「エロマンガ先生」和泉紗霧の感覚過敏に関する生体解剖学的較正録 〜ノイズ遮断プロトコルと共振的安定相への到達〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
朝の光が薄いカーテンを透かし、部屋の中に柔らかな陰影を作っていた。
俺——和泉正宗は、自室のデスクでキーボードを叩く指を止めた。壁一枚を隔てた隣の部屋——和泉紗霧の部屋から伝わってくるかすかな気配を、俺は長年培われた感覚で正確に感じ取っていた。
呼吸の音が少しだけ荒くなり、苦しそうな吐息が微かに漏れ聞こえてくる。
「……また、少し過敏になっているな」
俺は椅子から立ち上がった。血の繋がらない妹としてこの家にやってきてから、彼女の繊細すぎる心と体はずっと俺の意識の中心にあった。
紗霧の感覚は、周囲の環境の微細な変化に対して過剰なまでに敏感だ。気温のわずかな変動、服の繊維が擦れる摩擦、空気の乾燥。それらすべてが、引きこもりの部屋の中で集中して絵を描き続ける彼女の体に、疲労とともに重い負荷として重くのしかかってしまう。
俺はドアを軽く叩き、返事を待たずに静かに開けた。部屋の光量は落とされ、空気清浄機が静かに作動している。
ベッドの上の毛布の山が、かすかに蠢いていた。
「……あ……兄さん……」
毛布の隙間から顔を出した紗霧の瞳は、眩しそうに細められ、かすかに潤んでいた。喉から漏れた声は、少し掠れて切なく響く。
あの日、孤独の中でドアを固く閉ざしていた少女。「エロマンガ先生」として顔も合わせずに俺の小説に最高の絵を描いてくれた日々。そして二人で乗り越えてきた数々の試練。それらの記憶が胸を掠める。
「少し部屋を暗くして、湿度を上げたよ。……少しは楽になったか?」
俺は床を鳴らさないように静かにベッドサイドへと近づいた。過敏になっている彼女の耳や肌に、余計な刺激を与えないための配慮だ。
「うん……。ありがとう、兄さん……。でも、なんか……身体の奥が、ずっとピリピリしてて……」
紗霧が毛布から伸ばした華奢な手が、助けを求めるように空を切る。俺はその手をそっと受け止めた。
触れた瞬間、彼女の掌から伝わってきたのは、普段よりも少し高い熱だった。環境の変化や疲労に体が過剰に反応し、火照りを生み出しているのだ。
「熱があるな。全身の感覚が敏感になりすぎて、体が強張っている状態だ」
「……兄さんの手……すごく、あたたかくて静か……。嫌な感じが……全部、消えていく……」
紗霧の指先が俺の手へと絡みついてくる。俺の肌の温度、触れ合う力加減、変わらない安心感。それらが、過敏になった彼女の体をゆっくりと解きほぐしていく。
かつては世界中のすべてを拒絶するように引きこもっていた彼女が、いまはこうして俺の手を求めてくれている。
だが、ここで焦って強く抱きしめたりはしない。高ぶっている彼女の肌に強すぎる刺激を与えれば、逆につらさを増させてしまうからだ。
「ここからは、少しずつ体と心を落ち着かせていこう。唇や呼吸の熱を使って、優しく解きほぐしていく」
「あ……うん……っ。兄さん……顔、近くにきて……っ」
俺はベッドに腰を下ろし、紗霧の柔らかい顎を指先で優しく支えると、顔を近づけた。俺のあたたかな吐息が彼女の唇をくすぐり、強張っていた表情がふっと緩む。
俺は静かに、自分の唇を彼女の唇へと重ねあわせた。
「ん……っ……! ぁ……っ……」
柔らかな唇同士の触れ合い。焦らず、急がず、優しく包み込むような圧力で、彼女の唇の輪郭を丁寧になぞっていく。
俺の吐息と唇のあたたかさが、紗霧の唇から全身へとじんわり伝わり、固くなっていた緊張を溶かしていく。
「唇が温まってきたな。……次はもう少し深く、息を重ねよう」
俺がすこし口を開くと、紗霧も誘われるように愛らしく口元を緩めた。
互いの舌がそっと触れ合った瞬間、あたたかな体液と呼吸が重なり合い、二人の間で濃密な熱が巡り始める。俺は激しい動きを避け、彼女の舌へと優しく自分の舌を重ね、包み込むように熱を分け与えていった。
「んむ……っ……んぁ……っ、兄さんの熱いの……お口の中から……広がる……っ」
唇と口内から伝わる直接的なあたたかさは、不安に揺れていた彼女の心をダイレクトに解きほぐし、早くなっていた鼓動を穏やかなテンポへと戻していく。
俺は一度唇を離すと、続いて彼女の可愛らしい耳元や、柔らかい首筋へとゆっくりと唇を滑らせていった。皮膚が薄く繊細な場所へ、あたたかな吐息と優しい接吻を落としていく。
「ひぁっ……! あ、首すじ……っ! 力が……ぬけてっちゃう……っ!」
「力が抜けてきたな。全身の強張りが消えて、俺の熱をちゃんと受け入れられるようになってきている」
「兄さん……っ、お口で撫でられるたびに……身体の奥が……兄さんでいっぱいになっちゃうの……っ」
さっきまでの固さは完全に消え去り、紗霧の瞳にはトロンとした甘い熱が満ちていた。
強引に奪うのではなく、唇と吐息、そして肌の触れ合いによって丁寧に体を解きほぐしていく時間。
互いの体温と呼吸が完全に重なり合い、部屋の中に甘やかな静寂が広がっていく。俺は彼女の薄桃色の髪を優しく撫でながら、二人で紡ぐこの愛おしい時間と、これから深まっていく確かな絆を静かに噛み締めていた。
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