ふたなりヒロインズの『肉便姫』エミリア 作:Guiltylowe
午後のロズワール邸。庭仕事を手伝うと言い出したエミリアが、見事なくらい泥だらけになって帰ってきた。白い服には土埃、銀髪には葉っぱ、頬にまで泥が付いている。それでも本人はやり切った顔で、玄関先に仁王立ちしていた。
「ただいま、スバル」
「おかえりエミリアたん。何と戦ってきたの?」
「お庭」
「庭に負けた人の格好なんだよ!!」
「負けてないよ?」
「勝者はそんな全身泥パックにならねぇ!」
エミリアが自分の姿を見下ろす。そこでようやく汚れ具合に気付いたらしく、「あら」と呟いた。
「これはいけませんわね」
背後から落ち着いた声がした。振り返れば、長身のメイド――フレデリカが立っている。いつもの穏やかな笑顔を浮かべながら、エミリアの銀髪へ付着した葉を一枚摘まんだ。
「エミリア様。このままではお身体が冷えてしまいます。湯浴みになさいませ」
「うん、そうする」
「では、わたくしがお手伝いいたしますわ」
「よろしくね、フレデリカ」
「待ってください!」
さらにその向こうから、ぱたぱたと足音が近づいてきた。
「わたしもやります!」
「ペトラ?」
成人して正式に屋敷のメイドとして働いているペトラが、妙に気合の入った顔で立っていた。手には新しいタオル、着替え、櫛、香油。準備が良すぎる。
「お前いつから待ち構えてたの?」
「エミリア様が庭に出た時からです」
「確信犯じゃねぇか!」
「だって絶対汚れて帰ってくると思ったから」
「信用なのか信用してないのかわかんねぇ!!」
「まあ、ペトラ。そこまで用意していたのですね」
「はい!」
胸を張るペトラを見て、フレデリカが微笑む。その笑顔は優しい。優しいのだが、俺にはわかる。あれは完全に「可愛い後輩ですね」という顔だ。
「でしたら、ペトラにはお召し物の準備をお願いしましょうか」
「……」
「ペトラ?」
「わたしもエミリア様を洗います」
「お前そこ譲らねぇの!?」
「スバル様は黙っててください」
「俺への扱いだけ屋敷全体で統一されてない!?」
ペトラは頬を少し膨らませながら、エミリアの腕を取った。
「エミリア様、わたしだってもう一人前のメイドなんですよ」
「うん。知ってるよ」
「じゃあ、フレデリカさんだけじゃなくて、わたしにもお世話させてください」
「もちろん」
即答。
ペトラの顔が一気に明るくなった。
「本当ですか?」
「うん。二人にしてもらった方が楽しそうだし」
「湯浴みを娯楽イベントみたいに言ってるけど嫌な予感しかしねぇ!!」
「まあ」
フレデリカが口元へ手を添えて笑う。
「ナツキ様は心配性でいらっしゃいますのね」
「この屋敷に来てから心配が全部現実になってんだよ!」
「それでは参りましょう、エミリア様」
「はーい」
「わたし、背中洗いますからね!」
「じゃあ私もペトラの背中洗ってあげる」
「えっ」
ペトラの足が止まった。
「どうしたの?」
「……なんでもありません」
「顔赤ぇぞ」
「スバル様は来ないでくださいね!」
「行かねぇよ!!」
三人が浴室へ消えていく。俺はその背中を見送りながら、妙な引っ掛かりを覚えた。フレデリカはいつも通り。エミリアもいつも通り。だがペトラだけ、どう見ても湯浴みの手伝いへ向かう顔じゃなかった。
「……まあ、フレデリカいるし大丈夫か」
俺はそう結論付けた。
それが間違いだった。
◆◇◆
一時間後。
「長くね?」
俺は浴室近くの廊下にいた。別に待っていたわけではない。断じてない。洗濯物を運んでいただけだ。だが一時間前から三人が入ったままだとなれば、さすがに気になる。
