※この作品はR-18です。

ゴミのダンジョンマスター   作:上り坂は下り坂

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8話 液体バリエーションと進化

 

 ここ最近、人間達のモチベーションがとても高い。

 孤児三人は元より、ニルナルやケイナ、オルエラ、カルメの三人が現在燃えに燃えている。

 

 残りの六人である母親とその子どもは、良い意味で自分のペースを貫いていた。布を与えれば、生成ラインナップには無い異世界のお洒落衣服を作ってくれて、果物を干してドライフルーツなどの保存食を作ってもくれている。

 

 彼女達は彼女達でダンジョン内の生活を豊かにしてくれていた。

 

 そう。なんと言うか。

 

「なんと言うか……」

 

 思った以上に。

 

「想像以上に……」

 

 人間は健やかに生きている。

 

「ダンジョンとしての価値観が揺らぎます……ますたぁ、どうしましょぉ」

 

 力無く寄りかかって来るマテリアを服の内側に突っ込んで同じ首穴から顔を出して身体をホールドする。

 

「むほ」

 

 可愛くないマテリアが出た。

 

「……ヒトは、マテリア達にとってのゴミにも満たない存在だと思っていました。自然を荒らし、生態系を壊し、星を弱める百害あって一利なしの存在だ、と。……ですが、違うみたいです。文化を生み、自然と寄り添い生きる事だって出来る。……今のマテリアは、無差別な人間の排除を望めません」

 

 それはダンジョンには相応しく無い思考だ。

 それは、いつか自らの首を絞めかねない。

 本能に逆らう想いに葛藤するマテリアを、シゲンは支えるように抱き締める。

 

「たくさん悩もう……ですか。はい、そうします。……殺しやすい人間もたくさん居る……そうですね。盗賊のような人種も居るのですよね」

 

 殺す命を選ぶ……なんて傲岸不遜で烏滸がましい事なのだろう。

 けれど、ダンジョンは人を殺す存在にして、人が殺しにくる存在。ならば選別する権利だってこちらにはあって然るべきだ。

 

 シゲンはマテリアに寄り添いながら、共に沢山の人を見て学んでいこうと告げる。

 沢山話し合って、沢山悩んで、沢山生かして、沢山殺すのだ。

 だって自分達は……ダンジョンなのだから。

 

「……んんんんっ! マスターーー!! 好き〜〜〜!!」

 

 突然叫び出したマテリアが反転して唇をうーっと突き出す。

 シゲンは勿論それに応えて唇を触れさせた。

 

「んへへへへ。マスターがマスターで良かったですっ! マテリアはコアなのに、生きている事を喜びます。マスターと共に過ごす時間を噛み締めています。きっとコアらしくは無いのでしょうが、マテリアは今のマテリアが好ましいと、そう強く思うのです!」

 

 彼女の緩み切った顔には、とても美しい澄んだ瞳が輝いていた。

 誰よりも何よりも美しいその瞳には、今シゲンだけが映っている。その事実がたまらなく嬉しくて、彼女とこれからも生きていく為にやれる事をやっておきたいと胸が熱くなる。

 

 マテリアを服から出し、情熱的なキスをする。

 

「んっ……まふたぁ……んちゅぅ、ちゅぴ、れろぁ……まふたぁ〜!」

 

 そしてキスを終えたら玉座から降りて、玉座の間で遊ぶ時によく使っているちゃぶ台を置く。本棚からは錬金や調薬、薬や植物図鑑をどさっと山積みにしていく。

 

「ふぇ。あの、マスター。今の流れはイチャラブえっちの流れなのでは……? 今日もお腹いっぱい繋がりっぱなしのえっち……置いてかないでますたぁぁ……!!」

 

 一人玉座に置かれたマテリアは、シゲンの背を追って駆け出す。

 そしてシゲンはそんなマテリアとの暮らしを守る為に、自らの武器を増やすべく勉強を始めた。

 

 

 

