アークエンジェルが第八艦隊の先遣隊からの通信を確認し、オーブの特務艦タキリから離れること一日、アークエンジェルはデブリの中を先遣隊と合流するために航行していた。
「……先遣隊、探索範囲内に確認しました」
レーダーを監視していた、ジャッキー・トノムラが喜びを交えた報告をあげた。
艦橋に明るい雰囲気が満ちる。
「先遣隊に通信を」
「了解しました」
マリューの指示を受けてメイリンが相手に呼びかけ始める。
しばらくして艦橋に、先遣隊からの通信が入った。
『本艦隊のランデブーポイントへの到着は予定通り。
合流後、アークエンジェルは本艦の指揮下に入り、月本部との合流地点に向かう。
あとわずかだ。無事の到着を祈る』
護衛艦【モントゴメリ】艦長の【コープマン】が落ち着いた口調で言った。
マリューはその落ち着きに嫌な汗がでていた。
<まだ、ザフト艦の襲撃が来ることを知らない。
ここで引き返せば……>
マリューが何かを言いかけた時に、画面に別の人物が移った。
軍の制服ではなく、スーツを着こなした押し出しのいい中年の男性。彼は名乗った。
『大西洋連邦事務次官、ジョージ・アルスターだ。まずは民間人の救助に尽力してくれたことに礼を言いたい』
ああ、とマリューは前のことを鮮明に思い出す。
だから、アルスターが言い出したことに違和感を覚えなかった。
『あー、その、乗員名簿の中に、わが娘フレイ・アルスターの名があったのだが……できれば顔を見せてもらいたい』
アークエンジェルのクルーの一部を除いてきょとんとした。
ナタルは掌で顔を覆っている。
マリューも自分の表情が苦いものになっているという自覚はあった。
そんな中、オペレーターとして席にいた彼女がでてくる。
「パパ、恥ずかしいからそんなこと言わないで。
大体、いつザフトが来るかもわからないからみんな大変なのよ!」
「フレイ落ち着いて」
たまらず出てきたフレイを落ち着かせようと、サイが席を立ちフレイの肩に手を置く。
『おお、フレイ無事だったか。……連合の制服を着ていることはあとで聞くとして、フレイの無事がこの目で見られてよかったよ』
フレイの顔を見れたジョージ・アルスターは満面の笑みを浮かべて、画面越しのフレイを見ている。
『事務次官どの、合流すれば、すぐに会えます』
そう言って、コープマンが苦り切った顔で外務次官を押しとどめている。
* * *
「……ザフト艦二隻、先遣隊側面に出現しました」
アークエンジェルが先遣艦隊との合流地点へと向かうなか、その声が艦橋に響いた。
「距離は?」
「こちらとはまだあります。こちらには来ないと考えられますが、先遣隊は捕捉されていると思われます」
マリューの問いかけに、トノムラが答える。
「このタイミングでの襲撃かよ」
ムウが吐き捨てるように言う。
「艦長、すぐに転進を。このまま進めば本艦もザフト艦の標的になりかねません」
ナタルは、合流を諦めるようにマリューを促す。
「でもよ、先遣隊を見捨てるのは忍びないぜ?
戦力だって一応あるのだし、増援にむかえば」
ムウの言葉は先遣隊という希望を失いたくないというクルーの代弁だった。
「危険すぎます。ザフト艦に見つかった以上、先遣隊との合流はあきらめ本艦は第八艦隊本体との合流を目指すべきです」
ナタルは再度、合流を否定する。その思いを視線に乗せてマリューを見る。
クルーもそれぞれの思いを込めて、マリューを見ていた。
「本艦は戦闘態勢をとり、先遣隊の救援に向かう。
交戦が予定されていることから全艦載機出撃用意。
敵モビルスーツから先遣隊を守りつつ、本艦は敵艦との交戦を行います。
……機関最大出力、敵との間を詰める!」
クルーがその命令に頷き、それぞれの職務に向かう中、ナタルは呆けた顔でマリューを見ていた。
<なぜ、この先の事はあなたも知っているはずなのに>
ナタルの内心は荒れていた。
* * *
――モントゴメリ(艦橋)
「護衛艦【バーナード】、【ロー】轟沈!」
艦橋に悲報が告げられる。
「モビルスーツを止めろ、メビウスはなにをやっている!」
コープマンは戦況を聞きながら、事態が悪い方向に進んでいるのを理解していた。
「これは、これはどうするんだね」
ジョージが狼狽した様子でコープマンを見る。
「外務次官、シャトル、いえ救難ボートに移動を。
誰かお連れしろ」
コープマンの命令に、艦橋にいたクルーが動くと暴れるジョージを格納庫へと連れ出す。
「レーダーに反応! アークエンジェルです」
索敵要員の喜色の声が良く響いた。
「バカな! なんということを!」
コープマンはひじ掛けを叩きつけると、モニターを睨みつけた。
* * *
――アークエンジェル(艦橋)
「熱紋照合終わりました。ザフト艦、ローラシア級一、ナスカ級一。
モビルスーツ! バスター、ブリッツ、デュエル、イージス、ジンハイマニューバ一、シグー一、ジン四です」
トノムラの報告に冷たい汗が流れた。
「やはり、あの部隊ね」
「はい。先遣隊を囮に我々はつり出されたのだと思います」
「全艦載機出撃!
