ふたなりヒロインズの『肉便姫』エミリア 作:Guiltylowe
盗品蔵での交渉は、驚くほどあっさり終わった。いや、正確には――交渉そのものは終わっていない。徽章はまだフェルトの手の中にある。ただし、そのフェルト本人が今、エミリアの腰へ腕を回していた。
「なあ、エミリア」
「なあに?」
「確認なんだけどさ。お前、徽章を取り返しに来たんだよな?」
「そうよ?」
「なんで徽章持ってる本人に尻撫でられてんの?」
「交渉中だから」
「どこの国の外交儀礼だよ!!」
俺の絶叫にも、二人はまるで動じない。フェルトは片手に徽章を持ったまま、もう片方の手でエミリアの腰を抱き寄せている。対するエミリアも嫌がるどころか、むしろフェルトが触れやすいように少し身体を寄せていた。
「……姉ちゃん、ほんとにいい身体してんな」
「そう?」
「胸もでけぇし、ケツもでけぇし。細いくせに触ると柔らけぇし」
「フェルトは私の身体、好き?」
「好きじゃなきゃ触ってねーよ」
「そっか」
嬉しそうに笑うな。そこで照れるな。あとフェルト、お前も満更でもなさそうな顔をするな。
「で? 徽章は?」
「だから条件出してんだろ」
「条件?」
フェルトがエミリアを見上げる。悪戯を思いついた野良猫そのものの笑みだった。
「今からアタシに付き合え」
「いいよ」
「軽っ!!」
「兄ちゃんうるせぇな。別に結婚しろって言ってるわけじゃねーぞ」
「それはわかってる! わかってるけど展開が速ぇんだよ!」
この世界では、その辺の距離感は妙に軽い。一緒に寝ることも、身体を重ねることも、俺の感覚で言えば濃いキスの延長みたいなものだ。だから俺だって、二人がこれから何をするのかについては別に驚いていない。問題は。
「エミリアたん、会って一時間も経ってない」
「でもフェルト、悪い子じゃなさそうだもの」
「判断基準そこ!?」
「それに、私のこと好きみたいだし」
「身体がな!」
「身体も私でしょう?」
「ぐうの音も出ねぇ正論!!」
エミリアがそう言って笑うと、フェルトが一瞬だけ言葉に詰まった。それから照れ隠しみたいに鼻を鳴らし、エミリアの手を引く。
「ほら、行くぞ」
「どこに?」
「奥。ロム爺の寝床借りる」
「おい待て本人の許可取れ!!」
「あとで言っとく」
「事後報告する内容じゃねぇ!」
俺を完全に無視して、二人は盗品蔵の奥へ歩いていく。途中、フェルトが振り返った。
「兄ちゃん、覗くなよ」
「覗かねぇよ!!」
「スバル、終わったら呼ぶね」
「呼ばれて何すりゃいいんだ俺は!!」
扉が閉まった。鍵が掛かった。静かになった。俺はその場で立ち尽くし、天井を見上げた。
「……徽章取り返すだけだったよな、今日」
◆◇◆
閉ざされた扉の向こうでは、さっきまでの威勢が嘘みたいにフェルトの手が止まっていた。腰へ腕を回して寝台まで連れてきたところまではよかったものの、真正面からエミリアの白い肌と豊かな身体を見てしまえば、あとは経験のなさが隠せない。細い肩は強張り、腰を抱く指先にも微かな震えがある。それでも逃げないあたりがフェルトらしく、エミリアはそんな強がりを見透かしても笑わず、銀髪を肩から零しながら自分から顔を近づけた。
「……アタシ、こういうの初めてだからな。けど笑うなよ。あと手加減もいらねぇ。お前ばっか余裕ある顔してんの、すげぇムカつく……だから、アタシが先に参ったって言わせてやる」
触れるだけだった最初の口づけは、二度、三度と重ねるうちにすぐ粘りついた。ちゅっ、と離れた唇をまた求め、むちゅ、と押し重ね、短かった接触が次第に息を継ぐ間さえ惜しむ長さへ変わっていく。フェルトの腕は細い腰から背中まで回り、エミリアもその首へ白い腕を絡ませる。豊かな胸同士が潰れるほど押し合い、柔らかな腹と腰、太腿まで隙間なく密着するたび、互いの体温が衣服越しにもじっとりと染み込んだ。
「んっ……♥︎ んぅ、ちゅ……むちゅっ……♥︎ はぁっ……んっ、フェルト……そんな急がなくても逃げないわ……ぁ♥︎ ほら、もっとゆっくり……そう、ぎゅってして……んんっ……♥︎」
