制服資産の減価償却録 〜終わらない絶望のタイムライン〜 作:naomasa
非常階段のコンクリートを駆け下りるたびに、ひんやりとした湿った空気が、水野菜々美の肌を刺すように包み込んでいった。
一段、また一段と、夜明け前の署の底へと沈んでいく。内勤用のカッターシャツと青いタイトスカートに身を包んだ菜々美の身体は、恐怖と焦燥で激しく脈打っていた。ストイックに後ろでまとめられた黒髪が一筋も乱れていないことだけが、彼女の警察官としての最後の日常を辛うじて保っている。
目的地の旧資材管理室へと辿り着き、何の躊躇もなく扉を開けた。その重厚な扉を押し開けた瞬間、水野菜々美を迎え入れたのは、予想に反した圧倒的な「空白」だった。
四方を無機質なコンクリート壁に囲まれた、窓一つない異様な一室。部屋の中央には、ただ高反発のプレイマットが1枚敷かれているだけだった。親友である大沢美波の姿も、彼女を蹂躙していたはずの男たちの卑俗な気配も、そこには微塵も存在しないのである。
(おかしい……映像の背景にあった配管の位置、コンクリートの経年劣化の度合いは、確実にこの座標を示していたはずなのに……)
情報の客観的プロフェッショナルとしての優れた頭脳が、即座に室内の様子を精査し始める。空気の動き、埃の積もり方、遮音性の高さ。菜々美の鋭い瞳は、壁面に設置された古い壁掛けの内線インターホンを捉えた。
まずは地上へ連絡を入れ、正規の通信ログの逆探知を要請すべきか。高度な知性が合理的な次の一手を導き出そうとした、まさにその瞬間、彼女の思考に強烈なブレーキがかかる。
(もし、これが美波たちの監禁場所の『前室』だとしたら……? 私がここで地上へ引き返せば、特密監察コードの網に引っかかり、二人の痕跡は今度こそ完全に消去されてしまうかもしれない……!)
僅か数秒。親友を救いたいという純粋な美徳と、参謀としての責任感が、彼女の足元に重い枷を嵌めた。中の様子をさらに窺おうと、内勤服のタイトスカートをきしませて一歩踏み込んだ、その瞬間。
――ギィ、と背後で扉の開閉音が響き、完全に閉め切られた。
完全に退路を断たれたと悟るよりも早く、暗闇の死角から息を潜めていた屈強な男の影が、獰猛な肉体の質量を伴って菜々美の背後から襲いかかってきた。
「なっ――、だれ――っ!」
強引に床へと組み伏せられ、コンクリートの冷たい感触が顔面に叩きつけられる。執務室で一筋も乱さずにまとめられていた黒髪が無残に散らばり、知性の象徴であった眼鏡が床を滑って弾き飛ばされた。視界が極端に狭まる恐怖の中、背中に男の生々しい重量感とのしかかる。
菜々美は必死に四肢を動かして抵抗を試みたが、完全なデスクワーカーである彼女の細い腕は、男の無慈悲な力によって容易に背後へとひねり上げられた。
「あっ…」
菜々美が何かを発する間もなく、(ジャラ…)と冷酷な金属音が室内に響く。男は終始無言のまま、手際よく取り出した金属製の手錠を、菜々美の両手首へと容赦なく噛み合わせた。
カチ、カチ、と、かつて自分が犯罪者を縛るための、あの金属音が、今は自身の背中の後ろで、逃れられない呪縛として冷たく施錠される。
「うそ……、放してっ! お願い、放してぇっ!!」
叫びは悲痛な嗚咽へと変えられた。 男は菜々美の言葉を一切無視し、事務作業でもこなすかのように機械的に彼女の身体を四つん這いの姿勢へと固定する。
直後、背後で冷徹な金属音が小さく鳴った。男の手元で、鋭利な刃物が鈍く光を反射する。
――バリバリ、と、強固な繊維が断裂する凄惨な音が静まり返った部屋に響き渡った。
「あ……っ、あああ……っ! やめて、お願いだから……っ!」
菜々美は、理性をかなぐり捨てた生の悲鳴を上げた 。しかし、彼女が纏っていたタイトスカートの背面は、刃物によって容赦なく真っ二つに切り裂かれ、左右へと引き裂かれた。ストッキングの繊維が破かれ、露出した下半身の肌に、地下室の不衛生な冷気が直接触れる。男は言葉を一切発しない。その徹底した沈黙と正体不明の暗闇が、菜々美の恐怖を限界まで跳ね上げる。直後、裂かれたスカート、そして下着の隙間を狙い、男は下半身から取り出した自身のモノを押し当ててきた。そして容赦なく菜々美の中への凌辱が開始された。
「ひ、あぅ……っ!? んぐぅっ……、あ、ああ……っ!」
男の激しい挿入が、武術の素養を持たない菜々美のデリケートな粘膜を容赦なく貫き、過剰な牽引を加える。
「あぅ……っ… んぐぅっ…」
言葉にならない悲鳴が口から漏れ、涙がコンクリートの床にシミを作っていく。全身を襲う激しい背徳感と肉体的な苦痛の中、彼女の優秀な頭脳は、この最悪な状況下でも異常なほど鮮明に、その奥底で必死に親友への想いを繋ぎ止めようとしていた。
(美波……美波はどこ……? 私は、あなたを助けるためにここに来たの……。彼女がこの近くのどこかで泣いているなら、私が、私がその真実を見つけ出さなきゃ……っ。どんなに惨めに汚されても、私の知性まで奪うことはできない……。必ず美波を、見つけだ――)
親友を案じる気高い美徳、そして己のプライドを最後の防壁として、必死に周囲のノイズから痕跡をプロファイリングしようとした、まさにその時だった。ガシッ、と、背後から菜々美の後頭部の髪が、男の太い指によって乱暴に、容赦なく鷲掴みにされた。
「――っ!?」
言葉を奪われるよりも早く、男の強大な筋力によって、菜々美の顔面がマットを外れたコンクリートの床へと強引に叩きつけられ、そのまま押し付けられた。
ドン、と脳を揺らす鈍い衝撃。直後、押し付けられた右頬の皮膚を通じて、地下特有の湿った、そして芯まで凍りつくような冷たい床の温度感が、ダイレクトに脳へと侵入してくる。
(あ……、冷た……っ)
その圧倒的で冷酷な事実。肌を刺す無機質な冷たさと、ブラウスの隙間から細い胸を乱暴に揉みしだく男の生々しい肉の熱が、菜々美が必死に維持していた「美波への想い」を、木端微塵に叩き潰して中断させた。
親友を案じる思考すらも、眼前の暴力によって強制的に遮断され、かき消されていく。思考の主導権を完全に剥奪された菜々美の頭脳は、今まさに自身を貫いている男の粗い息遣いと、容赦のない腰使いだけに強制同期させられていく。
「はぁ……っ、はぁ……っ、くそ、きついな……っ」
男の獣じみた、けれど感情の乗らない低い呼気が、菜々美の項を汚していく。
(ズパン!ズパン……!)
