※この作品はR-18です。

ふたなりヒロインズの『肉便姫』エミリア   作:Guiltylowe

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四話『ツンデレふたなり精霊、ベアトリス』

 

 ロズワール邸には、何度扉を開けても辿り着けない部屋がある。屋敷中の扉を好き勝手に渡り歩き、開けた先を自分の部屋へ繋げる陰魔法――扉渡り。その向こうにあるのが禁書庫であり、そこに住んでいるのが、成人した姿を持つ人工精霊ベアトリスだ。そして今日、俺は朝から十七枚目の扉を開けて、ようやくその禁書庫を引き当てた。

 

「見つけたぁ!!」

 

「うるさいのよ」

 

 扉の向こうには、壁一面を埋め尽くす本棚と、その中央で分厚い本を読む縦ロールの少女――もとい、この世界では立派な成人女性であるベアトリスがいた。見た目こそ小柄だが、その態度だけなら屋敷の誰よりでかい。

 

「朝っぱらから何枚扉外させりゃ気が済むんだよ!」

 

「勝手にベティーを探し回ったお前が悪いかしら」

 

「エミリアたんが話したいって言うから連れてきたんだよ!」

 

「エミリア?」

 

 そこで初めて、ベアトリスが本から顔を上げた。俺の後ろからひょこっと顔を出したエミリアを見る。

 

「おはよう、ベアトリス」

 

「……何の用かしら」

 

「会いに来たの」

 

「帰るのよ」

 

「早ぇ!!」

 

 即答だった。

 

「まだ何も話してないよ?」

 

「話すことなんてないかしら」

 

「でも私、ベアトリスと仲良くなりたいの」

 

「ベティーは別になりたくないのよ」

 

「そうなの?」

 

「そうかしら」

 

 突っぱねる。徹底して突っぱねる。なのに扉は閉めない。それどころか、エミリアが一歩中へ入っても追い出さない。その時点で俺にはなんとなくわかった。

 

「ベアトリス、お前エミリアたんのこと嫌いじゃねぇだろ」

 

「黙るのよ」

 

「図星じゃん」

 

「今すぐ廊下に放り出してやってもいいかしら」

 

「俺だけ!?」

 

 ベアトリスの視線が俺からエミリアへ戻る。エミリアは楽しそうに笑いながら禁書庫を見回していた。

 

「すごいのね。こんなにたくさん本がある」

 

「触るんじゃないのよ」

 

「わかったわ」

 

「勝手に読むのもダメかしら」

 

「うん」

 

「棚の順番も変えるんじゃないのよ」

 

「わかった」

 

「……」

 

「……」

 

「素直すぎて調子狂ってんじゃん」

 

「お前は本当に黙るのよ!」

 

 エミリアがくすくす笑う。ベアトリスは不機嫌そうに頬を膨らませ、それから本へ目を戻した。――戻したはずなのだが、数秒もしないうちにまたエミリアを見る。

 

「……お前、最近よく双子のメイドと一緒にいるかしら」

 

「うん」

 

 ベアトリスは俺を無視して、本を閉じた。ぱたん、と乾いた音が禁書庫へ響く。

 

「随分楽しそうなのよ」

 

「楽しいわよ」

 

「そうかしら」

 

「ベアトリスも一緒にする?」

 

「何を!?」

 

 俺が叫ぶ。

 ベアトリスは叫ばなかった。

 

「……随分と節操がないのよ」

 

「嫌だった?」

 

「嫌とは言ってないかしら」

 

「ベアトリスもそのパターンかぁ!!」

 

 ベアトリスが椅子から降りる。エミリアの前まで歩いてくると、腕を組んで見上げた。いかにも不満そうだ。

 

「ベティーは、あの双子なんかとは違うのよ」

 

「うん」

 

「一緒にされるのは心外かしら。だから」

 

 一度、言葉が止まる。ベアトリスの視線が少しだけ逸れた。

 

「ベティーを選ぶなら、ちゃんとベティーを選ぶのよ」

 

 エミリアが瞬きをした。

 

「どういうこと?」

 

「わからないのかしら?」

 

「うん」

 

「こいつ真正面から聞くから逃げ道ねぇぞ、ベアトリス」

 

「お前は黙っているのよ!」

 

 顔が赤い。

 完全に照れている。

 それでもベアトリスは逃げなかった。小さく息を吐いてから、エミリアの手を取る。

 