「湯あたりしてねぇだろうな」
扉へ近づこうとしたところで、中から声が聞こえた。
「エミリア様、こちらを向いてくださいませ」
「こう?」
「はい。まあ、本当に綺麗なお肌」
「フレデリカの手、気持ちいい」
「ありがとうございます」
普通だ。
マッサージでもしているのだろう。さすがフレデリカ。完璧なメイドである。
「ペトラもしてくれる?」
「します!」
「張り切ってんなぁ」
思わず小声で呟いた。
「……エミリア様」
「なあに?」
「フレデリカさんとわたし、どっちの方が気持ちいいですか?」
「勝負始まった!?」
思わず叫んだ。
浴室の中が一瞬静かになる。
「スバル?」
「違います! 幻聴です! って自分から返事してんじゃねぇか俺!!」
「ナツキ様」
フレデリカの声がする。
「女性の湯浴みを盗み聞きするのは、感心いたしませんわ」
「違うんだ! 通りすがっただけなんだって!」
「スバル、またあとでね」
「何がまたあとでなの!?」
「ほら、行ってください!」
ペトラにまで追い払われた。
「はいはい! もう知らん!」
俺は踵を返した。
その背後で。
「ペトラ」
「はい」
「そんなに力を入れなくても大丈夫ですわ。エミリア様へ触れる時は、もっと優しく」
「わかってます」
「少し緊張しています?」
「してません」
「してるよ?」
「エミリア様まで!」
三人の笑い声が聞こえる。
その時点では、本当にただの湯浴みだった。
◆◇◆
さらにしばらくして。
俺が廊下をもう一度通りかかった時、浴室の扉は開いていた。湯気の向こうから、すっかり綺麗になったエミリアが出てくる。銀髪はまだ少し湿り、頬は湯上がり以上に赤い。薄手の部屋着へ着替え、肌はつやつや。毎度お馴染みの仕上がりである。
「お、やっと終わった?」
「お風呂は終わったわよ」
「その言い方やめて?」
嫌な予感。
「これからフレデリカにマッサージしてもらうの」
「ああ、そっちね」
「ペトラも一緒」
「へぇ」
俺は頷いた。
三秒後。
「……いや待て」
「何?」
「お前ら三人でマッサージって、普通に終わる?」
「普通に終わるとは何ですの?」
フレデリカが浴室から出てきた。髪をまとめ直し、いつものメイド服へ着替えている。相変わらず余裕たっぷりの大人の女性だ。
「フレデリカ。頼む。お前だけが俺の良心なんだ」
「まあ」
「頼むからエミリアたんを普通にマッサージして終わってくれ」
「もちろん、そのつもりですわ」
「よかったぁ!!」
「最初は」
「最初は!?」
フレデリカがにっこり笑った。
「お客様のお身体をほぐすのも、メイドの大切なお仕事ですもの」
「後半の仕事内容が気になりすぎる!!」
「スバル様って本当に変なことばっかり考えますよね」
最後に出てきたペトラが呆れ顔で言う。
「お前にだけは言われたくない!」
「わたしはちゃんとエミリア様のお世話をするだけです」
「その『ちゃんと』が信用できなくなってきてんだよ!」
ペトラは俺を無視し、エミリアの袖を掴んだ。
「行きましょう、エミリア様」
「うん」
「今日はわたしもちゃんと……最後までしますから」
フレデリカの眉がわずかに上がった。
「ペトラ」
「なんですか?」
「無理をする必要はありませんのよ?」
「無理じゃありません」
「ですが――」
「フレデリカ姉様」
ペトラが珍しく真っ直ぐに言葉を遮った。
「わたし、もう子どもじゃありません」
空気が変わった。
ほんの少しだけ。
普段なら妹分を見るように笑うフレデリカも、その言葉にはすぐ返さなかった。
