女の子が強い世界で、男の僕はヒーローになってハーレムを作りたい! 作:霧夢龍人
──幼い頃から、僕はヒーローに憧れていた。なんでかって?弱きを助け悪を挫くカッコイイヒーローは、“女の子にモテる”から。
僕のお父さんが生まれるよりも前、『ゼニス』っていう機械型巨大人造兵器が現れた。開発目的は、宇宙から飛来する巨大な獣や湧き出す魔物に対抗するためらしいんだ。
でも問題なのが一つ。
それは、搭乗出来るのが女性だけっていうところ。意思持つ人造兵器である『ゼニス』は、搭乗者の精神と遜色体の組み合わせによって直接接続することで、初めて本来の性能を発揮する。
だから遜色体がXしかない男は乗ることが出来ないんだ。
これを知ったのが、多分八歳くらいだったと思う。貧乏だから『ゼニス』に関わる仕事に就くことも出来ないし、ヒーローになることも出来ない。淡い夢が泡のように霧散してしまった僕は、今日も今日とてガラクタ集めをする他なかった。
【ハイドレンジア第二人工惑星・下層居住区】
「ちぇっ……この鉄欠片、変な方向に曲がっちゃってるよ。買取に出しても二束三文にしかならなそうだし……今日はご飯抜きかなぁ」
手に持った鉄くずを眺めながら、僕は大きくため息を吐いた。
僕の住んでいる場所は都市の外れにある【廃棄区画】。ゼニスが戦った後に残された残骸や、使い物にならなくなった機械部品なんかが毎日のように運び込まれてくる。言ってしまえば、ただのゴミ捨て場。
でも僕にとっては、これ以上ない宝の山だ。
母さんが死んでから、呑んだくれてる父さんは頼りにならない。ゴミとはいえある程度のお金で売買出来るなら、この鉄くずを集める価値は結構あるんだよ。
まぁ、小銭稼ぎの域を出ないけどね……。
何とか価値のありそうな鉄くずを集めたあと、僕はそれらを大きな袋に詰め込んで廃棄区画を後にした。
今日の収穫は、鉄片がそこそこ。銅線が少々。あと、まだ使えそうな古い歯車が二つ。これなら、上手くいけば今日の夕飯くらいは買えるかもしれない。
なんてことを考えてたら、僕の横を通り過ぎた女の人達が顔を寄せてコソコソ話をしてた。母親譲りのイケメンフェイスを誇らしげに見せつけたけど、どうやらそうじゃないらしい。
「ねぇ見てあれ、『ガラクタ稼ぎ』のルイじゃない?」
「ホントだ……煤だらけで汚ったないわね」
「男ってだけで可哀想なのに、ネズミみたいにコソコソしてるとか……」
……言い過ぎだよ。
でも弱気な僕は言い返すことが出来ずに、足早に逃げ出した。
鉄くずでも換金してくれる商会は、【廃棄区画】から少し離れた商店街にある。設置されたテレビから流れるゼニスパイロット達の輝かしい報道を尻目に、情けなく鉄くずの入った襤褸布を担いで歩くのは、憧れてたヒーローと正反対だ。
まぁ今の時代、女性同士でも子どもを作れるから、ゼニスに乗れない男は軽蔑されがちではあるんだけどね。特に僕みたいな女の子顔は、男らしさがない。そもそも女の子顔の男を選ぶくらいなら、同じ女性同士の方が良いから……端的に言ってモテない。
弱者男性の現実を叩きつけられながら、換金して得た決して大金とは言えないお金を財布に入れて、近所の栄養販売店へ歩いていく。売り物にならなかった鉄くずは、家に持ち帰って父さんに渡すつもりだ。
「お酒は……っと、これか。後はエネルギーペーストで足りるかな?」
父さんに買う用のお酒と、味は美味しくないけど栄養補給用のペーストを選んでカゴに突っ込んだ。お金を販売所の出口に突っ込めば、財布は一瞬でカラカラになる。
まぁ、仕方ない。
僕が腹を空かせるだけならまだしも、父さんまで何も食べないとなると流石に寝覚めが悪い。酒については……飲まない方がいいと思うんだけど、僕が取り上げたところで暴れるだけだし。
そんなことを考えながら家へ帰る。
家と言っても、都市の端っこにある古びた家屋だ。壁にはヒビが入ってるし、窓は少し閉まりが悪い。冬になれば隙間風が入ってくる。
でも、僕にとっては大切な場所だ。母さんと最後に暮らした場所だからね。