「ここはベティーの禁書庫なのよ。ベティーが選んだ相手しか入れないかしら」

 

「私、入っていいの?」

 

「もう入っているかしら」

 

「そっか」

 

「だから笑うんじゃないのよ」

 

「だって嬉しいんだもの」

 

「……本当に調子の狂う女かしら」

 

 文句を言いながら、その手は離さない。むしろエミリアの指へ自分の指を絡める。

 

「ねえ、ベアトリス」

 

「何かしら」

 

「私のこと、好き?」

 

「嫌いではないのよ」

 

「好き?」

 

「しつこいかしら」

 

「好き?」

 

「……」

 

「逃がさねぇなエミリアたん!!」

 

 ベアトリスがとうとう顔を背けた。

 

「……少しくらいなら、気にかけてやってもいいのよ」

 

「ほんと?」

 

「少しだけかしら」

 

「やった」

 

 エミリアが嬉しそうに両手でベアトリスの手を包む。その瞬間、ベアトリスの肩がわずかに跳ねた。

 

「じゃあ私も、ベアトリスのこともっと知りたいな」

 

「……」

 

「いっぱいお話しして、一緒に本を読んで、それから――」

 

 エミリアが少し身を屈め、ベアトリスへ顔を寄せる。

 

「もっと仲良くなりたい」

 

「距離が近いのよ」

 

「嫌?」

 

「嫌ならとっくに飛ばしているかしら」

 

「確かに!!」

 

 ベアトリスなら俺だったら三秒で吹き飛ばしている。なのにエミリアには何もしない。それどころか、顔を寄せられても一歩も引かなかった。

 

「エミリア」

 

「なあに?」

 

「一つ、条件があるのよ」

 

「なに?」

 

「他の連中と同じ扱いは嫌かしら」

 

「同じにはしないわ」

 

「……本当かしら」

 

「だってベアトリスはベアトリスでしょう?」

 

 その言葉に、ベアトリスが黙った。

 さっきまでの強気な顔が、ほんの一瞬だけ崩れる。

 

「フェルトとも、エルザとも、レムともラムとも違うよ。だからベアトリスとは、ベアトリスとしかできない仲良しになりたい」

 

「エミリアたん、そういう無自覚クリティカルやめたげて! ベアトリス今めちゃくちゃ刺さってるから!」

 

「うるさいのよ!!」

 

 今度こそ俺が吹き飛ばされた。

 

「ぐおっ!」

 

 禁書庫の外へ転がり出る。慌てて身体を起こすと、まだ扉は開いていた。

 

「俺だけ退場させるの早くない!?」

 

「お前は邪魔かしら」

 

「認めやがった!!」

 

 ベアトリスは俺を睨んでから、再びエミリアを見る。

 

「エミリア」

 

「うん」

 

「ベティーと契約する気はあるかしら」

 

「契約?」

 

「そうなのよ。ベティーが選んで、お前もベティーを選ぶ。それなら、他の連中とは違うでしょう」

 

「うん。すごーく特別」

 

「……そうかしら」

 

 口元が緩んだ。

 ほんの少しだけ。

 

「じゃあ契約する」

 

「軽っ!? 精霊契約ってもっとこう人生を左右する重大イベントじゃないの!?」

 

「ベティーは軽く言ってないのよ」

 

「エミリアたんが軽いの!」

 

「だってベアトリスが私を選んでくれるんでしょう?」

 

 エミリアは当然みたいに言った。

 

「だったら、私も選びたい」

 

「……」

 

 ベアトリスはしばらく何も言わなかった。それからエミリアの手を自分の胸元へ引き寄せる。

 

「後悔しても知らないかしら」

 

「しないわ」

 

「ベティーは面倒なのよ」

 

「知ってる」

 

「我儘も言うかしら」

 

「いいよ」

 

「独占だってするのよ」

 

「うん」

 

「……少しくらいは、ベティーだけを見ろって言うかもしれないかしら」

 

「その時はいっぱい見るね」

 

「何だこのプロポーズ!!」

 

 ベアトリスの顔が真っ赤になった。

 

「扉を閉めるのよ」

 

「俺が!?」

 

「早くするかしら」

 

「はいはい! 契約の邪魔しませんよ!」

 

「それと」

 

「ん?」

 

「しばらく開けるんじゃないのよ」

 

 俺の手が止まった。

 

「……どのくらい?」

 

