C.E. 71年 1月25日 午後5時30分。
ヘリオポリスにザフトの襲撃が始まって4時間余りが経過した。
本来コロニーのミラーが光の反射率を変えて、コロニー内に夜が訪れるはずであるが、コロニーはそれを忘れた様に昼間の状態を保っていた。
アークエンジェルでは、休息と補給を終えたストライクとジンが物資の積み込みを行っており、エニルの搭乗するジンは、パーソナルカラーの紫色に簡易塗装がなされていた。
そんな中、警戒態勢を解いていない艦橋にはムウが詰め、艦長室にマリュー、ナタル、カガリが集まっていた。
「あまり時間は取れないけど、現状と今後のことを話し合いましょう」
マリューがそう切り出すと、二人は頷いた。
「そうだな。未来の記憶を持っていそうな相手でわたしが把握できているのは、この場にいるラミアス艦長、バジルール副長、あとはフレイ・アルスターだな。
いや、ザフト兵にわたしを知っている奴がいたのだが、顔が見えなくて」
カガリは記憶を辿りながら言葉にする。
「いえ、マードック軍曹も私達とおなじよ。
今は格納庫が忙しいから呼び出せないけど……。
ザフト兵については、対峙していた私にもわからないけど、アスラン君は違うみたいね」
「自分も同じ認識です。
未来の記憶、あるいは未来から過去への帰還者と呼べばいいのでしょうが、お二人はどこまでの記憶がありますか?
――わたしは、ドミニオンでアークエンジェルと戦闘になり、ローエングリンを受けたところまでです」
ナタルの言葉に、マリューが瞳を潤ませる。
「私はそのあと、C.E. 75年までね。
アークエンジェルがユーラシアから核攻撃を受けて沈んだ後、コンパス――オーブ、大西洋連邦、プラントで作った平和維持組織なんだけど、その中で惑星強襲揚陸艦ミレニアムを強奪してアコードとの戦いに挑んで、戦闘を終わらせたはずだったんだけど……」
「そうだな。わたしはオーブの代表首長になって、一連の事件の後に海岸にいたはずだったんだが」
マリューとカガリの話に、ナタルは目を見開く。
「核攻撃!? ……艦を強奪!?」
自分が死んだ後も、世界がそこまでの凄惨な戦乱を辿っていたという事実に、ナタルは息を呑み、場が鎮まる。
「――細かい話は後にしましょう、カガリさん。
エニス・エルというのはどういう人なの?」
マリューはその重い空気を切り替え、カガリに話を向ける。
「ああ、前回はいなかったんだけど、今回はいるんだよな。あいつ。
エニス・エルは偽名で、エニル・エルが本名だ。
オーブ宇宙軍所属の一尉で、わたしの護衛を務める特殊部隊所属、キサカの部下になる。
どうもヘリオポリスではモルゲンレーテのモビルスーツ研究のテストパイロットをしていたらしい」
カガリが記憶からエニルの情報を引き出しながら話す。
「前回と違い、正式な訓練を受けたモビルスーツパイロットとモビルスーツがあるのはありがたい」
ナタルが正直な気持ちを口にした。
「ヘリオポリスのこの後の事を考えると、やるせない気持ちになるけど、戦力が増えるのはありがたいわね。
それはそれとして、カガリさんはこの後のことを何か考えてあるのかしら。
正直、この時期の私達にはアークエンジェルとストライクだけだったから案があると助かるのだけど……」
「そうですね。
敵の再攻撃が遅れていますが、食料と水は思うように集まっていません。
可能ならどこかでちゃんとした補給を受けられると良いのですが……」
マリューの話を受けて、ナタルが同意し、内容を補足する。
「補給なら、オーブ宇宙軍が使っている無人補給施設を使うのはどうだ?
この時期でもデブリベルトに存在するし、ジャンク屋が整備しているから物資はあるはずだ。
……あっ、たしかラクスを拾うのもこの時期だったんじゃないか?
