※この作品はR-18です。

制服資産の減価償却録 〜終わらない絶望のタイムライン〜   作:naomasa

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第5章・第2話:形見の手錠と、託された鉄の呪縛

「ウ、ウゴ……オォ、グ、ガ……ッ!! ゴ、ホッ、ゲフ……ッ!!」

 

共用PCの青白い液晶モニターのなかで、強行犯係主任・山本舞の気高き大義名分は、男の剥き出しの欲動によって喉の奥深くへと向かい、更に無慈悲に押し潰されていた。ピストンが最奥を突くたびに、舞の喉組織が物理的に圧迫され、激しい嘔吐反射の音と肉の擦れ合う粘着音が、スピーカーを通じて刑事課の静まり返った執務室に生々しく、執拗に響き渡っている。

 

手首を官給品手錠で後ろ手にタイトに固定され、汚損された制服のタイトスカートを腰のあたりまで無残に捲り上げられたまま、ただの白濁を受領する受け皿として酷使され続ける直属の上司。男たちが腰を叩きつけるたびに、舞の引き締まった太ももの肉が波打ち、繊維の奥まで染み込んだ精液の臭いが画面越しに漂ってきそうなほどの視覚的暴力となって美月の網膜を破壊していく。舞の知性を失った瞳からは大粒の涙と、顎を伝って胸元へと滴り落ちる大量の涎がボタボタと溢れ落ち、カッターシャツの襟元を不可逆的なシミで汚損させていた。

 

「嘘だ……嘘だ、主任……ッ! なんで、なんでこんな……こんなの、人間がやることじゃない……ッ!!」

 

美月は涙で視界を真っ赤に染め上げ、液晶画面にへばりつくようにして、その生々しい凌辱の事実を脳に焼き付けていた。喉が引き裂けそうなほどの嗚咽を漏らしながら、彼女の右拳はPCデスクの木面を激しく叩きつける。

ドォン、と重い音が響くが、美月の心の中に渦巻く憤怒の質量には到底足りない。ドロドロに汚れきった舞の、その悲惨な四つん這いの姿が脳内の限界値を突破した瞬間、美月の網膜の奥に、1ヶ月前のあの冷たい雨の夜の光景が、鮮烈なパラドックスとしてフラッシュバックした。

 

(――『騒々しいわね、井上巡査。一介の若手であるあなたが、感情論で組織の決裁に口を挟む領域ではありません。……今すぐ私室に戻りなさい』)

 

脳裏に鮮明に蘇る、あの夜の舞の氷のように冷たく気高い横顔。規律と法律を盾にした、底冷えするようなお堅い官僚的平熱トーン。

 

(――『これは公式な職務命令よ、井上巡査。これ以上、組織の規律に異議を唱えるというなら、今すぐその警察手帳と識別バッジをここに置いていきなさい。刑事課に、上司の命令に従えない身勝手な執務者は必要ありません』)

 

あの時、美月は主任の徹底した拒絶と圧倒的な威圧感に気圧され、ただ悔しさに唇を噛み締めながら、小さく頭を下げて引き下がるしかなかった。なぜこれほどまでに頑なに自分を遠ざけるのか、なぜ一人で抱え込もうとするのかと、割り切れない強い不信感すら抱いていたのだ。

だが、違った。その認識は、組織側の計算によって完全に偽装させられていた偽りの日常だった。

 

舞は、美波先輩を救うため、そして後輩である自分をこのおぞましい泥沼の世界に決して巻き込まないために、あえて冷酷な悪役を演じ、たった一人で地下の特命査問という名の地獄へ歩いて行ったのだ。自分が何も知らずに、エアコンの効いた地上で「正義の刑事」を気取って書類仕事に追われていたこの数か月間、主任はずっと、名もなき暗渠で名もなき底辺の男たちの欲望に犯され、その気高き知性を限界まで削り落とされ続けていたのだ。美波先輩を汚した男たちのモノを、自らの口腔で、細胞で、拒絶することも許されずに嚥下させられながら。

 

「ああああッ!! 私は……私は何も知らねえで、あの人の気持ちも知らずに……ッ!! ふざけるな……っ、ふざけるなぁあッ!!」

 

自己犠牲という、舞が遺していった気高き美徳が、美月の直情的な怒りの燃料へと完全変換された。彼女の細い全身の筋肉が猛烈に軋みを上げ、中枢神経のセーフティが物理的に焼き切れる。