「ベティーがいいと言うまでかしら」

 

「契約にそんな時間かかる!?」

 

「スバル」

 

 エミリアまで笑顔で俺を見る。

 

「閉めて?」

 

「はい!!」

 

 扉を閉める寸前、俺は見た。

 エミリアがベアトリスを抱き寄せる。

 ベアトリスは一瞬だけ驚いた顔をして、それからエミリアの服を掴み、自分から身体を寄せ返した。

 

「……ちゃんとベティーを選ぶのよ」

 

「うん。今日はベアトリスだけ」

 

「――それならいいかしら」

 

 俺は静かに扉を閉めた。

 

「……契約って、そういう契約だったっけ?」

 

◆◇◆

 

 扉が閉まると、禁書庫は急に静かになった。ついさっきまでスバルの声が響いていたせいで、余計に二人きりになったことが際立つ。エミリアに抱き寄せられたままのベアトリスは、しばらくその胸元へ額を寄せていたが、やがて服を掴んでいた指へ少しだけ力を込めた。

 

「……さっき言ったこと、忘れるんじゃないのよ。今日はベティーだけを見るかしら。盗人でも、殺し屋でも、あの双子でもなくて……ベティーを選んだんだから、途中で他の誰かのことなんて考えるのは許さないのよ」

 

「うん。今日はベアトリスだけ。ちゃんとずっと見てるよ」

 

 それだけで、頬を赤くしていたベアトリスの表情がほんの少し緩んだ。満足したらしい。それでも素直に喜ぶ代わりに小さく鼻を鳴らし、今度は自分からエミリアの腰へ腕を回す。

 

「当然かしら。契約というのは、それくらい重いものなのよ」

 

「じゃあ、キスも契約に入ってる?」

 

「……そんなもの、契約に入ってるわけないかしら」

 

「しないの?」

 

「しないとは言ってないのよ」

 

 言い切ってから、ベアトリスはエミリアの頬へ手を添えた。迷いのない手つきだった。少なくとも、唇が触れる直前までは。ちゅ、と柔らかく重なった瞬間、その肩がぴたりと固まる。触れたまま動かない。

 エミリアが目を開けると、至近距離でベアトリスの睫毛が震えていた。

 

「……ベアトリス?」

 

「喋るんじゃないのよ。知識くらいベティーにもあるかしら。口づけ程度、禁書庫の本にいくらでも――んぅっ……♥︎」

 

 最後まで言わせず、今度はエミリアから唇を重ねた。ちゅっ、と一度。離れかけたところをもう一度追い、むちゅ、と少し長く吸い付く。豊富な知識とは裏腹に、ベアトリスの身体は正直だった。二度目にはもう呼吸が揺れ、三度目にはエミリアの背中を掴み、四度目には自分から顔を寄せている。唇の重ね方も、息を継ぐ間もまだ不器用で、知っていることを一つずつ身体で確かめているようだった。

 

「んぅ……♥︎ ちゅ……むちゅっ……♥︎ ふふ、ベアトリス、知ってるのに慣れてないのね……♥︎」

 

「う、うるさいかしら……っ♥︎ 知識と実践が別物なのは当然なのよ。だから……その、勝手に離れるんじゃないかしら。まだベティーが確かめ終わってないのよ……♥︎」

 

 そう言ってまた唇を求めてくる。

 今度は長かった。ちゅっ、ちゅぱ、むちゅ、と濡れた音を重ねながら、ベアトリスはエミリアの首へ腕を絡ませる。小柄な身体を隙間なく押しつければ、豊かな胸元へ頬が触れ、柔らかな腹と細い腰までぴたりと重なる。エミリアもその背中を抱き返し、縦ロールを崩さないよう最初は優しく撫でていたが、何度も口づけを求められるうちに指が髪の奥まで入り込んだ。

 ベアトリスは負けじと深く求める。けれど経験の差までは知識で埋まらない。自分から仕掛けたはずなのに、息を乱し、頬を赤くし、いつしかエミリアへ縋るように身体を寄せていた。

 

「はぁっ……んぅ……♥︎ なんでお前はまだそんなに平気そうなのよ……♥︎ ベティーがしているのに、ベティーの方ばかりおかしくなるのは理屈に合わないかしら……♥︎」

 

「私も平気なわけじゃないのよ……♥︎ ほら、こんなにどきどきしてるもの。でも、ベアトリスが一生懸命なの、すごーく可愛いから……もっとしてほしいな……♥︎」

 