「ただいまー」
大声で帰宅を知らせるけど、返事はない。
玄関から中へ入ると、案の定、父さんは居間の椅子に座ったまま酒を飲んでいた。
「……帰ったか」
「うん。あとこれ、いつものお酒」
「あぁ……あまりの鉄くずは?」
「玄関に置いてるよ」
居間のテーブルに父さんの分のペーストを置いて、僕は自分の部屋へ戻る。物置みたいに狭いけど、僕の身長からすればちょうどいい。
幼い時、父さんは今みたいな自堕落な人じゃなかった。
でも、ゼニスパイロットだった母さんが巨大な獣──巨獣と戦って死んでからは、お酒に溺れちゃったんだ。
僕が部屋に戻る時も父さんはいつもそうしてた。母さんが死んでからもう五年になるのに、今も母さんの写真を見ながらお酒を飲んで、何かを呟いてる。
「今日、僕の誕生日なんだけどなぁ……」
暇だから、ベッドの上で埃まみれの壁に“はっぴーばーすでー”って書いた。誕生日だからって【廃棄区画】が僕を待ってくれるわけじゃないし、鉄くずだって勝手にお金へ変わってくれるわけじゃない。
十三歳になったからって僕がヒーローになる訳でもないしね。
「明日もガラクタ拾いか……ずっとこのままなのかなぁ」
ダンボールを布団にして目を閉じる。人工太陽はいつだって規則正しく動くから、僕も機械みたいに起きてネズミみたいに生きていかないと。
「おい、起きろ。仕事の時間だぞ」
「……朝起きて見るのが美少女じゃなくて、父さんなのか」
「いつも見てるだろ。それと──仕事に行く前に、玄関に置いてあるブツを持ってけ。プレゼントだ」
「プレゼント……?」
酔っぱらって頬を赤くした父さんが、早く行けって言わんばかりにシッシッて指先を動かした。よく見ればその手は絆創膏だらけで、瘡蓋になってる場所もチラホラある。
父さんが何かを買えるようなお金があると思えない。もしヘソクリがあるんだとしたら、僕は全力で父さんを殴らなくちゃいけないからね。
ワクワクしながらいつもの襤褸布と服を着て玄関へ行けば、段ボールの上に一振の剣が置かれてた。鞘はないけど、鈍色に輝く刃先と紫紺の柄は僕の少年心を擽るのに充分だ。
でもいったい、どうやってこんなものを。
疑問に駆られて振り向けば、父さんは酒瓶片手に呟いた。
「お前の持って帰ってきた鉄くず、アレでチマチマ作った。出来はイマイチだが、十三のガキが持つには充分なシロモノだ。特に、ヒーローに憧れてたお前が持つには、な」
「……覚えてたんだ」
「そりゃあな。言っとくが、その剣で巨獣やら魔物やらゼニスやらを相手取るのはムリだぞ。勇気と無謀を履き違えるなよ」
「父さん……っ!」
どうしよう、好感度がダダ下がりだった父さんが、今日になって父親らしいことをしてくれた。ガラクタを拾いすぎて僕の頭がおかしくなった訳じゃないことを信じたい。
ワクワクが抑えられずに剣を手に持てば、吸い付くような柄と程よい重さの剣身が僕の手に良く馴染む。ゼニスパイロットたちが大きな剣で巨獣を切り捨てた所を、街中のテレビに穴が出来るくらい見続けた僕からすれば、まさに憧れの塊だ。
木の枝とか鉄くずで真似をしたこともあったけど、こうして手に持ってみると案外重かったり、まともに素振りもできない。それでも、ヒーローになれた気がして嬉しさが込み上げてくる。
「父さん!僕、これでヒーローになれるように頑張るよ!」
「うるさい、早く仕事にいけ」
「あ、はい」
僕は剣を抱えたまま、慌てて玄関を飛び出した。
危うく今日の仕事を忘れるところだった。十三歳になった初日に無断欠勤なんてしたら、貴重な収入源を失いかねない。というか、廃棄区画のガラクタ拾いに出勤という概念があるのかは知らないけど、僕にとっては立派な仕事だ。
いつもの襤褸布を肩に担ぎ、その上から剣を持つ。それなりに重いせいで廃棄区画への到着は遅れたけど、気分は晴れやかだった。
相変わらず道路はボロボロだし、建物の壁にはヒビが入ってる。道端には壊れた機械部品が転がってるし、空を見上げれば巨大な都市構造物の隙間から人工太陽が顔を覗かせてて眩しい。
