マリューとナタルが視線を交わすなか、ムウが切り出す。
「乗艦許可をもらいたいんだが。俺の乗ってきた船は、ザフトに落とされちまってね。
……この艦の責任者は?」
重い口調でそれに答えたのはナタルだった。
「艦長はじめ、主だった士官はみな戦死されました。――よってラミアス大尉がその任にあるかと思います」
「……」
マリューはナタルを正面から見る。
横からムウが、そっと尋ねた。
「……俺は、例のXナンバーのパイロットになるひよっこ達の護衛できたんだがね。
連中は……?」
ナタルが沈痛な面持ちで首を振ると、軽薄そうだったムウの横顔が、一瞬重々しく引き締められる。
「そうか。……あと、あの連中は?」
ムウがそう言いながら視線を向けたのは、シャトルとジンだった。
「詳細は後で説明しますが、あのシャトルにいるのは民間人で、ジンのパイロットはその護衛を依頼された傭兵とのことです」
「へー、傭兵ねぇ」
マリューの説明にムウは目を細める。
「――まあ、いいや。じゃあ、乗艦許可を貰える?
俺の機体は収容して貰っているけど休みたいんでね」
「えっ? ……はい、乗艦を許可します」
ムウは軽く言って、マリューからの許可をもらうとアークエンジェルの中に消えていった。
「あんなだったかしら?」
マリューがそう呟くと、訝し気にしていたナタルも頷いていた。
「艦長、物資の積み込みと彼らの乗艦許可もだしませんと」
すぐに切り替えたナタルがマリューにそう促した。
「そうね。カガリさんを呼んで、あのパイロットにも手伝ってもらいましょう。
シャトルはアークエンジェルに移動させて」
マリューの指示に従い、ナタルについて来ていた作業服姿の男達が動き始める。
シャトルにナタルが向かうと、カガリがジンに合図を送る。
カガリ自身はナタルと共に戻って来た。
その後ろで、ジンから紫色のパイロットスーツを着たエニルが降りていた。
「カガリ・ユラだ。また、よろしく頼む。
……見たところ二人は戻ってきたんだよな?」
カガリは後半の言葉を二人にしか聞こえないように絞りながら、マリューに手を差し出す。
「また、よろしくね。
……あなたが味方で本当に心強いわ」
マリューはカガリの手を握りながら返す。
その後、カガリはナタルとも握手する。
「モルゲンレーテの内部情報は渡す。
あとアスハ邸の地下にもジンとモビルスーツの装備がある。
ジンのパイロットは私の護衛をしている傭兵だ。使ってくれ」
カガリが言い終えるあたりで、ヘルメットを脱いだエニルがマリューとナタルに合流する。
「紹介があったようだけど、傭兵の【エニス・エル】よ。……身分証はこれ」
そう言って、エニルは偽名の記されたジャンク屋組合の身分証をナタルに渡す。
ナタルはそれを一瞥すると、マリューに頷く。
「確かにジャンク屋組合に所属する傭兵のようです」
「艦長代理のマリュー・ラミアスです。
早速だけど、ザフトの再攻撃がいつ来るかわからない状態です。
あなたの雇い主には許可を得ているので、物資の搬入を手伝って貰えますか?」
マリューの言葉に、エニルがカガリを見る。
「問答しているだけ無駄なんだから、さっさと動けよ」
「はぁ、……言いたいことは山ほどあるのですが、了解しました。
……先に識別コードを渡したいのですが、通信先を教えてもらえますか?」
カガリの言葉に、苛立ったあと大きく息を吐いたエニルは、そう言った。
「それなら私が対応します。
それと搬入についてはストライクと共同で当たってもらいます」
「ストライク?」
エニルの問いかけにナタルが反応すると、知らない名前にエニルが首を傾げる。
「あのモビルスーツです」
ナタルが指さした先には、青と白の色が目立つモビルスーツがいた。
* * *
ヘリオポリスのコロニーの外では、ザフト軍のナスカ級【ヴェサリウス】とローラシア級【ガモフ】の二隻の戦闘艦が再攻撃を行おうとしていたが、遅れていた。
それぞれの艦橋で、コロニー内への再攻撃に異論を唱えるものが出て対応に苦慮していた。
「オーブは中立国で交戦をまだしていません。
確かに連合の兵器開発を行っていましたが、今回の襲撃で十分でしょう。
D装備でコロニー内の戦闘が行われた場合、コロニーそのものが破壊される事が考えられます。
そうなったとき、ユニウスセブンの悲劇を知る我々の大義はどうなるのですか!
