さらに時が経った。
一つのゴミ穴で五百の魔力を三日で得られる。そんな穴が十六箇所。
これを一ヶ月のあいだ処理し続け、八万近い魔力を獲得出来た。
このダンジョンの躍進にマテリアは毎日ぴょんぴょん飛び跳ねて大喜び。
今月は一万の魔力を返還出来てさらに嬉しそうだった。
「マスター? そろそろ手勢を生成しませんか? 魔力には余裕がありますし、新たに配下を揃える事でマスターは動かずにゴミ山を処理出来る様にもなるやもしれません」
マテリアの提案は、とても魅力的なものだった。
シゲンは悩む。
実は以前にも何度かダンジョンの力で魔物を生成し、ダンジョンの配下に置きませんかと言う提案は受けていた。
しかしここで面倒なのが、配下は普通の生物なので生理現象が有り、生活スペースを必要とする事だった。
それはつまり、最低でも衣を除く食住をこちらで揃え続けてやらねばならないと言う事だ。
コレが割とネックの問題となっている。
通常のダンジョンは外界の情報を入手すると、それを元にした自然環境を作り上げ、人間の欲しがる物を生成しながら、人間を殺す為の魔物を生成するらしい。
配下を生成すると言う事は、その周辺環境も生成する必要があると言う事。
それにかかる費用は当然安くは無く、また若干だが維持費が掛かるらしい。
では一般ダンジョンはどうやって赤字を出さずにいられるのか。答えは生成していない外部の魔物の定住だ。
魔物の棲家を作ってやる事で、代謝する魔力を徴収しながら人間を殺す魔物の役割も担うと言うわけだ。
実に合理的だ。
だがこのダンジョンはそうは行かない。周辺は全て人の街。魔物の棲家近くにダンジョンの口を出せるならまだしも、それには多額の費用を必要とするだろう。その上、人里から半端に近ければ即討伐されかねず、魔物が居着いてくれなければ浪費が増えるだけ。
生成する配下を周辺の生態に合わせた魔物にするのがおそらく定番なのだろうが、そうすると環境を作らねばならず。環境を作ると維持費が云々かんぬん。
やはりどうしてもリスクと浪費が付き纏う。
シゲンは一先ず、一番お手頃な配下は何かを問うた。
「はい。現在はマスターが討伐されたムカデやネズミですね。それ以外は基本的に安いのがゴブリンやコボルト、ゴーストなどの下級の魔物でしょうか」
その魔物に魔力を与えて任意の進化を促す事は可能なのかを問う。
「可能です。契約によるパスを繋ぐのである程度の意思の疎通も可能でしょう」
意外と融通が利くのだなとシゲンが再度思考を回し出すと、マテリアがついでの様に告げた。
「ああそれと、ダンジョン周辺の存在は生成費用が軽い傾向があるのですが、人間は生成出来ません。魔物では無いので。ですがそれに代わる存在があります」
気になる情報にシゲンは思考を止めて先を促す。
「その存在はの名は“ホムンクルス”。人間の業が生み出した、人型の魔物。人工魔物にして、ちょっと扱いづらい種族の様です」
シゲンは考えた。
考えて考えて、どう足掻いても面倒なら今は要らないという結論に至った。
だが面倒だと言って拒否するのはマテリアに悪い。シゲンは言い訳を考えて伝えた。
「もう暫くマテリアと二人が良い……ですか?」
マテリアはきょとんとした顔を見せると、途端にモジモジとしだし、きゅっとシゲンの指を掴んだ。
「…………マスターがそう言うなら、仕方ないです。マテリアは、マスターに従いますっ」
こっそりと頬を綻ばせたマテリアの顔は、シゲンには見えなかった。
やたらご機嫌に引っ付いてくるマテリアをひとしきり甘やかしたシゲンには、配下生成よりも優先して行いたい事があった。
「マスターの再進化、ですか? それは勿論構いません。マスターの強さはダンジョンの強さですからね」
しかし新たにどんな形に進化すると言うのか。
シゲンが求めた新たな能力は……。
