※この作品はR-18です。

陽炎の揺らめき   作:天木武

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救出 その3

◇

 

 

 仮面の対魔忍が1人でまず指定の場所に向かい、その後で自分達が敵の索敵範囲内へと堂々と侵入。その陽動と同時に空からの強襲。

 どうやらここまではうまくいったようだ、と林の中を突き進む彼女は考えていた。月光を反射して煌く白の対魔忍スーツに身を包み、背には伸縮式の長大対魔刀と忍者刀を背負っている。

 完全装備状態の「最強の対魔忍」、井河アサギだ。

 傍らには同じく白の対魔忍スーツと巨大な斧を持った紫が併走している。さらに背後には腕利きの精鋭部隊。彼女たちは遥か先の廃工場目指し、話の中を前進し続けていた。

 

「そろそろ凜子が離脱をする頃よ! 後続部隊は退路の安全確保を最優先に! 相当数のドローンがいる、無人機だと甘く見るな! 紫、私達はとにかく突き進むわよ!」

「はい、アサギ様!」

 

 そう、朧と仮面の対魔忍がコンタクトしたタイミングで現れたこの対魔忍の部隊は陽動だけが目的ではない。捕虜となっていた陽炎とアスカを救出後、凜子の空遁の術による撤退を援護するための、退路確保の部隊でもあったのだ。それ故アサギが陣頭指揮を執っているのである。

 

「前方に強化外骨格。紫!」

「お任せを!」

 

 攻撃を仕掛けてくる蜂のようなドローンを忍者刀で真っ二つにしながら発せられたアサギの声に応じ、紫が加速する。目の前には米連製のパワードスーツ、XPS-11Aボーンが2機。試作機ということで初期に生産されたため既に型落ち機ではあるが、並の人間からすればその存在は脅威以外の何者でもない。

 それでも紫に怯む様子は無かった。ようやく気づいたずんぐりとした2機が接近する敵へと右腕に装備したガトリング砲の銃口を向ける。が、遅い。

 

「はああああああーっ! 忍法、不死覚醒! 『羅漢(らかん)の大斧(だいふ)』!」

 

 気合一閃。紫の大斧は中の人間ごと、強化外骨格を真っ二つに叩き切った。肉体のポテンシャルを脅威の再生力によって最大限に引き上げた力任せの一撃。搭乗者ごと両断した彼女は、続けざま大斧を横に振るって2体目の首を跳ね飛ばす。悲鳴もなく、鋼鉄の塊がごとりと地面に横たわった。

 

「対魔忍が! 死ねえ!」

 

 その時。木の上から隙を窺っていたのか、数名の魔族が紫目掛けて飛び降りてきた。

 だが当の彼女に動じた様子はない。さらには斧を振るう気配も無い。にも関わらず、その顔には微笑――死の微笑が張り付いていた。

 

「くれてやる。さくら!」

 

 瞬間、紫の影から何かが虚空へと飛び出す。それはすれ違い様、飛び降りてきた敵へと刃を振るった。

 

「もう、ムッちゃんてば人使い荒いんだから」

 

 言葉と裏腹、特に気にかけた様子もなく呟いたのは紫の影に身を潜めていたさくらだった。影遁の術で紫の影の中に隠れていた彼女は、両手の小太刀で襲い掛かってきた獲物の命を狩っていたのだ。

 辺りに血の雨を降らせ、しかし自分達はそれを一滴も浴びることなく、コンビの2人が並ぶ。

 

「その気になれば自分でも何とか出来たじゃん」

「そうなればなったで『私にも出番をよこせ』とか言い出すだろう。面倒な奴め」

「むぅ……。確かに言うかな。でも私のことをわかってるなんてさすがムッちゃん。今日も『チームさくむら』のコンビネーションはバッチリだね!」

「何が『チームさくむら』だ……」

 

 普段と変わらない様子のさくらに紫は不満そうにこぼす。だがここは戦場だ。すぐに表情を引き締め、さくらもそれを汲み取った様子で再び影へと隠れると、アサギと合流しなおした。

 

