※この作品はR-18です。

陽炎の揺らめき   作:天木武

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邂逅と再会 その3

◇

 

 

 空遁の術による数度の跳躍を連続で行った後、凜子は術の使用をやめた。人影のないビルの狭間に降り立ったところで、その膝が折れる。

 

「先輩! 大丈夫ですか!?」

 

 心配そうに声をかけてきたゆきかぜを凜子は手で制す。だが疲労が大きいことは、上下する肩と額に浮き出た汗からも明らかだった。

 

「大丈夫だ……。身体を飛ばす『空間跳躍の法』は一時的に大きな負担がかかるというだけのことだ。大したことではない。少し休めば動ける」

「……なぜ、私を連れ出したの?」

 

 右手にはまだ刀を持ったままだったが、先ほどまでの激昂した様子からは落ち着いたらしい陽炎が尋ねる。

 

「話でしか聞いたことがないが、朧といえばかなりの強敵。それも正攻法以外の搦め手、奇襲、騙まし討ち、罠などを得意とすると聞いた。……実際、現れたあいつからは、かなりの使い手という印象を受けた。しかもあそこは敵地の中、状況は向こうに有利。一方でお前は私と戦って無茶な防御をしたせいで、身体はかなり消耗していた。……今もまだ、筋肉の痙攣が治まっていないのではないか?」

 

 無言で陽炎は凜子から目を逸らし、自分の右腕を見る。刀を握り締めていたその腕は、確かにまだ僅かに震えていた。

 

「そんな状態では返り討ちに遭うのが関の山だ。それにあの時のお前は……まるで刺し違えてでも相手を討つ、というような危険な気配さえあった。だから連れ出した」

「余計なお世話よ。私の命だもの、どう使おうと私の勝手でしょ」

「あんたねえ! 助けてもらっておいてその言い方……!」

 

 噛み付こうとするゆきかぜを凜子が再び制する。

 

「確かにお前の命だ、私達がどうこう口を挟むことは無粋かもしれない。……しかし、お前の腕は本物だ。私が保証する。それだけの使い手を、むざむざ散らせるのは惜しい。それにお前は朧と因縁浅からぬ仲のようだ。……朧はお前の母親を目の前で殺した、と言っていたからな。ならお前はあいつに斬りかかった以上、あいつを討ちたいはずだ。そうだろう?」

 

 陽炎は答えなかった。少し前のやり取りのときのように無言を貫く。

 

「本部に報告してみなくてははっきりとは言えないが……。おそらく朧は無視できない存在として倒す対象となるだろう。ならば、私達とお前との目的は同じはずだ。目的が一緒なら、協力した方がいい」

「……なるほど。凜子先輩の言う通りね。確かにあんたはイマイチ信用できないけど、朧を討つという点では一致するはずだわ。アサギ隊長には私と先輩からも掛け合う。協力するってなった上でだけど、お母さんの仇を取りたいなら私も手伝ってあげなくもない。凜子先輩も力を貸してくれるだろうし、事情がわかれば他の対魔忍達も同じだと思うわ」

 

 ピクリと陽炎の整えられた眉が動いた。その顔に、僅かに不快感が浮かんでいるようにも見える。

 

「……何が『私も』よ」

「え?」

 

 ポツリと呟かれたその一言は、ゆきかぜの耳には届かなかった。陽炎はため息をこぼし、手に持つ刀を鞘へと収めつつ、口を開く。

 

「そんな単純な事情じゃないの。あいつの話聞いてなかった? 確かにあの朧は私の母の仇よ。でも……私はその前に母に罠に陥れられ、捕らえられた」

「なっ……」

「朧の言うことは一理ある。もしかしたら見ようによっては朧に助けられた形かもしれない。母は、娘の私を嵌めた最低の母かもしれない」

「それでも……仇を討ちたいのだろう?」

 

 凜子にそう問われても、陽炎の表情は変わらなかった。

 

「……母さんの仇のために討つ、というのは、少し違う。でもその気持ちが無いわけではない。実の母に罠に嵌められたと気づいた時に、絶望すると同時に恨みもしたとしてもね。……結局、どうあろうと母は私の母だったのよ。……ともかく私はあの朧を討つ。いえ、討たなくてはいけない」

「だったらこちらの協力を……」

「断る」

 

 あまりにもキッパリとした答えに、凜子は気圧された。

 

「私は勝手に動く。あなた達も勝手に動けばいい。……さようなら。もう、構わないで」

 

