※この作品はR-18です。

ゴミのダンジョンマスター   作:上り坂は下り坂

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3話 ゴミのような命

 

◆

 

 

 シゲンの進化によって収支が大きく上向きだしたマテリアダンジョン。

 一ヶ月で六千近くの魔力を獲得した事で、一千ほどならば魔力を星へ返還する余裕を得た。

 

 と言うのも、マテリアがこれでもかと無言のおねだりをしていたからだ。本能に刻まれた行動を行えると言うのは、マテリアにとってとても満たされる事だった。

 許可をくれたシゲンに頭を擦り付け、ルンルン気分でシゲンの腕の中に収まって魔力の返還を実行する。

 

「返還できました! むふふふんっ。優秀なマスターのお陰です! とっても嬉しいです。とっても喜ばしいですっ。マテリアは早速使命を果たす事が出来ました!」

 

 良かったねと甘やかすシゲンに喜んで甘やかされ、もっと効率を上げるべきだとシゲンにさらなる進化を要請するマテリアだったが……。

 一日に溶解出来るゴミの量の方に限りがある事を思い出し、なんともままならないとぶすっと不貞腐れてしまった。

 

 そんなマテリアもまた可愛らしいとシゲンは抱き上げてあやす。

 今日もそろそろゴミを回収する時間だ。マテリアを抱えながらシゲンは歩き出した。

 

 

 ダンジョンはここ一ヶ月で大きく拡張された。

 と言っても、玉座の部屋から伸びる道が四方に続くだけだが。道が続く先は勿論ゴミ集積場。

 上の街にある四つのゴミ集積場に対応する位置までダンジョンの支配圏を伸ばし切り、ゴミ集積場内の敷地半分くらいの範囲を支配下に置いている。

 

 これまでは一箇所だった所を、四箇所のゴミを溶解吸収出来ると言う事で、収入は四倍。一日に最大八百の魔力を得られるようになったのはごく最近の事だ。

 

 人々が寝静まる丑三つ時。ゴミの回収屋がゴミを捨てにくる前の時間。

 ダンジョンはその口をほんの少し開ける。そして街が生み出す一日分のゴミの半分程度の些細な量を落下。酷い匂いに耐えて体液をジュワッと振り撒けば終わる簡単なお仕事だ。

 

 スタスタと三箇所を回り、最後の一箇所に向けて歩いていると、肩車されていたマテリアが不思議そうに首を傾げた。

 どうしたのかとシゲンはマテリアの太ももをつんつんとつつく。

 

「生命反応です。でも、どれも弱々しく、殺す価値すらあるかどうか。保有魔力も貧弱なため、それこそゴミと同等の価値しかないですね」

 

 上は人の街。もしかするとスラム街の人間が落ちたのかもしれない。

 マテリアはナチュラルボーン人類の敵対者なだけあって、言葉選びに躊躇が無い。しかし今やダンジョンマスターであるシゲンにとってもそれはあまり大きな問題では無い。

 問題なのは生命体が捨てられていると言う状況。そして、その生命体が弱っていると言うことだ。

 

 人に捨てられたならば、ダンジョンで受け入れる事で捨てられた人を懐柔出来る可能性がある。

 殺す価値も無いのなら、救う価値があるのではないかとシゲンは肩の上に問う。

 

「救ってその先は? 人を殺させるのですか? 出来ればダンジョン内で殺し当って欲しいのですけど……」

 

 うーん、この。

 マテリアの直接的な思考に思わず苦笑いを漏らすが、とにかくまずは落ちてきた人がどんな状態かを見てから考えるべきだと思い、シゲンは足早に歩きだした。

 

 

 辿り着いたのは直上のゴミを落として溜め込む穴。

 酷い腐敗臭に鼻が曲がりそうになる……ので、勿論シゲンとマテリアは事前に鼻栓を装着済みだ。

 

「えーっと、あ。居ました。あの腐りかけの肉の上にいますよ。あれが紛れ込んだ生命体になります」

 

 マテリアが指差した場所に居たのは、ムカデ型の魔物だった。

 全長にして一メートル。結構な大きさだが、魔物としては子どもサイズのようだ。かなり気色が悪い。

 腐りかけのの肉を持ち前の顎で引きちぎってはもしゃもしゃと食うムカデ。

 他にもネズミ型の魔物などが人間の食べ残しを食べており、中には目の前で淡く発光して体格が一回り大きくなった個体もいた。

 

「え? 人間だなんて一言も言ってないのですが。弱々しい生命と貧弱な魔力でゴミ同等の価値しか無いと申し上げましたが……マスター?」

 

 鼻が詰まった声で訝しむ肩の上のマテリア。

 シゲンは頭を抱えながらも手を乱雑に振って酸性の体液をゴミの穴へと振らせる。

 ジュウジュウと音を音を立てて溶解されていくゴミを眺め、虫とは言え明確な生物を殺す様を見届けるシゲン。

 

 人と勘違いしてしまった事は事実だが、今の自分の力で魔物を殺せるのか、殺した場合の利益がどれほどなのか、知るべき事は多い。

 過ちを受け入れ、次に目を向ける。過去に囚われていてはいけないのだと、マテリアに聞こえるようにぶつぶつとシゲンは呟いた。

 

「はいはい。分かりましたよマスター。だから言い訳はもうイイワケです。くすくすっ」

 

 人間らしい情緒を獲得し始めたマテリアを見て、シゲンは優しい気持ちになった。それはそれとして少女に慰められたと言う現実がちょっぴり辛いシゲンだった。

 