男のピストン運動はさらに速度を増し、肉体と肉体が激しく衝突する生々しい粘着音が、冷たい部屋の中に無機質に反響する。
(嫌……っ、それだけは、それだけはダメ……っ!)
男の動きが獣のそれへと変貌していくにつれ、菜々美の脳内に、最悪の中出しへの恐怖が発火した。もし、このまま最奥で男の精液を注ぎ込まれたら。それは警察官としてのキャリアの終焉を意味するだけでなく、一人の女としての不可逆な境界線を超えてしまう事を意味する。菜々美の脳内で、お腹を大きく膨らませて男たちの前に横たわる先輩たちの凄惨な幻視が、高解像度で過剰演算されていく。生理的パニックが臨界点に達し、菜々美は後ろ手に固定された手錠の鎖を激しく鳴らしながら、床に顔をなすりつけて絶叫した。
「だ、ダメ……! ホ、ホントにダメ……! 中は……中はやめてぇ……っ! 」
「お願い、妊娠だけは……中に、中に流さないでぇっ!!」
プライドも規律もすべてかなぐり捨てた、生のセリフによる悲痛な懇願。
しかし、男はその拒絶を嘲笑うかのように、さらに深く、子宮口を激しく突き上げるように腰を打ち付けた。薄い粘膜の神経を通じて、男の凶器がはち切れんばかりに熱膨張していく射精前の明らかな律動が、菜々美の脳へと強制受信される。
(あ、あぁ……っ、来る……っ、中が、汚される……っ!)
菜々美が絶望に目をみはった、その極限の刹那。
男は欲望を吐き出す直前、菜々美の身体から強引に自らのモノを引き抜いた。
直後――。
ビクン、ビクンと激しく脈打つ男の肉塊から、温かい、けれど致命的に不浄な精液の塊が、断続的な圧力をもって勢いよく放出された。
それは、後ろ手の状態でガチガチに固定されていた、菜々美の両手首、そして手錠の金属の隙間へと、どろりと容赦なく降りかかった。
「はぁ……、はぁ……っ」
男は衣服を整える無機質な音だけを残し、床に突っ伏した菜々美を一瞥もせず、扉の向こうへと去っていった。ガチャン、と施錠される音が響き、再び部屋は静寂に包まれる。
最悪の事態である「膣内射精」という事実だけは免れた。子宮の最奥を汚され、やがて訪れる最悪の未来は、辛うじて回避されたのだ。
(……あ、中には……流されて、いない……。大丈夫、私は、まだ……っ)
脳の片隅で、最悪を回避できたことに対する、惨めで、情けないほどの小さな「安堵感」が確かに芽生えていた。
しかし、その安堵を瞬時に塗りつぶすように、後ろ手の手首、そして指に絡みつく精液が、彼女の知性を鋭く抉る。
手錠の冷たい金属の隙間にべっとりと入り込み、また指にも執拗に絡みつき、肌の体温を奪いながらドロドロと皮膚を伝い落ちていく。精液の残渣の熱く、不快な粘り気。自力でその汚物を拭う自由すら剥奪された状態で、男の精液を手首に抱え込まされる。
(……熱い……、ドロドロして、気持ち悪い……っ。安堵して、いるの……? 私は、男に組み伏せられて、犯されたのに……。後ろ手の手錠のまま、ただのモノとして消費され、こんな精液を浴びせられて……何が、何が大丈夫なのよ……っ!)
免れたという安堵感と、手首に刻まれた消えない白濁液への強烈な嫌悪感。
その矛盾する二つの感情が脳内で生成され、自己欺瞞の防壁を内側からぐずぐずに溶解させていく。
菜々美はコンクリートの床に突っ伏したまま、ハア、ハア、と浅い呼吸を繰り返し、息も絶え絶えになりながらも、その知的で冷徹な瞳だけは、いまだ消えない意識の中で虚空を凝視し続けていた。