 一方的に話を纏めると、陽炎は印を結んでその場から消えた。

 

「『空間跳躍の法』……! 先ほどの戦いで空遁の術を使えるのはわかっていたが、そこまで使いこなすほどの使い手だったか……!」

「なんなのよ、あいつ……。私に似てたり凜子先輩と同じ愛刀らしいもの持ってたり、こっちを付け狙ってたと思ったらもう構うなとか言ってきたり……。わけわかんない」

 

 ゆきかぜの言いたいことはもっともだと凜子も思っていた。彼女自身、陽炎とは何者なのか、なぜ自分と同じ刀を持っているのか、聞きたいことはいくらでもある。だがしかし、と、凜子は思考を切り替えた。

 

「ともかく、報告のためにもまずは五車町まで行くとしよう。いくら空遁の術の連続使用ですぐに見つからない位置までは逃げたであろうとはいえ……。この格好は目立ちすぎるからな」

 

 凜子もゆきかぜも雪月華から逃げた時の格好のまま、つまり着物姿だった。このご時世に着物姿の美女というのはそういうサービスをしている客引きの娼婦か、よほどの物好きしかいないだろう。もっとも、仲間の中には好んで和装でいる盲目の対魔忍もいるために一概にそうとも言えないだろうが。

 

「言われてみれば……。そうでした。さっさと帰りましょう。……なんか帰った後にこの格好を冷やかされそうな気がしないでもないですけど」

 

 そう言ったゆきかぜの顔には、どこかうんざりするような表情が浮かんでいた。一応の恋人関係にある幼馴染に何か言われるか、その様子を見た誰かに冷やかされそうな気がする。そう思うと、どうしても気が重くならざるを得なかった。

 

 

 

◇

 

 

 陽炎の乱入の翌日。一連の騒動のせいで任務放棄を余儀なくされたゆきかぜと凜子の2人は、潜入していた雪月華から脱出後、無事に五車町へと戻ってきていた。まずは身体を休めるよう命じられた2人は、簡易報告だけ済ませてしばし仮眠を取ってから、報告のために五車学園の校長室へと赴いていた。

 部屋の中にはアサギ、さくら、紫の3人に加え、ごたごたの影響で同様に任務放棄と相成った黒百合の姿もあった。

 

「失礼します」

「来たわね。待っていたわ」

「あ、普段着なんだ。昨日着てきた着物2人とも似合ってたのに」

 

 部屋の主であるアサギに軽くを頭を下げた直後、さくらからとんできた一言に2人は苦笑を浮かべる。戻ってきた時も誰となしに言われたわけだが、やはり予想が的中したとも思う。

 それはさておき、とさくらの発言は聞き流す形をとることにした。共に潜入任務に就いていた黒百合の方へとゆきかぜの視線が移る。

 

「すみません、黒百合さん……。私達のせいで」

「別にあなた達が謝ることじゃないわ。原因は陽炎って子にあるみたいだし、どうにか捕まらずに脱出できたから。あとはまあ、その子をとっ捕まえて責任を取らせればいいもの」

「今の黒百合の話じゃないけど、陽炎のことについては私達も聞きたいところなのよ。ゆきかぜ、凜子、そのことを詳しく報告してもらえる? 確か……陽炎と交戦したそうね。素顔は見たの?」

 

 神妙な面持ちのまま、2人は頷いた。

 

「はい。……不気味なぐらい私とそっくりでした」

「髪形と日焼けをしていないというところと、あとは使っている得物は違いました。ですが、顔や背丈に加えて性格まで似ていると私は感じました」

「り、凜子先輩!」

 

 反射的に声を上げえてしまったゆきかぜだったが、今は報告の最中だったと、慌てて口を噤む。

 

「性格まで、ということは話したということ?」

「はい。それから剣を交えての私の印象です」

「お姉ちゃんがなかなかの使い手のようだ、って言ってたけど、実際戦ってどうだったの?」

「……腕は本物です。流派は逸刀流。技術だけでいえば……私と互角でした。私の空遁を交えた奥義までも、捌き切られましたから。……噂に聞いていた通りの雷遁と空遁の両方を使われて」

 

 誰となく息を呑むのがわかった。「斬鬼」と呼ばれ、剣の腕ならアサギでさえ一目置く存在である凜子が「互角」と述べるほどの使い手。そして2種類の術を使いこなす異端の中の異端。それだけで只者ではないということは明らかだった。

 

