放課後の教室に差し込む西日は、どこか粘りつくような湿度を帯びていた。
相沢瑞希は、窓の外を眺めるふりをしながら、心の中で刻々と高まっていく鼓動のテンポを数えていた。
周囲の生徒たちが部活動や塾へと慌ただしく動き出す中、彼女の思考はすでに、放課後の「儀式」の準備へと向かっている。
今日、彼女が選んだのは、自宅から自転車で三十分ほど離れた隣町の小さな公園だった。
事前にスマートフォンで地図を幾度も確認し、人通りはある程度あるが、自分が行き慣れた場所ではない――すなわち「身バレ」のリスクを極限まで削ぎ落とした場所。
(誰かに見つかる恐怖と、誰かに見られる期待……)
計算されたリスク管理こそが、彼女の持つもう一つの才能だった。
理性的であればあるほど、その先に待つ衝動は鋭利な刃物となって、自らの精神を切り裂く。
その痛みのような快感を、瑞希は求めている。
◇
辿り着いた公園は、夕暮れの静寂に包まれていた。
街灯が点る前の、曖昧で淡い時間帯。
瑞希の胸には、期待と不安が混ざり合った、乾いた喉を焼くような渇きがあった。
(誰もいない……? それとも――)
公園の入り口に立ち、周囲を窺う。
広々とした芝生、古びた滑り台、そして点在するベンチ。
静まり返った空間に、不意に「コトッ、パシッ」という乾いた音が響いた。
瑞希の視線の先に、一人の影があった。
小学校低学年とおぼしき少年が、たった一人でサッカーボールを蹴っていた。
まだ体つきも細く、ランドセルを背負っていないその姿は、どこまでも無垢で、それでいて瑞希にとっては最高の「獲物」に見えた。
(……あの子だ)
大人たちの、理性をかなぐり捨てたような脂ぎった欲望は、今の瑞希にはまだ「重すぎる」。
欲しいのは、もっと純粋なもの。
見た瞬間に思考が停止し、ただ本能のままに視線を固定してしまうような、あの破壊衝動。
瑞希は呼吸を整え、獲物に近づく捕食者のような静かな足取りで、ベンチへと歩み寄った。
自転車をベンチの横に立てかけ、カバンを傍らに置く。
そして、まるで帰宅の途中でふと休憩を選んだ女子高生のような、完璧な所作でベンチに腰を下ろした。
正面、およそ十メートル先。
少年は瑞希の存在に気づいているのかいないのか、ただ黙々とボールを追いかけている。
瑞希はカバンから一冊の文庫本を取り出した。
(さあ……始めて)
彼女は本を開き、視線を伏せる。
教科書通りの「読書に耽る女子高生」という舞台装置。
しかし、その内側では、全身の細胞が熱を帯びて疼いていた。
瑞希は、あえて少しだけ姿勢を崩した。
背もたれに深く寄りかかるのではなく、膝を軽く立て、本を覗き込むようにして身を乗り出す。
視線を本の文字に落としながらも、意識のすべては「前方」――少年の瞳の動きへと研ぎ澄まされていた。
そして、彼女はゆっくりと、密やかな儀式を開始する。
まずは、膝を揃えたまま、わずかに重心を左右へ揺らす。
次に、本を持つ左手で、スカートの裾を軽く押さえるような仕草を見せながら、右脚の膝を、数センチだけ外側へと開いていく。
布地が擦れる微かな音すら、静かな公園では爆音のように感じられた。
瑞希の心臓は、早鐘のように打ち鳴らされる。
本に映る文字はもはや意味をなさず、ただ視界の端で動く少年の影だけが、世界のすべてとなっていた。
(もっと……もっと開いて。もっと、あの子の目に焼き付くように)
羞恥心という名の熱い液体が、下腹部からせり上がってくる。
彼女はさらに大胆に、両膝を左右へと大きく割り開いた。
制服のプリーツが扇状に広がり、その中心――隠されていたはずの、眩いほどに白い布地が、夕闇の中で露わになる。
真っ白な、一点の汚れもないコットン製のショーツ。
それは、瑞希が今日、この日のために選び抜いた「武装」だった。
その瞬間だった。
ボールを追いかけていた少年の動きが、ぴたりと止まった。
(っ……!)
瑞希の背筋に、電流のような快感が走る。
本の下から盗み見た少年の姿は、まるで時間が凍りついたかのように静止していた。
少年はボールを足元に止め、呆然としたまま、立ち尽くしている。
その視線は――間違いなく、瑞希の股間へと突き刺さっていた。
それは一ヶ月前と同じ、濁った、熱い、粘りつくような眼光。
しかし、今の瑞希にとって、その視線は「暴力的なまでの肯定」だった。
(見ている……あの子が、私を見ている……!)
瑞希の呼吸は、浅く、熱くなっていく。
視線に触れられている場所が、まるで熱い鉄板で押し当てられたかのように、じわじわと灼けていく感覚。
羞恥心は、悦楽の原動力へと姿を変えていた。
完璧な優等生の仮面の下で、「獣」が歓喜の咆哮を上げている。
(もっと……もっと、私を見て……)
瑞希は本を読むふりをしながら、内側では激しく脈打つ自身の肉体を見つめていた。
少年の視線が、白い布地の上を滑り、太ももの付け根へと潜り込んでいくような錯覚。
その「見られている」という圧倒的な事実に、彼女の脳髄は痺れ、意識が白濁していく。
だが、物語はそこで終わりではなかった。
瑞希の背筋を駆け上がった熱情を、さらに加速させる予兆がやってくる。
「……あ! 滑り台があいてるよ」
「あっちのブランコにしようぜ」
公園の入り口の方から、控えめな、けれど確かな足音と共に、三人の少年の声が響いてきた。
一人の少年とは別の、新しいグループだ。
彼らは先ほどの一人の少年には目もくれず、まるで最初からそこに誰もいなかったかのように、遊具を目当てにこちらへ歩み寄ってくる。
(……っ!?)
瑞希の心臓が跳ねた。
一人ではない。三人の、まだ幼い、けれど剥き出しの好奇心を持った「視線の塊」が近づいてくる。
もし今、膝を閉じれば、この高揚感は一瞬で霧散し、彼女はいつもの「優等生」に戻ってしまうだろう。
けれど――。
(いいえ……逃げたくなんてない)
瑞希の唇が、微かに、艶やかに震える。
羞恥心という名の熱い檻の中で、彼女の「獣」は歓喜に身をよじらせていた。
三人の視線が一斉に自分に注がれ、その無垢な瞳たちが、自分の最も淫らな部分へと吸い寄せられていく――。
(もっと……もっと、私を暴いて)
瑞希は、あえて開いたままの脚を、さらに数センチだけ広げた。
指先が震え、本を持つ手が白くなるほどに力を込める。
俯いたままの視界の端で、三人の影がベンチへと近づいてくるのが見えた。
「……おい、あれ」
「……っ、見てみろよ」
低く抑えられた囁き声が、瑞希のすぐそばを通り過ぎる。
三人のうちの一人が、正面に固まっている少年の異様な様子に気づいたのだ。
彼らは互いに肩を突き合わせるようにしてコソコソと耳打ちし合いながら、吸い寄せられるように少年のもとへ歩み寄っていく。
(くる……三人の視線が、あの子と一緒に――!)
少年の隣に三人が並び、彼らの瞳が一斉に瑞希の股間へと突き刺さる予感。
完璧な優等生の仮面と、その内側に潜む獣。
二つの顔が、夕闇の中で混ざり合い、逃げ場のない悦楽の渦へと溶けていく――。