※この作品はR-18です。

制服資産の減価償却録 〜終わらない絶望のタイムライン〜   作:naomasa

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第4章・第2話:更新ボタンの戦慄

長谷川千尋が、親友である水野菜々美の遺した暗号化ログの解析に着手してから、すでに4日目の夜を迎えていた。

 

深夜2時。窓一つない4階のサーバー管理室は、日中の官僚的な平熱感を完全に失い、心臓を圧迫するような重苦しい静寂に支配されていた。周囲の大型サーバーラックから一斉に吐き出される、低く唸るような冷却ファンの排熱ノイズだけが、防音壁に囲まれた密室の中で不気味に反響している。千尋は、支給品である藍色のタイトスカートに包まれた膝を硬く突き合わせ、肩に羽織ったカッターシャツの上から、薄手のカーディガンの襟元を無意識に強く掴んでいた。キーボードの上に添えられた細い指先が、微かに、けれど明確に震えている。

 

この4日間、日中は通常のシステム保守の実務を淡々とこなし、署員たちの目が完全に途切れる深夜を見計らって、この極秘の解析作業を重ねてきた。サイバー犯罪対策課としての職務知識を総動員しても、菜々美のアカウントからリダイレクトされたプロテクトの数式はあまりにも精緻で、千尋の優秀な頭脳には限界に近い疲労が蓄積していた。しかし、知性が高ければ高いほど、菜々美の「自主退職」という公文書に刻まれた歪みへの疑問は、確信へと変わっていく。

 

「おかしい……。あんなに自分の仕事に誇りを持っていた菜々美が、あんな破廉恥な理由で、私に一言の引き継ぎもなく消えるわけがない……。何かがある。このデータの奥に、絶対に、私たちが知るべき真相が隠されている……!」

 

千尋は渇いた唇を強く噛み締め、液晶画面を見つめた。カタ、カタカタ、と、静かな打鍵音がノイズの中に虚しく吸い込まれていく。画面の進捗を示す目盛りのバーが、98、99、と滑らかに上昇し――そして、ついに【100%】の文字を点滅させた。

 

その瞬間、幾重にも掛けられていた暗号の障壁が音もなく剥がれ落ち、暗黒の領域が正面から抉り開かれた。マルチモニターの液晶の光が冷酷に跳ね上がり、千尋の眼鏡をかけていない瞳を白々と、残酷なほど鮮明に照らし出した。そこに展開されたのは、警察組織の正規の書式を模しながらも、完全に異質な、無機質極まる公文書の管理画面――『裏処理案件最終監査報告書』だった。千尋は、画面の最上部に印字された、かつて何度も書類で目にしてきたはずの同期の名前を目にした瞬間、文字通り指先を凍りつかせた。

 

「……え?」

 

千尋の口から、乾いた、間の抜けた声が漏れた。

思考が、真っ白に固まる。ディスプレイの最上段には、冷徹なゴシック体で、確かにこう刻まれていた。

 

【対象:大沢美波(刑事課・巡査長)】

【衣服状態:限界汚損処分】

【総被射精回数:961回】

【内訳――顔面・口腔:340回/膣内:388回/直腸:229回】

 

「……つ……、あ……」

 

 喉が、完全に引っくり返った。

 言葉が出ない。千尋の頭脳は、視覚から飛び込んできた「総被射精回数:961回」というその一列の文字列を前に、文字通りフリーズした。

 

(きゅ…961……? 被射精……数? 待って、なんの数字なの、これ……。美波が、体調不良で休んでいるはずの美波が……なんて回数を、そんな……これ…まさか男たちの、排泄を……?)

 

 脳内の過剰演算が、千尋の意思を置き去りにして暴走を始める。知性が高すぎるがゆえに、その無機質な数字が意味する「解剖学的な時間と質量の因果律」を、瞬時に脳内で高解像度の映像へと結んでしまうのだ。

 

(961回……。顔面と口だけで、700回以上……? そんなの、毎日、毎日、絶え間なく、男たちの肉塊で…、白濁を流し込まれ続けなければ、絶対に、こんな数に、なるわけがない……!)

 

千尋は激しい吐き気に襲われ、口元を両手で押さえた。パニックを抑え込もうと、激しく往復する呼吸のなかで、震える視線をさらに下へと滑らせた。そこには、さらに信じがたい、背筋が凍りつくような名前が配置されていた。

 

【対象:山本舞(刑事課・主任)】

【衣服状態:衣服価値全喪失】

【総被射精回数:345回】

【受胎記録:妊娠第十二週確定(隔離房移送済)】

 

「……しゅ、にん……?」

 

千尋の喉から、ひび割れた喘ぎが漏れる。

345回。あの気高き先輩刑事、誰もが憧れたエリートの山本舞主任までもが、「被射精数」で管理されている。しかも驚くべきことに「受胎記録」まで記載がある。

 

(345回……! これも、全部、男の、精液を注がれた回数……!? 山本先輩が……? そんな……! なんでこんな、人間をモノみたいに……ロット番号をつけて、お腹に種を宿すまでに何回も、中の粘膜を、奥底を、汚され続けているの……!?)

