C.E. 71年 2月5日。
――アークエンジェル。
エニルとキラは、アグネス、ルナマリア、メイリンと共にパイロット控室の隣にある女性用ロッカールームに来ていた。
メイリンはパイロットではないが、まだ顔が知られていないこともあり、挨拶を兼ねてこの後格納庫に行く予定となっている。
「あなた達はこのロッカーを使ってね。
ネームプレートがあるから、パイロットスーツもサイズが合うのが入っているはずだけど、一応確認してちょうだい」
言いながら、エニルは自分のロッカーを開けると自分の服を脱ぎだす。
エニルが下着姿になると、その視線は下半身に集まる。
「「おおっ!」」
ただ眼を見開くアグネスに対して、ルナマリアとメイリンは熱のこもった声をあげる。
「なに、あんたたちは見るの初めてなの?
っていうか、あんた達の年齢ならそれはそうよね」
「あー、いや、実は他にも見たことも触ったこともあるんですけど、二人目だったので驚いちゃって」
エニルの言葉に、ルナマリアが申し訳なさそうな声で返した。
「え、他にもいたんですか?」
自分のロッカーの前で、脱ぐことを迷っていたキラが、ルナマリアを見る。
「ええ。あんまり言いふらすとかは、よくないと思うんだけど」
ルナマリアの言葉に、キラは頷く。
二人が話をしている間に、エニルは着替え終えた。
「ほら、キラも着替えて。
これから嫌でもここで着替えるのだし、そこの三人も気にしないわよ」
エニルがキラをせかすように言いながら、ルナマリア達を見やる。
その視線を受けて、ルナマリアとアグネスはロッカーに入っていたオーブ軍のパイロットスーツ(ロゴ等は無い無地)を取り出し、服を脱ぎ始める。
アグネスの黒の下着とルナマリアの薄いブルーの下着が露になる。
そして、その様子をメイリンが見ており、いつの間にか支給された連合の制服に着替え終えていた。
「そういえば、エニスさん。
支給されたこの制服って連合のものですよね。
傭兵のチームなら専用の制服とかあってもいいんじゃないですか?」
メイリンがそう言うと、アグネスとルナマリアが着替えを中断して目を輝かせる。
「別に在庫とか問い合わせてもいいけど、そもそもすぐに用意できないし、このチーム自体が長いものじゃないでしょ?
……だから、いらないわよ」
エニルがそう言ってメイリンの話を終わらせる。
アグネスとルナマリアは未練がましくロッカーの中に入っている制服とエニルを交互に見る。
「そういえば、傭兵が集まるとチーム名とかつけるんじゃないんですか?」
着替え終えたキラがそんなことを切り出した。
「確かにそういう事もあるけど、さっきもいったけど、長いチームじゃないからねぇ。
申請とか手続きも面倒だし、チームカラーとか決めたら機体の色を統一とかになるかもよ?
……自由にしたいじゃない」
エニルは少し考えた後に、自分の考えを口にすると、異論があるかを視線で問いかけた。
「ほら、下着姿でいつまでもいないで、さっさと着替えなさい」
一拍の間の後、エニルは着替えを中断していたアグネスとルナマリアを急かした。
着替え終えた五人は、ロッカールームを出ると格納庫に向かった。
そこにはムウやマードックが待っていた。
「おう、ちゃんと着替えてきたようだな。
こいつはマードック・コジロウ曹長だ。
お前たちの機体を整備するメカニックを率いているからな」
ムウが三人の身体を見ると、そんなことを言う。
「とりあえず嬢ちゃんたちのことは、艦長からきいているぜ。
ジン二機は簡易塗装で用意してある。
ただ、本格的に塗り替えるには本人に色々聞いたほうがいいからな。
悪いが、この後話を聞かせてくれ」
「そうね。このパイロットスーツを着ている二人が、アグネス・ギーベンラートとルナマリア・ホークよ。
制服姿の子がメイリン・ホーク。
パイロットスーツの色までは間に合わなかったから、あとでヘルメットに塗料か何かでマークをすればわかりやすいかも」
「機体の色と同じヘルメットか、確かにわかりやすいな。
後でやっておこう」
エニルの言葉に、マードックは同意してヘルメットを見る。
話を聞いていたムウが、思い出したように口を開いた。
「そうだ、エニル。
さっき、デブリ帯の訓練飛行許可が艦長から出たぞ。
機体調整をした後にはなるが、俺は艦橋から様子を見ているから引率任せた」
「ありがとうございます、フラガ大尉。
それなら、キラは待機として控室かストライクにいて貰いましょうか。
何もないとはおもいますが」
