※この作品はR-18です。

ガンダムSEED Return:A   作:触手スライム

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37話

 アークエンジェルから対空砲火が活火山のようにあがっていた。

 アークエンジェルと交戦しているのはザフトのナスカ級――クルーゼ隊のヴェサリウス。

 ローラシア級に次いで就役した、宇宙用のモビルスーツ搭載型高速駆逐艦だ。

 

 砲撃に交じって迫り来る対艦ミサイルを、アークエンジェルから放たれる対空防御ミサイル【コリントス】や、【75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」】が次々と迎え撃つ。

 さらに、その火線を縫うようにザフトのモビルスーツ隊が接近していた。

 

「行かせないんだからぁっ!」

 赤いジンに乗るルナマリアが、重突撃機銃でブリッツを狙撃する。

 

『ルナマリア、イーゲルシュテルンの範囲に誘い出せ!

 それでブリッツを迎撃する!』

「やれるならやっているわよ!」

 ナタルからの指示に、ルナマリアは悪態をつきながら返す。

 ブリッツに乗るニコルは温厚な性格だが、ザフトのアカデミーをトップ成績で出た赤服だ。

 今のルナマリアでは、落とされないように牽制し続けるのが精一杯だった。

 

「ああもう、しつこいなぁ!」

 一方のニコルも、ビーム攻撃がアークエンジェルのラミネート装甲に防がれて決定打を与えられない上、接近しようとすれば中途半端に邪魔をされるため、苛立ちが募っていた。

 

 そこから少し離れたところでは、バスターとデュエルが青いジンと交戦していた。

 イザークは搭乗者がアグネスだと知って思うように攻撃ができず、ディアッカは妙に動きのいいジンの牽制をメインカメラに受け続け、攻めあぐねていた。

 

「もうっ、いい加減にしてっ!」

 デブリを盾にしながら、ミゲルのジンとクルーゼのシグーを相手取っているエニルは徐々に追い詰められていた。

 つい今しがたも右足に被弾し、機体の姿勢が大きく崩れたところだ。

 

「紫のやつ、いつまで逃げ続ける気だ! いい加減落ちろ!!」

 ミゲルはエニルとの距離を詰め、止めを刺しにかかる。

 

「このっ!」

 エニルは武器を持ち替えると、重斬刀でミゲルと切り結ぶ。

 

「しつこい!」

「なっ、この声……女!」

 短いやり取りの後、エニルはミゲルのジンの脇をすり抜けていた。

 エニル機は過負荷で火花を散らしていたが直撃は免れており、対するミゲル機は、右腕の前腕部をバッサリと斬り飛ばされていた。

『ミゲルは帰投しろ。その腕では武器が使えん』

 クルーゼはそれだけ言うと、単機でエニルの追撃に掛かる。

 

* * *

 

 アークエンジェル艦橋では、ヴェサリウスとの戦闘が継続していた。

 

「さすがに速いわね。

 主砲と対艦ミサイルでヴェサリウスの行き足を止めます。

 本艦を敵ナスカ級にもっと近づけて」

 ガモフと異なり高速艦としての足を活かしたヴェサリウスは安易に接近せず、アークエンジェルの後方につけようと大きく旋回していた。

 アークエンジェルもまたそれを追うように動き、巨大な艦同士が追いかけっこのような奇妙な機動戦を繰り広げていた。

 それでも徐々に距離が縮まり、激しい砲撃が交わされる。

 ゴッドフリート、バリアントの砲撃が宇宙を切り裂き、ヴェサリウスの【66cm 2連装レールガン】や【120cm単装高エネルギー収束火線砲】の砲撃がアークエンジェルに襲い掛かる。

 

「距離を詰めて! メイリンは電子戦を!」

 マリューの指示が飛ぶ。

 だが、ヴェサリウスからは対艦ミサイルが絶え間なくアークエンジェルへと放たれていた。

 それをアークエンジェルが迎撃するが、その爆発とデブリが思わぬ弊害を生む。

 

「ダメです、ミサイルの弾幕でレーザー回線が安定しません!」

「くっ」

 メイリンの報告に、マリューが悔しそうな表情を浮かべる。

 

 だが、唐突に状況は変わった。

 アークエンジェルから放たれた対艦ミサイルの中に、ナタルが配置していた時限式のプログラムが仕込まれたものが含まれており、それがヴェサリウスの死角となっていた左舷側に多数着弾したのだった。

