シゲンは当然、ダンジョン内での子ども達の状況を逐一監視していた。
穴を掘って埋める所も、寝ている所も、起きてからの食事や、慣れない洋式トイレに苦戦する様も、ダンジョン内をとっても楽しんでくれている様子も。
そそて、着ている服や既にダンジョン機能で溶解吸収してしまった死体との関係性などから、三人があまり恵まれた育ちではない事と、必死で生きて来たのだろう精神の成熟さを見抜いていた。
頼ってきた大人が病死。大人になるしかなかった子ども達。
そんな彼らに新たに頼れる大人と言う存在を植え付ける事は非常に簡単だった。
超常的なダンジョンの生成能力を見せ、自分の液体を操る能力で水を美味しいジュースへと変えて心を解す。
特に気に入ったようだった川遊びに六人で繰り出し、マテリアに作ってもらった水鉄砲で水遊びをすれば……。
「マテリア食らえー!」
「ふっ甘いです。そっちが食らえー!」
「すきありマテリア〜」
「マテリアちゃん、ごめんなさい! えいえいっ!」
「うわっ! うぷっ、一対三は卑怯ですよー!」
精神年齢の幼い者同士はすぐに仲良くなるものだ。
ちなみにマテリアはしっかりと防水性の服を着させられている。普段のワンピースは濡れると透けておっきめの乳首が見えてしまう。それは流石に情操教育に悪いだろう。抜かりないシゲンだった。
勿論子ども達にもボロ布は脱がせ、ユニと同程度の価値の衣服を与えた。
早速濡らしてはいるが、どうせ後で何着も作る予定なので問題は無い。
それよりも驚いたのは三人の体の細さだ。おそらくろくな食事を取れていなかった事が起因しているのだと思う。
最近ゴミ穴に落ちて来た物の中に、小さな瓶を見つけた。
マテリアに内容物を調べて貰うためにダンジョン機能で溶解吸収させると、それが回復ポーションという物だと分かった。
地上の探査によって生成可能品目に最初からあったらしいポーションを作ってもらう。それは再現物では無く、見た目からして純度の高い逸品だった。
シゲンは試しにそのポーションを半分ほど飲み、液体を憶え、残り半分のポーションを見本にする事で、新たな液体の変質先を手に入れていた。
体力や怪我、身体の状態を概念的に癒すポーションは変質に使う魔力が恐ろしく多いが、これなら三人の栄養不足の身体を多少改善出来るだろうと、遊び疲れた所に水分補給代わりに飲ませる。
「……うめー。シゲン様、これ何? なんか身体が軽いぜ〜!」
「ほんとだぁ。元気って感じします!」
「ぱわぁ〜!」
無邪気な人間三人に無為に隠し事をする理由も無いシゲンは素直に話す。
ルル以外の二人は大きく驚くと、大袈裟なくらい恐縮しだす。
なので目の前の川から水を操作し、それをポーションへと変えて見せると、二人は乾いた声で笑ったのだった。
あっという間に距離を詰めたダンジョンと人間は、皆で平屋でご飯を食べ、夜更けまでトランプで遊び、やがて疲れて眠った子ども達を大きめのベッドに運んで川の字で寝かせる。
ダンジョン側の三人はその後、居間に戻って三人並んでソファに腰掛けた。
「マスターは何処を目指しているのですか?」
「マテリア様と同じく、あの子達の未来がユニも気になります」
ソファの上は落ち着かないのか改めて膝に乗ったマテリア。
身体が少し触れるだけで照れてしまうユニ。
二人が前のめりになって問いかけてくるが、シゲンは何も考えていない。成り行き任せなのだ。
ただ、どう転んでも困った事にはならないだろうと確信していた。
「鍛え上げる事で戦力とするのも、発散する魔力量を増やして継続的な栄養源とする事も可能……と言う訳ですか」
「仮に彼らが出ていくことを選んだ場合は? その時は殺してしまうのですか?」
マテリアには頷き返し、ユニには大きく首を横に振る。
シゲンとしては、好きに解放して良いと思っている。
現状、街のゴミから糧を得ている当ダンジョンは人間を殺すメリットが無い。人間など多ければ多いほど望ましいのだ。
それにやりようによっては、情報を売られてこのダンジョンが攻められる日が来たとしても、恐らく先に人類同士の争いが始まる。
少なくとも、その時が来る前にそう言う状態になる様に状況を持っていくのだとシゲンは語る。
「それではまるで、人間がダンジョンを守る様ではないですか。あり得ませんよマスター」