「エミリア様のお世話だってできます。フレデリカ姉様に任せて見てるだけなんて嫌です」
「ペトラ」
エミリアが優しく名前を呼ぶ。
「私、ペトラのこと子どもだと思ってないわよ?」
「本当ですか?」
「うん。すごーく可愛い女の人」
「――」
ペトラが固まった。
「おいエミリアたん、今とんでもねぇ爆弾落としたぞ」
「だって本当だもの」
「エミリア様」
「なあに?」
「もう一回言ってください」
「可愛い女の人」
「……」
ペトラが俯いた。
肩が震えている。
「泣いた!?」
「泣いてません!」
顔を上げた。
満面の笑みだった。
「わたし、今日絶対頑張ります!」
「何を頑張る気だお前!!」
フレデリカが小さく息を吐き、困ったように微笑んだ。
「仕方ありませんわね」
「フレデリカ姉様?」
「そこまで言うのでしたら、今日はわたくしが教える側へ回りましょう」
「ほんとですか?」
「ええ。ただし、エミリア様を困らせないこと」
「はい!」
「疲れさせすぎないこと」
「はい!」
「そして自分も無理をしないこと」
「はい!」
「教育実習みたいになってんだけど!!」
フレデリカがエミリアへ向き直る。
「エミリア様も、それでよろしいでしょうか?」
「もちろん」
「ペトラが少し張り切りすぎておりますので、困った時はわたくしへ仰ってくださいませ」
「うん。でもフレデリカも一緒にしてね?」
「……」
今度はフレデリカが止まった。
「ん?」
「エミリア様」
「なあに?」
「わたくしは今日は、あくまでペトラを見守るつもりで――」
「嫌?」
「……嫌ではございませんけれど」
「出たぁ!! この世界の女全員それ言う!!」
フレデリカが少し頬を染めた。
これは珍しい。
いつも大人の余裕で全部受け止めるフレデリカが、明らかに照れている。
「では」
エミリアが左右の二人の手を取った。
「三人でしよ?」
「言い方ぁ!!」
「マッサージを、ですよ?」
「絶対途中から違うやつになるじゃん!!」
「スバル」
「はい」
「終わったら呼ぶね」
「またそれか!!」
「ナツキ様」
「なんですかフレデリカさん」
「ご心配なさらずとも、エミリア様はわたくしどもが責任をもってお世話いたしますわ」
「その完璧なメイドスマイルが今だけ死ぬほど怖い!!」
「スバル、覗いたら怒るからね」
「覗かねぇよペトラ!!」
三人が客間へ入る。
扉が閉まる。
俺は一人残された。
「……マッサージ、ねぇ」
数秒後。
鍵が掛かった。
「鍵いる!?」
◆◇◆
鍵が掛かると、最初は本当にマッサージだった。客間の長椅子へうつ伏せになったエミリアの背中を、フレデリカの大きな手が肩から腰までゆっくり解していく。その隣でペトラも真似をしているが、力加減を意識しすぎて指先が妙に固い。薄手の部屋着越しにもわかる柔らかな背中を前に、触れるたび頬を赤くしているのだから、集中できるはずもなかった。
「ペトラ、もう少し手の力を抜いて。押すことばかり考えず、エミリア様のお身体がどう反応しているかを見るのですわ。肩が緩んだら次へ、腰が強張れば少し戻る。お世話は自分がしたいことではなく、相手がしてほしいことをするものですのよ」
「わ、わかってます。ちゃんと見てますから……エミリア様、痛くないですか? フレデリカ姉様より下手かもしれないですけど、わたしもちゃんと気持ちよくしてあげますから」
「うん。ペトラの手も気持ちいいよ。だからそんなに緊張しなくて大丈夫」
褒められた途端、ペトラの指がまた固くなった。フレデリカが苦笑し、その手へ自分の手を重ねる。指の置き方、力を入れる場所、滑らせる方向。一つずつ教えられるうち、ペトラの動きも少しずつ自然になっていく。
