ユイの作ってくれた百足装備によって統一感の増したシゲン一行。
うちの職人曰く、出来れば鎧の下に着る厚手の衣服や、装備が覆えない場所をジャケットやコートなどでもっと万全にしたいとのこと。
有り難い心配りだ。
「いち職人としても、配下としても、当然なんだゾ?」
シゲンはユイをもう一度褒め倒した。ユイはくすぐったそうに受け入れてくれた。
その後、改めてユイが皆んなの装備を作ってくれたぞーっと大きな声で呼び掛ける。
大興奮な様子の子ども達。
ユイに装備を着せてやるように指示を出したシゲンは、マテリアと共にユニとモノの後ろに控える。
ユイの作った武器は性能がとても良かったので、その警戒の為だ。
「ふぉぉおおおお! にーちゃん! 見てくれー! 格好良くね!? 俺格好良くね!? 冒険者っぽいかな!」
装備を着て見せてくるウィークに、シゲンはウィーク用にと作られた剣を持たせ、構えさせる。
ポージングに指示を出し、躍動感ある状態でサムズアップ。
ムカデの黒い甲殻を使っているのでイメージは暗黒騎士や暗黒剣士。色んな意味でウィークの年頃にはぶっ刺さるデザインなのだろうと、シゲンは優しく見守った。
「シゲン様……これでは護衛の意味が」
「こういうお人柄だと受け入れるしかありませんわね。ダンジョンマスターの“人柄”とは如何にと言ったところですが」
後ろからのお小言に耳をなん度も叩きながらあーあーと声に出すシゲンを優しく見守るユニとモノ。
男の子と言う物は、例え異世界に行ってもダンジョンマスターになっても男の子なのだろう。
そこに母親三人が合流すると、その手には厚手の衣服が沢山。
採寸した情報を元に、鎧下を作ってくれたようだ。
ウィークにこれを着せてから装備をつけさせると、本人は服で暑いだのと文句たらたら。だがこれが無いと防具越しに殴られた時に衝撃をモロに食らってしまう。
必要な物だと説明すれば納得してくれたウィークは良いやつだ。
「んー……それなら、防具の内側にだけ鎧下を貼っつけるのもありかなぁ? 衝撃を吸収してくれる魔物素材とかあったら良かったんだけど、生憎と無いんだゾ」
そう言えば、と。シゲンが少し前に確保していた第六進化体の素材を持ってくる。
シゲンの操る水に包まれて運ばれてきたそれは、巨大なゲル状の物体。
これはゴミ穴に発生し、生き延びた珍しいスライム個体の進化体。人型スライムへの夢を諦め、泣く泣くシゲンは討伐した。
図鑑によると名前は……。
「まさか!? これって『貪食する無形』なんだゾ!? スライム系の魔物で、物理攻撃が一切効かないだとか、魔法も食べられるだとか書かれてる!」
思い出して見ればそうだった気もするシゲン。
酸以外での戦闘も出来ないとな〜と言う思い付きで、水だけで討伐したのだが。
言われて見れば、大質量の水を落としてもへっちゃら、高水圧の水で穴を空けても無問題。
どでかい図体でゴミを溶かし喰う同業者と言う事が発覚してからは、スライムの全身を包み込んで水圧を上げる事で、体内深くにあったスライムの核をスライムの体で潰すと言う方法を取ったのだ。
「これは耐衝撃性能抜牛ン! 直ぐに装備に組み込むんだゾぉぉぉぉ!!!!」
皆が来ていた装備をスルスルと脱がせて回収したユイは、玉座の間へと走り去っていった。
そして数秒後に戻ってくると、母親達にふかぁく頭を下げた。
「折角、鎧下を作ってもらったのにごめんなんだゾ! このお詫びは必ずするからぁ……!」
テティが子どもを慰めるようにユイの頭を撫でてくれていた。
アマリアやコーネルも口では励ましてくれているが、彼女達の傷付いた手を見てじっとしていられるシゲンでは無かった。
シゲンもまた三人に軽く頭を下げる。
装備を作るように言ったのは自分なのだから、謝罪する責は自分にもある。また、その労力に報いる為に、叶えられる範囲で願いを聞く。
皆の前でシゲンはそう告げた。
「……ふふ。そう? じゃあ色々考えて置きますね!」
「いやー、私らの努力に見合うものって言ったら何だろうねぇ? 楽しみだなー!」
「貴方と言う人は……ダンジョンマスターさんがそんなに優しく良いのですか? うふふっ、私達にはとても好ましいですけれどっ」
ユニとモノに小言を言われるのは覚悟の上。ユイが感じている罪悪感も後でフォローする。
配下の功績は配下のもの。
配下の失敗は主のもの。
ダンジョンマスターであり、就活を終えたばかりだったブラック企業アンチがシゲン。責任を取れるマスターで在りたいのだ。
マテリアだけは小さくため息を吐きつつも、その顔には優しい笑みを浮かべていた。
それからまた少し経って、ユイが装備を持って出てきた。
装備の内側に何層も重ねるようにスライムの膜が張られており、装備のフィット感や着心地が更に増していた。
「旦那の世界の書籍から得た、ラミネートって技術を使ったんだぁ! スライム層が一層ずつ衝撃を吸収して、着用者に掛かる負荷がめちゃんこ軽くなっちゃったんだゾ!」
シゲンは装備を着た上でユイに強めに殴らせる。
八万戦闘力の全力を受け切ると断言したユイの身体性能は十万。
自信あり気な顔でニヤリと笑ったユイが助走をつけて装備越しに殴りつけるっ!