補給施設の場所は、私たちのシャトルからデータを吸い出せば大丈夫だろうけど、ラクスは拾わないとマズいだろう」
カガリが記憶を頼りに情報を話すが、後半になりラクス・クラインから聞いていた逸話を思い出し、そのことを尋ねた。
「あー、あったわね」
「ええ、あれは……確かに」
マリューとナタルは、ラクス・クラインをユニウスセブンの近くで救助したストライクとその後の顛末を思い出し、難しい顔をした。
「それと、実行できるかは別として、このあとにクルーゼ隊の再攻撃を受けた時に、できるだけ映像を残せないか?
戦後処理もだが、現時点でクルーゼ隊を引かせるために政治利用したい」
カガリの提案に、二人は目を見開く。
「わたしだって、ヘリオポリスを救えるのなら救いたいが、現状は難しいだろ。
だから、ザフトが攻撃する映像をとって、ヘリオポリスが崩壊した後、『ユニウスセブンのことがあるのに、無警告でコロニーを破壊した』とでも喧伝するよう、シャトルから情報発信させてプラントと月か地球の衛星軌道まで飛ばせば、プラント評議会は必ず動く。
ついでにアークエンジェルは救命活動をしていると救難ボートを収容する絵もあればいい。
そうすれば、クルーゼ隊の圧力は減るはずだ」
カガリの話を聞いて、マリューとナタルは顔を見合わせて考える。
「たしかに悪くないですね。
この際、あの厳しい追撃が緩和できるのなら」
「シャトルは収容できたものを使えば二艇ありますし、デブリに紛れて、あるいは船の進路を変える際に撃ちだすデコイに紛らわせてもいいですね」
マリューが好感触で何度か頷くと、ナタルもそれを補足する。
「ありがとうカガリさん。
船の進路については、補給可能地点を確認した後になるけど、少なくてもあのアルテミス要塞には行かなくて済みそうでありがたいわ。
……それと、キラ君のことなんだけど、女性の身体に男性のアレがついているのだけどどうしましょうか……」
「は!? キラ・ヤマトは女ではないのですか!?」
マリューの最後に付け足した言葉に、ナタルは驚愕の表情になる。
「ええ、キラ君が女の子になった様子だったからコクピットに一緒に入ったときちょっと触ったのよ。
そしたらアレがついていたの」
マリューの話に、ナタルは言葉を失う。
「この世界では、コーディネイターに両性具有……フタナリが存在するようなんだ。
おそらく二人も落ち着いて記憶を辿れば、知識だけは出てくると思うぞ」
カガリが複雑な表情で話す。
「随分と落ち着いていますね」
「いや、キラがフタナリだというのには驚いたが、エニルがフタナリだからな。
あいつのことを記憶から思い出しているときにその事は頭にあったから、耐性があっただけだ」
マリューの言葉に、苦笑いでカガリが返すと、マリューは難しい顔をする。
「エニルさんもですか……」
「先々、ラクスがどういう反応をするかも気になるが、とりあえずアークエンジェル内での部屋割りとか、シャワーなんかの各施設をどうするのかをエニルと決めた方がいいだろうな。
……キラと直接やり取りするよりも、エニルに任せたほうが同性だから話がまとまるんじゃないか?」
マリューの呟きにカガリが補足する。
「では、取り急ぎ部屋割りの見直しなどを行いますが、二人はパイロットです。
エニスはカガリの護衛という事ですしカガリとの同室か個室でも良いのですが、本人の意向を聞いたほうがいいですね。
施設利用について時間を決めて分けることは難しいでしょうし、見た目は女性ですから男性用を使わせるわけにもいかないので、そのあたりの調整から始めます。
諸問題については、艦長に対処をお願いします」
ナタルはそう言うと、時計を確認して艦長室を後にする。
「あの子、めんどくさくなって逃げたわね」
マリューは扉の向こうに消えたナタルを睨み、カガリはため息を吐いた。