第一夜『Ⅰfeels like 'EVEN IF'』 作:石花
「んぁっ……♡♡♡」
マシュマロのような柔らかさの膨らみに爪を立てる。
返って来たのは悲鳴ではなく嬌声だった。
「あっ、あへっ、あひ……」
黒髪に一束白のメッシュを入れた、堅物そうな風貌の美少女。
それが私の下で喘いでいる。
小柄な身長に、少々アンバランスな大きさの双丘。
強く傷を刻んだのは、己のものと比べてしまった嫉妬があったかもしれない。
しかしながら、これは趣味を兼ねているものの、絶対に必要な工程だった。
刻む。快楽を、傷を、己を。
それこそが私の生存戦略なのだから。
◇◇◇
罪を裁かれないためにはどうすべきか。
隠蔽する? なるほど、完全犯罪までいければアリだ。
どうにかして事故に巻き込む? うん、なかなかいい方向性だ。
しかし、どちらも既に犯した殺人には適用できない。
必要なのは、不可抗力で殺ってしまった場面からなんとかするための方法だ。
逃走する? 捜査の及ばないほど遠くに行けるかが勝負になるだろう。
いっそ罪の減刑を狙う? 反省の色を示す、あるいは狂気を捏造する、犯罪歴が付くのを厭わなければ一つの戦略かもしれない。
しかし、どちらも東都での生活を捨てなきゃいけないのが欠点だ。
必要なのは、罪が露見しても裁かれず、しかもこの街で生活を続けられる方法。
だいたい、今回私は被害者なのだ。
私が10年前に死んでるはずの殺人犯に似すぎているだなんて、そんな言いがかりをつけて付きまとわれたら殺すしかなくなっちゃうじゃないか。
だって私が、その殺人犯なんだから。事実陳列罪は万死に値するよ。
私の平穏な生活のためにも、そんな考えに辿り着くヒトには居なくなってもらわないと。
つまり、そう。罪を裁かれない方法とは、罪人が死ぬことだ。
死んだらどんな罪だってチャラ。
3人殺すと死罪だそうだが、1人殺した時点で死んでしまえばそれでOK。
死んで生まれ変わればいい、私の力――呪いの力なら、それができるのだから。
◇◇◇
「あ~~、あ~~♡ あ~~~~♡♡」
少女の目は既に焦点が定まっていない。
殺人のあと、その辺の繁華街でナンパした少女だ。
自慢じゃないが、私の美貌と話術にかかればノンケだろうとホテルに連れ込むくらいは容易い。
私の力は呪い。最も得意とするのは念写、刻み付けることだ。
例えば脳に快楽を刻み付ければ、こんな風にとろっとろにすることだってできる。
……この少女に、思ったより被虐趣味があったのは予想外だが。
なぜこんなことをしているか? 呪いには起点が必要だからだ。
ナンパの話術の好感を起点に好意を刻み付ける。
好意を起点に、愛撫を通して快楽を刻み付ける。
そして快楽を起点に、私自身を刻み付けるのだ。
「うー、いひぇひぇ♡ ほ……んの♡ ……ちぃ……♡♡♡」
かれこれ1時間ほどだろうか。頃合いだ。
それは呪いの持つ増殖という力を体現していた。
悦楽に堕した少女に、己を刻み付け、その胎から私を生ませる。
それが私の呪い。念写し刻み増殖する私の真骨頂だった。
「んん~~~~っっ♡♡♡」
少女の絶頂に合わせ、私自身を注ぎ、刻み付ける。
肉体の情報、精神の情報、そして記憶まで。
呪いは少女の胎で急速に増殖し、7日間もすれば這い出でるだろう。
息を荒げる少女は、焦点の合わない目のままに、不意にこちらへ顔を向けて言葉を発した。
「えへへ……♡ 次は……いつ会えますか……?」
「そうだな、一週間後くらいだと思うよ」
果たして一週間後。少女は森の中で私を生み落とした。
私は少女の乳を飲みながら一晩で成体となり、森を後にする。
少女の部屋で、私は少女の残した身分証や資産を確認していた。
このあたりの行動も、事前に少女に刻み行わせている。生まれ変わり、身分を乗っ取る。これが私の生存戦略だった。
人間関係も、乗っ取りがばれないうちにメールやメッセージを通して呪いを刻めば、私だったと上書きしてしまえる。スマートフォンを操作しながら、微妙に長い少女の名前を、私の名前として記憶していく。
あの娘は1日もせず息絶えるだろうな。
昨晩の食事の味を思い出すように、つまりは大して感慨もなく思索を巡らす。
テレビを付けると、殺人事件のニュースが報道されていた。
フリーの記者が殺された事件。
警察に自白の電話が掛かってきたが、警察が犯人の自宅に向かうと自殺していたらしい。
ああ、今日も平和だ。