制服資産の減価償却録 〜終わらない絶望のタイムライン〜 作:naomasa
刑事課主任・山本舞の戦術上の致命的な過失。
それが、すべての地獄の引き金だった。
広域指定反社会勢力の重要拠点を巡る内偵捜査において、舞は自らの経験への過信と功焦りから、
『風営法および消防法に基づく立ち入り査察』
という行政名目を強引に使い、制服姿での単独強硬突入を敢行した
応援の要請を待つべきだという後輩・大沢美波巡査長の手堅い進言を、主任としての慢心が遮っていた。 だが、その独断は即座に敵側の電子的・物理的迎撃に遭う。
まるで最初から獲物が飛び込んでくるのを待っていたかのような完璧な逆包囲網によって、後を追ってきた美波ともども退路を完全に断たれた。制圧された空間に漂っていたのは、荒ぶる暴力の狂気などではない。
捕獲した二人の現役女性警察官という検体を、極めて即物的に査定する男たちの「品定めの視線」であった。
男たちは事務的に二人の肢体とデータを見比べ、一歩も引かずに鋭い眼光を放ち続ける美波へと視線を固定し、冷淡に告げた。
「お前が身代わりになるって言うなら、こっちの女(主任)は無傷で解放してやる」 舞の身体は安全圏へと排除され、抵抗する間もなく強力な麻酔薬を投与されて昏睡へと沈んでいく。
舞は、自身が性的汚辱を一切受けず無傷で生還するという代償のために、部下が四時間に及ぶ絶対的な汚辱へと無条件で従っていく様を、その目で見ることはなかった。
――四時間の空白が経過した深夜。薄暗い倉庫裏の集積所の片隅。
薬物の効果が切れ、激しい頭痛とともに覚醒した舞は、自らの身体に外傷も性的被害の痕跡も一切ないことを確認した直後、現場の倉庫へと駆け戻った。
そして、無機質なコンクリートの床に転がされている美波の姿を捉えた。
駆け寄った舞は、自身の過失が招いた凄まじい惨状のファクトに直面し、息を呑む。
「美波……美波……っ!」
舞は悲鳴を噛み殺し、ボロボロに汚損された美波の身体を抱き起こした。
すがりついた舞の指先に、拭われることなくこびりついた生々しい白濁のぬめりが絡みつく。
自分を救うために後輩が身代わりになったという絶対的な原罪に、舞はその場に崩れ落ち、激しく動揺した。 美波は、ガタガタと拒絶の痙攣を繰り返す全身の骨格と筋肉を、ストイックに鍛え上げられた腹筋の力で必死に抑え込んでいた。
エリート刑事であった頃の強靭な肉体の残滓だけを支えに、涙を流す先輩を見つめ、無理に引きつった笑顔を作って掠れた声を絞り出す。
「……大丈夫、です……。先輩が、無事で……本当によかった……」
それは、壊れかけた精神が精一杯に維持した、あまりにも悲痛な虚勢であった。
舞は美波の背中に回り、公務用手錠で後ろ手に拘束されていた彼女の腕を震える手で解錠した。
だが、物理的な拘束から解放された直後、美波の張り詰めていた自律神経のパニックスイッチが臨界点を突破する。過呼吸の果てに美波の瞳から急速に焦点が失われ、その身体は糸が切れたように舞の腕の中へと崩れ落ち、深い失神へと沈んでいった。
ぐったりとした美波の肉体を、舞が自身の胸で受け止めた、
その瞬間だった。 舞の身に纏う無傷で清潔なカッターシャツの胸元へ、美波の制服から、ドロドロとした白濁の質量が不快な湿り気とともに重く移り変わっていく。
男たちの脂と、おびただしい精液の残渣を限界まで吸い込み、冷え切ってずっしりと重くなった制服の生地。その生々しい汚液の質量が、舞自身の肌へと直接、覆しようのない冷たい重量感となって伝わってくる。
そして、舞の視界に網膜を灼くような汚染の状況が飛び込んできた。
気を失った美波の顔面には、複数名分の大量の精液が重厚な層を成し、べっとりと張り付いている。後ろ手に拘束されたまま、自力で拭うことすら許されずに汚辱を受けた証拠だった。美波の顔の筋肉が弛緩するたびに、皮膚の表面をコーティングした不浄な液体の塊が重力に従って顎のラインを物質的に伝う。そして、国家権力の象徴である制服の襟元へと滴り落ち、鮮やかな青い繊維は、アンモニア臭を放つ体液をぐずぐずと内側まで吸い込んでいく。
美波を抱きしめる舞の優秀なプロファイリング能力は、その圧倒的な衣服の汚染度と匂いから、美波の受けた凌辱劇のすべてを自動で演算してしまった。自身が昏睡していた四時間の空白の間に、部下がどれほど執拗に男たちの「射精の的」として使い潰されたかという地獄の全容を。
自分の犯した過失の代償として、後輩の誇りが、制服ごと物理的・化学的に変質させられていく様を見せつけられているのだ。美波の背負った『二十四回の穢れ』の重量。舞の精神の防壁には、決定的な亀裂が刻まれる。
美波を救うためのこの美しい大義名分は、山本舞を後にさらなる底なしの罠へと引きずり落とすための、最も強固な首輪(人質)へと完全に反転していくのである。
この直後、舞が応援を呼ぶよりも早く、警察上層部の特務班(藤田・鮫島らの息がかかった部隊)が無機質なサイレンとともに駆けつける。
彼らは「事態の隠蔽」を大義名分とし、事務的な手際で処理を進めた。
美波の着用していた汚損制服一式と手錠は、彼らの手によって「重要な証拠品」として空気を通さない証拠保全用パウチへと厳密に密閉され、そのまま地下インフラの管理下へと合法的に回収・隠滅された。
表の社会に対しては、「捜査中の重度トラウマ(PTSD)に伴う三ヶ月の長期病気休職」という公式発表がなされ、大沢美波の社会的生存は静かに維持された。
だが、暗転していく視界の向こうで、終わらない絶望のタイムラインが、無機質にその刻みを早めていた。