※この作品はR-18です。

ゴミのダンジョンマスター   作:上り坂は下り坂

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3話 ゴミ程度のヒト

 

 モノと別れた後、玉座に戻って現実の侵攻を取りやめたシゲンは、探査による物体スキャンで値引きされた生成可能物品があるかをマテリアに確認していた。

 

「岩、砂、樹木、薬草、キノコ、鉄などの鉱石。砂金などの粒状の稀少鉱石。大理石、石英……パッとした物はありませんね。粒の鉱石はどう考えても利用価値がありませんし、生成レートが一粒最低百っておかしいです!」

 

 マテリアが膨らませたほっぺを指で押し潰す。

 この遊びが気に入ったのかきゃっきゃとほっぺを膨らますのでまた潰す。

 

 シゲンとしては、異世界にどんな鉱物があって、どんな植生で、何が何に利用出来るかを学べる良い機会だった。

 薬草だとか毒草を本棚から取り出した図鑑と見比べながら確認。ポーションの元になっている物や、毒液に使える物、転じて異世界の麻痺毒、睡眠毒、幻覚作用のあるキノコや、興奮作用のあるキノコなど。

 

 液体でさえあれば手札に出来るシゲンにとっては有意義な情報だった。マテリアにもそのことを説明すれば、すぐに納得して薬学や錬金術の参考書などを生成してくれた。

 

「あ。マスター今、もっとホムンクルスを増やして特化した技術を持たせた子達を育てようとか思いませんでしたか?」

 

 思ったけど正確に当てられすぎて笑えないシゲンだった。

 

 と、その時、玉座の間に繋がる扉が叩かれる。

 モニターで見るとモノが訪ねて来ていた。マテリアに言って扉を遠隔で開けさせると、美しい一礼を見せたモノがおずおずとやってくる。

 

「その……魔力が……ですわね」

 

 すっかり失念していた二人。取り敢えずもっかい進化させておくかと、六千の魔力を使用して、彼女の魔力容量を一千程度にまで深くする。

 そしてシゲンが一千の魔力をモノを抱き寄せ、頭を撫で、額を合わせながら注入していく……。

 

「はわ、はわわ……あわわわわわわっ……きゅぅ……」

 

 ……のだが、モノが真っ赤になって一時気を失ってしまった。

 シゲンはユニが効率が良いと教えてくれた慣れたやり方でモノに魔力を注いだだけなのに。

 

「マスター……あれはユニの方便だった様です。ただでさえ魔物は弱肉強食な世界。百万以上の魔力を用いて進化して来たマスターに愛でられながら魔力を注入されるのは、生まれたばかりのモノには些か刺激的過ぎたのでしょうね……ふーんだ」

 

 理解はしたが、現状の救いにはならない。

 モノの頬をペチペチと叩いて起こすと、モノは再度顔を真っ赤にしてその場で平伏してしまった。

 

「意識を飛ばすどころか、お手間まで掛けさせてしまい、大変申し訳ございません!!!!」

 

 シゲンは落ち着いてモノの顔を上げさせ、このダンジョンの運営の仕方や此処に暮らす者達との関係性を伝える。

 

「皆んな仲良く……ですか? それは、私とシゲン様でも……?」

 

 こくりと頷くシゲンを見て、モノは深い尊敬を抱くと共に、先輩ホムンクルスの強かさに感謝した。

 直ぐに立ち上がり、満タンまで注がれた魔力で高い身体性能を発揮しながらモノは先ずは使命をこなしますわと元気いっぱいに駆け出していったのだった。

 

 

◆

 

 

「……え。あれ。……わた、し。犯されて……草? 川、空……洞窟じゃ、無い?」

「ようやく目覚めたのですね。おそよーございますわ」

 

 ようやく起きた一人目の女。見目の良いエルフの女性は、月の様に美しくも存在感のある人を見て感覚的に察する。

 

「あ、ああっ、ありがとうございます! ありがとうございます!!」

「ん? ああ、そういう。……助けたのは私ではございません。私の主です。性被害に遭われた様なので、殿方である主は席を外してくれているのですわ」

 

 モノの説明を聞いて、女性は思い出す。

 口も膣も尻も犯されていた所、唐突に地面が割れて落下。水のようなものに包まれて……その直後から記憶が曖昧だ。けれど、盗賊とは違う男の背中を見た様な気がする。

 

 女性は思い出したその上でそれでも大きく頭を下げ、嗚咽を漏らしながら感謝を告げた。

 モノは膝を突いて背中を摩り、暫し女性に寄り添った。

 

 程なくして他九名も目覚め、大なり小なり似た反応を見せる。

 怖がる彼女達に此処はもう安全で盗賊達は皆死んだ事を説明したモノは、着ている衣服や身体に汚れが無いかを確認させた。

 

 自分の状態や周囲の環境を再確認した女達はやっと落ち着きを取り戻すと、安心からか空腹を覚えたようだった。

 モノは近くに作られた平屋へと全員を誘導すると、消化しやすい食事を大鍋で作り、近くにあったポーションを浴びた果物を切り分けて提供していく。

 

 腹を満たした安心感で再度眠りについた七人の女と、三人の子ども。

 子どもは母親の人質として確保されていた様だ。

 母の腕に抱かれてベッドで眠る子ども達は、皆うっすらと涙の痕を頬に残していた。

 

