレーターの準備も進めてもらいます」

「ええ、それでお願いするわ」

 マリューはそう言って、エニルの提案を飲んだ。

 

* * *

 

 ――同日午後。アークエンジェル(トレーニングルーム)。

 

「ぜぇっ……はぁっ……っ、も、もう無理……」

「なんで私がこんなことしなきゃいけないのよぉ……っ!」

 トレーニングルームのマットの上に、少年少女たちの悲鳴と荒い息遣いが響き渡っていた。

 参加しているのは、キラやサイ、トールをはじめとするヘリオポリスの志願兵たちと、新たに加わったルナマリア、アグネス、メイリンの三人だ。

 

 アイビー級に乗艦して以来、目まぐるしく変わる過酷な環境の中で、ルナマリアにとって同年代でありながら妙に頼りになるアグネスは、急に大人びた妹のメイリンとも違って大人のように接してくれた。

 経験不足の自分を引っ張ってくれる彼女とは、今や親友と呼べるほどに絆を深めていて、なにかあると今日のように妹のメイリンと行動を共にしていた。

 

 マリュー・ラミアスが行う、基礎体力と護身術の訓練。

 ただの学生である彼らに最後までついていけるはずもなく、フレイやカズイなどは早々にマットへ倒れ込んでいた。

 

「はい、そこまで。……ふふっ、みんなまだまだ基礎体力が足りないわね」

 タオルで汗を拭いながら優しげに微笑むマリュー。

 マリューの視線の先で、床に這いつくばったルナマリアが「は、はいぃ……」と力なく返事をした。

 ルナマリア自身もまだ十四歳の子供だ。息が上がり、手足が鉛のように重い。

 だが、ふと隣を見た彼女は、親友と妹の様子がおかしいことに気づいた。

 

<さっきの護身術の時、なんで二人ともあんなプロみたいな動きができたの……!?

 それに……>

「……ちょっとアグネス? メイリンも。なんでそんなに震えてるのよ?」

「ふ、震えてなんかないわよっ……!」

「お、お姉ちゃん……わたし、もう……」

 アグネスは強がってみせたものの、その顔は文字通り【真っ青】だった。メイリンに至っては涙目になりながら、小動物のようにガタガタと震えている。

 二人の視線の先には、労いの言葉をかけながら学生たちの間を歩くマリューの姿があった。

 

<……当然よ。この人、ただの士官じゃない……!>

 アグネスとメイリンは知っている。目の前で優しく微笑むこの豊満な女性艦長が、数多の死線を潜り抜け、絶望的な戦況を幾度も覆してきた不沈艦の指揮官というだけでなく、アスランですら手こずる白兵戦の猛者だということを。

 頭では完璧な軍隊式の身のこなしを理解していても、未入学の民間人の肉体ではスタミナも筋力も全く追いつかずすぐにへばってしまう。

 その上、手加減されているとはいえ、組み手の最中にマリューから一瞬だけ放たれた【本物の軍人のプレッシャー】は、彼女たちの精神を竦み上がらせるのに十分すぎるほどだった。

 

「なんであの子たち、そんなにビビってるの……?」

 何も知らないルナマリアが首を傾げる。

「えへへ……なんか、たまにはこういうのもいいね」

 その横で、すっかりバテて座り込んでいたキラが、タオルで顔を拭きながら小さく笑い声を上げた。

「ちょっとキラ、笑い事じゃないわよ……死ぬかと思ったのに」

 ルナマリアが文句を言いつつも、つられて苦笑する。同年代の仲間たちに囲まれていることで、キラの顔には年相応の自然な笑顔が浮かんでいた。

 

* * *

 

 ――その後(将校サロン)。

 

「――以上が、交戦規定と命令遵守の重要性だ。何か質問はあるか」

 教壇に立つナタル・バジルール少尉が、鋭い鷹のような視線で室内を見渡した。

 

「「「ありませんっ!!」」」

 先ほどまでへばっていたはずのアグネスとメイリンが、誰よりも早く、弾かれたように立ち上がった。背筋をピンと伸ばし、指先まで隙のない完璧な軍隊式の姿勢で大声を張り上げる。

 ザフトのアカデミーで骨の髄まで叩き込まれた軍規と、歴戦の実戦経験。それがナタルの鋭い叱責と厳格な威圧感に触れた瞬間、理性をすっ飛ばして【条件反射】として肉体を動かしてしまったのだ。

「えっ!? ちょっと、ふたりともどうしたの!?」

 隣でルナマリアが、突然ガチガチの軍人と化した親友と妹を見てドン引きしている。

 

<あ、やば……っ。つい身体が勝手に……!>

<えええ、アークエンジェルの雰囲気って、もっとこう緩くなかったですか?

 バジルール少尉も初めて見る顔ですけど、なんか知っているのと違うなぁ。

 お姉ちゃんは問題ないと思うけど、……アグネスと衝突しなければいいけどなぁ、無理だろうなぁ>

 メイリンは、思わず完璧な返答をしてしまったことに冷や汗を流しつつ、見知ったアークエンジェルの雰囲気と現在の差異に戸惑いながら、アグネスのほうを見て思考を彷徨わせていた。

 

「……うむ。良い返事だ。さて、本日の合同教育はここまでとする。解散」

ナタルの号令とともに、一斉に安堵の溜息が漏れた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。