 

 帰投中のミゲルからの通信を受け、状況を見ていたクルーゼは潮時だと判断した。

「アデス、撤退だ。これ以上は持たん」

『はっ。了解しました』

 

「今よ、畳みかけなさい!」

 機動がとれなくなったヴェサリウスに、砲撃が集中する。

 それでも致命傷には至らなかった様子で、ヴェサリウスは後退しながら撤退信号弾を撃ちあげた。

 

「撤退ですか……」

 信じられないといった様子でナタルがつぶやく。

 

「そのようね。

 戦闘は終了。直ちに艦載機の収容を。生存者の捜索にあたります」

 マリューがそう告げた。

 

* * *

 

 ヴェサリウスが打ち上げた撤退信号弾の赤い光は、交戦中のモビルスーツ隊にもはっきりと見えた。

 

『引くぞ、ディアッカ!』

『ああ、わかってるよ!』

 撤退の号令に従い、イザークのデュエルとディアッカのバスターが急速離脱していく。

 それを追う余力は、アグネスの青いジンには微塵も残されていなかった。

「はぁっ、はぁっ……!」

 肩で息をするアグネスの機体は、左腕を根元から吹き飛ばされていた。イザークの躊躇いに救われた面はあったものの、二機がかりの猛攻を凌ぎ切るには大きすぎる代償だった。

 

 直掩でニコルのブリッツと死闘を繰り広げていたルナマリアも同様だった。

「逃げた……助かった、の……?」

 赤いジンは左足を切断され、構えていたシールドも原型を留めないほどにひしゃげている。

 

 そして、ミゲルとクルーゼを相手取っていたエニルもまた、満身創痍だった。

 失われた左腕に加え、右足もシグーの猛攻によって半壊状態。機体各所からスパークが散り、いつ爆発してもおかしくない有様だ。

 

 キラの乗るストライクも限界だった。

 エネルギー切れを起こし、装甲がフェイズシフトダウンして鈍い灰色に染まっている。彼を抑え込んでいたイージスとジンハイマニューバも、母艦の撤退信号を受けて静かにその場を離れていった。

 

 激闘の代償として、アークエンジェルのモビルスーツ隊は文字通り満身創痍だった。

 全機が命からがら、アークエンジェルの格納庫へと帰投する。

 

* * *

 

「お前ら、よく生きて帰ってきたな……!」

 格納庫で機体の惨状を見たマードック曹長が息を呑む中、パイロットたちが次々とコクピットから降りてくる。

 極度の緊張から解放され、ルナマリアやアグネスがその場にへたり込む中、ストライクから降りてきたキラだけは様子が違った。

 

 キラの足取りは重く、その顔は絶望と自責に染まっていた。

 エニルに連れられてパイロット控室まで来たが、入り口には艦橋から降りてきたフレイの姿があった。

 彼女の顔を見た瞬間、キラの瞳から堰を切ったように涙が溢れ出した。

 

「フレイ……っ!」

 キラは力なく膝から崩れ落ち、床に手をついて泣きじゃくった。

「ごめん……ごめんっ! 僕がもっと早く、あそこに行けていれば……!

 君のお父さんを、守れなかった……!」

 子供のように慟哭するキラ。

 フレイはゆっくりと彼に近づくと、その場にしゃがみ込んだ。

 

<お父様……パパ……!>

 フレイの胸の奥では、肉親を失った悲しみが嵐のように吹き荒れていた。今すぐ声を上げて泣き叫びたい。

 だが、かつてこの絶望からキラを責め立て、利用し、共に心身を擦り減らして破滅へと向かってしまった己の過ちを、魂に深く刻み込んでいる。

 だからこそ、彼女はここで間違えない。

 

「……キラ」

 フレイは自身の悲鳴を必死に喉の奥に押し込め、震える腕で、泣き崩れるキラの背中を優しく抱きしめた。

「フレイ……?」

「あなたは悪くないわ……。私たちのために、パパのために、あんなに一生懸命戦ってくれたじゃない……」

 こぼれ落ちる自分の涙をキラに見せないよう、彼女はキラの肩に顔を埋めた。

「辛いのに、戦ってくれて……ありがとう、キラ」

 

 それは、かつて彼を追い詰め、歪めてしまった少女が出した、まったく違う結末へ向かうための答えだった。

 パイロット控室に響くキラの嗚咽を、フレイはただ静かに、力強く受け止めていた。

 

 

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