端的に言って、絶好のガラクタ拾い日和だ。
いつも通り沢山捨てられてる鉄くずの山から幾つかお金になりそうなのを拾いだして、襤褸布に入れていく。でも今日は、父さんが造ってくれた剣が気になってあんまり集中出来なかった。
「さ、先っちょだけなら……いいよね!」
誰も見ていないことを確認して、僕は剣を抜いた。鞘なんてないから、最初からむき出し。鈍色の刃が朝の光を反射して、キラキラ綺麗に輝いてるのがすごくお気に入りだ。
これでカッコよく剣を振れば、「きゃー!ルイ様素敵!」なんて女の子からモテたりしないかな……ないか。
ちょっと残念になりつつも、柄を持って試しに剣を振ってみた。
フォンって情けない風切り音が鳴る。思ったよりも重くて、満足に振るえなかった。鉄くずを拾ってるからそこそこ力に自信はあったのに、バランスを崩して倒れそうになる。
「お、思ってたのとちがう」
もっとこう、ヒュヒュンッて感じで振るえると思ったのに。でも、こういうのって結局慣れだ。五年前、廃棄区画でガラクタ漁りをしてた時は今みたいに沢山運べなかった。多分、僕の身体が大きくなったのもあるけど、その大部分は慣れだと思う。
つまり、この剣が軽くなるくらい振り続ければいいのでは?
「もしかして──僕って天才?」
自分の知られざる頭の良さにびっくりしつつ、ガラクタの山の上で僕はもう一度剣を振ってみた。
やっぱり重心はズレるし、思った通りには動いてくれない。剣を横薙ぎに振ったつもりが、勢い余って身体まで一緒に持っていかれる。慌てて足を踏ん張るものの、靴底がガラクタの山をズルッと滑った。
何度振り続けても変につまづいたり転んだりして、まともに振れたのは多分二十回くらいだ。その後はもう、変な腕の痺れと筋肉痛で息が上がって、剣を持つことすら出来なくなっちゃった。腕が痛いし、肩も痛い。ついでに腰も痛い。
剣ってこんなに疲れるものだったのか。テレビで見ていたゼニスパイロット達は、これより何倍も大きな剣を片手で振り回していた気がするんだけど。
あれはやっぱり、ゼニスだから出来る芸当なんだろうね。
そんなことを考えながらいつも通り回収した鉄くずを買取してもらって、ご飯を幾つかカゴに入れた。家に帰る足取りは筋肉痛で辛いけど、不思議と軽い。
花唄でも歌いたい良い気分のまま、家に帰宅した──はずだった。
「…………僕んちどこいった?」
更地になった狭い空間。
“売却済”って書かれた看板が置かれていて、母さんとの思い出の写真も、僕の服も、父さんが捨てずに置いてた空の酒瓶すらない。
状況を把握出来なくて暫く固まってると、看板の裏に貼り付けられた紙が目に入る。
「えっと……『金がないから家は売り払った、誕生日おめでとう』」
……僕は今、平静を欠こうとしてる。
何も言わずに家を売り払ったことも、多分そのお金でお酒を買ってるってことも、今日のプレゼントで許してもらおうとしてるんだろうか。日銭稼ぎで今まで何とかしてたのに、売り払ったお金を僕に渡すこともなく……ねぇ。
ピキピキと音がしそうなほど怒りに震える最中、僕の背中を優しく叩く誰かがいた。
「っ、誰ですか。今僕はすこぶる機嫌がわる…………えと、どちら様ですか?」
文句を言いながら反射的に後ろを振り向けば、刺青を入れたイカついお兄さんがいた。貧乏な僕たちだけど、こんなThe・ヤクザみたいな人と関わりを持ったことは一度もない。
なのに、嫌な予感が止まらない。
冷や汗を垂らしてイカついお兄さんの出方を伺うと、ニコニコした表情のまま“機械化”した腕で肩を組んできた。
「初めまして、坊や。おたくがカムラの倅だな?臓器売買の件で話しをしに来た」
「ぼ、僕は臓器売買の契約なんかしてません……よ」
「──あぁ?しらばっくれちゃ困るなぁ。カムラの阿呆がお前さんの臓器をカタに金を受け取っちまってんだ。拒否されちゃあこっちもそれ相応の手段に出るしかねぇ」
「…………それは、つまり?」
「今日死ぬってことだ」
「あのクソ親父いぃぃぃぃッッッッ!!!」