劇物
いつもの週末、当然学校は休み、部活動なにそれおいしいの?宿題なにそれおいしいの?だからといって外を出歩く用事もないし、一人で引き籠もってるのもそれはそれでイヤ。
そんな中、三軒隣り合った幼馴染達が真ん中の家、美香の家に集まってぐだぐだしようとなったのは特段不思議でもない。毎度の事である。
完全に冬仕様の和室。部屋の中央には炬燵があり、その上にはご丁寧にもミカンが置かれており、三人は黙々とその皮を剥いていた。ちなみに追加のミカンは傍に箱で置いてある。
であるのだが、
詠子。
金髪褐色肌な見た目だけギャル。
どうしても肌を出したいのかノースリーブニットトップスを着ている少女。が、首元はしっかりマフラーを巻いて下半身はずっぽりと炬燵に入っているあたり寒いは寒いらしい。
好きなオナニーは腰へこクリ弄り。そんな彼女は黙々とミカンの皮を剥いている。
美香。
部屋主であり自他共に認める普通っ子。
見るからに暖かそうなモコモコのセーターを着込んでいる少女。他の二人をよそにヒーターを自分の方へ向けているのは部屋主の特権らしい。
好きなオナニーはアナル弄り。そんな彼女は黙々とミカンの皮を剥いている。
椎奈。
無表情ながらも誰もが認める美少女。
首元まで覆うタートルネックのセーターを着込んでいる少女。この部屋のニット率が高いが冬だから仕方ない。
好きなオナニーはオナニー。そんな彼女は黙々とミカンの皮を剥いている。
代わりに爆弾が落とされた。
「……ね」
「あー?」
「んー?」
「オナニー、見てほしい」
「はぁ⁉」
「はぁ⁉」
当然、詠子と美香は驚愕した。
いつオナニー座談会が始まってしまうのかと期待、もとい、ヒヤヒヤしていたのに、あまりにも予想外の豪速球が投げられた。
「……? 私のオナニーを見てほしい」
「いや聞こえなかったんじゃなくてさぁっ⁉」
「聞き間違いであってほしかったわ!」
キョトンとしながら繰り返す椎奈であったが、二人は猛烈に食ってかかった。
「お前の性欲がヤバいのは知ってるけどさぁ!」
「なに⁉ なんなのマジで⁉」
いつものオナニー座談会どころではなかった。そんなものとはレベルが違い過ぎる。
「まぁ、聞いて」
「……聞きたくねぇー……」
「……どうせ碌でもない事に決まってる……」
狼狽する二人をさて置いて椎奈は語り出した。
「あのね? 最近マンネリ気味なの」
「はい出た。出ましたよ」
「ついにオナニーを開拓しきっちゃったよこの子」
マンネリ気味、という言葉に呆れながら反応する詠子と美香。今までのオナニー談義で椎奈の性生活を嫌が応にも知り尽くしてしまったからこその反応だった。
「だから見せつけオナニーしたいなって」
「そうはならんやろ」
「そうはならんでしょ」
故に冷静なツッコミが入った。この一年で成長したものである。
「むしろ露出オナニーに走らなかったのを褒めてほしい」
が、そんな二人の反応など目に入っていないかのように自慢げな表情で胸を張る椎奈。
「褒めねーよバカ」
「やったら普通に引くわ……」
無論誰も褒めない。
「二人に見てほしいの」
「……いやいや」
「……いやそれどう反応すればいいの」
「オナニー見てくれれば良いと思うよ?」
「バカじゃねーの」
「バカなの?」
なお椎奈の学力は学年内でもトップクラスである。
参考までに、椎奈ほどではないが詠子も上位に食い込んでいる。美香は、まぁ、普通である。
「好きな人に私の大好きなオナニーを見てほしいの」
「…………あ?」
「…………うん?」
が、再度爆弾が落とされた。
「あーなるほどな? 気心の知れたアタシ達に見せたい、と?」
故に、何かに気付いていないようにして詠子はそう解釈した。
「なるほどね? オナニー談義を何回もやってる仲なわけだしね?」
故に、何かに気付いていないようにして美香はそう解釈した。
「違う。二人とも、一人の女の子として、好き」
再三、爆弾が落とされる。
部屋の中に静寂が訪れた。詠子も美香もポカンと口を開けている。一人の女の子としてと言ってるくせに二人ともとはこれ如何に、とツッコむ事さえ出来なかった。
「詠子。美香。好きだよ」
真顔で、いつもの無表情で、いつもの囁くような声を少し大きくして、椎奈はそう言った。