事前通告なしでコロニー内の民間人にまで被害を出すのですよ」
自らの操る機体シグーの推進器に被弾し、帰還した白服のラウ・ル・クルーゼを待っていたのは、レコア・ザラの言葉だった。
さらに、ガモフの艦橋からもイザーク・ジュールが同様の事を言ってきており、クルーゼは内心で頭を抱えていた。
「隊長、二人の懸念はもっともです。
今回の件は評議会の承認も得ていませんし、コロニー内への再攻撃をやめて待ち伏せによる襲撃にしてはいかがでしょうか?」
ヴェサリウスの艦橋に座る黒服のアデスは、クルーゼにそう進言する。
<まあ、正直どうでもいいのだが、ここは攻めると面白くなりそうなのだよ>
クルーゼは内心でほくそ笑むと告げた。
「……避難する時間があればいいのだろう?
再攻撃の時間を遅らせよう。
……それとレコアはジンで、イザークも奪ったモビルスーツで参加するように」
その言葉に、レコア、イザークは絶句する。
アデスは目を瞑り、頭を振った。
* * *
アークエンジェルの格納庫には、次々と物資が運びこまれていた。
アスハ邸の地下にあったジンや装備品、モルゲンレーテに残されていた装備。
ただ、食料と水の補給は思うように進んでいなかった。
そんな中、ジンとストライクは休息と補給のために駐機された。
中からパイロットが出てくる。
「キラ、大丈夫か?」
先にジンから降りていたエニルがキラの肩に手を回す。
「ええ、なんとか」
キラはエニルに苦笑いで返す。
「コーディネイターでも訓練しないときついんだからね。
無理だったらいいなよ」
「はい」
エニルの言葉にキラが返したところで、横から声が聞こえる。
「二人ともコーディネイターだろ?」
ムウの無遠慮な言葉に、搬入作業をしていた連合兵や整備員の空気が変わる。
腰の銃を抜いた兵士の銃口が二人に向けられる。
「っ……!」
秘密を見透かされたような恐怖に、キラはビクッと肩を震わせて身をすくめた。
「だったら何!」
キラを隠すようにエニルがすかさず前に出ると、腰にある銃に手をかける。
その双眸は、怯える同類を守る盾として、鋭い殺気を放っていた。
「いや、悪かったな。そう怒らないでくれよ。
とんだ騒ぎになっちまって」
ムウがそう言って両手を上げたところで、ナタルが駆けよってくる。
「何事です!?」
「いや、おれはさ、ただ聞きたかっただけなんだ。
――ここに来るまでの道中、ストライクのパイロットになるはずだった連中のシミュレーションを結構みてきたからさ。
やつらノロクサ動かすにも四苦八苦してたんだぜ」
ムウはちょっと肩をすくめると踵を返した。
「――それをいきなり、あんな簡単に動かしてくれちまうんだからさ」
ムウが去った後、ナタルは周囲を見渡した。
「……銃を下ろしなさい。
ここは中立国オーブだ。当然コーディネイターも生活している。
それに彼女は国際的に身分保障された傭兵だ」
ナタルが二人に歩み寄り周囲に武装を下ろすように命令する。
周囲の兵士はそれを受けて武器を下ろすも、警戒態勢を解くことはなかった。
マリューが騒ぎを聞きつけて来るまで、この緊張状態が続いた。