やがて肩から背中、背中から腰へ。二人の手が左右から白い身体を包み込み、じっくりと熱を移していく。湯上がりの肌はまだ柔らかく火照っていて、撫でられるたびエミリアの身体が僅かに沈む。それを見たペトラは嬉しそうに目を細め、ますます夢中になった。
「んぅ……♥︎ ふたりとも上手……♥︎ フレデリカはすごーく気持ちいいし、ペトラもさっきよりずっと優しくなったわ……♥︎」
「ほ、本当ですか? じゃあ、もっとしてもいいですか? わたし、まだ全然足りないです。エミリア様にちゃんと大人の女の人だって思ってもらいたいから……もっと上手にしたいです♥︎」
「まあ。張り切るのは結構ですけれど、目的が少し変わってきていますわよ、ペトラ」
そう言いながら、フレデリカ自身の手も止まらない。腰を包み、脇腹をなぞり、強張りが消えたところを確かめるようにゆっくり撫でる。その落ち着いた手つきにエミリアが身体を預ければ、今度はペトラが負けじと反対側から寄り添った。
気付けばマッサージをしていたはずの距離は消えていた。
エミリアが身体を起こすと、すぐ横にいたペトラと鼻先が触れそうになる。互いに一瞬だけ目を丸くして、それからエミリアが先に笑った。
「ペトラ……キス、してみる?」
「――します」
答えだけは早かった。
ちゅっ、と触れた唇は、しかしすぐに離れる。ペトラは真っ赤になったままエミリアの顔を見つめ、もう一度。今度は少し長く、ちゅ、むちゅ、と唇を重ねる。経験のなさは隠せない。それでもレムのように遠慮するより、覚えたことをすぐ試したがる性格らしく、エミリアが少しでも応えてくれると、すぐ次を求めてきた。
「んっ……♥︎ ちゅ……♥︎ ペトラ、可愛い……♥︎ そんなに急がなくても、私逃げないわ……♥︎」
「可愛いだけじゃ嫌です……♥︎ わたし、ちゃんと女の人なんですから……エミリア様がフレデリカ姉様を見る時みたいに、わたしのことも見てほしいんです……♥︎」
その言葉に、フレデリカの眉がほんの少し動いた。
エミリアはそれを見逃さない。ペトラの頬を撫でながら、もう片方の手をフレデリカへ伸ばした。
「フレデリカも来て?」
「わたくしは教える側のつもりでしたのに……本当に仕方のない方ですわね」
余裕のある微笑みのまま、フレデリカも身を寄せる。
こちらの口づけはペトラとはまるで違った。顎へ指を添え、エミリアが受け止めやすい角度を選び、ちゅ、と触れたあとも急がない。むちゅ、と長く重ね、息が乱れ始めたところで一度だけ離す。その呼吸を確かめてから、また唇を塞ぐ。
けれど、本当に余裕があったのはそこまでだった。
エミリアが首へ腕を回し、自分から深く口づけを返した瞬間、フレデリカの肩が小さく震えた。豊かな胸同士が押し合い、細い腰へエミリアの腕が絡む。ちゅぱ、むちゅ、と湿った音が続くほど、穏やかな呼吸が少しずつ崩れていった。
「んぅ……♥︎ フレデリカぁ……やっぱり上手……♥︎ でも、思ってたより余裕ないのね……♥︎」
「……エミリア様。あまり年長者をからかうものではございませんわ♥︎ わたくしにも、見栄というものがありますのよ……」
「フレデリカ姉様、顔赤いです」
「ペトラ。今それを言う必要はありませんわ」
三人で笑ったあと、もう距離を戻す者はいなかった。
ペトラが片側からエミリアへ抱きつき、フレデリカが反対側から腰を支える。胸と胸、腹と腹、太腿までが何度も触れ合い、薄い衣服越しに三人の熱が混ざっていく。ペトラは自分が先に褒められたくて何度も口づけ、フレデリカはそんな後輩を窘めながら、自分もエミリアから離れようとはしなかった。
