激戦の後の休息時間。
キラの私室のベッドはひどく乱れ、熱を帯びた二つの裸体が重なり合っていた。
一度目の行為を終え、微かな汗の匂いが漂う中、キラはエニルの柔らかな胸に触れ、エニルもまた、指先でキラの硬さを取り戻しつつある肉棒を優しく撫でていた。
微睡むようなピロートークの中、エニルはふと思い出したように口を開いた。
「ねぇ、フレイやラクスとしてたんだって?」
「えっ……!?」
唐突な問いに、キラの肩が跳ねる。
「別に責めたりはしないわよ。ただ……避妊はちゃんとしていたのか、気になってね」
「あ……いや……その……」
キラが気まずそうに目を泳がせ、「何も考えずにしていた」と正直に白状すると、エニルは呆れたように深く頭を抱えた。
「はぁ……あなたねぇ」
エニルはため息をつきながら身体を起こすと、自らのポーチから小さな錠剤のシートを取り出し、キラの手に押し付けた。
「手持ちの緊急避妊薬(アフターピル)よ。避妊具を使ってないなら、これからは事後にちゃんと相手に飲んでもらいなさい」
「……はい」
実務的でドライな説教に、キラはシュンとして頷く。だが、彼の中にはそれとは別の、どうしようもない自己嫌悪が渦巻いていた。
「あの、ラクスという人は……どうしてあんなに僕に接近してきたんだろう。僕も拒みきれないし……僕は、女の人なら誰でもいいのかな。この体のせいなんだろうか……」
思い詰めたようにこぼすキラに、エニルは内心で「一目惚れにしてはやりすぎだ」と思いつつも、思考を切り捨てるように言った。
「気にするだけ無駄よ。彼女はプラントにいて、私達は連合の本隊と合流しようとしている。どうせ当分は会えないのだから。もしまた会う時があれば、その時に話し合えばいいわ」
「……フレイも、なんです。くっつき方が異常というか、僕に全部を預けてこようとする。それに僕は……フレイの大切なお父さんを、守れなかったのに……」
「……そういう関係まで進んでいるのだから、ちゃんと話し合ってみるしかないわね。変な罪悪感でここで遠ざけると、余計に面倒なことになるわよ」
淡々と答えるエニルを、キラはじっと見つめていた。
<エニルさんは……怒らないのかな。嫌じゃないのかな>
二人の女性の話を出せば、少しは嫉妬めいた反応が返ってくるのではないか。
そんな淡い期待は、エニルの飄々とした態度の前に空回りしていた。
<若いんだし、フレイやラクスが彼の精神安定剤になるなら、任せてもいいか>
一方のエニルはといえば、完全に割り切った保護者のようなことを考えていた。
それを直接言うのもどうかと思い、エニルはキラの髪を撫でながら遠回しに告げる。
「まぁ、いいんじゃない? 避妊さえしっかりすれば。……ただ、本当に【彼女】ができたら私に言いなさいよ。その子に悪いからね」
「…………」
あくまで【恋人ではない】と線引きをするような大人の余裕を見せつけられ、キラは悲しそうに目を伏せた。
そこで、エニルの目の色が変わる。
「どうする? もう一回する?」
エニルはキラの耳元で甘く囁いた。
そう言われるや否や、キラが覆いかぶさるようにエニルを押し倒した。
「ふふふ、キラもやる気になったようね」
嬉しそうに微笑み、エニルは自らの身体にすがりつくキラを迎え入れる。
エニルはいつものようにゴムを自身のペニスに被せようとするが、キラの手によって止められた。
「エニスさん……あなたのすべてを受け止めたい。だから」
「いいわよ。あたしのすべてを、その体で受け止めなさい」
それはキラを貫くためでなく、エニルの迸りをキラにかけないためのものだったが、キラはエニルのそれを感じたかった。
そして、エニルはキラの侵入を感じると吐息を漏らす。
交互に攻め手を変えて二人は交わり合う。
* * *
その後、エニルは自室には戻らず、女性用の共同シャワールームへと向かった。
両性具有である下半身を巧みにタオルで隠しつつシャワーブースを使っていると、賑やかな足音と共に、アグネス、メイリン、ルナマリアの三人が入ってきた。
「あっ、エニスさん。お疲れ様ですー」
「お疲れ。三人とも無事でよかったよ」
和やかに言葉を交わす中、鼻の利くアグネスの動きがピタリと止まった。彼女はエニルの周囲に漂う空気を嗅ぐと、眉をひそめてメイリンの袖を引く。
「……ちょっと、メイリン」
「へ? なんですか?」
「エニスさんの匂い……キラと同じ……?」
「えっ……あ! うそ、本当だ……ってことは、まさか……!」
アグネスの小声の指摘に、メイリンもその【事後の特有の匂い】と【キラの匂い】に気づき、ボフッと顔を真っ赤にして口元を覆った。
「え? 何? 二人ともどうしたの?」
その横で、ルナマリアだけがきょとんとして首を傾げている。