「ご苦労様。でも気は抜けないわね。この様子じゃ強化外骨格はおそらくまだいる……」

「今のは旧型です。ですが、米連製の新型である『アレクサンドル』や陸上自衛軍が開発した『雷電(らいでん)』が出てきてもおかしくありません」

「同感。やれやれ、仮面の女は本当に無茶な要求をあっさりとしてくるんだこと」

 

 アサギが深くため息を漏らしたところで、ノイズ交じりの通信が小型インカム越しに聞こえてきた。

 

『こちら……アサ……聞こえ……』

「アサギよ。凜子?」

『はい。救出……。繰り返し……きゅう……は成功です』

「救出は成功したのね? それで、被害は?」

『ありませ……。ただ、朧を仕留め損ね……』

「ノイズが酷いけど、おおよそわかったわ。第一目標は達したというわけね。それで十分よ、よくやってくれたわ。今退路を切り開いている。どうにか合流して」

『りょうか……』

 

 そこで通信は切れた。さすがは優秀な逸材。失敗すれば命も危うくなりかねない、あの無茶もいいところの強襲を見事成功させたことをアサギは心から称賛する。本音をいえば朧を討ち取りたいところだったが、この際欲は言っていられない。ここは自分の手で仕留めるチャンスが生まれた、とでも考えておこうと頭を切り替えることにした。

 

「アサギ様!」

 

 彼女がそんな風に巡らせている思慮を引き裂くように、逼迫(ひっぱく)した紫の声が響く。その声に視線を移すより早くに本能的に危機を感じ取り、アサギは紫と離れる形で飛び退いた。

 一瞬遅れてその場を50口径の弾丸が撫でていく。当たれば身体を肉片へと変えかねない死の銃弾だ。射撃先に目を移し、アサギの顔に苦いものが浮かび上がった。

 PEX-88式改、通称「雷電」。先ほどアサギが口にした陸上自衛軍の最新鋭機が立ちはだかり、腕部に装備された12.7ミリ重機関銃を構えていた。今の射撃はこれによるものだとわかる。

 さらにその背後、米連製の強化外骨格「アレクサンドル」も立ちはだかっていた。こちらは手持ちで同口径の重機関銃を持っている。

 そして周囲にはノマドに雇われたであろう銃を持った傭兵。強化外骨格を軸に包囲し、追い詰めるという作戦であろう。

 

「紫は雷電を! さくらは歩兵連中をお願い! 後ろの2体は私がやる!」

 

 叫んだ直後、アサギ目掛けて雷電の肩に装備された対戦車榴弾砲が火を吹いた。高速で動くアサギを捉えることは叶わなかったものの、地面に着弾した後に爆発、辺りに礫を撒き散らす。

 

「くっ……!」

「アサギ様! 貴様ァ!」

 

 敬愛する人を狙われたことで紫の頭に血が上る。向けられた重機関銃の射線から逃れるように雷電へと肉薄。対する強化外骨格は射撃を諦め、振るわれる大斧に合わせるように右腕の強化合金ブレードを展開した。

 

「ちいっ……」

 

 ブレードが紫の斧を受け止める。戦車並みの装甲に身を包み、それでいて魔界の技術によって俊敏な機動と搭乗者の感覚強化まで図られているパワードスーツを相手に、さすがの紫も一撃必殺とはいかなかった。先ほどは相手が旧型、加えて先手を取って発見したというアドバンテージがあったが、今度は最新鋭機、しかも先手は向こうに譲っている。加えて同様の米連の最新鋭機が背後に2機、あとは歩兵も控えている。

 だが、紫は背後のアレクサンドル、及び歩兵達からの援護は来ないと確信していた。あくまで目の前の雷電だけに集中し、接近戦を仕掛ける。

 当然後続の戦力はその紫へと銃の狙いを定めた。しかし、次の瞬間。

 

「忍法、光陣華!」

 

 凛とした声が響き渡った。声の主はいうまでもない、アサギだ。右手に刀身をスライドさせて展開した対大型用の長大対魔刀を持ち、アレクサンドルへと迫る。いや、それはアサギの視点での話だ。

 「隼の術」である光陣華を発動させた今の彼女は五感五体が強化された状態にある。つまり見える光景は、彼女からすれば周囲の動きはスローモーションに。周りの者からすれば逆に、アサギが超高速で動いているように。