 マテリアが生成可能な本と言うのは、基本的には探査範囲に一度でも収めたものか、ダンジョン内に持ち込まれたもののみ。

 現在のダンジョンの探査範囲はロスの街全域、隣の領地であるヴィロードの街へと続く宿場町三つ、そしてその間にある中小規模の村や町。

 特に宿場町は、ロスの街への観光客や、ロスでの商売を求めて多くの商隊が行き交う為、意外と得られる知識や本は豊富なのだ。

 

 中にはとんでもない逸品が混ざっている事もあるのだが、マテリアは知識の重要性を知った際に片っ端から本を生成した為に、まだ読まれていない所謂積み本が山のようにある状態だった。

 

 暇な時にモノやユニと読んでは重要な記述のあるページに付箋を貼らせたり、メモ書きに残す様に言ってはいるのだが、如何せん四人では処理が追いつかないのが現状だ。

 

 そんな山のような本だが、シゲンは最初にクソデカため息を吐きながらも本棚を生成させて大まかなジャンル分けとシリーズ分けだけはしておいた。

 お陰でテキパキと今読みたい本をシゲンは選べている訳だ。

 

「マスターは、液体操作で作れる液体の種類を増やしたいのですか?」

 

 肯定を返しながらも本を読む手を止めず、気になるページにはしっかりと付箋を貼っていくシゲン。

 

「それなら、ポーションの時のように生成しましょうか? 少し費用が嵩みますが、現在保有する魔力は四百万。ある程度のものは生成可能かと」

 

 …………シゲンは本をぱたんと閉じ、背中に乗っかっていたマテリアを改めて胡座の上に乗せる。

 そして先ほどまで読んでいた本をもう一度開き、生成可能かどうかを調べ直していくのだった。

 

 

 

 ……三時間後。

 そこそこ時間を有したが、無事、生成可能か不可かの判別は終えた。

 現在読破した限りでは、大体半々と言ったところか。

 

「驚きです。安易な生成を許さない程の品がこんなにも……! 人間恐るべし……!」

 

 安易に生成出来ちゃうコアの方が恐ろしいのだが、さておき許されるショートカットがあるのなら多用したいのがシゲンだ。

 

 楽を許さないと言う思考は受け入れ難い。効率は大事。作業環境も大事。モチベーションを落とさない事こそが成長への一番の近道。好きこそものの上手なれ、なのだ。

 

「では、一つずつ生成してはラベリングとカテゴライズを行っていきましょうか!」

 

 ————仕分けること一時間。

 

 気付けば太陽が中天に昇っていた。

 

 丁度ユニとモノが食事を取るかどうかを聞きにきたが、玉座の間の惨状を見て『お片付けしてからいらして下さいね』と、怒ったかーちゃんのような声音でユニがピシャリと言い放った。

 モノは「気長にお待ちしておりますわ〜」と全く期待していない顔で笑っていた。

 

「不服ですー! マスターの強化の為なのにー!」

 

 まあまあと荒ぶるマテリアを嗜め、シゲンが仕分けた瓶を片っ端から開けてはちびちびと毒やら薬やらを飲み、体液操作で生成していく。

 

 何度も痺れ、呼吸困難に陥り、身体が薄く紫になったり、眠くなったり、焼け爛れる事もあったが、進化した身体は伊達ではない。

 痛みに少し耐性が付き、自己治癒能力もそこそこ、ダンジョンマスターになってからは呼吸も必要としないので呼吸困難はパニックにならなければ大きな問題も無い。

 

 他には、ポーションの上位互換であるハイポーションや、エクストラポーション、さらに上のアルカナムと言う最上位のポーションも手に入れた。

 他に状態異常回復系のキュアポーションやハイキュアポーション。最上位のパナケアと言う状態異常回復ポーションも。

 

 伝説の薬品の中には、異世界定番のエリクサーがあるようだが、どうやらこちらでも御伽話レベル。

 製法も失伝し、必要な素材すら分からないらしいが、不老不死となると言うことだけは分かっているらしい。

 