ゴッドフリート、バリアント敵艦に照準!
イーゲルシュテルン起動、対艦ミサイル【スレッジハマー】装填、対空防御ミサイル【コリントス】自動発射に設定。アンチビーム爆雷散布開始。
……ナタルは戦闘指揮を、友軍の救援は艦載機に任せ、本艦は敵戦闘艦ナスカ級から沈めに向かいます」
マリューの号令と共に、ルナマリアとアグネスの駆る二機のジンがアークエンジェルのカタパルトから飛び出し、迫り来る敵機から母艦を守るべく直掩の陣形を組んだ。
* * *
「早く行かなきゃ、もっと早く!」
アークエンジェルを飛び出したストライクはエールストライクの機動性で速度をあげて、モントゴメリに向かっていく。
『キラ、待ちなさい! 単機で突っ込むなんて無謀よ』
ストライクの後ろを、重突撃機銃とシールド、重斬刀を装備したエニルのジンが追いかけていた。
「だって、サイから聞いたんですフレイのお父さんがあそこにいるって、助けなきゃ」
ストライクの加速がさらに強まり、エニルと距離があいていく。
『くっ、これだから、……(子供は)』
エニルは最後の言葉をのみこみながら、キラを追いかける。
そこに、エニルを待ち構えていたように機体が割り込んだ。
「見つけたぜ、紫の奴」
ミゲルはヘリオポリス以来の相手を見つけて、その闘争心を燃やしていた。
「イザーク支援してくれ、こいつは俺の獲物だ」
そう言って、ミゲルは返事も聞かずにエニルのジンに向かっていく。
『わかった。ミゲル、突っ込みすぎるな!』
イザークの駆るデュエルが放った高出力のビームが、漆黒の宇宙を鋭く切り裂く。
エニルがスラスターを吹かしてその光線を間一髪で回避した、まさにその死角――オレンジ色のジンが重斬刀を振りかぶって肉薄していた。
「また、オレンジとあの機体なの!」
エニルはとっさに構えたシールドで強烈な斬撃を受け止めるが、激しい火花と共にコクピットの中は凄まじい負荷と揺れに見舞われる。
「二人がかりで伸し掛かるなんて、ふざけないでよね!」
エニルは機体の姿勢を立て直しながら重突撃機銃で応射する。
その度にキラの向かったモントゴメリに向かおうとするのだが、イザークの乗るデュエルに邪魔されていた。
しかし、その先ではキラもモントゴメリにたどり着けなかった。
『キラ、話を聞いてくれ。もうやめるんだ』
「アスラン、僕は行かないといけないんだ!」
ストライクが強引に突破しようと加速するが、イージスと、レコア専用のジンハイマニューバが絶妙な連携でその射線を塞ぎ、進路に威嚇のビームを撃ち込んでくる。
『キラ、無理をしないで。お願い、戦わないで』
撃墜する気のない、しかし確実に足を止める二機の巧みな連携の前に、キラは焦りだけを募らせていた。
「ちぃ、向こうは手一杯か。しかしこっちもキツイな」
ムウがこぼしたのは、目の前にいるバスターだった。
ガンバレルを展開して四方から実弾を浴びせても、フェイズシフト装甲に弾かれてまともなダメージが入らない。
バスターの高火力の砲撃を避けながら、メインカメラや推進器を狙って足を引っ張るのがやっとだった。
――そこに、強烈な悪寒が走った。
ムウは直感に従い、メビウス・ゼロを急旋回させて退避する。
直後、死角から放たれた正確無比な連射が、展開していたガンバレルを次々と撃ち抜いていく。
そしてメビウス・ゼロにも被弾してしまう。
「ちくしょうが! これじゃ立つ瀬ないでしょ! 俺は!」
四つの武装すべてを一瞬で喪失したムウは、アークエンジェルへ帰投するため機体を反転させた。
その後ろ姿を、暗域から音もなく現れたクルーゼのシグーが見下ろしていた。
「ふふふ、相変わらず逃げ足だけは一人前だな、ムウ」
誰ともなくクルーゼが呟くと、通信が入る。
『ありがとうございます。クルーゼ隊長』
「いや、大丈夫か?
……まだやれるのなら、ニコルと共にあの連合のネルソン級戦艦を落とせ」
『はい、まだやれます』
バスターのパイロットディアッカ・エルスマンとの通信を終えると、クルーゼは次の獲物を見つけた。
「あの機体。ヘリオポリスでは世話になったからな、お返しと行こうか」
そう呟くと、ミゲルとイザークを相手に互角の戦いをしていたエニルにクルーゼが襲い掛かる。