「いっひひ〜! 凄いだろう! 殴られたかどうかも分かんないって顔してるゾ旦那ぁ!」
こりゃあすげえや。そんな言葉が自然と漏れた。
シゲンは自分でも何度か殴ってみるが、不思議なくらいに衝撃が緩和されている。
主がすっかりお気に召した様子を見てユイは頬を緩めると、改めてシゲンに対して跪いた。
「……シゲン様に頭を下げさせてしまった事、大変申し訳御座いませんでした。人間への借りも作らせてしまいました。ユイは、今回の事を一生忘れません。生涯最大の恥として肝に刻み込んでいきます」
堅気じゃ無い人みたいな堅苦しさに息が詰まる。
シゲンはまたしても玉座を下りて、ユイの前で膝を折る。
あれが自分のやり方だから。失敗は何度でもして欲しい。何度でも学びを得て欲しい。その尻拭いをするのもマスターの務めだと言い張る。
ユイの手を握り、顔を上げさせ抱擁する。
「だんな…………ユイは……ユイは……」
失敗は恥では無い。迷惑は掛けて当然。人間への借りとは言うが、ダンジョンマスターの性処理を進んでやってくれるような人間への借りだ。
どれもシゲンにとって大した事では無い。
怖いのはユイが自分に厳しい方向へと変わってしまう事。
だから今の素直で明るく分け隔てのないユイをユイから守る為に、シゲンは膝を汚すのだ。
「マスターの女誑し……ふふ」
マテリアはそんなマスターの背中と、わんわん涙を流すユイを見て微笑むのだった。
その後、また皆を呼び出して装備を配布していく。
前回との違いに大興奮するウィーク。
母親達もこれなら納得だと頷きつつ、シゲンに流し目。
マテリアがふしゃーっと威嚇するも、可愛がられるのみ。
ルルやピークもお気に召した様子。
ニルナルは走り回ったり弓を引く動きをしながら身体の動きを阻害しない防具に驚く。
ケイナ、オルエラ、カルメの犬娘三人組はあまりの衝撃吸収性能を面白がってその場で前に倒れるなどして遊んでいた。
娘三人も凄い凄いと喜んではウィークに見せつけている。当のウィークは自分を見せたかったようだが、褒め言葉を探しておくのはモテ男の運命なのだ、ウィークよ。
一頻り遊んだら、次は訓練に移る。
前回は防具無しで武器を扱うには危険と判断したが、今回はどっちもアリだ。
訓練部屋へと移動して、ユニやモノ相手に人間達に一人づつ戦って貰ったのだが……。
戦闘力の向上具合が凄まじい。
まず防御性能が上がった事で、並大抵の攻撃では沈まない。どころかあえて攻撃を胸や腕など百足鎧で受ける事で攻撃のチャンスを作る動きを見せている。
特にウィークの剣と盾を用いた堅実な戦い方には目を瞠るものがあり、魔力の循環によって発動する身体強化でユニと結構な時間打ち合っていた。
次点でピーク。彼女は槍と火と水魔法を扱うのだが、槍捌きの澱みが日に日に減っていく。絶えず流動する槍捌きは相当に格好良く、シゲンは槍の両端にペンライトをつけて振り回して欲しいと思った。
ニルナルは立ち回りが安定しており、ルルは魔法の腕が目に見えて分かる程に成長していた。犬娘達は高い運動能力で何度かユイ達の背後を取ることも。
母親三人は基本遠距離の弓を訓練していたのだが、魔法を纏った矢を放てるようになっていた。百足弓と百足矢を使った際には、爆発やら閃光などですんごい事に。どう言った経緯でこんなに伸びているのか不思議だ。
娘三人はここにきて日が浅く人生経験も浅い為に実力はまだまだ未熟。防具は兎も角、武器を持たせるのは危険だと言う事で途中で回収だ。
「もう少し短剣の扱いを練習しましょうか、コスモ」
「ゾーラもコスモちゃんと一緒にやんなよね。こうして安全に過ごせるうちに色々身に付けな!」
「ナンナは魔法が好きみたいですが、短剣の扱いは知っていて損はありません。頑張りましょう?」
母親達に説得とお叱りを受けて、その場は半泣きで収まった。
シゲンは何となく借りをもう一つ増やした様な、そんな居心地の悪さに見舞われた。
ともあれ、第六進化体装備による人間達の戦闘力の上昇具合。加えてアルカナムフルーツを毎日定めた量以下で食べる事による成長速度も見えた。
ここ数日は発散魔力による魔力獲得もバカにできない数値になってきているので、これからも継続して人間を鍛える事を決めたシゲン達。
「一つ懸念が。……このまま強くなられては、いざと言う時に抑え込めなくなってしまいます」
「ですわね。幾ら装備をこちらで管理するとしても、アルカナムフルーツによる成長速度の上昇具合には危機感を覚えますわ。私達の強化か、配下の新たな生成をお考えくださいまし、シゲン様」
「ユイも今はまだ勝てるだろうけどぉ、いつかは越されるって分かるんだゾ」
マテリアは黙ってシゲンに委ねるのみ。
シゲンは玉座に腰掛けながら静かに考えこむ。そして、今暫くはこのままで行く事を決めた。
戦闘力の急な上昇は信頼を揺らがせ、配下の急増は不安をあおり、無闇に距離を取ることも関係にヒビを入れかねない。
シゲンは、彼らが抱える過去を起因とする
果たしてこれが吉と出るか凶と出るか。
それはまだ誰にも分からない。
第二章しゅーりょー。
人間達がどんどん成長していきますが、果たして獅子身中の虫となるか否か……。
また間章を数話挟んで三章に参ります!