「にしても、この者達をどう扱う予定なのでしょう。いまいち利用価値が見出せませんね……肥え太らせて魔物の餌? それとも鍛え上げて魔力を搾り取る? 男は少年とシゲン様のみなので繁殖も効率的には思えません」

 

 シゲンとマテリアだって考えていない。マテリアが不愉快だからと殺し、哀れんで保護しただけ。

 今のマテリアダンジョンにとってこの程度の数の人間を養う事は苦では無いが、かと言ってそれにメリットはあまり無い。

 モノは思考を回すが、やはり人間を保護する意味を見出せずにいた。

 

 

 

 翌朝。

 ポーションフルーツで身体は回復しただろうと考え、一般人並みの朝食をシステマチックな厨房で作っていたモノ。

 そんな彼女の後ろから近付いてきたのは、昨日一番に目を覚ましたエルフの女性。

 

「あの……モノさん。相談というか、質問があるのですが」

 

 恐る恐ると言った様子の彼女は、長い耳を揺らしていた。

 モノが手を止めずに包丁がまな板を叩く音が続く中、先を促す。

 

「ここ、多分ダンジョンですよね。もしかしてモノさんの主はダンジョンマスター、ですか? そしてモノさんは……ホムンクルス」

 

 手を止めたモノ。唐突な静寂と、モノの鋭い視線がエルフを貫く。

 

「ご明察です。主より、バレても隠す必要は無いと言われていますの。無理に明かす必要も無いと言われていましたが。参考までに、何故お気づきに?」

「……魔力が。漂う魔力が無いので」

「ありがとうございます。勉強になりましたわ。それで、貴方はどうなさりたいですか? 外に出たいですか? それとも、戦いますか?」

 

 モノが持っていた包丁を手で回す。

 鈍い輝きにエルフは小さく悲鳴を漏らすが、反抗の意思は無いと両手を上げた。

 

 力も無い、武器も無い。助けられ、寝床も食事も与えられ、その上で寝首をかこうだなんて思わない。

 エルフはただ確認したかっただけ。そして手伝いがしたかっただけだと言う。せめて食事の用意くらいは、と。

 

「……そうですか。では、スープをお願い出来ますか? そちらの冷蔵庫に野菜や肉はある程度入っているので。ご自由にお使い下さい」

「れいぞう……? えと、分かりました!」

 

 エルフは慣れない厨房の扱いに困惑し、結局モノに世話を焼かれながらも並んで厨房に立つ。しかしそんな姿を見て、犬獣人の女三人も、人間の母親三人も、少しだけモノと距離を縮めた。

 子ども達は本能的にモノを怖がっていたが、転げそうになったり怪我をしそうな時にいつも助けてくれるモノに次第に絆されていった。

 

「人間……面倒ですわね」

 

 当の本人にそんな気はさらさら無いと言うのに。

 

 

 

 三日目。モノは十人を連れて玉座の間へと向かう。

 許可を得てダンジョン最奥へと足を踏み入れた女達は、揃って恐れ慄いた。シゲンと言う名の男が内包する力に。

 しかしあの状況から助け出してくれた相手を怖がるなどあり得ない。胆力のあるエルフは皆より一歩前に出て、跪く。

 

「シゲン様……この度は助けて頂きありがとうございます。私共に差し出せるものがあれば……命以外であれば、喜んで——へ?」

 

 やたら重い空気に耐えかねたシゲンが軽い調子で声をかける。

 

「なりゆき……? 帰りたかったら言って? 此処のことは秘密……?

え、えと、あの……はい……え? はい」

 

 フランク過ぎる声と言葉にエルフの女は固まる。思ってたのと違う、と。

 マテリアを玉座に置いて一人下りて来たシゲンは、エルフの手を取るとそのまま引き上げ、立たせる。

 少し震えている手に気付いたシゲンは、優しく握手をして心の傷をゆっくり癒すといいと言う。そして良ければ一つお願いがあるとも。

 

「な、なんなりと!! ……え、耳ですか? 私の? その、優しくして頂けるなら……。んっ……ぁっ……あ、中まで……んうぅぅ……」

 

 シゲンはエルフ耳を堪能した。人より大きい軟骨をコリコリと撫で、耳の内側に指の腹で触れる。耳の裏まで丹念に手触りを楽しんだ。

 

 流れで犬獣人の女達のピンと立った耳、垂れた耳、中程で前に折れた耳を撫でまくり、最後にありがとうと頭をぽんと撫でる。

 

「わふっ」

「きゅぅん」

「よんっ」

 

 異世界を堪能した異世界の男は、御満悦と言った表情で玉座に戻る。

 そして幾つか話をした後、十人の女達は与えられた住居まで二キロ半の距離を歩いて帰った。

 

 結局、誰一人ダンジョンの外へと出る事を選ばず、この楽園の様な場所に囚われる事を選んだのだ。

 シゲンはそれを許した。そしてどうでも良いと思っていた。毒にも薬にもならない。成長の余地や可能性はあれど大きく期待などしていない。

 現実を見据えるからこそ八方美人を選ぶシゲンには、誰も彼も平等に敵でしか無いのだから。

 

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