「……可愛いで誤魔化すんじゃないのよ♥︎」

 

 文句を言う声に力はなかった。むしろ褒められたことが嬉しかったのか、抱き締める腕が一段強くなる。そうして全身を重ね続ければ、もう一つの変化も隠しようがなかった。人工精霊であるベアトリスの腰元では、ふたなりのそれがすっかり硬さをもっていた。小柄で端正な身体との落差が大きい、明らかに持て余すほど立派な性器だった。

 衣服越しにエミリアへ触れた瞬間、ベアトリスの身体がびくっと跳ねる。

 今まで以上に顔が赤くなった。

 

「……見るんじゃないかしら」

 

「でも、ベアトリスのよ?」

 

「だから恥ずかしいのよ……っ♥︎ こんなの、本には大きさの個人差があるとしか書いてなかったかしら。ベティーだって、自分がこんなに……その……なるなんて、知らなかったのよ……♥︎」

 

「私は好きよ。ベアトリスらしくて」

 

「どこがベティーらしいのよ……♥︎」

 

 言い返しながらも、もう腰は引かなかった。むしろエミリアの言葉を信じるように、ゆっくりと身体を寄せてくる。エミリアはそんな初心さごと包み込むように腕を回し、白い身体を預けた。

 

「大丈夫。ベアトリスだから、ちゃんと全部受け止めたいの。契約したでしょう?」

 

「……そうなのよ。なら、お前も覚悟するかしら。ベティーは契約に関してだけは絶対に譲らないのよ。ベティーがお前を選んだんだから……お前も今は、ベティーだけを見ているのよ♥︎」

 

「うん。今はベアトリスしか見てないよ♥︎」

 

 その一言で、最後に残っていた遠慮が消えた。

 ベアトリスはエミリアを抱き寄せ、そのまま寝台代わりの長椅子へ身体を重ねる。銀髪が背へ広がり、その上へ金色の縦ロールが零れた。唇は一度も長く離れない。ちゅっ、むちゅ、ちゅぱ、と息を交換するように口づけながら、触れるところすべてを確かめるように抱き締める。

 最初こそ本で得た知識を思い出そうとしていたベアトリスも、すぐにそんな余裕をなくした。エミリアが身体を震わせれば嬉しくなり、甘い声を漏らせばもっと聞きたくなり、抱き締め返されれば自分まで熱くなる。理論も手順も吹き飛び、最後にはただ夢中で求めていた。

 

「んっ……♥︎ ベアトリスぅ……すごい……♥︎ はぁっ……もっと、ぎゅってして……♥︎ キスもやめないで……っ♥︎」

 

「言われなくても離さないかしら……っ♥︎ んぅ……むちゅっ……♥︎ お前はベティーの契約者なんだから……今日は最後まで、ベティーに付き合うのよ……♥︎」

 

 やがてベアトリスの身体が大きく震えた。

 一度きりでは終わらない。人工精霊であろうと、この世界でふたなりの身体を持つ以上、その規格外の熱は例外ではなかった。むしろ四百年の間溜め込んでいたものを一気に解放するように、最初から尋常ではない量を吐き出し、それでも身体は簡単には鎮まらない。二度、三度と熱が高まるたび、ベアトリスの余裕は消えていった。

 知識ならあった。どうなるかも知っていた。けれど、自分の身体がこれほど強く震え、息も声も制御できなくなることまでは、本には書いていなかった。

 それだけの量を何度受け止めても、エミリアは苦しそうにしない。身体も重くならず、寝具へ溢れるほど外へ残ることもない。すべてが底のない内側へ消えていき、むしろ白い肌は熱を吸収するほど艶を増していく。

 

「はぁっ……はぁっ……♥︎ お、おかしいのよ……♥︎ これだけベティーがしてるのに、どうしてお前の方が元気になっていくのかしら……♥︎ ベティーはもう、頭までふわふわして……なのに、お前はまだそんな顔で……♥︎」

 

「んぅ……♥︎ だって気持ちいいんだもの……♥︎ それに、ベアトリスがいっぱいくれるから、なんだかどんどん元気になるの……♥︎」

 

「……本当に、とんでもない契約者を選んだかしら♥︎」

 