 

「はあああああああーっ!」

 

 その加速した世界の中で、アサギは右手に持った長大対魔刀を米連製強化外骨格の首筋へと叩きつけていた。いかに強固な装甲に包まれていようと、弱点が皆無と言うわけではない。関節部分は自然と装甲が薄くなる。

 それでも旧式の頚部をあっさりと叩き切った紫であったとしても、新型となれば一撃では無理かもしれない。ましてや単純な力だけでいったらアサギは劣る。故に、首筋を狙った一撃は弾かれ、装甲を切り裂くことは出来なかった。

 しかしアサギの攻撃は終わらない。一がダメなら十を。十でもダメなら百を叩き込むだけのこと。どれほどの強度があろうと限界は訪れる。以前のブラックとの戦いの際に雷電を仕留めたこともあるアサギは、それを重々承知していた。よって刀を振るう手は止まらない。

 

「一斬百戒(いちざんひゃっかい)!」

 

 かくして、光陣華の効果時間中に百もの斬撃をアサギは繰り出していた。術が切れ、1体目を確認することなく2体目に斬りかかり、まずは手に持つ重機関銃を長大対魔刀が斬り裂く。その時になって思い出したかのように、1体目のアレクサンドルの首が吹き飛び、物言わぬ塊となった。

 

「援護だ! たとえ対魔忍といえど、銃弾を受ければただではすまないはずだ!」

 

 パワードスーツと互角に渡り合う対魔忍を見ても敵に動揺は見られなかった。対魔忍という存在をよく知っているが故の反応だろう。手に持つ銃をアサギに向けようとする。

 しかし知っているのと対応できるのは別問題であった。

 

「いい具合にわざわざ固まってくれて、ありがとね」

 

 いつの間にか紫の影から敵の影へと移動していたさくらが姿を現す。突然の襲撃に、今度は一様に動揺が走る。だがそんなことはお構いなしとばかりに、さくらは影から飛び出すと堂々と叫んだ。

 

「忍法、影遁の術! 『影殺陣(えいさつじん)』!」

 

 影で作られた刃が強化外骨格を援護しようと隊列を組んでいた敵を串刺しにする。一撃で目標は大方片付いた。だが術の範囲外にまだ銃を構える者達が残っていた。

 

「残りは!」

 

 再びさくらが影に潜る。

 

「私がこの手で片付けてあげる!」

 

 そして出現と同時にその影の主の首を掻っ切る。常識の通じない相手に歩兵たちは一気に混乱状態に陥り、援護どころの話ではなくなった。

 

「せやああああーっ!」

 

 こうなれば完全にアサギ達のペースだった。アサギの気合と共に振るわれた巨大な刀は弱点である関節を狙うが、装甲に阻まれて弾かれてしまう。しかしその表情に焦りの色は無い。

 見れば紫も雷電を圧倒しており、あとは自分がアレクサンドルを倒せばほぼここは制圧という状況らしい。

 

「とはいえ、さすがに手こずるわね……」

 

 アレクサンドルが振るった、パワードスーツ用の巨大なサバイバルナイフを避けつつアサギはぼやく。もう1度光陣華を使えば間違いなくそれで事足りる。が、さすがに短時間の連続使用は身体の負担になる。それにまだどんな敵が残っているかわからない以上、乱発は控えたいと思っていた。

 

「アサギ様、加勢します!」

 

 と、その時紫の声が聞こえてきた。多少は苦戦したようだが、雷電を片付けたらしい。アサギにとって助けになるであろうその申し出だったが。

 

「いいえ」

 

 そう言って微笑を浮かべると、アサギは敵に背を向けた。さらには長大対魔刀の刀身を収縮させて鞘に収める。

 完全な隙を晒した相手に、アレクサンドルがサバイバルナイフを振りかぶる。が、そこまでだった。強化外骨格の動きはそこで止まっていた。いや、よく見ると僅かに痙攣しているようにも見えた。

 

「今、終わったわ」

 

