「ロスの街、墜ちましたね! マスター!」
膝の上で見上げてくる真っ白美少女コアことマテリアの賞賛の瞳に、うむうむと頷くシゲン。
だがやるべき事は残っている。
「そうですね。あの大量のゴミを放置して一ヶ月以上……確認しているだけでも第四進化魔物は数え切れず、第五進化魔物は十数体。そして第六進化を果たした魔物が四体、一千トンのゴミ山に君臨している様です」
十六個のゴミ穴は、街のゴミを落とす段階で四つの穴とし、それをさらに拡張して強化ガラス張りにしておいた。
ダンジョン内だろうが、外だろうが、魔物達の生存競争は変わらない。
お陰で、討伐してもいないのに魔力収入が何度も入り、ダンジョンの配下では無い外部存在が魔力を代謝してくれるお陰で実入りも十分なものだった。具体的には一ヶ月で三万程度は稼げている。
しかし、流石にこれ以上未知を増やす訳には行かない。
四つのゴミ穴に一体ずつ存在する第六進化体と多めに湧いた第五進化体の実力を測る意味でも、シゲンはマテリアを連れて討伐に動き出した。
最初に訪れたのは第一から第四の穴を合併拡張した数百トンのゴミが溜まった大穴。
勿論川から膨大な量の水を拝借し、その全てを侵蝕酸にして持ってきている。
高みから見下ろすシゲン達の存在に気付いたのか巨大な存在が体を起こす。
この穴に君臨しているのはくそでか超ムカデ。異世界資料によると、過去に何度か発生した災害クラスの魔物で、名前は『スタンピードセンチピード』。
由来は、魔物の集団パニック暴走——通称スタンピード——に匹敵する破壊を単独で齎したからだとか。
「体長は百メートル超。胴体の直径は五メートル。観察した限り、強力な毒液、巨大な図体、凄まじい顎の強さが武器の様です。気を付けて、マスター!」
シゲンは無感情に、無表情に、操作する侵蝕酸を圧し固めて目の前の魔物と同じ形を取らせた。
ムカデは突如現れた鏡写しの存在にギシャギシャと体節を擦って音を鳴らすと、自分から自慢の顎で掴みかかりに来る。
酸のムカデは勿論回避しない。食わせ、飲ませ、纏わりつかせ、内からも外からも溶解させていく。
「…………討伐完了。魔力吸収……吸収魔力量、十三万。死骸溶解時の魔力が四万! とんでもないですよマスター! 第六進化体美味し過ぎです!」
依然、無感情で無表情なシゲンは、第五進化体の位置をマテリアから聞き出し、酸ムカデで蹂躙した。
第五進化体は死亡時に一万程度の魔力。死骸からは三千程度の魔力を獲得出来た。
第五進化個体と第六進化個体の討伐を終えたシゲンはそそくさとゴミ穴から出て強固な隔壁を幾重にも下ろして隔離した後、キャッキャとついてきたマテリアを抱き締めた。
「ひゃっ!? マスター……? もう、相変わらずムカデが苦手なのですね? そんなところも可愛いんですから。いいですよ、マスターの好きなだけマテリアを“抱いて”ください。ね?」
シゲンはでっかいムカデにSAN値を削られていただけだった。
マテリアを抱きしめて匂いを嗅ぎ、ひたすら愛でて精神を整えたシゲンは、使い残った酸を水に戻して次の穴へと向かった。
……何故か不服そうなマテリアを連れて。
残る三体の第六進化体の討伐もなんとか終えられた。
二つ目の穴に居たのは『ロイヤルラット』。配下のネズミ魔物を統率し、特殊進化を遂げさせる厄介なやつ。
特殊第五進化にジェネラルラットやロイヤルガードラット。
特殊第四進化にコマンダーラットとソーサラーラット。
などなど、かなり人間に近い組織を築き上げ、そいつらに対して絶対的な命令権を持ち合わせた切れ者だった。
酸の雨で全員まとめて死んだ。呆気なかったが、人間相手なら大層強かったろう。
三つ目の穴には、『ガーベージゴーレム』とか言うのが湧いていて、周囲のゴミを操ってくるちょっと危なかった奴。
持参した酸だけでは足らず、途中マテリアに水を生成して貰いながらの物量戦を展開したのだが、どうもゴーレムはコアを潰さないといけないらしい。
酸の水で槍を象り、やたらゴミが厚く纏わりついている場所を局所的に攻撃する事で破壊し討伐。
マテリアが居なかったら流石に敗走待った無し。ダンジョン内で地の利を持たれるとは、とシゲンは大層凹んだ。