「ただ、妙なことが」

「また妙なこと? 本当に陽炎っていう子は不可解なことばかりなのね。……それで、その妙なことっていうのは?」

「あいつは、私と手を合わせたかったと言っていました。実際に、剣からもそれを感じました。ですが、それだけが目的というのはどうも解せません。

 ……いや、それ以上に見過ごせないこととして……。奴は自分の刀を私の刀と同じ、石切兼光だと言いました。事実、長さも刃文も私の愛刀と一緒……。それでも私はにわかに信じられませんが、少なくとも私の全力の打ち込みにも耐え切るほどの業物であったのは事実です」

「凜子と同じ刀ですって? ……ますますわけがわからないわね。本来この世に2本と存在しないはずの名刀を持っていただなんて」

 

 ハァ、とアサギが頭を抱える。しかしより頭を抱えるであろうことを報告しなくてはならないと、凜子は重い心のまま口を開いた。

 

「それから……アサギ隊長の耳にどうしても入れなくてはならないことが」

「何?」

「陽炎と交戦を追え、奴が退こうとした時に……朧が現れました」

 

 朧、という単語を耳にして、途端にアサギの表情が硬くなった。

 

「……なんですって?」

「凜子先輩が言っていることは間違いありません。私も同じ場にいたので見ました」

「私も客の相手をしていた時、魔族連中が部屋に踏み込んでくる前にチラリと覗き込んできた女を目にしてます。……禍々しい気配でした。おそらく凜子の言うとおりあいつが朧なんでしょう。それで本能的に危険を察知したので、バックアップの仲間と共に任務を放棄して撤退を決断しました」

 

 凜子に続いてゆきかぜ、黒百合と報告されてはもう疑念を挟む余地はない。

 

「……朧が復活したと言う噂、本当だったわけね」

 

 アサギにとっては陽炎がどうのという話以上に凶報だった。あの憎き宿敵がまた現れた。それだけで由々しき事態だった。

 

「しかも朧は、どうやら陽炎と面識があったみたいです」

「面識があった……? 間違いないの?」

 

 アサギの問いに、凜子は首を縦に振って肯定する。

 

「はじめのうちは、陽炎は平静でした。ところが、朧に『目の前でお前の母親を殺した女の顔を忘れたのか』と言われた途端、逆上して斬りかかっています。離脱後に話を聞く時間が少しはあったのですが、朧は母の仇だと言っていたので間違いありません。それで、そこで協力を申し出たのですが断られて……」

「ちょっと待て。……今の話、おかしくないか?」

 

 と、そこで口を挟んできたのは紫だった。意図を図りかねて凜子が首を傾げる。

 

「何がおかしいの、ムッちゃん? お母さんが朧に殺されたとなれば、面識があるのは普通でしょ?」

「違う。凜子、それから話を聞いていたであろうゆきかぜも。陽炎が斬りかかったのは朧に挑発されてから。確かにそうなんだな?」

「間違いないです。そうですよね、凜子先輩?」

「ああ。……あっ」

 

 凜子は何かに気づいたようだった。頷き、紫が口を開く。

 

「母親の仇が目の前に現れたのに、はじめは平静だった、と凜子は言った。それがどうも引っかかる。親の仇というほどの憎い相手であるなら、目の前に現れたと同時に襲い掛かってもおかしくないはずだ。なぜそれをしなかった?」

「えっと確か……。陽炎が言うに、実の母親に罠に嵌められて捕らわれたとかって……。そのごたごたの最中に朧に殺された、みたいなことを言ってました。だからそこまで憎んでないんじゃ……」

「いや、それは違うぞ、ゆきかぜ」

 

 ゆきかぜの意見を凜子は否定する。

 

「あいつは明確に朧に敵意を見せていた。それに別れ際に『朧は討たなくてはいけない』と言い切っている以上、敵とみなしている」

「確かに紫の言うとおりおかしいわね。凜子、その周辺に2人の間で気になるやりとりはなかった?」

 

 アサギに問われ、「ちょっと待ってください……」と凜子は記憶を整理し始める。

 

「……思い出しました。確か『また会ったわね』と朧に言われた陽炎はこう返しました。『私を知っているの?』と」

「何それ、どういうこと!? 顔見知りのはずなのに、知っている方がおかしいみたいな言い方じゃない!」

 

 さくらが信じられないとばかりに声を上げる。「あるいは……」と紫が補足するように続けた。

 