「シゲン様……貴方は一体何処まで先を見据えておいでなのでしょうか」
何も難しい事ではない。需要と供給というデコとボコがマッチングする様にこのダンジョンが生き方を変えたから出来るだけの事。
シゲンは難しく考え過ぎなんだと二人の頭を慣れた手付きで撫でた。
三人はその晩、子ども達のこれからの役割やカリキュラムと言った物を考えた。
勉学を教え、武器の扱い方を教え、魔法とはなんたるかをシゲン達も学びながら教える。
休みの日も作り、畑仕事などもさせ、興味がある事があればなんでもやらせてみる積もりだ。
マテリアダンジョンは、教育を始める事にしたのだった。
それからの日々はダンジョン側にとっても非常に有意義なものとなった。
この世界の独特の言語の読み書きをユニ先生とマテリア先生に教わる四人。ちゃっかりシゲンは勉強側に入り、ルルを膝に乗せて勉強していた。
マテリアがイライラオーラを放つ中、気付かぬふりをするシゲン。
この後マテリアが怒り混じりに甘えてくることを知っているからこその悪戯だった。
武器の扱いは、探査した中にあった教本をコピー生成した。
体捌きや足腰の使い方をチャンバラ遊びをしながら学ぶ。特にウィークとピークは意欲的に戦闘能力を求めていた。
魔法の教本もコピー生成。
生まれ持った魔力を認知し動かす所から始めるのだが、シゲンはとても得意だった。体液操作が魔力操作と程近い感覚だったからだ。
ユニとの毎晩の魔力注入の経験もあり、子ども達三人に魔力を知覚させるのは早かった。
その後は属性への変換だとかなのだが、これが狭き門と言うか、才能依存の様で。
ある意味で無垢なユニは火、水、風、土、光、闇の全属性に適性を示し、シゲンは水と光に適性を示した。恐らくダンジョン側は進化すれば拡張出来る項目だと思われる。
ではどうしようもない人間側はどうかと言うと。
ウィークは風と土。
ピークは火と水。
ルルは水と光だった。
結構恵まれた結果に行き着いたが、もし属性に適性が無くとも、ただの魔力を用いた身体強化なる技術がある様で。
魔力の容量拡張については、人間は使い切ればより容量が大きくなるとか言うハッピーな仕様らしい。
ちなみに魔力を使い切ると物凄い倦怠感が襲ってくるそうなので眠る前がおすすめなのだとか。
子ども達には是非魔力を毎日一度は使い切る様にと言い含めたとも。シゲンは強制も強要もしなかったが。
だが三人は素直に従って風と水を窓の外に毎晩垂れ流すようになった。
休みの日は思い切り遊ばせ、畑も家庭菜園規模の物を人力で作ったりもした。
何気に一番畑を大切にしているのはマテリア。麦わら帽子を被って一生懸命に鍬を振って種を蒔いたからか、作物が可愛くて仕方ないらしい。
シゲンとユニは微笑みながら畑を愛でるマテリアの姿を見守った。
そんな穏やかな日々の裏。
夜になると三人はゴミ処理に動きだす。鉄の剣と盾を装備したユニを伴ってシゲンが酸の雨を降らすだけなのだが……。
最近、マテリアが畑にかまけて監視を疎かにしていたことで第四進化個体が出現してしまい、大慌てでゴミ穴へと向かって在らん限りの酸をぶちまけたのは皆の記憶に新しい。
その時のマテリアの落ち込みようはすごかった。
『ごめんなさい……申し訳ありません……マスター、ますたぁ……ごめんなさいぃ……』
と、怒るのも憚られる程の様子。
シゲンは翌日、一日中マテリアを膝に乗せて可愛がり続けてなんとか持ち直させた。
ハプニングはあれど、魔力は安定して獲得出来ている。星への返還もバッチリ行えており、異空間の維持費を抜いても、ダンジョン内魔力は二十万程度には回復していた。
はてさて、これを新たな手勢を呼び出す事に使うか。
或いはシゲンとユニの強化に使うか。
異空間の拡張を行うか。
贅沢な悩みを楽しんでも今暫くは問題無いだろうと、ゴミ処理を続けながら三人はやいのやいのと答えの出ない議論を交わして楽しんだ。
◆
それから暫く平穏な時間が過ぎて、二ヶ月経ったある日の事だ。
シゲンは現実の支配領域を少し増やし、ロスの街にあるゴミ集積場のゴミを全てダンジョンに落とした。
その日、ロスの街からゴミが消えた。異臭が消えた。
ロスの街は大きな混乱の渦の中に叩き落とされたのだった。
本作の評価点も落ちていくの草
楽しんでくれる人が楽しんでくれたらそれで良いの精神v(^^)v