※この作品はR-18です。

ガンダムSEED Return:A   作:触手スライム

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5話

『――【ヘリオポリス】全土にレベル8の避難命令が発令されました。住民はすみやかに最寄りの避難シェルターに……』

 政府広報のアナウンスが、ガランとした街に響き渡っている。

 

 アスランは奪取したモビルスーツに、レコアと共に乗り込み、爆発する【モルゲンレーテ】をあとにした。

 その後を追うように、奪いそこねた最後の一機が飛び出してくる。

 

 ――キラ・ヤマト……。

 

 別れた日に見た幼馴染の、今にも泣き出しそうな顔がアスランの脳裏をよぎる。

 悩み頭を振るアスランの傍で、レコアも考えに耽っていた。

 

<カガリは? カガリはどこに行ったんだ!?>

<うるさいわね、幼馴染の可愛いキラの方が大事でしょう!?>

 レコアの中にいるアスランとレコアが言い合いをしていた。

 

 残されたパーツや製造工場を破壊していた【ジン】から、通信が入った。

『よくやった、アスラン! ……ん? レコアも同乗しているのか』

 モニターに映ったのはミゲル・アイマンだ。

 アスランは辛そうに応答した。

 

「ラスティは失敗だ! 向こうの機体には地球軍の士官が乗っている!」

『なに!? ラスティは?』

 アスランは唇を噛み締め、首を振った。

 モニターの中で、ミゲルの顔がカッと激昂する。

『なら、あの機体は俺が捕獲する! おまえは先に離脱しろ!』

 

 着地したとたん、機体が大きく傾く。コクピットにいるマリューは懸命にあちこちのレバーやスロットルを調整している。それでもモビルスーツの動きはぎこちない。

 

<ああ……どうしよう。

 キラくんにOS書き換えてもらうには、ある程度戦闘しないとだめかしら?>

 自分の膝の上にキラを置いたが、OSの件もあるが彼女が操縦するならむしろ邪魔だったかとマリューは考え始めていた。

 

 モニターにはライブカメラを通した映像が刻々と映し出されている。

 キラはそれを見て唖然とした。通いなれた道筋、日常の風景が、見るも無残に破壊されていた。

 街路には瓦礫が散らばり、消火システムが追いつかないのか、あちこちから黒煙が上がっている。

 画面の隅に動く人影を見て、キラはさらにぎょっとして身を乗り出す。

「サイ!? トール……ミリアリア! ……フレイ!」

 瓦礫の間を縫うように走っていたのは、ゼミの仲間たちだ。

 彼らも退避シェルターを見つけられなかったのか。

 そのとき、【ジン】が【MMI-M8A3 76mm重突撃機銃】を発砲し、放たれた76mm弾が足元にクレーターを穿つ。

 やっとバランスを保っていた機体が、再び大きく揺らいだ。

 その揺れで、キラの後頭部がマリューの胸に沈み込んだ。

「す、すみませんっ」

「……いいのよ」

 

 キラがモニターに視線を戻すと、【重斬刀】を振りかぶってモニター一杯に迫るジンの姿が目に入り、思わず悲鳴を上げる。

 重斬刀が頭上に振り下ろされそうというとき、鋼の色だった装甲が瞬くように色づいた。

 

 ――やられる!

 

 息を飲んだキラの目の前で、ジンの動きが止まった。

 衝撃と共に、彼らのモビルスーツは白い両腕でジンの重斬刀を受け止めていた。

「なに……!?」

 事態がわからないキラに、マリューは言った。

「大丈夫。ジンの重斬刀なんて、この【ストライク】には通用しないわ」

「――ストライク……?」

 マリューがさっき操作したのは、フェイズシフト・システムのスイッチだった。

 フェイズシフト――位相転移システムは、以前から理論的には開発されていた。

 だが、兵器にそれを応用したのは、このXナンバーがはじめてだ。

 一定の電流を流すと、位相転移が起こり、装甲が硬質化して、ミサイルなどの実体弾をはじめ、あらゆる物理攻撃を無効化する強度を持つようになる。

 今、ストライクの装甲は、本来のメタリックグレイから、胸部と腹部が鮮やかな青と赤、四肢は輝くような白に変化していた。

 

 ジンの背後に立つ奪取された機体が、やはりフェイズシフト・システムをオンにしたのだろう。暗い灰色の殻を脱ぎ捨てるように、鮮やかな赤に色を変え、飛び立った。

 

「まだ、バッテリーが残ってたか……」

 マリューは悔しそうに呟く。

 

 再びジンが迫る。

 マリューはトリガーボタンを押した。ストライクの頭部にマウントされたバルカンが、75mm弾をばら撒いたが、まるきり当たらない。

 この時、キラは気づいた。

 

 ――この機体……もしかして……!?