「自分を知っている朧か確認を取った、とも考えられる……。となれば、朧は複数体存在するとか、または『陽炎を知っている朧』と『知らない朧』が存在するということか?」

「あの女が複数体とか……冗談でもやめて頂戴」

 

 頭を抱えて過去のことを思い出しつつ、アサギは紫へとため息混じりに述べた。

 

「……あ、もうひとつ思い出しました」

「何、ゆきかぜ」

「朧の奴、確か陽炎にこんなことを言ったんです。『またあんたの母親を殺してやろうか』って」

「また?」

 

 誰となく反芻されたその単語に対して、ゆきかぜは頷く。

 

「また、とはどういうことだ? 陽炎の母は殺された後生き返ったとでも言うのか?」

「あ、わかっちゃった」

 

 紫の発言の後に聞こえたさくらのその一言で、全員の視線が移った。が、当の本人がにんまりと会心の笑みを浮かべているのを見て、一同の心に「ああ、どうせろくでもないことだろう」という諦めの気持ちが浮かぶ。

 

「ちょっと何よ皆してその反応! 私まだわかっちゃったってしか言ってないじゃん!」

「……一応聞いておいてやる。何がわかったんだ?」

「ムッちゃん、よくぞ聞いてくれました!」

 

 待ってましたとばかりに胸を張り、さくらは自論を唱え始めた。

 

「陽炎はね……。未来から来た対魔忍だったのよ!」

「……何よそれ」

 

 左手を身体の前で構えるポーズまで決めてノリノリのさくらに、アサギが呆れ気味に突っ込みを入れる。

 

「ちょっとお姉ちゃん! そこは『な、なんだってー!』とか驚くところ! ……まあいいや。でもそれなら説明つくじゃない? 陽炎は朧によって母親を殺されてしまった。だから、それを阻止するためにタイムスリップしたものの、なんらかの影響でこの時代に流れ着いてしまった!」

「じゃあ朧もその時代の朧で、追いかけたか巻き込まれたかしてタイムスリップしてきた、とでも言いたいわけか?」

「そういうこと! さすがムッちゃん、理解が早い! これなら陽炎が確認を取ったのも、朧が『また』なんて言ったのも説明がつくでしょ!」

「……じゃあ私に似てるってのはどう説明つけるんですか? 偶然、で片付けるのは都合がよすぎますよ?」

 

 突拍子もない仮説に、ゆきかぜも呆れ気味に尋ねる。

 

「え、えっと、それは……。あ、そうそう、陽炎はユッキーと達郎(たつろう)の子孫なんだよ!」

「ちょ、ちょっとさくらさん!?」

 

 ゆきかぜは幼馴染であり凜子の弟である秋山達郎と一応恋人関係だ。が、どうにも関係が発展しないためにこうして冷やかされることも多い。今回もそれかという気持ちがゆきかぜの中に浮かんできていた。

 

「それなら凜子ちゃんの家に伝わる名刀を引き継げるだろうから持っていてもおかしくないし、先祖である凜子ちゃんと戦いたがっていた理由にもなるじゃない?」

「……なるほど、あるかもしれない」

「いや、無いですから。凜子先輩、何感心してるんですか。大体、さくらさんは私に似てる理由を今完全に思いつきで言ってましたよ。しかも冷やかしで」

 

 顎に手を当てて頷く凜子と対照的、ゆきかぜは冷静に突っ込みを入れていた。

 

「そんなオカルトありえませんよ。そもそも陽炎の母親を『また』殺す、と言っているということは、その『母』がこの時代に既に存在しているということになります。仮に私と……その……達郎との子孫だとして、この時代には母親に該当する人物がいなくちゃならないってことですよね?」

「そりゃユッキーが……」

「そこまでにしろ、さくら。それではゆきかぜが娘を罠に嵌めた母親、という話になる。例え話でも、言われた方としては気分がいいものではないだろう」

 

 紫に指摘されて、さくらは「あっ……」と声を溢していた。

 

「……ごめん、ユッキー。ちょっと悪ふざけがすぎたみたい」

「いえ、いいです。気にしてませんから。まあ面白い話ではありましたけど、やっぱりありえませんよ、そんな話」

 

 軽く笑い飛ばすゆきかぜだが、さくらは「そうかなあ……」とまだ納得いっていない様子である。

 

「どうしたの、凜子。難しい顔をして」

 

 と、そこで黒百合がずっと額に眉を寄せたまま黙り込んでいる凜子に気づいた。「あ、いえ、大したことではないんですが……」と前置きをしてから凜子は先を続ける。

 

