「マスター、この宿場町とやらのゴミ捨て場直下四十メートルに支配域を伸ばし終えました。暫くは探査でゴミの量を測る必要があるでしょう」
仕事を終えたマテリアを撫でる。鼻息がふんすと出ていた。
根を張り終えても残った魔力量は未だ膨大。街道を辿れば次の街には辿り着けるだろうが、探査による物品スキャンで魔力による生成物のコストカットが適うのだ。
自然に何があるかも見ておきたいので、宿場町から街道の無い方向へ四つ、支配領域を伸ばさせる。
シゲンの意図を汲み取ったマテリアが即座に行動を開始。
支配領域を五百メートル伸ばすごとに探査実施。それを四方向に都度十回。消費魔力は二十万。成果はあった。
「マスター、情報を共有します。ちゅっ」
マテリアと額を重ね合わせ、探査結果を共有。途中で唇が触れ合うと言う可愛い事故もあったが問題無いだろう。
共有のお礼にシゲンからも口付けを一つ、マテリアの額に落とす。
「……額にキスって、何故か唇よりもどきどきします。ずるいです、ますたぁ」
甘えたモードに入ったマテリアを片手で相手しつつ、得た情報を確認するシゲン。
すると、シゲンがむっと顔を顰めた。
「ああ、洞窟で繁殖活動を行っている人間が十数組み居ましたっけ。それがどうかしたのですか?」
マテリアから見たらそう見えるそれは、シゲンから見ると集団で女を犯している犯罪者にしか見えなかった。
「ほぅ。強い者が組み敷くのは自然界では当然のはずですが、人間界では陵辱に当たるのですか。ではあの女達は……ああ、そう言う……なるほど」
マテリアなりに理解を深めていったかと思えば、途中から不穏な空気を漂わせ始めた。
シゲンは最大限マテリアを身体に引き寄せ抱き締めながらどうしたのかを問うた。
「自分に置き換えると言う、数学で言う所の代入をしてみました。マテリアがマスター以外の者と契約させられるだとか、身体を汚される…………考えただけで怖気が奔ります。マスター、アレは殺しましょう」
出会った当時の無感情さにも似た、冷たいマテリアが顔を覗かせる。
シゲンはマテリアの意思を尊重して了承。
洞窟全体の地表を支配領域下に置かせる。
「マスターが直下に到着次第、十メートル落下させます。被害者達の救出を望みます」
真面目にサムズアップしたシゲンは、マテリアを降ろすとすぐに駆け出した。
身体性能を二十五万もの魔力で進化させたシゲンの足は、全力を出すと草原をボコボコに破壊しかねない。なので害の出ない範囲で速度を出し、五キロを一分……大体時速三百キロほどで駆け抜ける。これくらいが大きな被害を出さない範囲だろう。
草原居住エリアを抜けたら、西へ二十キロのランニング。
魔力を追加して支配領域内の高さを二メートルにしてくれたらしいマテリアにありがとー、と叫びながら時速三百キロで道を走る。
ボゴっ、ドゴォ、と足を踏み出す度に地面が少し抉れるが、まあ仕方ない。救うべきヒトの為だ。
四分で二十キロを走破したら、今度は南に三キロ。息を切らすことも無く駆け抜け、坂を登って天井が十メートルくらいの高さになった場所で足を止める。
その場で「良いよ」と呟けば、即座にダンジョンの口が開かれた。
落下してくる小汚い者達。人間の魔法で水を生み出し、液体操作で柔く固めた水で女達や、囚われていたと思しき者達を回収していく。
それ以外の盗賊っぽい奴らは、落下で運良く死ねた奴と、運悪く生き残った奴が居た。
ダンジョンが口を閉じる。
光源は無くとも見える地面の中でダミ声が響いた。
「うおい!! なんじゃこりゃ!? お前か? 俺らの獲物を奪った奴ぁ……ぐはは。おおかた魔法使いなんだろうがヨォ? 今ので相当使っちまったろぅ? おいお前、死にたくなきゃぁそこの女とガキどもを置いてけや。なんなら使わせてやろうかぁ? 仲間になりゃもっと女を好き放題出来るぜ?」
シゲンの正直な感想としては、利用出来そうだ、これに尽きる。
ダンジョンの手を汚さず、武器や食糧、情報の援助。商人を襲わせて物流を滞らせる。盗賊を増やし、至る所で流通網を麻痺させ治安の悪化を招けば、あわよくば人同士で殺し合いが発生するはずだ。
食い物が無い。帰ってくる筈の者が一向に帰ってこない。娘が、息子が、旦那が、妻が。市民の不安を煽れば街が動かざるを得ない。そうなれば街で起こる多少の異常は見逃されるかもしれない。
……可能性ばかりの話だが、徹底した教育や道徳の授業が無いこの世界では、そんな可能性が大きな武器になり得る。
シゲンは女子どもを水で背後に運びながら、惜しんだ。こんなにも丁度良い捨て駒はそう無いと言うのに。
同時に自分の方がダンジョンに染まっている気がして苦笑してしまった。
「おいおい、おいおいおいおい……! 何笑ってやがんだお前よぉ!?」
救出を終え、全員の口に微弱な睡眠薬を注ぎ終わったら、そちらに使っていた水を酸へと変換。
せめて残さず養分とするべく、シゲンは酸を動かした。
酸の水が盗賊に襲いかかる。触れた端から肉を溶かして骨まで露出させる過剰な酸性に恐慌が始まり、阿鼻叫喚が巻き起こる。
この前、ピークが使っていた火と水の合成魔法で霧を発生させ、それを酸へと変えてさらに盗賊達へ吹き付ける。
