ランドリールームに濡れたシーツを放り込んだエニルは、自身の汗も流してさっぱりしようと、女性用の共同シャワールームへと足を向けた。
通路を抜け、大きな鏡と洗面台が並ぶ脱衣所に入ると、見慣れた金髪の少女がタオルだけを首に引っ掛けて、奥のシャワーブースへ向かう後ろ姿を見つける。
<あの子……また手ぶらでシャワーに行こうとしてるわね>
エニルは小さくため息をついた。カガリには、軍の備え付けの安価な石鹸でカラスの行水のように雑に済ませる悪癖がある。
エニルはすぐさま踵を返すと、自分の部屋ではなく、カガリがあてがわれている個室へと迷いなく向かった。手慣れた様子で電子ロックを解除して当然のように侵入すると、カガリの私物の中からタキリで持ち込んだ最高級のバスセットを引っ張り出し、小脇に抱えて再びシャワー室へと突撃した。
「ちょっとカガリ。また適当に済ませるつもりだったでしょう」
「うわっ!? エニル、お前急に入ってくんなよ! ……って、それ私の荷物に入ってたやつ!? なんでお前が持ってんだよ!」
シャワーブースの扉を開けて乱入してきたエニルに、カガリが素っ頓狂な声を上げる。
足首の高さから胸の下までを覆う半透明の樹脂製扉が閉まると、外からは二人の頭部と足元だけが見える状態になる。大人二人が入るには十分な広さがあるとはいえ、逃げ場のない密室であることに変わりはない。
「取ってきたのよ。また安い石鹸で、カガリの肌と髪を台無しにする気だったでしょう」
「部屋のロックかけたはずだぞ!? お前、人の部屋に勝手に……っ!」
「ダメよ。カガリには、常に最高のものを使わせるって決めているの」
文句を言うカガリの抵抗をあっさりと封じ、エニルは狭いブース内でカガリの背後にぴったりと密着した。
豊かな泡立ちと、上品で甘い花の香りがブース内に充満する。
まずは髪だ。
エニルはカガリの黄金色の髪を適温のシャワーで丁寧に湿らせると、最高級のシャンプーをたっぷりと泡立て、優しく頭皮をマッサージするように洗い始めた。
「ちょっ、おまっ、目に入る!」
「暴れるからよ。大人しくしてれば極楽気分を味わわせてあげるわ」
エニルの滑らかで絶妙な力加減の指先に、最初こそ文句を言っていたカガリも次第に反抗をやめ、されるがままに目を細めていく。
<はぁ……濡れてしっとりした金糸もたまらないわね。指通りも最高……>
内心で変態的な歓喜の声を上げながら、エニルは至福の感触をたっぷりと堪能していた。
髪を洗い流し終えると、次は身体だ。エニルはスポンジを使わず、自らの両手でカガリの素肌を洗い始める。首筋から肩、華奢な背中、そして女性らしい丸みを帯びてきた胸元まで、一切の手抜きなく隅々まで磨き上げていく。
「ひゃっ……ちょ、そこは自分で洗えるってば!」
「じっとしてなさい。洗い残しがあったらどうするのよ」
なおも暴れて逃れようとするカガリを押さえ込んだ、その時だった。
カガリの柔らかな臀部が、エニルの下腹部にゴツンと当たった。
「…………え?」
シャワーの温水と、愛しいカガリの素肌に密着しているという状況に当てられ、エニルの肉槍は、密かに、しかし立派に熱を持って主張し始めていたのだ。
背中に当たる硬く熱い感触の正体に気づいたカガリは、数秒のフリーズの後、首まで真っ赤にしてバタバタと暴れ出した。
「お前っ! こんなところで何昂ぶらせてんだよバカッ!」
「あら、健康な証拠じゃない。ほら、動くと余計に当たっちゃうわよ?」
「わざと当ててんだろ! もういい、出ろ! あとは自分でやる!」
茹でダコのように真っ赤になって抗議するカガリを連れ、エニルは満足げな笑みを浮かべて脱衣所へと出た。
腰を下ろす椅子のない無機質な空間で、エニルは大きな鏡の前にカガリを立たせたまま、手早く自身の身体を拭き上げ、ドライヤーを起動した。
「ほら、じっとしてて」
「だから、自分で……っ」
シャンプーの時と同様、文句を言いかけたカガリだが、エニルの絶妙な力加減の頭皮マッサージと、温かく心地よいドライヤーの風に、次第に反抗する言葉を失っていく。最高級のヘアオイルが馴染ませられ、黄金色の髪が大きな鏡の前でサラサラと輝きを取り戻していく。
結局、カガリは目を細め、立ったままされるがままに身を委ねてしまっていた。
「はい、おしまい。次はこれよ」
髪を乾かし終えたエニルは、間髪入れずにボディミルクのボトルを手に取った。
「んぁ……? もういいだろ、服着る」
「乾燥する艦内を舐めちゃダメよ。腕を上げて」
タオル一枚のカガリに対し、エニルは慣れた手つきで全身にボディミルクを塗り込み、そのまま流れるような動作でカガリの肌着を手に取った。
「ほら、右腕通して。背中のシワ寄ってるわよ」
「子供じゃないんだから、着替えくらい……!」
「湯冷めして風邪でも引いたらどうするの。はい、次はズボン」
口うるさい母親か、あるいは完璧なメイドか。
シャワーブースではあんなに密着して下半身を押し付けてきた変態的とも言えるエニルが、着替えの段になると一転して、極めて実務的で甲斐甲斐しい保護者の顔になっている。
そのあまりのギャップに、カガリは呆れ果てたように大きく息を吐いた。
「……お前、本当に何なんだよ」
「あなたの優秀な専属護衛よ。さ、完璧に可愛くなったわ。食堂に行きましょうか」
エニルは何食わぬ顔で微笑むと、良い匂いを漂わせる不機嫌なカガリの背中を、ぽんと軽く叩いて歩き出した。