「……今のさくら先輩の話、意外と辻褄は合っているように感じて」

「あ、でしょでしょ!」

「だが凜子、さっき言ったとおりそれでは陽炎の母親というポジションに該当するのはゆきかぜになる。お前は自分の相棒が娘を罠に嵌めるような母親になると思っているのか?」

「それは思っていません! 私は相棒であるゆきかぜを信じています。……信じてはいますが」

 

 紫の指摘に反論してから一旦口を噤み、凜子は再び話し始めた。

 

「……奴はずっと捜し続けていた私達を見つけて、『何があっても対魔忍としての誇りを忘れるな。忘れれば殺す』と言ってきました。私と手を合わせたかったということもあるでしょうが、そのメッセージをどうしても伝えたくて私達を捜し求めていた……。無論それが全てではないかもしれませんが、重要な目的のひとつであるようにも感じるんです。だとすると、それはまるで……」

 

 そこで凜子は言葉を切った。未来はどうなるかわからない。そこを踏まえれば、さくらの途方もない仮説に辻褄は合う。だがそれを言葉にしてはいけない、そうも思っていた。

 

「や、やだなあ凜子ちゃん。そんな本気にならないでって。冗談だから、ね?」

「……そうですね。すまない、ゆきかぜ」

「だから気にしてませんって」

 

 謝罪する凜子に、ゆきかぜは笑顔を返していた。が、さくらの方はまだ引かずに補足を続ける。

 

「え、えっとね、ほら、不死身だったり瞬間移動したりする異能の力を持つ人達が近くにこんな沢山いるわけじゃん? 私だって影に潜れるわけだし。それなら、タイムスリップなんてオカルト染みた話もあるんじゃないかなーなんて思ってふざけて言っただけだから……」

「言っておくがさくら、私の不死覚醒は不死身なわけではない。確かに異常治癒能力ではあるが痛みは感じるし、死なないわけではないぞ」

「厳密に言うと空遁の術も瞬間移動とは、またちょっと違うんですが……」

 

 紫と凜子に冷静に突っ込まれ、さくらは言葉を詰まらせる。さすがにこれ以上「自論」を展開する気にはならないようだった。

 

「……まあ未来人だか異世界人だか知らないけど、さくらのオカルトチックな話は置いておくとして。確かに陽炎については謎が多すぎるのは事実ね。でもそれ以上に注視すべき存在がいることはわかった。……朧よ」

 

 アサギのその一言で、弛緩し切っていた空気が一気に張り詰めた。さっきまでおちゃらけていたさくらも真面目な表情に切り替わっている。

 

「この場の3人が目撃している以上、朧が舞い戻ったことは間違いない。……ブラックも復活したという噂もあるし、なおさら気が抜けないわ。可能なら連中が再び力をつける前になんとかしたいところね」

「アサギ様、陽炎はどうしますか? ゆきかぜと凜子の話だと、朧は討ちたいが手は結びたくない、という話でしたが……」

「敵の敵は味方、かしらね。利用する……と言うと言い方は悪いけど、こちらのプラスになるように動いてくれる分には構わないわ。何者であろうと、ね」

 

 ふう、とアサギは大きく息を吐き出した。そして難しい顔のまま続ける。

 

「部長ともまた相談してみる。とにかく情報がほしいわね。ヨミハラに踏み込むとかの強硬手段に出るにしても情報がまだ少なすぎる。……陽炎については、ゆきかぜと凜子に接触した後『構うな』と言っている以上、優先度を落していいわ。無論、敵対するならその限りではないけど。代わりにノマド、特にブラックと朧に関する情報がほしい。その方面を強化するということで、お願い」

 

 わかりました、と対魔忍達は返事を返す。皆、顔は優秀な対魔忍のそれとなっていた。

 それでもアサギの心は晴れない。幾度と無く死を目撃しているはずの朧。その宿敵が、また現れた、ということは確実となった。今度こそ、真の意味で決着をつける。アサギはひとり、そう決心していた。

 




イングリッドイベの怒涛の追い込みに焦りつつなんとか1枚ゲット。それはそうとあのエピローグ、三下魔族の力でしてやられるとかまたイングリッドは本当に強いのか説が浮上してしまうじゃないか……。
そして次のバレンタインイベがランキング報酬アサギに到達報酬朧とか、豪華なだけに今度も荒れそうなイベントですわ。
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