二人きり
週末であるからして学校は必然休み。部活動なんて今更始める筈がない。宿題などとうに終わらせた。外に遊びに行くのは気分が乗らない。一人で過ごすのも良いけど誰かと一緒にいたい気分。
そんな中、三軒隣り合った幼馴染達が真ん中の家、美香の家に集まるのが定番……だったのだが、美香は家の用事で不在。
それ故、たまにはという事で椎奈の家に詠子がお邪魔しているのだが、この状況はそこそこレアである。
冬が終わり、桜や花粉の舞い散る春先。
三人とも進級して最上級生となり、受験勉強に本腰を入れなければならない時期ではあったものの、優等生たる彼女達は焦る事なく日常を過ごしていた。……普通、の代名詞である美香は少々焦り気味ではあるが。
詠子。
金髪褐色肌のギャルな見た目のくせに誰よりも初心な優等生。
本日のコーデは白のチューブトップにダメージデニム。肩から首までが露出している影響で鎖骨、肩、背中の健康的な肌が顕になっている。なおその胸部は非常に控えめなため、ずり落ちやしないかと非常にひやひやしてしまうような装い。だが肌を露出する事に命を掛けている少女にとってはそんなもの些細な問題らしい。
昨日はオナニーしてないらしい。
椎奈。
清楚巨乳美少女。なお中身は性欲魔人。
裸だった。自分の部屋だからと裸だった。が、詠子から拝み倒されて渋々服を着た。チョイスしたのは白い無地のTシャツ……だけで済まそうとしたので更に拝み倒されてパンツは穿いた。少しレースの入った、可愛らしい白の下着だった。お願いだからブラもしてくれ、とも頼まれたがそれは拒否したらしい。
昨日もオナニーしたらしい。
参考までに美香。
ザ・普通っ子……のくせにお尻が大好きな異常者。
昨日はオナニー出来なかったらしい。お尻でスるには何かと準備が必要なのである。
椎奈の家はお金持ちである。
それは娘にグランドピアノを買い与え、存分に練習が出来るようにと部屋を防音仕様にしてくれるほど。
そのため、部屋は半分がピアノに占領されてはいるものの、それでも二人で何かするには不便が無いほどに広い部屋だった。
「……詠子」
「んぁ?」
そんな部屋の中で、椎奈は相変わらず本を読んでいて、詠子はピアノで遊んでいる。美香もそうだが、色々フリーダムな関係である。
ちなみに椎奈ほどではないが、詠子もそこそこピアノは弾ける。本当に見た目詐欺である。
「セックスしたい」
「ほあっ⁉︎」
曲が破綻した。指先が踊りまくって変な音が鳴り響いた。
「しよ?」
「しねーよ⁉︎」
詠子が思わず叫びながら振り向けば、そこにはいつもの無表情な椎奈。
「好きだよ、詠子」
「いやそれこの前聞いたけどさぁ⁉︎ なんかこう! 順番おかしいだろ⁉︎」
数ヶ月前、確かに椎奈から詠子と美香に対して告白がなされた。二人とも好きだと。性的にも好きなのだと。
だがそれは有耶無耶になっていた。その話を誤魔化すかのようにしてオナニー座談会の頻度があがっていた。おかげで性生活については三人とも殆ど情報共有している。
故に、椎奈がオナニーが大好き過ぎる事や、詠子が二人に影響されて少しずつオナニーが激しくなってきている事もお互いに知っていた。
「あのね、聞いて?」
「……まぁ、一応聞いてやろう」
だが今日議題に上がったのはセックス。オナニーとは次元が異なる行為。
オナニーの見せ合いをしたい、と椎奈が言った事はあれど、セックスという単語が出たのは初めてである。
「寝バック体験してみたい」
「アホか」
無論、秒で罵倒された。
「聞いて」
「やだよ」
「……おねがい」
「だから涙目になんなっつの……!」
美少女の上目遣いは最強なのである。
「オナニーも良いんだけどね?」
「許可してねーのに喋り始めんなよ……」
「オナニーって全部予想がつくじゃない?」
「……あ? 予想?」
「うん。自分でスるから、どう気持ちよくなるのか全部分かるでしょ?」
「あー……まぁ、そりゃ、な」
詠子は自分のオナニーに想いを馳せる。指、シャワー、ローター、ピンポイントバイブ。どれも当然気持ちいい。
最初はどれもこれも新たな快感をもたらし、知らなかった世界の扉がバンバン開かれていったのだが、何度も体験した今となっては、どのような快感が得られるのか、というのは確かに予想出来るものであった。
まぁそれでもどこかの誰かみたいに次から次へグッズを替えたり、どこかの誰かみたいにマンネリ化するまで使い潰す事も無いのだが。
なので、予想できる快感とはいえ、毎回新鮮な気持ちでオナニー生活を楽しんでいる。
「だから、未知の快感が知りたいの」
「オナニーで満足してろよ……」
「満足はしている。でも気になるの」
「気になるの、って言われても……」