 そう言いながらも、その声はどこか嬉しそうだった。最後にはベアトリスも長椅子から起き上がり、大きな椅子へ身体を預けた。フェルトのように立てないほどではない。それでも頬は真っ赤で、縦ロールは少し崩れ、息も完全には整っていない。

 エミリアが隣へ腰を下ろすと、ベアトリスは何も言わず、その手を取った。

 指と指を絡め、きゅっと握る。

 

「……しばらく、このままでいるのよ。契約したばかりなんだから、すぐ離れるなんて許さないかしら」

 

「うん。私もまだ離れたくない」

 

「なら、それでいいのよ」

 

 ベアトリスはそう言って、最後までエミリアの手を離さなかった。

 

◆◇◆

 

 それからしばらくして、俺は廊下の壁にもたれて欠伸をしていた。

 

「長ぇ」

 

 待てど暮らせど開かない。試しに別の扉を開けてみても、当然禁書庫には繋がらない。

 

「完全に締め出されてんじゃねぇか俺」

 

 さらに時間が経ち、何気なく近くの扉へ手をかけた瞬間――今度は向こう側から勝手に開いた。

 

「うおっ!?」

 

 禁書庫だった。

 そして最初に出てきたエミリアを見て、俺は納得した。

 

「あ、終わったんだ」

 

「うん」

 

 銀髪はかなり乱れ、頬は火照り、額には薄く汗が滲んでいる。服も一応整ってはいるが、どう見てもさっきまで本を読んでいた人間の仕上がりではない。それでもエミリアは幸せそうに微笑んでいた。

 

「また肌艶上がってんなぁ……」

 

「ベアトリス、すごかったよ」

 

「何がとは絶対聞かねぇからな!!」

 

「ベティーを妙な評価の仕方するんじゃないのよ!」

 

 その声に禁書庫の中を見る。

 ベアトリスは大きな椅子へ座っていた。

 いつもの縦ロールは少し崩れ、頬はまだ赤い。服を整えた形跡もある。それでもフェルトのように腰砕けでもなければ、レムのように浮かれてもいない。

 ただ。

 

「……なんでエミリアたんの手握ったままなの?」

 

「契約者なんだから当然かしら」

 

「契約した途端に距離ゼロ!!」

 

「何か文句があるのかしら?」

 

「ないけど! お前さっきまで『帰るのよ』って言ってたじゃん!」

 

「あれはさっきの話かしら」

 

「切り替えが早ぇ!!」

 

 エミリアがくすくす笑いながら、繋いだ手を軽く揺らす。

 

「ベアトリス」

 

「何かしら」

 

「また禁書庫に来てもいい?」

 

「……契約者にいちいち許可を取らせるほど、ベティーは狭量じゃないのよ」

 

「毎日でも?」

 

「好きにするかしら」

 

「一緒に寝てもいいの?」

 

「――っ」

 

 ベアトリスの顔が一気に赤くなった。

 

「そ、それとこれとは話が別なのよ!」

 

「嫌?」

 

「嫌とは言ってないかしら!」

 

「はい出ましたぁ!! 本日二回目の『嫌とは言ってない』!!」

 

「お前は黙るのよ!!」

 

「ぐえっ!」

 

 また陰魔法で額を弾かれた。

 エミリアは笑っている。

 ベアトリスは真っ赤な顔でそっぽを向いている。

 ただし、手だけは絶対に離さない。

 

「ねえ、ベアトリス」

 

「何かしら」

 

「契約してくれてありがとう」

 

「……ベティーが選んだんだから、当然なのよ」

 

「うん。私も選んだよ」

 

「……」

 

 ベアトリスはしばらく黙り、それからエミリアの腕へ少しだけ身体を寄せた。

 

「なら、ちゃんと最後まで責任を取るかしら」

 

「もちろん」

 

「責任って言葉の意味が急に重くなった!!」

 

 こうして。

 エミリアは禁書庫の司書まで攻略した。

 しかも今回は、身体だけではない。

 精霊契約まで付いてきた。

 

「一人落とすたびに戦力増えてんの、王選攻略として合理的すぎるだろ!!」

 

「落とすって言うんじゃないのよ」

 

「じゃあなんて言えばいいんだよ!」

 

 ベアトリスはエミリアの腕へ抱きつきながら、ふん、と鼻を鳴らした。

 

「ベティーが選んだだけかしら」

 

 こうしてエミリアは、禁書庫の扉だけでなく、その主の心まであっさり開いてしまった。

 

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