 アサギがそう呟いた途端、背後のパワードスーツの首が刎ね跳んだ。ドサリ、と崩れたその鋼鉄の屍の後ろ、銃口を向けた黒のボディスーツ姿の美少女と、二刀一対の刀を手にした白い米連製のスーツに身を包んだ美女が立っていた。

 

「退路確保感謝します、アサギ隊長」

 

 ゆきかぜと凜子だった。共に強襲をかけ、先に単身向かった仮面の対魔忍と合流、その上で陽炎とアスカを救出し、5人はここまで来ていた。

 

「ご苦労様、ゆきかぜに凜子。そして……また会ったわね、陽炎。もっとも、素顔のあなたと会うのは初めてだけど」

「アサギ……さん」

 

 明らかに疲弊した様子の陽炎は、そう彼女の名を呼んだ。微笑を浮かべ、アサギは返す。

 

「あなたの身柄はしばらく私達が預かるわ。この後本部に移送、まずはそこで身体を休めなさい。それからじっくり話を聞かせてもらうから」

「……助けてもらった身です。その時は、応じます」

「物分りが良くて助かるわ」

 

 それからアサギは「娘」ともいったアスカへと視線を移した。

 

「アスカも。無事でよかったわ」

「ありがとうございますアサギさん……。感謝しても、しきれません」

「私からも重ねて礼を言うわ。あなたの英断のおかげでアスカを助け出せた」

 

 アスカに加えて仮面の対魔忍にそう言われても、アサギは特に何かを思った様子もない。むしろ冷笑ともいえるような表情を浮かべただけだった。

 

「あなたのためじゃない。アスカのためよ」

「そう。まあ、それでいいわ」

 

 相手を食ったようなこの返しは少々効果的だったらしい。アサギは少し不快そうに顔をしかめていた。

 

「……ゆきかぜ、凜子。朧は仕留め切れなかったのね?」

「はい……。申し訳ありません。かなり手練れと思える魔族の用心棒を雇っていたようでして……」

「まあいいわ。2人に催眠刻印は施されていないようだし。……ご苦労様。後詰めは私達に任せて、あとは退いていい。アスカと陽炎を安全な場所に」

「わかりました」

「ちょっと待って」

 

 と、その場から離れようとしたところで仮面の対魔忍がそれを止める。

 

「陽炎。アスカをお願い」

「しょ、所長!?」

「……どういうつもり?」

 

 言葉を発した主こそアサギだったが、陽炎も同じ思いのようだった。訝しい表情のまま仮面の対魔忍を見つめている。

 

「アスカを助けることには成功した。私は満足よ。なら……無茶な協力要請を受けてくれた最強の対魔忍様に、せめてもの恩返しをしたい。アサギ、後詰めの部隊の作戦が終わるまであなたの背中、私に守らせてはくれないかしら?」

「断る。ここにはさくらも紫もいる。お前の手を借りなくても足りているわ」

「あら、フラれちゃったわね。でも……この後詰めの狙いが陽動、退路確保という私の要求の他に……あなたとしては朧を討ち漏らした場合、もし追ってきたらここで討つ、というつもりがあるんじゃなくて?」

 

 整ったアサギの眉が僅かに動く。

 

「そう考えてるなら、私がここにいた方がいいと思うわよ」

「どういう意味だ?」

「あいつは私を消したがっている。陽炎とアスカを手元から失ったとしても、私だけは消したいと思っているでしょう。おそらく、今も追いかけてきている。私がここに残っていれば、奴を釣る餌にもなると思うわ。……どう?」

 

 しばし思慮をめぐらせた後、アサギは小さくため息をこぼした。

 

「……いいわ。そこまで言うなら私の背中、あなたに預けてあげる。くれぐれも私の背を斬らないよう頼みたいものね」

「ありがとう。期待を裏切らない働きをみせるわ」

「ゆきかぜ、凜子。陽炎とアスカをお願い」

「待ってください。2人は空遁が使える凜子先輩だけで大丈夫だと思います。なら、私も……」

 

 ゆきかぜが申し出るが、対魔忍の長はやんわりとそれを拒否した。

 

「いいえ。今のあなたは本装備じゃない。強襲を命じた後言うのもなんだけど、慣れない装備でもしも、ということがあっては困るわ。それにその装備は仮面の対魔忍が協力を取り付けた組織からの一応の借り物よ。壊して弁償なんて言われるのは御免だわ」