 

絶句した千尋の脳内を、終わらない自虐の凶器が切り刻んでいく。これは悪質な悪戯などではない。二人がどこか想像もつかない暗闇の底で、人間の尊厳を完全に物質的に粉砕され、ただの男たちの白濁液を処理するための「容器」として消費し尽くされているという、逃げ場のない事実の証明書なのだ。情緒的な表現を一切排したお堅い口調のまま並ぶ、普通の警察官の日常からは到底想像もつかない圧倒的な「被射精数」が、千尋の常識やプライドを根底から叩き潰していく。

 

「あ……、う、あ……」

 

千尋は両手で自身の頭を抱え込み、冷たいデスクに額を擦りつけるようにして、声にならない嗚咽を漏らした。だが、彼女の指先は、まだ解析が完了していない画面の右下に埋め込まれた一つの「未確定リンク」の点滅を捉えていた。それは、数日前――まさに菜々美の連絡が途絶えた日と同じタイムスタンプを刻んで、妖しく明滅している。

 

(いや、見たくない……もう、何も、見たくない……っ!)

 

千尋は激しく首を振った。涙で視界が歪み、液晶の光がぐにゃぐにゃと滲む。しかし、親友が命を懸けて遺したデータの意味を突き止めなければならないという、彼女の歪んだ正義感と、菜々美への強い想いという美徳の燃料が、恐怖を無理やり凌駕する。

 

「菜々美……お願い、嘘だと言って……」

 

千尋は消え入るような声で呟きながら、這い上がるような絶望のなかで、カーソルをその未確定のリンクへと合わせた。そして、マウスの更新ボタンを、親指の爪が白くなるほどの力で押し下げた。カチリ、と、静かなプラスチックの音がサーバー室に響く。

直後、マルチモニターが一瞬だけ白く反転し、千尋の最も恐れていた文字列が、冷酷な警告音と共に画面いっぱいに弾き出された。

 

【対象:水野菜々美(サイバー犯罪対策課・巡査長)】

【衣服状態:標準拘束変質】

【総被射精回数:192回(継続加算中)】

【状態記録:顔面および口腔の専用処理を検収。受領量推定0.08リットル、カッターシャツ襟元への体液浸透・硬化を確認】

 

「……、……っ!?」

 

長谷川千尋は、完全に声を失って絶句した。大粒の涙が顎を伝い、冷たいキーボードの隙間へとボロボロと滴り落ちていく。

 

192回。

その数字が脳の網膜に焼き付いた瞬間、彼女の優秀な頭脳は、その数字が意味する「時間的な機序」を瞬時に逆算してしまった。

 

(192……? 菜々美が、消えてから、まだ数日しか、経っていないのに……? 190回を超える……? そんなの……それに、継続、加算中って……今も、今この瞬間も、菜々美のなかに、男たちのが…続けているの……!?)

 

言葉にならない叫びが、心の奥底で血を流しながら吹き荒れる。カッターシャツの襟元に体液が浸透し、タンパク質が硬化しているという、あまりにも生々しく冷酷な事実。

 

(菜々美が……あの、いつも冷静な菜々美が、今、どこかで男の人たちに……。そんな汚いものを何度も何度も流し込まれて……ボロボロにされている……。嘘よ、嘘よ、嘘よ……っ!!)

 

千尋は激しく肩を上下させ、酸素を求めて喉を鳴らした。自分がこれまで誇りにしてきた警察官としての日常も、規律も、国家の権威も、すべてはこの見えない巨大な処理サイクルの前には、ただの「数字(データ)」として事務的に検査されるだけの、無意味な紙屑に過ぎなかった。

 

「……あ……、……れ、か……」

 

声が、掠れたノイズになって喉に張り付く。誰か助けて、という悲鳴すら、物質的な恐怖の前に形をなさず、ただ驚愕と底なしの絶望に満ちた瞳で、画面に浮かび上がる親友の最新の「被射精数」を見つめ続けることしかできない。

彼女の優秀な知性は、その数字の羅列から溢れ出る圧倒的な汚染の現実に完全に圧倒され、言葉を失ったまま、マルチモニターの青白い光の前に釘付けになって固まり続けていた

 

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