密着が続けば、二人の腰元の変化も隠し切れない。
ペトラのふたなりのそれは、小柄な身体に似合わず十分すぎるほど立派だった。それでも本人は完全な初心者で、触れ合うたびびくりと震えては、恥ずかしそうに唇を噛む。
そしてフレデリカはさらに大きい。長身で豊かな身体、半獣としての強靭さまで持つ彼女の生殖器は明らかにペトラを上回り、衣服越しでもその重い存在感が伝わってくる。それなのに、エミリアが興味深そうに見れば、いつもの大人びた笑顔が僅かに引きつった。
「ふたりとも、すごいね……♥︎ ペトラも立派だし、フレデリカはもっと大きい……♥︎」
「エ、エミリア様……そんなにじっと見ないでください……♥︎ でも、嫌じゃないなら……わたし、ちゃんと頑張りますから♥︎」
「……わたくしまでペトラと同じように評価されるとは思いませんでしたわ。ですが、ここまで来て引くのも格好がつきませんものね♥︎」
先に飛び込んだのはペトラだった。大人だと認めてもらいたい一心でエミリアへ身体を重ね、必死に抱き締め、何度も口づけを求める。技術より勢いが勝っている。それでもエミリアが嬉しそうに喘ぐたび自信を増し、もっと喜ばせようと熱を深めていった。
フレデリカは最初こそ、その様子を支える側だった。ペトラが焦れば肩を撫で、エミリアの様子を見ながら加減を教える。けれどエミリアから何度も唇を奪われ、腰を抱き寄せられ、自分にも同じだけ甘い声を向けられるうちに、その立場は崩れていった。
「んぅ……♥︎ ペトラぁ……すごーく頑張ってる……♥︎ ちゃんと気持ちいいわよ……♥︎ フレデリカも、見てるだけじゃなくてもっと来て……♥︎ 私、二人ともほしい……♥︎」
その一言で、ペトラの身体が大きく震えた。初心さに反して、ふたなりの身体が抱えている熱は規格外だった。一度昂れば加減などできず、最初から尋常ではない量を放ち、それでも簡単には鎮まらない。身体を震わせるたび、ペトラはエミリアへしがみつき、荒い息のまま何度も唇を求めた。
少し遅れて、フレデリカの余裕も消えた。こちらはペトラより長く耐えたぶん、崩れた時の反動が大きかった。頬を赤くし、髪を乱しながら、何度も大きな熱を吐き出す。それでもエミリアは二人分をすべて受け止め、重くも苦しそうにもならない。寝具へ残るものもほとんどなく、底のない身体へ消えていくほど、白い肌はむしろ艶を増していった。
「はぁっ……♥︎ エミリア様……わたし、ちゃんとできましたよね……?♥︎ フレデリカ姉様に任せなくても、わたしだって……ちゃんと、エミリア様を気持ちよくできましたよね……♥︎」
「うん……♥︎ ペトラ、すごーく上手だったわ……♥︎ いっぱい頑張ってくれたもの……ちゃんと素敵な女の人よ♥︎」
その答えだけで、ペトラは疲れも忘れたように満面の笑みを浮かべた。
対してフレデリカは、まだエミリアへ抱き寄せられたまま、乱れた呼吸を整えている。いつもの余裕を取り戻そうとしているのは明らかだったが、エミリアが頬へ口づけるだけで肩が小さく跳ねた。
「フレデリカもありがとう……♥︎ すごーく上手だった。でも、もうちょっとしてほしいな、なんて……♥︎」
「……まあ。エミリア様は、本当に底なしでいらっしゃいますのね……♥︎ わたくし、ペトラへ無理をしないよう言った手前、先に音を上げるわけには参りませんわ……」
「フレデリカ姉様、頑張ってくださいっ」
「ペトラ。貴女、もう完全に見学する側へ戻っていますわね」