 

 アサギがどこまで本気で言っているかはわからない。が、それでも退けということだけはゆきかぜに伝わっていた。

 

「……わかりました。では私も凜子先輩と一緒に撤退します。どうか、ご武運を!」

 

 疲労しているであろう身体を押し、凜子は印を結んでその場を離脱した。残されたアサギは、まず部隊に指示を出す。

 

「凜子達救出部隊の撤退を確認したわ! 安全を確認しつつ後退! 殿(しんがり)は私達が担当する!」

「前方、来ます!」

 

 紫の声に視線を前へと向ければ、新手が迫り来るところであった。そしてその中の1人の女に、アサギは目を見開く。

 

「朧……!」

 

 闇の中を迫り来る宿敵の姿を確認し、激しい怒りの炎が彼女の瞳に宿った。

 

「アサギ様! 単独では……!」

「朧オオオォ!」

 

 止めようという紫の声を振り切り、アサギは飛び出していた。向こうもその姿に気づいたらしい。冷淡な微笑を浮かべて単独先行し、鉤爪を展開する。

 

「忍法、光陣華!」

 

 だが関係ない。アサギは忍者刀を抜いて術を行使するとさらに間合いを詰める。この間合いなら効果時間中に懐まで潜り込んで首を跳ね飛ばせる。幾度目かの復活を遂げた憎き宿敵をこの手で討つ。アサギに迷いはなかった。

 

「今度こそ私の手で確実に殺してやる、朧!」

 

 スローモーションな動きの朧目掛け、アサギの刃が振るわれる。決まった。そう確信した、その時。

 

「何ッ!?」

 

 不意に、朧の姿が彼女の名の通り黒い霧のようになって消えた。光陣華の超スピードをもってしても捉えることが出来ず、アサギの刃は空を切る。

 

(今のは……ブラックがよくやった方法に酷似している……? ブラックの力を受け継いでいるからか?)

 

 疑問に対する答えは出ないまま、術の効果は切れた。スローに動いていた周囲が等速へと戻る。同時にアサギは朧の姿を捜し求めていた。

 

「ここよ、お馬鹿さん」

 

 右手側から声が聞こえてくると同時に訪れる殺気。反射的にアサギは刀を振るい、迫る朧の鉤爪を止める。

 

「朧ォ!」

「はぁい、アサギ」

 

 怒りに震えるアサギとまるで旧友との再会を楽しむかのような朧。2人の態度は対照的だった。

 

「殺しても殺しても、ほんとしつこい女ね!」

「それだけあんたにご執心、ってことかしら?」

「こっちはいい迷惑だわ。今日で終わりにしてやる!」

「あら、それは無理よ? だって……私の知ってるあんたは、もっと強かったんだもの」

 

 朧の鉤爪がアサギの刀を弾きあげる。さらに続けて反撃。一転して防御に回ったアサギは、その言葉を裏付けるように以前の朧より手強くなっているように感じていた。

 

「くっ……!?」

「初手で決まると思ったのは甘かったわね。防戦一方、そして……これで終わり」

 

 鉤爪を忍者刀で防御するアサギを越えて送られる朧の視線。そしてその先には、刀を振りかざしたキシリアが。

 

「1対2、それも背中からの不意討ちと不本意ではあるが、これも雇い主の意向だ。悪く思うな!」

 

 闇に溶ける黒刀が振るわれる。そっちを防御すれば朧に狙われる。回避を試みても同様に朧に押し切られる危険性がある。こうなれば再び術を発動させるしかないか、とアサギが考えた瞬間。

 

「迂闊ね。逸りすぎよ。でも約束は守ってあげる。あなたの背中は、私が守る」

 

 アサギとキシリア、その両者の間に割り込んできたのは仮面の対魔忍だった。ナックルブレードを交差させ、キシリアの一撃を受け止める。

 その姿を見て、朧の顔つきが変わった。先ほどまでの微笑が消え去り、不愉快さを隠すことなく叫ぶ。

 

「キシリア! そいつを殺しな!」

「承知!」

 

