※この作品はR-18です。

ガンダムSEED Return:A   作:触手スライム

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65話

 C.E. 71年 2月22日。

 照りつける太陽の下、アフリカ北部の砂漠地帯を進行していたアークエンジェルの艦橋に、鋭いアラートが鳴り響いた。

 

「レーダーに熱源反応! 急速に本艦へ接近中。バクゥ三、戦闘ヘリ六です!」

 カズイの報告とほぼ同時、メインモニターに映し出された砂丘の向こうで、上空の戦闘ヘリから赤い信号弾が打ち上げられた。

 アークエンジェルを発見し、周囲へ位置を知らせる狼煙だ。

 

「総員第一戦闘配置!

 イーゲルシュテルン起動、ウォンバット、コリントス装填、対空迎撃急げ!

 エニス機、アグネス機、ルナマリア機、直ちに出撃!」

 マリューから矢継ぎ早に指示が飛び出す。

 臨戦待機シフトについていたエニルと、通常待機として控えていたアグネス、ルナマリアたちへ即座に出撃命令が下る。

 

「エニス機、アグネス機、ルナマリア機、発進スクランブル。直ちに出撃してください」

 メイリンがマリューの指示に従い、コンソールを素早く叩きながらパイロット達に緊急出撃を伝えるアナウンスを行う。

 同時に、アークエンジェルの左右のリニアカタパルトが待機状態から射出モードへと移行し、格納庫内のハッチが開いていく。

 

『こちらエニス。ザウート改、発進準備完了』

 通信越しにも伝わってくる、落ち着き払ったエニルの声。

「エニス機、右舷カタパルトへ。進路クリア……発進どうぞ!」

 メイリンのコールと共に、右舷から紫色の重モビルスーツが砂漠へと撃ち出される。

 

『アグネスよ。準備完了。いつでも行けるわ』

 新人らしからぬ、自信に満ちたエースの片鱗を覗かせるアグネスの声。

「アグネス機、左舷カタパルト。……発進どうぞ!」

 左舷からは、アグネスの搭乗するジンが鋭く射出されていく。

 

『ルナマリア。発進準備完了よ!』

 親友の余裕に負けじと声を張る、気負いと緊張が入り混じったルナマリアの声が続く。

「ルナマリア機、右舷カタパルト。……発進どうぞ!」

 エニル機が射出されたばかりの右舷カタパルトに素早くセットされ、ルナマリアのジンも空に向かって撃ち出された。

 

 アークエンジェルの左右のカタパルトから、三機のモビルスーツが息つく暇もなく交互に戦場へと放たれていく。

 その射出シークエンスを見届けながら、マリューは矢継ぎ早に次の指示を飛ばす。

 

「ストライクとスカイグラスパーも、発進準備が整い次第出撃させて!」

「ストライク、スカイグラスパー、発進スクランブル。直ちに発進してください!」

 マリューの指示に、メイリンは再び艦内放送でスクランブルを知らせ、格納庫のマードックたちへ急ぎの準備を促した。

 

 休息中だったナタルが艦橋に入ってくると、素早くCICの席についた。

 

「副長、敵の戦闘ヘリが本艦を捕捉し、信号弾を打ち上げたわ。

 おそらく捜索部隊でしょうけど、増援が来る可能性がある。

 戦闘終了後は速やかに艦を移動させるから、周囲への警戒に留意して」

「了解です、艦長」

 マリューの言葉にナタルが短く応じると、彼女は即座にコンソールへと向き直り、接近する戦闘ヘリとモビルスーツへの対処を開始した。

 

* * *

 

 格納庫からカタパルトに出たエニルのザウート改は、すでに発艦態勢に入っていた。

『エニス機、発進どうぞ!』

「エニス・エル、ザウート改、出る!」

 メイリンのコールを受け、エニルを乗せた紫色のザウート改がリニアカタパルトから砂漠へと射出される。

 着地と同時に脚部のMMI-M729エンジンとスラスターを吹かし、人型のまま巨体をホバーで滑走させた。

 直後にアグネスとルナマリアのジンも砂漠へと降り立ち、エニル機の左右で素早く編隊を組む。

 

『敵部隊、来ます!』

 ルナマリアの緊迫した通信の直後、砂丘の向こうから土煙を上げて四足歩行のモビルスーツ――バクゥ三機が姿を現した。

 上空からは先ほど信号弾を上げた戦闘ヘリ部隊が展開し、ミサイルを放ってくる。

 

「各砲座、迎撃開始!」

 艦橋のナタルの号令と共に、アークエンジェルから自動近接防御火器イーゲルシュテルンと対空ミサイルヘルダートの弾幕が放たれ、上空から迫るミサイルの群れを次々と叩き落としていく。

 

 一方、迎え撃つバクゥのパイロット達は混乱していた。

『なんだ! ザウート!?』

『落ち着け、ザウートならば数に入らない』

『ばか、あの加速を見ろ! 俺たちのバクゥ並みだぞ!』

 正面から見たザウート改は、増設された背部のバックパックがシルエットに隠れて見えない。

 そのため敵兵たちは、眼前から迫る機体を「砂煙を上げながら異常な高機動で動く、ただのザウート」と誤認して判断が遅れ、結果としてエニル達の容易な接近を許してしまう。

 

