スキル『マジックバッグ』で女性冒険者を悦ばせていたら伝説の男になった。 作:もすまっく
―――リーン……。
仲間の一人が目の前で食われ、何が起こったのかを理解出来ないまま呆然としていたの彼等の耳に、この場に似つかわしくない鈴の音が聞こえた。
「―――?」
その姿に最初に気が付いたのは弓使いの男だった。
「―――影……じゃない……人……か……?」
初めは何かの影かとも思ったそれは、よくよく見ればこの大きな魔獣の後ろに背を向けて佇んでいる人であった。
―――リーン……。
そして二度目の鈴の音が聞こえた時、いつの間にかその動きを止めていた魔獣の体から一直線に血が流れ始め、時間が経てば経つ程にその流れる速度は勢いを増していく。
「な、何が……?」
這いずりながらも前へと進んでいたリーダーの男がそう呟くと、血を流していたその巨体がその線を境目としてゆっくりと真っ二つに分かれていった。
「――――――なっ!!?」
まるで影のように現れ、影のように佇むそれを目にした時、すでにその魔獣の命は刈り取られていた。
◇◇◇
「―――久しぶりエル。それからミゼ―レも」
重苦しい空気の中、エルダリアとミゼーレの二人の前に現れた女性。
彼女はまるで影がそのまま形になったかのような、上から下まで全身が全て黒で統一された姿をしていた。
「エリカっ!?貴女っ、いつ帰って来たの!?」
「帰って来たのは今日。さっきまでギルドの方で色々とあってね。つい今しがたそれが終わってやっと解放されたってわけ」
軽く溜め息を吐き、疲れた様子でそう言った彼女にミゼーレが声を掛ける。
「……ギルド……ねぇ?もしかしてなんだけどエリカ?」
「なに?」
「貴女、今日近くの森で特殊個体の魔獣を討伐したりしなかったかしら?」
「特殊個体?あーあれね。倒したよ?」
それを聞いたエルダリアが呆れたような顔でエリカを見つめる。
「……通りで早いはずね。特殊個体って聞いて緊急依頼が出ているのかと思ったらそれはもう討伐されてるって言われて驚いたのよ。でもそれをやったのが貴女だって言うのなら納得だわ」
「……ほんの少し、遅かったみたいだけどね」
エリカは僅かに目を伏せ、その顔に悔しさを滲ませる。
「それは仕方が無い事よエリカ。寧ろ貴女がいたからこそ一人の犠牲で済んだのだとそう考えるべきだと思うわ」
「私もエルの意見に賛成ね。そういう事もあるのが冒険者だもの。いつ死んでもおかしくは無い、そんな道を歩いている以上それは覚悟すべき事よ」
「……そうね、ありがとう二人共」
少しだけしんみりとした空気が流れる中、今度はエリカが二人に気になっていた事を尋ねようと口を開く。
「ところで二人共、一体ここで何を話していたの?随分と暗い顔してたけど?」
「え?あー……まぁその、今と同じような内容の話よ。特殊個体とそれから一人の冒険者が亡くなったっていう話」
エルダリアとミゼーレはシスティレーナとそれに関する本当の事を話す訳にはいかず、誤魔化すようにチラチラと顔を見合わせながらそう言った。
「……ふーん?まぁそういう事にしといてあげる」
「ね、ねぇ?取り合えずエリカも座ったらどうかしら?」
「そ、そうよっ、何か注文したらどう?私もそろそろ追加で注文しようと思っていた所だったしっ」
「そうね、本当に久しぶりだし、二人と色々と話す事もあるしね」
「ふふ、そうこなくっちゃ」
それからは三人で語らい合いながら、ゆったりとした時間を過ごした。
そんな彼女達が寛いでいるカフェの前を他の冒険者が通りかかった際、思わず二度見をしてしまう者が多かった。
二つ名持ちが三人同時に同じテーブルを囲んでいるというだけでも十分過ぎる程の事ではあったのだが、その三人共がタイプが違うとはいえとんでもなく美人揃いであった事もそれに拍車を掛けていた。
エルダリアとミゼーレは最近よく一緒にいる為に、他の冒険者達にとってはそれ程珍しい事では無くなっていたが、そこにしばらく王都を離れていたエリカまで加わるとなれば話は別だ。