「シャンプー変えたんですか、エニスさん? なんだかいい匂いがしますね!」
「あー……うん。ちょっとね」
無邪気なルナマリアの言葉に、エニルは苦笑いで誤魔化す。
<相変わらず、ルナはこういうのホント鈍いなぁ……>
アグネスとメイリンは顔を見合わせ、呆れたように心の中で同じツッコミを入れていた。
* * *
一方その頃、アークエンジェルとの激戦を終えたザフト軍クルーゼ隊もまた、手負いの獣のごとき惨状にあった。
左舷の機関部を被弾し、本来の推力が出せないナスカ級ヴェサリウス。
その艦尾からは太いワイヤーが伸ばされ、大破して航行不能に陥ったローラシア級ガモフを痛々しく曳航していた。
ヴェサリウスの艦橋では、クルーゼとアデスが重苦しい表情で被害状況を整理している。
「第八艦隊の先遣隊を沈めたとはいえ……高くついたな。ガモフは航行不能、本艦も中破だ」
「はっ。モビルスーツ隊の被害も甚大です。出撃させたジンは全機喪失。ミゲル機が中破し、レコア機も小破。他の鹵獲したG兵器も、予備パーツがない現状ではこれ以上の無理はさせられません」
アデスの渋い報告に、クルーゼは仮面の奥の瞳を細めた。
「あの【足つき】……思った以上にしぶとい。だが、このまま逃がすわけにもいかんな」
ガモフが航行不能となったことで、同艦の乗組員やモビルスーツパイロットたちは、シャトルで続々とヴェサリウスへと移乗してきていた。
混雑するヴェサリウスの通路で、一際目を引く二人の姿があった。
「アスラン! 無事でよかった……!」
「ニコルも、怪我がなくて何よりだ」
ガモフから移ってきたニコルが、再会するなりアスラン(兄)に抱きついていた。
赤服の胸元からは、本来の男の身体にはないはずの柔らかな膨らみがアスランの腕に押し付けられている。
ニコルもまた、キラたちと同じく【両性】の身体を持つコーディネーターであった。
上気した顔でアスランを見つめるニコルの瞳は、重すぎる愛情と情欲に濡れている。
アスラン(兄)はそんなニコルの重い愛情に少し引いているようにも見えたが、その甘い誘惑を拒絶することはできず、二人は完全に【男女の関係】にある恋人同士のように、指を絡ませ合ってアスランの個室へと消えていった。
「……相変わらず、あいつら熱いねぇ」
少し離れた場所でその様子を見ていたディアッカが、呆れたように肩をすくめる。
だが、その横で、さらに深い絶望の表情で頭を抱えている少女がいた。アスランの双子の妹であり、その内面にアスランの意識を宿しているレコア・ザラである。
<かつての記憶では、あいつはただの大人しい友人だったはずだぞ……!?
なんで今の俺は流されて寝てるんだ……!>
かつての自分とニコルの歪すぎる肉体関係を客観的に見せつけられ、レコア(中身アスラン)は凄まじい羞恥心と頭痛に苛まれていた。
「……おい、レコア。行くぞ」
「あ、ああ……」
イザークに声をかけられ、レコアは逃げるようにその場を後にした。
イザークとレコアが連れ立って私室へと入っていくのを見たディアッカは、「ん? あいつら、そういう関係だったのか……? へぇ……」と、意地悪な笑みを浮かべて邪推していた。
だが、当のイザークの部屋の中は、ディアッカが想像するような甘い空気とは程遠い、極めて深刻な重圧に包まれていた。
「……どういうことだ。
なぜ、ラクス・クラインがあの艦(アークエンジェル)に保護されず、その代わりに【アグネス・ギーベンラート】がいるんだ」
イザークは自身の得た情報を口に出しながら考える。
レコアも腕を組み、険しい表情を浮かべている。
「本来なら、ユニウスセブンの宙域で漂流していた彼女が、アークエンジェルに回収されるはずだったわ。私たちは、その後の【捕虜交換】を利用して足つきの内部情報を探るつもりだったのに……」
「ああ。だが実際にはラクス・クラインは現れず、代わりに敵モビルスーツにアグネス・ギーベンラートが乗っていた。……そして交戦中、奴は俺にこう言ったのだ。【総裁に聞いてください】とな」
レコアは眉間を揉み込みながら、通信越しに聞いたというその言葉を反芻する。
「……総裁。言うまでもなく、ラクスのことね」
「だが、今のラクス・クラインはまだその地位には就いていない」
イザークの冷静な指摘に、レコアは頷く。
「ええ。つまりその言葉自体がコンパス時代を指している。
彼女がわざわざあなたにその言葉を残したということは、彼女も私たちと同じ存在という証明よ」
「……俺達の知らないところで、すでに誰かが意図的に盤面をかき回しているということか」
イザークの静かな問いに、レコアは重々しく頷いた。
「だけど、その一人はこれで特定できたわ。ラクスよ」