マテリアがそんなシゲンを“励まそう”とするが、いつも通りたっぷり撫でられ可愛がられて精神安定剤代わりにされて終了。ぷんすかマテリアになってしまった。
最後の穴が一番危なかった。
ここの第六進化体は一つ目の穴と同様のムカデ。しかしシゲン達が辿り着いたその時、そいつは第五進化魔物や第四進化魔物を軒並み喰らって目の前で進化を始めたのだ。
第七進化体になったムカデは、百メートルを超える体をそれはもう小さくし……最後には一メートル半にまで縮んだ。
体の節々を甲殻で覆ったそれは人型の雌個体。ウィーク達に物を教えるために読んだ本で何度か見かけた最優先討伐対象とされる存在……魔人だ。
スタンピードなど比べるべくもない超級の個体が生まれてしまった。
こちらを見るや否や妖艶に笑んだムカデの特徴を残した魔人は、軽いひと蹴りでゴミを巻き上げながらシゲン達と同じ高さみまで跳ね上がると、こちらに両腕を向けて魔力を収束させた物質を展開した。
こりゃあ不味いという事で、奴の体を即座に酸で覆う。体中を溶かされる痛みに悶えて魔人の魔力が霧散する。
酸の水球に沈め、目や鼻や口や耳、体中の穴から酸を侵入させ、激痛をもたらす水の中で身動きも取らせずに殺し切る。
「マスターに二十万と言う莫大な魔力を注いでおいて正解でしたね……。死亡を確認。獲得魔力は五十万。死骸溶解による獲得魔力は三十万。……これは、想定以上です。現在のマスター以上の魔力密度でした」
さしものマテリアもぷんすかを抑えて冷や汗を拭う。
シゲンが液体操作に特化して強化していなければ総合力で負けていたと言えるだろう。
それも、シゲンが酸の液体を穴と言う穴から魔人の内側へと流し込むと言う鬼畜の所業あってのもの。
閉鎖空間における生存競争を強いる環境……即ち蠱毒。
その中で周囲を喰らい尽くした個体が至った魔人という領域。
少し魔物を甘く見ていたと二人は自覚する。
兎にも角にも玉座の間へと戻り、しばし議論を交わす。
このままで良いのか、第六が生まれた瞬間に間引けばどうか。
維持管理について二人で協議した結果、第六進化で跳ね上がる魔力を逃すのは余りにも惜しく、第六進化が生じれば即座に処理に向かう事を取り決め現状維持となった。
玉座で膝にマテリアを乗せて行っていた議論に決着がついたが、第六や魔人の討伐に際して結構な量の魔物とゴミを溶解させてしまったので、当分は暇になる事が確定した。
やるべきことは週に一回の街のゴミ収集と、一ヶ月単位で放置してようやく発生する第六進化体の処理。そしてウィーク達と一緒に人間やその技術についてのお勉強だ。
つまり、やっぱり暇になってしまった。
「マスター、これから先はどのように? 今暫くの運営方針は決まりましたが、ここでずっとゴミを処理しながら雌伏の時を待つのですか? ……いずれ、マテリア達は人間を大量に殺さねばなりません。人間が増えすぎたから、マテリアは……ダンジョンは生まれたのですから」
マテリアの揺れた瞳と声音、強張った身体を後ろから優しく包み込む。
そしてシゲンは暫し目を閉じ………………ゆっくりと目を開ける。
次なる目標は、隣接する街だ。
ゴミを糧としながら少しずつ、ロスの街にしたように世界中に根を張ろう。
そうすれば後は思いのまま。生かすも殺すも自由だ。
……だから、それまでは細々と、こそこそと、やっていこう。
「マスター……ありがとうございます」
マテリアの手がシゲンの腕をぎゅっと掴んだ。甘えるように。離さないでと言うように。
だからシゲンは答える。絶対に離さないから離れるなと。
「…………はい! マスターの仰せのままに! マテリアはマスターの物。マスターの意に従い、寄り添い、共に在る者なのですから!」
二人は玉座に佇む。小さな小さなダンジョンの主として。いつか人を害する存在として。そして今暫くは、誰にも知られぬ存在として。
第一章終了。
ここまでお読み下さりありがとうございます(`・ω・´)ゞ
明日からは間章を数話挟んで二章に行きます! 引き続きお楽しみ頂ければ幸いです!
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