 魔族の女剣士によって目にも止まらぬ神速の斬撃が繰り出される。闇と同化し、目視も困難なはずのその連撃であるにも関わらず、仮面の対魔忍は両手のナックルブレードでそれを次々に打ち払っていく。

 奇襲をし損ね、短期勝負は不利と判断したキシリアは無理に押さずに安全策に出た。今度は逆にそこに付け入ろうと、仮面の対魔忍が攻勢に出る。

 

「対魔殺法、『鬼斬離(おにぎり)』!」

 

 2本のナックルブレードが闇を切り裂く。必殺の二刀流の連撃を、しかしキシリアは見事に捌いてみせた。その顔に先ほど凜子と戦ったときと同様、またしても強者と巡り会えたという喜びの微笑が浮かぶ。

 

「やるな……!」

「あら、ありがと。でもそっちもね」

 

 そんな軽い様子のやり取りを耳にし、朧は苛立ちを募らせた様子だった。アサギを無視し、今は朧に背中を見せている仮面の対魔忍を討ちたいと意識がそっちへ向いていく。

 

「私を無視するのはいいけど、死ぬわよ!」

 

 その集中の途切れを見逃すアサギではなかった。鋭い声と共に刀が振るわれる。朧は鉤爪で防御しつつも、焦燥を抱いているようでもあった。

 

「お姉ちゃん!」

「アサギ様!」

 

 さらにそこにさくらと紫も到着する。実力者である対魔忍の増援が到着したとわかると、朧の決断は早かった。

 

「退くよキシリア! 数で不利だ。あとは傭兵とドローンとパワードスーツに任せる!」

「……了解した」

「逃げる気!?」

「そうよ。今日は挨拶代わり、と言うことにしておくわ。まあ追ってきてもいいけど」

 

 あっさりと撤退の体勢に入った朧を追うべく、アサギが踏み込もうとする。だが。

 

「待ちなさい、アサギ。気持ちはわかるけどここで追えばおそらくあいつの思うつぼよ。下手に追って強化外骨格に囲まれでもしたら、いくらあなたでも危険じゃないかしら」

 

 仮面の対魔忍にそれを制された。付け加えるように朧からも声が飛んでくる。

 

「本当にムカつくクソ女だ! いずれ必ず殺してやるから覚えときな!」

 

 その捨て台詞を最後に、朧とキシリアは木々の闇の中へと消えていった。代わりに機械の稼動音と共に数機のボーンとアレクサンドルが、歩兵とドローンを伴って接近してくるのがわかる。

 

「朧も消えたことだし私達もぼちぼちお暇したいところだけど……。これはそうさせてはくれそうにないわね」

 

 アサギが愚痴をこぼすが、相手はそんなことはお構い無しとばかりに銃弾を吐き出すだけだった。腕利きの対魔忍達が一斉に散らばる。

 救出作戦は佳境を迎えようとしていた。

 




アレクサンドルですが、米連の最新鋭強化外骨格で雷電の元になった、という設定はあるようです。ただ用語としてはアサギ3にも決戦アリーナにも出ているものの、厳密には登場していません。
笹山氏のツイッターにラフはあったので、武装はそこからイメージしました。雷電のような固定武装には見えなかったので、「汎用性を取って状況によって装備を変えられる」という方向性として、今回は手持ち式の12.7ミリ重機関銃(ブローニングM2あたりをイメージしてます)と白兵戦のパワードスーツ用サバイバルナイフという装備を想像してます。あとはグレネードランチャーとかアンチマテリアルライフルとかが装備オプションにあるんじゃないかなー、などと1人考えたりしております。白兵戦が好きなパイロットは試作型のビームソードみたいなの持っちゃったりしてね。

ちなみに本作では未登場ですが、決戦アリーナに登場する米連HRのサーシャ・リンドブルムはそのアレクサンドルのパイロットという設定です(ただし、誤植でシーン中のテキストはアレクサンドロになってますが……)。
また、カード説明で「初期に開発した旧式」とあるため本文中で「型落ち機」と評しているボーンですが、こちらのカスタム機が期間限定米連URミラベル・ベルの愛機のようです。
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