エミリアの声が揺れるたび、フェルトは余計に夢中になった。自分のキスであのエミリアが喘いでいる――その事実が嬉しくて、技術も手管もないまま、とにかく思いつくまま唇を重ね、頬へ触れ、細い腰を抱き締める。けれど熱に任せて深く求めれば求めるほど、先に呼吸を乱すのはフェルトだった。はっ、はぁ、と肩を上下させて一度顔を離しても、目の前には頬を赤らめ、唇を濡らし、同じように息を荒げながら少しも疲れていないエミリアがいる。その顔を見れば、休むより先にまた唇が欲しくなった。
「はっ……はぁっ……♥︎ くそ……なんでお前まだそんな顔できんだよ……♥︎ アタシばっか頭ぐちゃぐちゃにされて……ずりぃ……もう喋んな。もっとキスしてろ……アタシが何も考えられなくなるくらい、ずっと……♥︎」
エミリアは返事の代わりに、フェルトの頬を両手で包んだ。今度は自分から長く唇を重ね、急ぎたがるフェルトへ呼吸の間だけを与えながら、またすぐ口づける。ちゅっ、ちゅぱ、むちゅ、と湿った音が狭い小部屋へ粘り、汗ばんだ額と鼻先が触れ合う。フェルトが焦ればエミリアが受け止め、離れかければ首へ腕を回して引き戻す。その繰り返しのうちに、攻めているつもりだったフェルトの方が、いつしかエミリアへ縋るように身体を押しつけていた。
そして、そこまで全身を密着させ続ければ、腰元の変化だけはどうしたって誤魔化せない。小柄で細身な身体にはまるで似合わないほど、フェルトの股間ではふたなりのそれが熱を持っていた。この世界のふたなりは総じて大きい。身体能力に優れた者ほどその傾向も強く、小柄なフェルトも例外ではない。華奢な腰回りとの落差が余計に際立つほどの存在感が、身体を重ねるたびエミリアへ強く伝わり、どくん、と脈打つたびにフェルト自身の肩までびくりと震えた。
「……見るな。いや、見てもいいけど……そんなじっと見るなよ。アタシだって自分でこんなになると思ってなかったんだからな……っ♥︎ お前がずっとキスして、身体くっつけて、あんな声出すからだぞ……♥︎」
真っ赤になって悪態を吐くくせに、フェルトは腰を引かなかった。むしろ恥ずかしさを押し潰すようにさらに身体を寄せ、エミリアの胸元へ顔を埋めかけて、耐え切れずまた唇を探す。そんな初心さごと包むように、エミリアも太腿を寄せ、柔らかな身体全体でその熱を受け止めた。
「んぅ……♥︎ フェルト、すごーく熱い……♥︎ こんなに立派になってるのに、まだ恥ずかしいの……?♥︎ ふふ、大丈夫よ。私、怖くないし……フェルトならちゃんと全部受け止められるから……♥︎ だから、そんなに我慢しなくていいのよ……♥︎」
その一言で、フェルトの余裕は本当に消えた。荒い呼吸のままエミリアへ覆い被さり、口づけと抱擁を途切れさせないまま、初めての熱へ身体ごと飛び込んでいく。勝つだの負けるだのと考えていたはずなのに、もうそんなものはどうでもよかった。ただ目の前の女が欲しい。もっと喘がせたい。もっと自分を欲しがってほしい。その単純な欲望だけが膨らみ、エミリアの反応が返ってくるたび、それがまた次の衝動へ変わっていった。
「はぁっ……はっ……♥︎ エミリア……もう無理、考えらんねぇ……♥︎ アタシ、もう加減とか知らねぇからな……それでもいいなら、最後まで付き合え……♥︎ いっぱい……全部、受け止めろよ……!♥︎」
エミリアは火照った頬のまま微笑み、返事の代わりにフェルトの唇をもう一度塞いだ。ねっとりと長い口づけの合間、フェルトの身体が何度も大きく震える。ふたなり特有の規格外の身体は、一度熱を吐き出した程度では終わらない。最初の絶頂に続いて二度、三度と熱が高まり、そのたび尋常ではない量を放ちながら、それでも勢いは簡単に衰えなかった。
「んぅ……♥︎ ちゅ……むちゅっ……♥︎ うん……いいよ、フェルト……♥︎ 私、ちゃんと全部受け止めるから……だからぁ……もう勝ち負けなんて忘れて、いっぱいちょうだい……♥︎」