なお椎奈は昨日、二穴オナニーしている。それはそれで大満足したらしい。
「だって、自分の分からないタイミングで、予想できない動きで、いっぱい、いっぱい気持ちよくされちゃうんだよ?」
「だ、だからこういう時だけ饒舌になるのなんなんだよ……」
普段は無口なのである。本当である。
「しかも寝バック。すごく気持ちいいらしいの」
「……いやま、聞いた事はあるけどよ。それって男女って前提があるんじゃねーの?」
呆れた口調で椎奈に問いかける詠子。何を聞いても赤面していた頃と比べ物にならないくらい色々耐性がついている。
「そんな詠子に……じゃじゃん」
「……なにそれ」
ごそごそとオナニーグッズ置き場を漁り、何かを取り出す椎奈。
それは、黒いラバー素材の、紐か何かに見えた。
「ペニバン」
「ぺにばん?」
俗称を言われても詠子はよく分からなかった。
「ペニスバンド」
「ぺにっ……ばんど?」
正式名称を言われても詠子はよく分からなかった。なおその単語は流石に復唱出来なかった様子。
「……知らない?」
「いや……なにそれマジで……」
「こうすれば分かる?」
そう言って椎奈は、自らの下半身に紐のような素材を巻きつけ、ディルドを取り出し、股間部分に取り付けた。
「どやぁ……」
「どやってんじゃねぇ! チン……じゃねーか⁉︎」
「さっきからそう言ってる」
「ペニバンってそういう事かよ⁉︎ こっち向けんな!」
両手を腰に当て、その腰を詠子へと突き出す椎奈。無論詠子は逃げた。
「これで私をどちゅどちゅ犯してほしい」
「えぇぇぇぇ……」
引いた。詠子はめっちゃ引いた。どちゅどちゅの意味も理解出来てしまったが故に超引いた。
「むぅ、何がいけないの」
「何もかもだわ!」
「具体的に」
「ぐっ、具体的ぃ⁉︎」
不貞腐れる椎奈に噛み付く詠子だったが、何がネックなのかを聞かれ狼狽えてしまう。
故に、考えた。
「……いや、それ自分に取り付けんのヤじゃね?」
普通に嫌だった様子。
「じゃあディル公を直接持ってもらって」
「じゃあじゃねーよ」
「そして私のおまんこをじゅぽじゅぽしてほしいの」
「そしてじゃねーよ聞けよ」
「ん、聞く。何がダメなの?」
「何ってそりゃ……」
何を考えているのか分からない無表情を前にして詠子は頭を抱え、エロい事しか考えてねーわと更に頭を抱える。
……なお、ディル公と言われ、それが椎奈愛用のディルドだという事を理解してしまっている事については何も疑問を抱いていない。色々と汚染されている。
それはともかく、考えた。
「…………」
「…………」
考えた。椎奈を論破できる何かを考えた。
「…………」
「…………」
考えた。椎奈を説得できる何かを考えた。
「…………」
「…………」
そもそも考えている時点で、もうダメなのである。
詠子は単に拒否すれば良いだけなのである。
なのに、言い訳を考えてしまっているのである。
「…………」
「…………」
それは即ち、興味があるという事。
度重なるオナニー座談会。いつぞやのオナニー動画。それをオカズにしてのオナニー。
様々な過去が重なり、好奇心が芽を出しかけていた。否、もう芽が出てしまっていた。
「……分かった。セックスは諦める」
「……そうか」
心が行方不明になりかけていると、椎奈が諦めの言葉を吐き、詠子は安堵する。
「代わりに私のオナニーを手伝ってほしい」
「そうはならねーだろっつってんだろ⁉︎」
吠えた。
「詠子は興味津々なえっちな事を見れる、やれる。私は気持ちよくなれる、ウィンウィン」
「ウィンウィンじゃねーよ⁉︎」
「ちなみにディルドだからうぃんうぃんいわない」
「上手い事言ったつもりか⁉︎」
「バイブでも良いよ?」
「良くねーよ!」
超吠えた。ツッコミが追いつかない。
「おまんこじゅぽじゅぽしてよぉ……」
「オナニーで満足してろ!」
「詠子にしてもらいたいのぉ……」
「うっ」
甘く切なそうな声で訴えかける椎奈。
幼馴染とはいえ、そんな美少女の頼みに詠子はよろめいてしまう。
「詠子だって興味あるでしょ……?」
「な、ないし」
「おまんこがディルドずっぽし咥えこむの……」
「お、おまんこ言うなや」
「画面越しじゃない、生のおまんこ……」
「だ、だから……」
「詠子の手で、あん、あん、って……」
「あ、あたしの手で……」
だんだんと椎奈が詠子に近付いていく。
詠子は拒否しようと、様々な考えを巡らせるも、言い訳が出てこない。否、それどころか興味すら抱いてきている。
「詠子……」
「な、なんだよ……」
潤んだ瞳に見詰められる詠子。
顔を紅潮させ、幼馴染にしか分からない真剣極まる表情で、椎奈は訴えかける。真摯に恋願う。
「私を、犯してください」
ポキッ、と何かがへし折れた。