順調に仲を深めていく少女と男。
男は必要な情報を仕入れると、早速ダンジョンの機能を自分風にカスタマイズする事にした。
「ダンジョン機能の一覧化? スワイプやタップで操作出来るようにしたい、ですか? ……やってみましょう」
男は改めて考えて思う。タブレットの様に直感的操作が可能にして仕舞えば、いざと言う時にすごく対応しやすい。
ダンジョン操作を少女を介さず自己完結出来れば、どんなに助かるか。
『はい。出来上がりました。如何でしょう、マスター』
気付けば、膝の上から重みと温もりが消え、虚空に画面が浮いていた。
『やっぱりやめる、ですか? はぁ、構いませんが』
画面が徐々に肉体に置き換わり、少女の身体が再構成されていく。
血色の良い爪、指、ふくらはぎ、太もも、腰……そこから先も裸のまま。ぷっくりお肉に一筋線の入った柔らかそうなつるぺたおまんこ。おへそ、肋骨。そしてなだらかに膨らむちっぱい。桜色の乳輪と乳首はおっきめ。鎖骨、首、頭。最後に白い長髪がさらりと流れ、白いワンピースが瞬きの間に着用されていた。
「んしょっと」
身体を再構成した少女は徐に男の膝に上がり込むと、ひしと抱きつく。
それはまるで親の帰りをずっと待っていた子どものよう。
「私も、人型が良いです。マスターと同じカタチっ」
心底嬉しそうに下がった眉と細められた瞳。
男も同じ気持ちを胸に少女を抱き締め返しながら、操作性を捨てる事を決めた。
さて、と切り替えた男は、ダンジョン周辺の環境を知りたいと少女に告げる。
「承知しました。半径五百メートル範囲の外界の情報を取得します」
これは星と繋がるダンジョンが持つ基本機能。
地下深くを流れる霊脈にアクセスし、周辺情報をインプットする事が出来る力だ。
少女は数秒沈黙して情報を得ると、膝立ちになって男の額に額を合わせてごっつんこした。
「情報共有中……どうでしょうマスター」
男はとても満たされた。
眼前にある整った顔。白い睫毛と大きな青い瞳。懐いてくれる美少女の熱と匂いによって、男の心の隙間が急速に埋められていくのを実感していた。
同時に入手した周辺マップ。
ダンジョンを中心に直径一キロの円形に事細かな情報を理解する。
そして、ダンジョンが人里からどれほどの距離にあるかも理解する。
「マスター? 何故頭を抱えているのでしょう。人の街の地下だなんて、絶好の立地です。魔力塗れです。黒字確定です。喜びましょう」
右も左もわからない雛ダンジョンが街の直下にあると言うのは絶望的だ。
どう足掻いても早期討伐、討伐されずとも管理される未来しか見えない。
男はなんとか生存の道を模索するが、竜へと進化して蹂躙する以外に無いのではないかと思う。しかしそうすれば早々に討伐隊が組まれて自分諸共少女を死なせてしまう事は想像に難くない。
よって蹂躙は無し。なんなら敵対も無しだ。かと言って友好の道筋は無い……とすると、人間の街をこっそりと利用する他無い。
男は少女に問いかける。外部から魔力を得る手段を事細かに教えてくれと。
「魔力獲得手段ですか」
少女は指を一本立ててつらつらと教えてくれた。
まず第一に殺害。肉体に宿る魔力を根こそぎ獲得可能。
第二にダンジョン内での魔力発散。主に魔力を用いた魔法の残滓や、呼吸、出血、発汗、排泄など。そう言ったものに含まれる魔力の吸収が可能。
第三に、有機物無機物問わず物体を溶解吸収する事で、物に含まれる魔力を獲得可能。ただし、溶解には魔力を消費するので出費と収入が釣り合わない事もある。
喋り終えた少女は男の手を取ると、自らの頭に乗せて「むふん」と小さく笑んだ。
男は思い付いた作戦を目の前の少女の可愛さで忘れ去り、ひたすらに少女を愛でた。少女はこれでもかと愛でられて終始ご満悦と言った様子を見せていた。
男のかわいがり欲求が落ち着いた後、苦しみながら忘れてしまった作戦を思い出し、この作戦は可能かと少女に問いかける。
「可能ですが……それがダンジョンのする事なのですか? マスターは人類の味方なのですか?」
少女からの冷え切った目を向けられ、どん引いた様子に心を抉られながらも、男はやはり生存こそが唯一にして無二のダンジョンの働き方だと述べる。
ダンジョンが魔力を獲得しない事には星に返還できない。
こんなひよっこダンジョンが死んでも放出される魔力は微々たるもの。
人の街の下で死ねば、人類に良い影響を与えてしまう可能生も高い。
よって、当ダンジョンは生存に重きを置き、あの手この手で魔力を蓄え、いつの日か叛旗を翻すのだと少女に朗々と語った。
少女の反応や如何に。
「………………マスター……天才ですっ。言われてみればその通りかもですっ。マスター凄いですっ」
少女がまたも瞳を輝かせてマスター上げをしてくれた。
男は面接のために自己PRを練習して良かったと本気で思った。
そうと決まれば早速行動だ。
少女に保有魔力と地上までダンジョンを伸ばすのに必要な魔力を聞く。
「現在ダンジョンは初期費用である十万の魔力を所持。異空間では無く、現実のダンジョンの支配領域拡張は少々費用が嵩張りますので、縦横高さ一メートルの支配領域拡張につき十の魔力を消費します」
地上までは百メートル程の距離。であれば、十を百倍して千の魔力を消費する……のだが、これは最短最小限の話。
男は先程得た地上のマップを確認しながら少女と経路の確認をし、調整の後、実行。
「要求承認。作戦を実行します。目的地、人の街の“ゴミ集積場”。消費魔力は千五百。………………実行完了。ゴミ集積場表面までの空間をダンジョン支配下に置くことに成功しました」
上の街はそこそこ大きい。つまり、それだけ多くの人が住んで生きている。つまりつまり、発生する汚物やゴミの量は比例して増大する。
前の世界でもそうだったが、この異世界でもゴミの処理は大きな問題となっているらしい。
街の外壁沿いに作られたゴミの集積場は、日に日に山を作り、ゴミの焼却係は対応し切れていなかった。
ならばそのゴミ、こちらで貰い受けてやろうじゃないか。
次いで男は命じる。
「要求承認。支配領域に接触している十キロの物体の溶解開始。……終了まで一分。…………溶解、並びに吸収完了。溶解魔力費用……五。獲得魔力量……十。マスター、初めての魔力獲得です。おめでとうございますっ」
収支は僅か五の魔力。しかし安全かつ確実な成長を見込める。じっくり、ゆっくり、このダンジョンは成長し続けるのだ。
男は、ここでようやく自らの新たな名前を決めた。
そして決めた名前を少女に伝える。
「シゲン。マスターシゲン。良いお名前です、マスターシゲン。……ん? 呼び方はマスターのままで、ですか? わかりました。では、マスターとお呼びします」
男はさらにもう一つ名前を少女に伝える。
「マテリア? 登録出来る名前は一つのみなのですが……えっ」
男は困惑する少女に君の名前だよと告げる。
少女は“マテリア”と言う言葉を小さく何度も噛み締めるように呟くと、胸元で小さく両の手を握り締めた。
「マテリア……はい。私は、マテリア。マスターシゲンのダンジョンコア、マテリアですっ!」
こうして、シゲンとマテリアの細々としたダンジョン運営が始まった。
プロローグ終わり。
つまり一章が始まるざますよ。いくでがんす。ふんがー。