「そうだな、異存はない。
俺から艦長と副長に伝えておく。
……あと、そこのメイリンだったな。事前の話の通り、お前さんには艦橋でオペレーターをやってもらうぜ。お手並み拝見といこうか」
「えっ!? あ、はいっ! よろしくお願いします!」
突然の指名に、メイリンは少し慌てた様子で背筋を伸ばした。
「じゃあ、おまえら自分の機体に行って調整と整備をはじめろ」
ムウの言葉をうけて、それぞれが動き出す。
「エニルさん。私、お姉ちゃんとアグネスの様子を見てきてもいいですか?」
「ええ、いいわよ。
わたしも自分の機体を軽く見たら見に行くから」
控えめに尋ねてきたメイリンに、エニルは許可をだした。
アグネスとルナマリア、そしてメイリンがそれぞれの機体へ向かって駆けていくのを見送った後、キラが少しだけ残念そうな顔でエニルの傍に寄ってきた。
「あの……エニルさん。ボクも、一緒に飛びたかったです」
「ごめんね、キラ。ストライクを外に出すと、ザフト艦のアイビーを刺激しちゃうから今回は我慢してちょうだい。
……でも、この宙域を離れたら、あんたも交えて一緒に飛ぶ時間を作るわ。約束する」
エニルがそう言って優しく微笑むと、キラはパッと顔を輝かせた。
「はいっ!」
――(アグネス視点)
アグネスは青い塗装がされたジンを見上げる。
簡易塗装――仮で青く塗装しただけで、塗料にもなんの効果もない物が使われ、褪せた色合いになっている。
そんな自分の機体を見ると、機体の調整をしているメカニックに挨拶をしてからコクピットに入り、シートに収まるなり手慣れた様子でシートの横からプログラムキーボードを出す。
「狭いけど、おもったより綺麗じゃない」
アグネスはそう呟いていた。
ザフトで生産されている機体が他勢力で使われるとなると、戦場で破損した機体を繋ぎ合わせた機体だと考えていたからだ。
「よう、アグネス。
……ギャンと違い使いづらいだろうが、大丈夫か?」
アグネスがメインシステムのプログラムをチェックし始めた時に、マードックが声をかけてくる。
その後ろにはメイリンがいた。
「ああ、マードック曹長も同じだったのね。
整備の件で話しやすいし助かるわ」
アグネスはそう言って、安堵のため息を吐く。
「そうかい。うちの他の連中も腕はたしかだから、こき使ってくれていいぜ」
マードックがそういうと、メイリンが話しかける。
「この部署には他に私たちと同じ人はいるんですか?」
「いや、いねぇな」
メイリンの問いかけに、マードックは首を振る。
「もし何かあるなら聞くが、なければルナマリアのほうも見てくる。なにかあるか?」
「いえ、こっちは大丈夫。……多分、ルナマリアの調整の方が大変だから向こうに行ってあげて。
メイリン、システムの調整手伝って貰える?」
マードックの問いかけに、アグネスは問題ないと答えると、視線をメイリンに向けて頼んだ。
「わかりました。端末借りてきますね」
「そういう事なら、端末を用意させるから待ってな」
メイリンの言葉に待ったをかけるようにマードックが言うと、周囲にいたメカニックに声をかけて端末を持ってこさせる。
そして、そのままルナマリアの機体へと向かっていった。
――(ルナマリア)
ルナマリアは、初めて自分にあてがわれた機体に僅かに興奮していた。
簡易塗装ではあるがジンが自分の色、赤に塗装されているのを見たからだ。
整備をしていたメカニックに挨拶をしながら外観を確認すると、コクピットに向かう。
「汚れも何もない、新品みたい」
そうこぼれた言葉の通りで、コクピットは傷ひとつない状態だった。
ルナマリアはシートの脇からキーボードを取り出し、計器類とシステムの確認画面を立ち上げた。
アイビー級でシミュレーターを操作するときにはしていなかった事に、その手には躊躇いがあった。
<一応、覚えたけどさぁ、私がやるのこれ。うわっ、すごい量。
うぅ、この量やるの……?>
ルナマリアが内心で確認事項の多さに辟易としているところに、マードックの声がかかる。
「お嬢ちゃん、何かあったかい」
「あ、いや、あはは。
システムの確認に時間かかりそうなんで、助けてほしいなぁと」
「ああ、問題ないぜ。
外にいる連中を二人くらい引っ張ってくるから、使っていいぜ。
モビルスーツの各部の制御の確認もついでに見てしまうか。
なに、エニスの機体(ジン)を見ているからな、この機体のシステムも問題ないさ」
そう言って、マードックは周囲に声をかけに行った。