――アイビー(艦橋)。
アークエンジェルにラクスが遊びに行っているなか、艦橋ではレムが膝の上に横抱きに乗せたナトーラを弄っていた。
レムの機嫌はとても悪かった。
「あのねぇナトーラ。シルバーウィンドの修理が終わったあと、報告が来ないままだったのはなんでなの?」
「いや、だってだれも教えてくれないし」
レムはナトーラの答えを聞くと胸に伸ばしていた手を太ももに乗せ、股間へと近付ける。
「あやや」
それを止めようとするナトーラを見てレムの機嫌が良くなっていく。
「エル隊長って、気弱なくせにSですよねぇ」
「気に入られたナトーラには気の毒だけどねぇ」
アンナとマリアが、艦長席をみながらそんな話をする。
「そういえば、隊長って十八歳だったよね。艦長二十五歳だけど守備範囲なんだ」
「やっぱり愛称なんじゃない? 性格とか」
思い出したように年齢を口にしたマリアの言葉にアンナが続けた。
「あー、エル隊長。
変な通信拾ったんだけど聞く? たぶん連合の、暗号解けちゃった」
「は? ……もういいです、一応聞かせてください」
『――ちら……第八艦隊先遣……【モントゴメリ】。【アー…………ェル】、応答……』
「どうしてこんなものが拾えたんですか」
レムはナトーラへの責めを中断し、胃薬を懐から取り出して飲んだ。
ナトーラは脱出を図ったが、横抱きにしている手が胸を強く掴んで離してくれなかった。
「いや、メイリンちゃんが残してくれたタキリのバックドアで遊んでて」
トニヤがそんな理由を笑いながら言う。
「ああ、もういい。相手との距離は?」
「だいぶ遠いみたいで艦の探索能力では影も見えないわね」
レムの問いかけにトニヤがそう報告する。
<アークエンジェルは連合の新造艦。ザフト内でも探している【足つき】なのだから、連合が合流しようとするのは当然。
なら、わたしたちがこの先遣隊に見つかると、拿捕される可能性だってある。
早くここを離れないと>
「ナトーラ、降りていいわよ」
そう言ってレムがナトーラを解放すると、レムが艦長席から立ち上がった。
「私はこれから民間人のレム・エムとして、ラクス・クラインを迎えにいきます。
タキリとアークエンジェルに連絡して。
各員はいつでも艦を出せるように準備しなさい。
ナトーラ・エイナス。ちゃんと準備しておいてね♪」
――アークエンジェル(将校サロン)
「ラミアス艦長。急なことで申し訳ありません」
レムは私服の紫のパンツスーツ姿で訪れており、顔を青白くさせながらマリューに頭を下げる。
レムは表向きオーブの民間人で、ラクスお嬢様を連れ戻しに来たという体裁で来ていた。
「いえ、こちらも急ぎ対応をしていたところで、実は丁度よかったのです」
マリューがそういった所で、キラとラクス、フレイが入室してくる。
「ラクス様、随分と長い見送りでしたが、もう十分されましたか?」
「いえ、できればもう少し居たいのですが、無理そうですわね……」
レムの言葉に延長を告げようとしたラクスだったが、すぐに限界だと悟った。
「仕方ありませんわね」
<この時点でできることはすべてやりました。
少々破廉恥でしたが、フレイさんに負けていないはず。
わたしが、フレイさん以上にキラの印象に残れたはずです。
次に会えるのは、前と同じならプラントでしょうか……FREEDOMとエターナルの準備ですわね。
どちらかに失敗してもアイビーがあれば地上に降りれますし。
最後の思い出を作りますか……>
ラクスは内心で色々考えつつ、お別れをいうような自然体でキラの前に立つ。
そのまま顔を掴むとキスをして舌をねじ込む。
そして顔を離すと虹の橋ができていた。
「キラ、私を忘れないでくださいね」
キラに透明な笑顔でそう言った後、フレイへ顔を向ける。
「フレイさん、負けませんわよ」
ラクスは挑発的な宣言をフレイに放った。
「あ、あんたねー。私だって同じなんだから」
フレイはキラに抱きつきながら、負けじと言い放つ。
この様子にマリューは頭を抱え、胃を押さえながらため息を吐く。
レムは蹲り、口を押さえて何かに耐えていた。
<まずい、まずい、まずい、連合の士官と歌姫のラブロマンス!?