結局そこからもう一度、今度はエミリアとフレデリカを中心に長い口づけが始まった。
ペトラは胸を張れるだけの達成感を手に入れ、フレデリカは教師役の余裕をすっかり削られ、それでも最後まで大人の意地で付き合った。
その結果、夕方に客間から出てくる頃には――一番元気なのがエミリアになっていた。
◆◇◆
夕方。
扉が開いた。
最初に出てきたのはエミリアだった。銀髪は綺麗に乾いている。服も整っている。だが頬はほんのり赤く、肌は今日一日で最高記録を更新したんじゃないかと思うほど艶々だった。肩も軽そうで、本人は満足げに腕を伸ばしている。
「んーっ。すごーく身体軽くなった」
「マッサージの効果だけじゃねぇだろそれ!!」
「フレデリカとっても上手だったわ」
「でしょうね!」
「ペトラもすごーく頑張ってた」
「おい本人に聞かせるな! たぶん死ぬぞ!」
「死にません!」
威勢のいい声が返ってくる。
ペトラが出てきた。
頬は真っ赤。髪も少し乱れている。足取りは普通だ。むしろ胸を張り、やり遂げた顔をしている。
「どうですか、スバル様」
「何が?」
「わたしだってちゃんとできるんです」
「何の報告を俺にしてんの!?」
「エミリア様にも褒めてもらいました」
「よかったな! 詳細は言うなよ!」
「すごーく上手だったわ」
「エミリア様ぁ!?」
ペトラが真っ赤になった。
「お前結局照れるんじゃねぇか!!」
「だ、だって! 本人から言われるのとスバル様に聞かれるのは違うもん!」
「知らねぇよ!!」
その後ろから、最後にフレデリカが姿を現した。
「……」
「……フレデリカ?」
「はい」
「お前、大丈夫?」
「何がでしょう」
「いや」
服は完璧に整っている。姿勢もいつも通り。表情も穏やかだ。
ただし。
髪がほんの少し乱れている。
頬が赤い。
そして何より、いつもの余裕が微妙にない。
「珍しく疲れてね?」
「気のせいですわ」
「嘘つけ」
「気のせいです」
「二回言った!!」
エミリアが後ろからフレデリカへ抱きついた。
「フレデリカ」
「エ、エミリア様?」
「今日はありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでですわ」
「またお願いしてもいい?」
「――」
フレデリカが固まる。
「……もちろんですわ」
「間があった!! 余裕崩れてる!!」
「ナツキ様」
「はい」
「少し黙っていただけます?」
「怖っ!」
ペトラがその様子を見て、嬉しそうに笑う。
「フレデリカ姉様も照れてる」
「ペトラ」
「はい」
「明日の廊下掃除を一つ増やしましょうか」
「職権乱用です!」
「可愛い仕返しだな!!」
エミリアが二人の間へ入り、それぞれの腕を抱いた。
「じゃあ今度は、お仕事が全部終わってからにしようね」
「はい!」
「……そうですわね」
「次回確定してんじゃん!!」
「スバルも肩凝ってるならフレデリカにしてもらえば?」
「普通のマッサージならお願いします!!」
「まあ」
フレデリカがいつもの笑顔を取り戻す。
「それでしたら喜んで」
「よかった。やっと普通の会話に戻った」
「ペトラにも練習させましょう」
「やっぱ怖ぇ!!」
「任せて、スバル」
「お前さっき自信つけたばっかだろ!!」
三人が笑う。
その日の夜から、ペトラは妙に自信満々になった。
フレデリカは以前にも増してエミリアの世話を焼くようになった。
そしてエミリアは。
「明日は誰にお願いしようかな」
「屋敷のメイドを日替わりサービスみたいに選ぶなぁ!!」
こうして、ロズワール邸にはまたひとつ、妙に人気の仕事が増えたのだった。