 

 

 小型の魔物達は、シゲンの酸でも十分に討伐可能な存在だった。

 溶ける体に苦しみ悶え、体の三割が溶けてようやく死に絶える様はいささかショッキングだったが。

 しかし生物の死によって発散される魔力の回収は非常に大きな成果を齎していた。

 

 ムカデの死によって得た魔力は四十。体の溶解後に得た魔力は十。

 ネズミも似たようなものだったが、進化したと思しきネズミは数値が五割増しになっていたのだ。

 

 マテリアとシゲンは顔を見合わせてこれは行けると確信を得た。

 

「これより当ダンジョンは、小型魔物を飼育し、屠殺する方向へとシフトします! ゴミは資源なのですよ、マスター!」

 

 二人は話し合い、ゴミを溜め込むゴミ穴を一つの集積場の下に四つほど作った。

 系十六個の穴にゴミを割り振って落とし、その中で落下してきた小型魔物を飼育、進化させ、それをシゲンが討伐してこれまで以上の魔力を得ようと言う訳だ。

 

 管理は少々面倒になるが、一日中暇な二人にとっては大した苦では無い。

 しかし、ゴミの匂いがダンジョン内に充満するのは嫌だったので、ゴミの匂いを遮断する為の壁や扉を設けたりもした。

 後はゴミ穴の壁を登ってこれないように、ゴミ穴上部の壁をガラス張りにしてみたり。

 

 ダンジョン改築に当たって少々出費は嵩み、保有魔力が十万魔力キッカリになってはしまったが、これから見込める利益を思えば安い先行投資だ。

 二人は玉座の間にて、じゃがチップスとピザと黒いシュワシュワを魔力で生成し、それを飲み食いして遊びながら時を待った。

 

 

 

 改築してから数日後。

 

「マスターマスター! どうやら既に多くの魔物が一段階の進化を経ている様子! 討伐なさいますか? ヤっちゃいますか?」

 

 興奮した様子で膝の上ではしゃぐマテリアは、チェスでシゲンに十連勝中。げっそりとしたシゲンは一先ず映像が見たいと言う。

 

 それに応え、マテリアは目の前にカメラ映像の様な定点モニターを表示した。十六箇所のゴミ穴にて、紛れ込んだ魔物達が徐々に大きくなっている。

 モニター越しに今この瞬間進化している個体も居たくらいだ。

 

 シゲンは純粋な疑問を口にする。

 

「どうしてこんなに進化が早いのか、ですか。おそらくですが、彼らが生まれたばかり、そして最弱の個体に近いからでしょう。そして一番大きい要因は、あそこに捨てられている食べ物類は、近辺の川や森に棲息するある程度強力な魔物の肉。中に残る魔力だけでも彼らは進化に足るエネルギーを得られると言う訳ですね」

 

 マテリアの解説に納得したシゲンは、早くも二度の進化を経た魔物が存在するゴミ穴へと向かった。

 

 そこではムカデ型魔物が二メートル程のサイズとなってゴミ山の頂点でとぐろを巻いていた。

 シゲン達の姿に気付くと威嚇し、毒液を飛ばしてくる。

 シゲンは指先から水を放出してその毒液を撃ち落とした。

 

「攻撃されるのは面倒ですね」

 

 同意を示したシゲンは、酸の飛沫をゴミ穴に振らせる。小賢しくも避けるムカデだったが、何度も降り頻る酸の一滴の雨に体が触れてしまった。

 千の魔力で得た能力は尋常では無い。侵蝕酸に最も長く悶えながら、中型魔物へと成ったムカデは息絶えた。

 

「後で消費した分の体液を補充しましょう、マスター」

 

 シゲンは頷き、後はマテリアに任せる。

 二段階目まで進化した個体であれば、比較的安全に対処可能と分かった。

 これからは二段進化個体が発生したゴミ穴を丸ごと溶かすと言う方針を固めた二人は、ゴミが溶け切るのを玉座に座って待った。

 

 

 第二進化ムカデの死亡によって発散された魔力は二百弱。死骸の溶解によって獲得した魔力は四十となった。

 その他、一段進化魔物や、無進化魔物、ただのゴミから発生する魔力を含めると、総獲得魔力は優に五百を超える。

 

 十六ある内の一つの穴で、三日ほど待機して得たものがこの結果だ。

 

 当然玉座の間はパーティ会場になった。

 ちょっぴり魔力を使って折り紙と糊とテープを作り出し、細く切った折り紙で輪っかを作って繋げて壁に飾る。

 玉座の間の高い背もたれには『ダンジョン躍進記念日』と書かれた垂れ幕がかかっていた。

 

「マスター凄いです! やったです! わーーいっ」

 

 二人で玉座の間を駆け回り、マテリアを肩車して駆け回り、マテリアを頭上へと持ち上げて両手を広げさせて飛行機のようにしながら駆け回る。

 

 流石に飛行機はちょっと怖かったのか涙目になったマテリアを慰めるなどの事もあったが、基本的には大成功だ。

 

「ロスの街……あれだけ魔物肉のゴミがあれば内部に魔力溜まりが出来て魔物が生まれるのも頷けます。それが思った以上に多い事にこそ驚きを隠せませんが、私達の成長の糧となるのであれば思う存分利用しましょう」

 

 マテリアダンジョンは少しずつ、確実に成長を続けていた。

 

 

 

 ロスの街、改め、ゴミの街。

 その地下にて、ダンジョンが着々と成長し続けている事に、まだ誰も気づいて居ない。

 

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