「……つまり、整理するとだ」
詠子が眉間を指で揉み込みながら話を切り出す。
「椎奈はあたしらの事を一人の女として好きだ、と」
「うん」
友達としてではなく、幼馴染としてではなく。
「んで、それは愛情的な意味もあるけど性欲的な意味もある、と」
「うん」
人間としてでもなく、一人の女の子として。
「え、なに、レズなの? 百合なの?」
「私達の幼馴染が実は女の子にしか興味ないオナニー魔人だった件について」
「そうだよ?」
幼馴染だからこそ許されるノリで冗談になるように持って行こうとする二人であったが、即返事をする椎奈によってバッサリと切り落とされる。
「そうだよじゃねーよ……」
「マジかぁ……」
そして二人は項垂れた。
「うん。だからオナニー見て?」
「だからじゃねーよ!」
「そうはならんっつってんでしょ!」
椎奈の中ではそうなるのである。
「……逆に何でダメなの?」
項垂れたり噛み付いたりしている二人を不思議そうに見る椎奈。
「まず! オナニーとは一人でするものだ!」
「プレイの一環で見せ合いっこってあるよね」
「ぐ」
先鋒、詠子は論破された
世には色んなプレイがあるのである。
「次に! 私達があんまり見たくない!」
「この間ちょっと興味ある感じだったよね」
「ぐ」
中堅、美香は論破された。
いつぞや以来、椎奈がしつこくオナニー動画を見せつけようとしてくる内に少し興味を持ってしまったのは確かであったのである。
「よし、私のオナニー、見て?」
「っだあああああそうはならんだろ!」
「ああああもうそうじゃないでしょ!」
大将、椎奈は拒否された。
「……何でぇ……?」
椎奈はうっすらと涙を浮かべ二人を見詰める。
「ぐっ、美少女はこれだから……!」
「オナニー狂いでさえなければ完璧なのに……!」
効果は抜群だったようだ。
「あのね椎奈」
「……?」
だが美香は優しく、諭すようにして椎奈に語りかける。
「ダメなもんはダメ」
「えぇぇぇぇ」
バッサリ切り落とした。
「オナニー談義は良くってオナニー見せるのの何が悪いのっ」
「比較にならんわっ!」
「ダメだっつってんでしょ!」
珍しく声を荒げる椎奈に対し、それを上回る声量でダメ出しをする詠子と美香。
「……分かった」
「わ、分かってくれたか……」
「ふぅ……」
椎奈は渋々と引き下がった。
「じゃあオナニー動画、見て?」
「そうはならんだろって」
「そうはならんでしょっての」
だが椎奈は諦めなかった。
「二人が私のオナニー見てくれてるの想像しながらオナニーする事にする。これなら問題ない」
「なんでやねん」
「なんでじゃ」
オナニー職人の熱量は収まる事はなかった。
「何が問題なの……?」
「何ってそりゃ……」
目線を逸らしながら論破しようとする詠子であったが、言葉が続かない。
美香も項垂れてはいるが、論破する材料が見つからない。
そう。実は二人とも興味自体は有るのである。有るのだが、それは何かとマズかろうと必死にブレーキだけをかけているのである。
本来は言語道断で拒否、否定するべき事なのだが、そのブレーキは度重なるオナニー座談会で緩んできてしまっているのだった。
「じゃ、詠子。はいコレ」
「な、なんだよ」
沈黙していた詠子に向かって、ノートパソコンが差し出された。
「荷物多いなと思ったらなんだよコレ……」
「有線でネット環境に繋がないでね?」
「はぁ……?」
「中に無線装置とか入ってない、完全なスタンドアローン」
「いや、だから」
「中に私のオナニー動画が入ってる」
「なぁっ⁉」
差し出されたからとつい受け取ってしまった詠子だったが、そのノートパソコンは爆弾そのものであった。
突き返そうとするも、持ち主たる椎奈はすっと立ち上がる。
「今度感想聞かせてね。じゃ」
サクッととんでもない事を言い残して、椎奈はあっさり去っていった。
「…………」
「…………」
後に残されたのはポカンと口を開けて硬直している詠子と美香。
「……どうしろと」
「……とりあえず持って帰んなさいよ詠子」
「マジで?」
「うちにそんな劇物置いときたくない」
「う、裏切り者ー!」
「し、知るかーっ!」
その後もてんやわんやであったのだが、結局そういう事になった。