―――閃光の如く敵を切り裂き、彼女が一瞬足を止めたその時に見る事が出来る、煌めく光と共にふわりと舞う美しい銀色の髪からそう呼ばれるようになった『銀閃のエルダリア』。
―――氷と炎の相反する属性を巧みに使い分け、時には氷のように冷徹に、時には炎のように苛烈に敵を攻め続ける、正に彼女の在り方を体現したような戦い方からそう呼ばれるようになった『氷炎の魔女ミゼーレ』。
―――影のような漆黒のその姿と、捉える事の出来ない神出鬼没な動きによって翻弄された敵は、鈴の音が聞こえた時にはすでにその命を刈り取られているという、まるで死神のように静かな死を贈り届ける彼女を『
今現在の王都の冒険者ギルドの中でも、間違いなくトップレベルの実力があるその三人がこうして一堂に揃っているのを見てしまえば、そうなってしまうのも仕方が無いことであった。
◇◇◇
三人が解散した後、エルダリアとミゼーレは一度自分の家に戻り、誰か分からないよう服装や髪型を変え、さらに顔が判別しにくいよう深めの帽子などを被った状態でユウマのいる家へと向かった。
「おかえりなさいエルダリアさん、ミゼーレさん」
「「ただいまユウマっ♡」」
家に着いたと同時に二人揃ってユウマに飛びつくようにして抱き付いた二人。
「今日は結構遅かったですね?」
「ちょっと友人と話してたら長くなっちゃってね?」
「そうだったんですね。一応買ってあるパンがまだあるのと、後は俺がちょっと試しに作ってみたスープがあるんですけどどうします?」
「えっ、ユウマが作ったの!?勿論頂くわっ!ねぇエル!」
「当然じゃない」
「そうですか?じゃあ先にそっちのテーブルで座って待っててください。スープの方を少し温めて来るので」
「ありがとうユウマ♡」
「ごめんね?でもありがとうユウマ♡」
「いえ、本当に大したものじゃないですけど俺も食べて貰えると嬉しいですから」
そう言ってユウマがスープを温めに台所の方へ向かい、その姿が見えなくなった時だった。
「何を隠してるのかと思えば……二人揃って男の家に来るなんて驚きだわ」
「「――――――っ!!?」」
エルダリアとミゼーレが同時に声のした方へと振り返る。
当然そこに立っているのは先程カフェで同じテーブルを囲んで話していたエリカその人であった。
「私の能力は知っているはずなのに、甘いね二人共」
「「…………」」
エリカはぐるりと家の中をその真っ黒な瞳で観察する。
エルダリアとミゼーレはやらかしてしまった事に唇を噛み締め、お互いにどうしようかと目で会話をしている時だった。
突然、硬質な物が割れる音が部屋に短く響き渡る。
「―――ユウマ?大丈夫ユウマッ?!」
ユウマの足元に散らばったお皿の欠片などには目もくれず、一直線にユウマの元に近づき心配そうな顔でユウマの体を確かめる二人。
「ねぇどうしたの?……ユウマ?」
怪我をしていないかを確認した彼女達は、何やら彼の様子がおかしい事に気が付いた。
「あのさ?いくら急に中に入ったからってそんなに見つめられても困るんだけど……?」
ユウマの視線は、その先に立っているエリカへと固定されている。
「……何?私の顔に何かついてる?」
二人の様子を交互に見比べていたエルダリア。
(……エリカのこの反応……間違いなくユウマとは初対面だわ……だけど、ユウマのこの反応はそれとは逆の……待って……これって、もしかして……)
当事者だからこそ心当たりのあるこの状況に、エルダリアは唾を飲み込んだ。
「……ミゼ」
「ねぇどうしたのユウマ?」
「ミゼ」
「何よ?ねぇユウマ?」
「ミゼっ」
「何よ?!」
「多分……いえ、間違い無いわ」
「何が!?」
「……消されてる」
「消されてるって何が―――」
エルダリアはミゼーレの瞳を真っすぐに見つめながら静かに頷いた。
「……嘘っ……でしょ……?」
エルダリアのその言葉と視線の意味に、ミゼーレは大きく目を見開いてエリカを見つめた。
「何よ?二人まで?」
自分達が出会う前からすでに何人も『仕事』として女冒険者と体を重ねているユウマ。
そして仕事であるならば、それは相手となる女冒険者の記憶を―――。