シゲンは水の触手で十人の救出対象を抱え上げ、“ゴミ”に背を向けて歩き出した。
少し時間を掛けて超軽い駆け足で帰ってきたシゲンは、最近、兄と慕ってくれるようになった子ども達にバレない様にこそこそと草原居住エリアの隅っこを移動していた。
「おにーちゃん! 裸の女の人いっぱい。……浮気?」
いつの間に目の前にいたのか、シゲンは急いでルルを抱え上げ、しーっと指を一本立てて秘密を作った。
「えー。じゃーねー? また一緒にお風呂入ろ、おにーちゃん。それならいーよ?」
シゲンは頷くしか無かった。
マテリアはその様子をモニターで見ながらむくれる。
向かう先には竜か虎か。ちょっと本気で困りながらシゲンは草原の端、ただの壁となっている場所に救出した者達を置いた。
さて、まずシゲンがやるべき事はルルに指を咥えさせる事。
「ぱくっ! こーうぉ?」
乳歯とちっちゃなベロ。子どもらしい高めの体温を指先で感じ取りながら、オレンジジュースを分泌する。
「んー! おいひー! おにーちゃ、もっと。もっろちょーらいっ……んっ、んっ……はむ、ちゅぅ、ちゅぅ……ちゅぱぁっ! おいしー!」
何処となくエッチなルルは、一頻りジュースを飲んで満足したらしい。にこぉっとおっとりとした笑みを浮かべて皆んなの居る方へと戻っていった。
一人になったら、ようやく作業開始だ。
水の触手を作り出し、土汚れや精液に塗れた女達の身体を包んで撫でて草原の端っこに汚れた水を捨てる。申し訳無いが服なども破って脱がし、膣内や子宮内に残っている精子も水で掻き出させて貰った。
これを繰り返して十人の身体を身綺麗にした頃、マテリアが怒った顔で歩いてきた。
「マスターの浮気。えっち。煩悩まみれ。その頭で鐘を二百十六回叩いて来てください!」
そうは言いつつもシゲンが腕を広げれば大人しく腕の中に収まるマテリア。
秒速仲直りをした所で、マテリアが先に口を開いた。
「配下、生成するのですね?」
思考を読まれて驚いたシゲンだったが、じわりと喜びが勝りはじめる。
「マスターのマテリアですからね、当然なんです! またホムンクルスで良いんですよね? 生成される個体はランダムですので、悪しからず。では、五百の魔力を消費してホムンクルスを生成します。……完了しました」
目の前で魔力が集まり、光の中から身体が現れる。
それはどう見ても人型で、どう見ても女体だった。
特に、胸部装甲がユニ(推定Gカップ)すらも大きく上回るものだったからだ。目測でJカップクラス。爆発的な乳房だ。
目に毒と言うか保養と言うか。マテリアの視線が痛いのですぐに似合う少し豪奢な衣服を作ってもらうと、目の前の無感情で無機質なホムンクルスに着るように言う。
するといつぞやを思い出す、首の穴から腕を出すと言うまさかの行動。
マテリアと少しだけ笑い合うと、シゲンはおぱーいの感触をちょっとだけ味わいながら服を着せた。
そして名前を付ける。
「モノ。畏まりました。私の名は……モノ。よろしくお願い致しますわ」
瞳に輝きを宿したモノは、銀色の髪と銀色の瞳が特徴的な麗しい女性だった。立っているだけで華があるのはユニも同じだが、より額縁が似合いそうだ。
取り敢えずマテリアに頼んで、ユニ同様に知性、知能、身体性能に三千ずつ魔力を注いで進化を実行させる。
「進化を実行します………………進化完了」
眩い光が収まると、モノは美しいカーテシーをして見せた。
「これ程のご寵愛、感謝致します。偉大なる御方シゲン様、マテリア様。ホムンクルスのモノ、改めて深く忠誠を誓わせて頂きますわ」
「はい、よろしくです。先輩ホムンクルスのユニが居ますので、そちらとも仲良くして下さい」
「承知致しましたわ。……状況についてもある程度は把握しました。彼女達の世話をすればよろしいのですわね?」
シゲンは首肯を返しながら経緯を伝える。
「人間を保護したのでは無く、ゴミを捨てたら人間も一緒に落ちて来たのですね。精神が落ち着くまでは此処で面倒を見る……畏まりましたわ」
住居についても五千魔力を使って十の個室がある大きめの平屋を壁際に建てる。
日用品などもすでに生成済みなので、後は魔力をエネルギーとして動く冷蔵庫に食料品をたっぷり入れておく。
モノと協力して女性達に新品の服を着せ終えたら、後はモノに任せるべく声を掛け、別れ際にマテリアに言ってとある物を作って貰ったシゲン。
そしてそれをモノの手を取って手渡す。
「……いけませんわ、シゲン様。この様な銀細工のバレッタを生み出したばかりの配下に与えてしまっては。マテリア様が怒ってしまうではありませんか。うふふっ」
モノは目尻を下げて柔らかく笑むと、早速バレッタで広がってしまっていた長い髪を留めるとくるりと回って見せる。
「どうでしょうか、シゲン様。似合いますでしょうか?」
バッチリだと答え、髪を崩さぬ様に丁寧に頭を撫でると、シゲン達はその場をモノに預けて去って行った。
「……もう少し、撫でて頂きたかったですわね」
名残惜しそうに二人の背中を見送ったモノは、静かに人間の目覚めを待つのだった。