 シゲンはなんとなく思い浮かんだ嫌な想像を頭を振って振り払う。

 今ある薬の名前や効果の程をメモ帳に書き殴り、無事今ある限り全ての薬の模倣を完了した。

 

 薬の質が良くなればなるほど、シゲンが消耗する魔力が跳ね上がるが、それに見合う効力をしていると言うことだけはよく分かっている。

 

 薬の瓶や本などを片し終えた頃、シゲンはマテリアに頼んで魔力容量に追加で五十万を注ぎ込んで進化を促す。

 シゲンの魔力容量は四万ほどから大きく伸び、十二万を超えた。

 

 だがここからが地味に大変だ。膨大な魔力を生み出すには対価が必要。

 地上で暮らす生物ならば空気中の魔力を吸い込んだり、食事によるエネルギーで生成するのだろうが、ダンジョン内では空気中の魔力が無い。

 ならば何から得るか、食事以外には無いのだ。

 

 特にポーションぶっかけ果実は魔力回復速度が上がる。

 一つの木に掛ければ成っている実の全てに影響が出る。更にはある程度の期間は効力を発揮する特別な木になるのだ。

 

 シゲンはこれをおやつ代わりによく食べていたお陰で魔力に困ったことは無かった。

 しかし、これ程までに膨れ上がった魔力容量を埋める為にはおやつだけでは足りないかもしれない。

 

 果物漬け生活の始まりに悪寒を走らせるシゲンだったが、ここでマテリアが思いつく。

 

「マスター。ハイポーションやエクストラポーション。あと、アルカナム、でしたっけ。それらを作って撒いてみればより高い魔力回復力を得られる可能性があります」

 

 うちの子は天才だとマテリアを振り回し、顔中に慈愛のキッスをしまくったシゲン。

 さておき、先ずはご飯だ〜と歩き出したシゲンだったが、マテリアが未開封の小瓶に気付く。

 

「あの、マスター? ラベルの無いものがあるのですが……?」

 

 マテリアが持ち上げたそれらは、シゲンが敢えてラベリングしなかったもの達だ。

 一つはトロリと粘度のあるもの。

 一つはピンク色の水。

 一つは乳白色の水。

 そして最後の一つは黒ずんだ水。

 

 シゲンはマテリアにそれらをゆっくりと置けと言う。

 危険物と判断したんだと、これでもかと大層真面目な顔で言った。

 

 当然、普段見せないその反応を訝しんだマテリアが言う事を聞くはずも無く。

 

「危ないなら尚更ラベリングしますよねぇ? 名前を伏せたと言うことは、マテリアに見せたく無いナニか、でしょ? マスターが飲むか、マテリアが飲むか、選んで下さい……ふふふふふ」

 

 ジリジリと四つの小瓶を持ってにじり寄るマテリア。

 同じスピードで下がるシゲンだったが、壁際に追いやられ、観念する。

 

 一つは飲み物では無く、一つは男が飲む物、二つは女が飲む物、なので、後者三つは飲んで生成可能かを試すが…………。

 

 シゲンが言葉を止めてマテリアを見つめる。

 

「な、なんですか……? マテリアに何を求めているのですか?」

 

 シゲンはマテリアの手を取って引き寄せ、ようやく続きを言った。

 

「とことん付き合え……? えと、はい。それはもちろん。なんと言ってもマスターのマテリア。マテリアのマスターですからねっ! ふふん!」

 

 ふっと笑ったシゲンは、とても優しい顔をしていた。

 

 

 

 その日、玉座の間にマテリアの悲鳴にも似た声が響き渡る事になる。

 見た事が無い程にぐちょぐちょのどろどろになった玉座を見れば何があったか言わずもがな。

 それから暫くの間、マテリアはシゲンの側を片時も離れる事が無かったと言う。

 





ラベル無しは、ローション、媚薬、母乳分泌促進薬、精力剤。
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