「アグネスは前衛でバクゥを抑えて! ルナマリアとあたしは後方から火力支援に回る!」

『了解!』

 エニルの指示に答え、アグネスのジンが砂塵を巻き上げながら前へ出る。

 エニルが人型のままホバー機動で追従し、三機のバクゥ全体の動きを制限するように左腕の副砲で牽制射撃を浴びせる中、アグネスは放たれたミサイルをシールドで受け止めながら突進し、強引に距離を詰めて重突撃機銃を放った。

 無駄な回避行動をとらず、最短距離で敵の脚部関節を狙い撃つ動きに迷いはなかった。

 

 その被弾したバクゥを助けようと、別の機体がアグネスの機体へ突っ込んでくる。

 

『遅い遅い! そんな単調な動きじゃ、私には当てられないわよ!』

 アグネスはバクゥの懐に潜り込み、重斬刀を抜いて牽制し、敵を特定の方向へと強引に追い立てていく。

 

『アグネス、突っ込みすぎ! 射線が被るわよ!』

 ルナマリアのジンは後方から支援するが、彼女の射撃は決して正確とは言えなかった。

 しかし、彼女は自らの弱点を補うかのように重突撃機銃のトリガーを引き続け、力任せに弾幕を張る。

「ええい、当たってよっ!」

 狙いは大雑把だが、弾の消費をいとわない強引な面制圧が、アグネスの死角を突こうとした残る一機のバクゥの足を止め、逃げ道を塞いでいた。

 

 そこへ、後れてアークエンジェルから射出されたストライクとスカイグラスパーが戦列に加わる。

『エニスさん、僕も前衛に出ます!』

「お願い、キラ!」

 

 ストライクとアグネスのジンが前衛で荒らし回り、ルナマリアのジンが荒削りな弾幕でその後方をカバーする。

 コクピットから戦況を分析していたエニルは、三機の動きを見て小さく息を吐いた。

 

<急遽、編成を変えたけどなんとかなっているわね。

 それにしても、キラもアグネスも連携が巧すぎるわ>

 エニルは内心、急造のフォーメーションで彼らを前衛に置くことに多少の懸念を抱いていたが、実戦での見事な立ち回りに安堵の息を漏らした。

 キラの無駄のない位置取り、アグネスの果敢な攻め、ルナマリアの気迫の支援。

 荒削りながらも噛み合った三機の連携によって、バクゥは完全に足止めされ、「封じ込められて」いた。

 

「……前衛が二機になったなら、あたしの仕事は一つね!」

 エニルは思考を切り替え、ホバー走行のままザウート改をタンク形態へと変形させる。

 機体を滑らせて砂丘を登り、低くなったシルエットを活かして前衛の機体を巻き込まない射線が通る位置へと陣取った。

 昨日の試験で確認した通り、主砲はホバー状態での連射ができない。

 ならば、足を止めて確実な一撃で仕留めるだけだ。

 

「そこっ!」

 タンク形態の低い重心で機体を一瞬だけ完全に安定させ、両肩の二連キャノン砲を斉射する。

 放たれた砲弾は真っ直ぐに空気を切り裂き、足の止まっていたバクゥの二機に直撃、爆散させた。

『命中! やりましたね、エニスさん!』

 通信越しにアグネスの弾んだ声が聞こえる。

 

「喜ぶのはまだ早いわよ。まだバクゥは残っているでしょう!」

 エニルがそう言った直後、残る一機のバクゥがストライクに向かって突進するのを確認すると、彼女はすぐさま副砲で支援射撃を行う。

 あわせて、ルナマリアが重突撃機銃で分厚い牽制射撃を浴びせると、動きを止められたバクゥへ、自由になったキラとアグネスがビームサーベルと重斬刀で斬りかかり、これを完全に撃破した。

 

「次は上空のヘリ部隊を落とすわ」

 エニルは即座に機体を滑らせ、アークエンジェルの弾幕を掻いくぐって本艦に狙いを定めていた戦闘ヘリ部隊へと砲門を向ける。

 左腕の二連副砲と、右手に構えたショートバレル重突撃機銃のトリガーを引く。

 反動の少ない武装による濃密な弾幕が、対空砲火として上空へばらまかれた。

 

「近づかせるもんですか……!」

 牽制と破壊を織り交ぜたエニルの対空射撃に、スカイグラスパーのムウ、そしてルナマリアのジンの援護射撃が重なる。

 

『上空への警戒が甘いわよ!』

 ルナマリアは空へ銃口を向けて連射するが、弾道はヘリの周囲を大きく逸れていく。

『もうっ、なんで当たらないのよ!』

 だが、その大量のばらまきが面制圧の牽制となり、戦闘ヘリの編隊を乱すには十分だった。

 陣形が崩れたところを、ムウのスカイグラスパーとエニルの的確な砲火が次々と捉える。

 逃げる隙すら与えられず、戦闘ヘリはすべて空中で火を噴き、黒煙を引いて砂漠へと墜落していった。

 

 ザウート改を帰投のために再び人型へと変形させたエニルは、モニター越しに燃え上がる敵機の残骸を見つめながら小さく肩をすくめた。

<火力支援機としての立ち回り……悪くないわね>

 エニルはやれやれと内心でため息をつきつつ、初陣を飾った紫の機体の操縦桿を撫でた。

 

 

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