「液体操作、ですか。なるほど、これなら限りある体液意外の液体の操作及び変質により、より消耗少なく攻撃が可能になるのですね。必要魔力は三千程でしょうか、宜しいですか?」
シゲンは即座に頷く。
「承認しました。マスターの要求を確認。進化を実行します。必要魔力三千を消費……。消費しました。進化を促します。……進化に成功しました。進化を終了します。……如何ですか、マスター」
シゲンの身体がまたしても発光し、身体を弄られる感覚の後、静かに進化は終わる。
出しっぱなしにしていた黒いシュワシュワに魔力を込めると、その液体の操作権を得る。自由自在に操作可能で、変質もまた可能だった。
しかし体液と違って外部の液体の変質は一度切りまでの様で、黒いシュワシュワはオレンジジュースとなって、それきり変えようが無かった。
ボトルへとオレンジジュースを戻したシゲンは、マテリアに飲む様に言う。
「……ん゛っ!?」
毒でも喰らったかの様な反応を見せたマテリアに慌てるシゲンだったが、マテリアの顔はこれでもかと多幸感に溢れていた。
「うままぁ……ですっ」
気に入っただけの様だ。
一安心したところで、シゲンは今日も第二進化を経た魔物の居るゴミ山へと向かっていく。
今回は同じゴミ穴で同時にネズミとムカデが進化を遂げた様で、縄張りの様な物を作り上げていた。
「こうなると他の個体が第二進化に至る可能性は少なそうです。縄張り下で強くなろうとする個体を上位個体が許す筈がありません。その程度の知能は得ていると考えて良いです。ヤっちゃいましょう」
マテリアに水を生成して貰い、それを支配。操作、侵食酸へと変質させ、文字通りの酸性雨を降らせる。
嫌でも触れてしまう死の雨によって速やかに討伐を終えた二人は、さらに一つ前に進んでも良いのではないかと考える。
「第三進化個体……作ってみましょうか、マスター」
それから一週間後。
八番と十二番の穴に第三進化を果たした個体が現れた。
八番ゴミ穴に近づく前から、マテリアに一の魔力で生成してもらった十リットルの水を操作していたシゲンは、酸の防御膜を作りながら接近する。
そこに居たのは、複数のネズミを従えた一際大きな一メートル程のネズミ魔物。
ついに群れを率いる知性と能力を持ち合わせたらしい。
配下となったネズミは親分ネズミの前に食料を持ち寄り、親分が半分を食い散らかすと、残り半分を配下ネズミ達が食い漁っていた。
「このまま行くと第四進化は相当危険な個体に近づくかもしれませんね……」
マテリアの意見にシゲンもまた同意を示し、情け容赦無くネズミ達をゴミごと酸の海に沈めた。
第三進化ネズミの死亡時獲得魔力は四百。死骸溶解時獲得魔力は八十となった。
八番ゴミ穴の放置期間は一週間……七日。その他魔物も溶かした際の総獲得魔力は一千と少し。
これまでの最高記録が三日で五百だった事も有り、手放しに喜べはしなかった。
おそらく上位個体が他種の魔物を殺してしまうのだろう。それでも魔物の生態を知ると言う意味ではとても有意義である。
シゲンはマテリアに、これからも第三進化個体の調査をしたい旨を伝える。マテリアもまたこれに賛成。
多くの知識と経験がダンジョンの為になる事は、マスターであるシゲンを見てマテリアも学んでいる。少女は徐々に柔軟性を手に入れて始めているのだ。
十二番のゴミ穴に発生した個体はムカデ。体調が三メートル近い巨大虫にビビったシゲンがこれを観察前に悲鳴をあげながら溶解する。
「コレがマスターの言う調査ですか。……ご立派ですね」
冷え切ったジト目を向けてくるマテリアにシゲンはひたすらペコペコと平謝りし続けた。
一ヶ月での収入は少々落ち込み七万ほどになったが、それでもマテリアはきゃっきゃと大喜び。
コアに蓄積された魔力量も二十万を超えて、シゲンとマテリアはダンジョン大改装計画を企てるのだった。