フェルトは本当に加減を忘れた。現実なら一度だけでも処理に困るほどの量を、何度も、何度も。それでも寝台を汚すほど外へ残ることはない。エミリアの身体はまるで底がないようにすべてを内側へ収め、重くもならず、苦しくもならず、むしろ注がれる熱を吸収するほど肌へ艶を増していく。普通なら攻め続ける側が優位になるはずなのに、息を切らし、汗に濡れ、最後には身体を震わせてしがみついているのはフェルトの方だった。
「はっ……はぁっ……♥︎ まだ……まだアタシ、いけるからな……♥︎ お前だけ平気な顔してんの……絶対、許さねぇ……もっと……もっとぐちゃぐちゃにしてやる……♥︎」
「うん……♥︎ いっぱいして……♥︎ フェルトが満足するまで、私ずっとここにいるよ……♥︎ でもね……はぁっ……♥︎ えっと、その。フェルトだけじゃなくて……私も、もっとほしい……♥︎」
その素直な要求へ、フェルトはもう言葉で返せなかった。ただエミリアを抱き締め、汗で頬へ張りついた銀髪を掻き分け、再び唇を重ねる。ちゅっ、むちゅ、ちゅぱ、と粘つく音の中で、呼吸も声も思考も次第にほどけていく。それでもエミリアだけは最後までフェルトを抱き返し、口づけを受け止め、余裕をなくした野良猫が満足するまで何一つ取り零さなかった。
どれだけ時間が経ったのか、最後にはフェルト自身にもわからなかった。寝台へ突っ伏し、肩で大きく息をしながら指一本動かすのも億劫そうにしている隣で、エミリアは乱れた銀髪をゆっくり掻き上げていた。頬には熱が残り、豊かな胸元も深い呼吸に合わせて上下している。それでも疲労らしい疲労はない。長い時間ずっと相手を受け止め、規格外の量を何度も注がれたはずなのに、身体にも寝具にもほとんど痕跡は残っていなかった。何もかもが、最初からエミリアの内側へ消えてしまったみたいだった。
「……お前、なんでまだ元気なんだよ……アタシもう、腰も脚も言うこと聞かねぇぞ……」
「んー……♥︎ フェルトがいっぱいくれたから、むしろ元気になったのかも……♥︎ すごーくたくさんだったね。初めてなのに、フェルト頑張りすぎだよ……♥︎」
「……次は絶対負けねぇ」
「勝負だったの?」
エミリアが笑う。その肌は、始める前より明らかに艶を増していた。
◆◇◆
しばらくして、奥の扉が開いた。最初に出てきたのはエミリアだった。銀髪は少し乱れ、額には薄く汗が滲んでいる。頬もほんのり赤く、いつも以上に肌がつやつやしていた。服装こそ整えているものの、どう考えても入った時より血色がいい。
「お待たせ、スバル」
「おう。見りゃわかる。充実した時間だったみたいだな」
「うん。フェルトってすごーく元気なの」
「感想が健康診断みたいなんだよ」
そして、その後ろからフェルトが壁に手をつきながら出てきた。脚に力が入らないらしく、ふらついている。腰が完全に砕けていた。
「お前がボロボロなんかい!!」
「う、うっせぇ……!」
フェルトは真っ赤になって睨んでくる。だが迫力がない。というか、立っているだけで精一杯だ。対するエミリアは汗をかいているだけで、すこぶる元気そうだった。
「フェルト、大丈夫?」
「誰のせいだと思ってんだよ……」
「楽しかった?」
「……」
フェルトが黙る。耳まで赤くなる。それから乱暴にポケットへ手を突っ込み、何かをエミリアへ投げた。銀色の徽章だった。
「ほらよ」
「わあ。ありがとう、フェルト」
「……約束だからな」
「またしようね」
「――っ」
フェルトが硬直した。数秒後、顔を背ける。
「……次は負けねぇ」
「勝負だったの!?」
どうやら勝負だったらしい。そして、どうやらフェルトは負けたらしい。エミリアは返ってきた徽章を胸元へ大切そうにしまい、満足げに微笑んでいる。一方のフェルトは腰砕けのまま、それでも妙に機嫌がよさそうだった。俺は二人を見比べて、ひとつ頷く。
「なるほど。これが肉体交渉か」
「兄ちゃん、その言い方すげぇムカつく」
「いやそのまんまだろ!!」
こうして徽章は戻り、代わりに俺の常識が盗品蔵で盗まれたのだった。