美月は荒々しい動作で、自らの身に纏っていた黒いパンツスーツのジャケットのボタンをむしり取るようにして引き千切り、両肩から剥ぎ取るように脱ぎ捨てて床へと叩きつけた。彼女はそのまま、山本舞の無人となったデスクへと、執念の塊のような嵐の足取りで歩み寄った。

 

引き出しの鍵は組織の手によって厳重に施錠され、中の官給品や私物は完全に隔離されているはずだった。一般の警察官であれば、ここで鍵を開けるためのツールを探すか、上層部への手続きという論理の防壁に阻まれる。だが、己の「肉体的な力(暴力)」だけを信じる狂犬の前に、そんなスチール製の薄っぺらい規律(システム)など、何の意味もなさなかった。

 

「開け……ッ! 開けよッ!! このクソッタレがぁぁああッ!!」

 

美月は舞のデスクの前に深く踏み込み、自らの引き締まった右脚を、骨盤のバネと大腿四頭筋の全エネルギーを爆発させて突き出した。寸分のブレもない、岩をも粉砕するような強烈な前蹴りが、デスク中央のロック機構が仕込まれたスチール製のラッチへピンポイントで直撃する。

 

ガッ!!! ベキキキキッ!!!

 

深夜の静まり返った刑事課の空間に、耳を聾するような凄まじい金属破壊音が炸裂した。

美月の規格外の脚力によってスチール製のラッチは内部のシリンダーごと文字通り粉々にねじ切られ、強引にこじ開けられた引き出しが、まだ残っていた書類や未整理の調書を四方に撒き散らしながら床へと激しく転がり落ちた。

バサバサと紙類が虚しく舞うなか、灰色の石床の上で、鈍い金属音を立てて転がった重々しい物質があった。

 

美月は膝をつき、荒い呼吸を繰り返しながら、それを荒々しく拾い上げる。それは、山本舞がこの地上に生きた証として残していった警察手帳、金色の識別バッジ、そして公務用備品であるシリアルナンバー入りの「官給品手錠」だった。

 

かつて数多の凶悪犯を縛り上げ、法の正義を執行するために舞の腰元に帯びられていた、冷たく気高い鉄の呪縛。美月はその手錠の金属チェーンを、自らの右拳の皮膚が完全に白く変色し、手のひらにチェーンの形が生々しく食い込むほどの異常な力で激しく握りしめた。

金属の冷徹な肌触りと、ズシリとした重量感が、美月の手のひらの皮膚記憶を激しく刺激する。

 

「主任……待ってて……。あのような嘘つかせて、一人で行かせるなんて、ごめんなさい……っ。今すぐそこから、その檻から、助け出しますから……ッ!!」

 

涙と汗でグショグショに歪む視界のなか、美月の直情的な脳細胞が、千尋の遺した映像の背景を直截的にフラッシュバックさせた。画面の四隅に一瞬だけ映り込んでいた、特有の規則的な凹凸を持つ防音コンクリート壁の不気味な質感。経年劣化で赤黒く錆びついた旧式スチールラックの配置。一般の刑事課では決して使用されることのない、上層部専用の秘匿資料箱の特殊なロゴ。

 

強行犯係の刑事として、本部の地下構造や一般人が立ち入れない死角の座標を身体で記憶している美月の空間認識能力が、その場所を、一目で鋭く看破した。

 

「本部の最地下……【地下資料保管庫】だ。間違いない…、あの暗闇の奥に、みんな囚われてんだッ!!」

 

そこは、地上の法律も、実直な警察官の正義も一切届かない、裏処理組織が構築した暗黒のインフラの入り口だった。

 

丸腰のまま、部下を救うという美徳の足枷を嵌められたまま地獄へと赴き、生きた肉塊へと格下げされてしまった上司の「形見の手錠」。それを右拳のなかに完全にホールドし、カッターシャツの胸元を大きく波打たせながら、美月は猛然と立ち上がった。

 

「見てろよ……底辺の姑息なゴミども……ッ。私のこの手で、全員ブチ〇してやるッ!!」

 

自らの「力」だけが大切な人を守るための唯一の防壁であると盲信する狂犬は、理性のセーフティを完全に引き千切り、深夜の薄暗い地下階段へ向けて、文字通り獣のような超高速のステップで激走を開始した。

彼女の純白のシャツが暗闇のなかで激しく揺れ、コンクリートの壁に激しい足音が不気味な残響を刻みながら、深淵の闇へと吸い込まれていく。その突入のエネルギーは、地下層にて組織が大いに利用する駆動スイッチであることなど、今の美月は知る由もなかった。

 

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