 

 一撃をくらって、ストライクはよろめき、背後の建物にめり込むようにして止まる。

 ジンは続けざまに、コクピットめがけて重斬刀を振り下ろしてきた。

 マリューが、その一撃を避けようと、懸命にペダルとレバーを操る。

 その時、キラはモニターの中を見た。

 瓦礫に隠れるようにしていたトールたちの姿を。モビルスーツの巨大な足がぎくしゃくと動き、彼らのほうに向かう。

 ミリアリアやフレイが悲鳴を上げ、トールとサイがその肩を抱えて走ろうとする。

 キラは、飛びつくように計器を操作し、マリューの手を押しのける。

 そして目の前に迫ってくる重斬刀を睨みつけ、レバーを引いた。

 くっと身を沈めた機体が、ジンの重斬刀をかいくぐり、そのまま体当たりをする。

 ミリアリアやフレイの様子をキラがモニターの隅で確認するとほっと息をつく。

 

「まだ人がいるんです! こんなものに乗っているんなら、何とかしてくださいよ!」

 マリューにそう叫ぶと、キラは目もやらず、計器をチェックしていく。

 

「……無茶苦茶だよ! こんなお粗末なOSでこれだけの機体、動かそうなんて!」

「ま、まだすべて終わってないのよ」

「……操縦、代わります」

「ええ、わかったわ」

 倒れたジンが立ち上がり、再び向かってくるのをキラが見つめ、シートの横からプログラムキーボードを出すや、すさまじい勢いで叩き始める。

 プログラム画面を睨みつつ、目の隅では正面のジンをとらえ、同時に到達予想時間と処理作業に要するプロセスを頭の中で秤にかけている。

 

「――キャリブレーション取りつつゼロ・モーメント・ポイントおよびCPGを再設定……だめっ! なら疑似皮質の分子イオンポンプに制御モジュールを直結……」

 ぶつぶつ呟き、間に悪態を差し挟みつつ、キラは猛然とモビルスーツのOSを書き換えていく。

 その間にもジンの重斬刀が迫る。

 キラはぱっと顔を上げ、片手でトリガーとレバーを操作した。

 バルカンが発射され、今度は当たる。そしておしのけるようにジンの腕を跳ね返した。

 

「――ニューラルリンケージ・ネットワーク再構築――メタ運動野パラメータ更新、フィードフォワード制御再起動、伝達関数――コリオリ偏差修正――運動ルーチン接続、システム、オンライン、ブーストラップ起動……!」

 再び重突撃機銃を構えるジンの動きを見て、キラはペダルを踏み込んだ。

 それに即座に反応し、ストライクは高くジャンプする。

 さっきまでの稚拙な動きが嘘のようだ。ジンが後を追って飛んだ。

 キラは人や施設の少なそうな鉱山部を目指しながら、スペックを呼び出す。

 

「ほかに武器……あとは【アーマーシュナイダー】……?」

 モニターに機体図が表示され、頭部バルカンのほかに、腰部に収納されたアサルトナイフが点滅する。キラは焦燥に唇を噛んだ。

「――これだけ!?」

 ボタンを押すと、機体の両腰から巨大なナイフが射出される。

 それを掴み重突撃機銃を発射しながら追いすがってくるジンに向かって飛び掛かった。

「こんなところで……」

 射線を縫うようにかいくぐり、一瞬にしてストライクはジンに迫った。

 

「やめてぇぇっ!」

 キラの操る機体の運動性に、避ける間もなく、アーマーシュナイダーの切っ先がジンの首のジョイント部に突きたてられた。

 電気系統が火を吹く。ジンは動きを止め、バランスを崩して斜面に倒れこんだ。

 

 一部始終を見ていたマリューは、キラを見た。

<キラ君をまた戦場に連れ出してしまった。

 ……せめて、私にできることはなんでもするわ>

 マリューは興奮しているキラを後ろから抱きしめていた。

 

 

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