ばれたら殺される。社会的に殺される>
「そ、そういえば、あの三人は良いのですか?」
レムはこの空気を変えようと、この場にいない三人の事をラクスに尋ねた。
「あの三人? ……ああ、大丈夫ですわ、この後軽く挨拶をするので」
「いま、モビルスーツで物資の最終搬入をお願いしていまして、内火艇(ランチ)の見送りの時にはちゃんと会えますから」
ラクスの言葉を補足するようにマリューが続けた。
「そうですか、それではラクス様帰りましょう。……ラクス様?」
「やはり、もう少しだけ」
レムの言葉に、ラクスが延長を匂わせる。
<また、この女は、私の胃に穴をあける気か>
「はぁ……くっ、シルバーウィンドの応急修理もおわりましたから、仕事もしませんと。 それに、連合の艦にも迷惑になりますし」
胃を押さえながらそう言うと、ラクスは仕方ないと帰ることを認めた。
* * *
――アークエンジェル(艦橋)
『先ほど、そちらの副長からも挨拶を受けたが、どうか良い旅を』
ラクスが帰ってしばらくした後、艦橋では、マリューが通信回線越しにオキタとの話を終えようとしていた。
「ありがとうございます。
補給など色々お世話になりました」
『なに、大したことはしていない。
……くれぐれも無理はしないでくれ、大事な荷物もあるのだからな』
「はっ、それでは失礼します」
そうして、タキリとの通信が切られた。
「艦の舫を解け、出航する」
マリューの命令と共に、タキリからアークエンジェルが離れていく。
「我々は、先遣艦隊との合流を目指し、予想航路に進路を取ります。
アークエンジェル発進!」
十分にタキリと離れた後、マリューの号令でアークエンジェルが発進する。
* * *
――ヴェサリウス(艦橋)
その頃、ザフト軍のクルーゼ隊旗艦ヴェサリウスの艦橋でも、第八艦隊先遣隊の通信が傍受されていた。
「隊長。拾った通信の解析が終わりました。間違いない、第八艦隊の先遣隊です」
アデス艦長の報告に、ラウ・ル・クルーゼは仮面の下で冷たい笑みを浮かべる。
「ふっ……。これで餌は撒かれたというわけだ」
「餌、ですか? では、あの連合の新造艦【足つき】は、この先遣隊を救出に来るでしょうか」
「来るさ。彼らにとって、喉から手が出るほど欲しい友軍の影だ。
見過ごすことはできまい」
クルーゼの断言に、アデスは無言で頷き、艦に戦闘態勢を命じた。
一方、パイロットの待機室では、出撃を控えた赤服たちが各々の思いを抱えていた。
「おい、見たかよ。最近、イザークの野郎とレコアの奴、やけに距離が近くないか?」
ディアッカがニヤニヤしながら、ニコルとミゲルに囁く。
「そうですね……よく二人で密談しているのを見かけます」
「ま、戦場じゃ頼りになる二人だ。仲が良いのはいいことだろ」
ニコルが首を傾げ、ミゲルが軽く返す。
その視線の先、少し離れた通路の陰で、イザークとレコアが声を潜めて言葉を交わしていた。
「……通信の通りなら、前と同じようにキラはラクスを連れてあの艦(アークエンジェル)から出てくるはずだ」
イザークの言葉に、レコアが重々しく頷く。
「ああ。だが、クルーゼ隊長の目的は先遣隊の殲滅とアークエンジェルの撃沈だ。
前回のように、ラクス様を盾にした交渉の時間は与えられないかもしれない」
「なら、混戦の中で少しでもアークエンジェルに接触し、キラと話をする隙を作るしかない。……やるぞ、レコア」
「了解だ」
二人は、戦場という盤面の上で、自分たちにできる最善の動きを静かにすり合わせていた。