スキル『マジックバッグ』で女性冒険者を悦ばせていたら伝説の男になった。 作:もすまっく
「一先ずはこれで全員、か」
翌日、ユウマを含めた六人全員が一つのテーブルを囲んでいた。
傾国の戦乙女ジルファーレ。
銀閃のエルダリア。
氷炎の魔女ミゼーレ。
赤雷ヴァルナ。
影向のエリカ。
「私を除いた場合、近接戦闘を得意とするものが三人と遠距離戦を得意とする者が一人……か。流石にあと二人は欲しい所だな」
「はい、私達もそう思ってまずは治癒魔法使いを一人、と考えていたのですが……先の依頼で精神的にやらてしまったようで」
「ふむ」
ミゼーレの報告を聞き、顎に手を当てて考えるジルファーレ。
「やっぱ治癒魔法使いはいた方がいいのか?」
「当然でしょヴァルナ?いくら私達が強くなっても何かしらの想定外っていうのは必ずあるものなのよ?」
「想定外、ねぇ……まぁそりゃそうか」
「私は能力的にも隠密行動が得意だからそっちの方は任せて?」
「えぇ、そこに関してはエリカが適任でしょうからお願いするわ」
ミゼーレは一度ぐるりと全員に視線を配り、それからヴァルナへと視線を戻す。
「何かあった際に一番最初に特攻を仕掛け、攪乱しつつ数を減らすのがヴァルナ」
「あいよ」
「情報収集をしつつ奇襲によってピンポイントに敵を切り崩すのがエリカ」
「うん」
「ユウマやジルファーレ様に近づく者達を排除する絶対の壁としてエル」
「勿論よ」
「そして広範囲魔法によって相手の陣営ごと叩き潰す私。現状の戦力ではこのような感じになっていますジルファーレ様」
目を瞑って考え事をしていたジルがその目を開く。
「状況としてはかなり良い線をいっている。ただやはり数が足りんな」
「はい、すぐに終わる戦いであれば問題はありませんが、こちらの人数を把握されてしまえば消耗戦を仕掛けて来る可能性が非常に高くなるでしょう」
「少数での暗殺を狙い、もしそれが上手く行かなかった場合はそうなるだろうな」
暗殺という言葉まで出て来た事で一気にこの部屋に緊張感が増す。そんな緊張感からか、ユウマは不安そうな顔でジルを見つめた。
「……あの?」
「どうした?ユウマ?」
「本当にその、ジルが妊娠した時にそういう事をして来るものなんですか?」
「あぁ、最初の内は全く問題ないだろうが、成長してお腹が大きくなる頃には必ず仕掛けて来るだろうな」
「それはやっぱり、ジルが強いから……?」
「うむ。強過ぎる力はどうしたって恐怖するものだからな。魔獣との戦いや国を守る為にその力が使われている内はいいだろうが、だがそれがもし自分達に向けられたらと、そう考える者達は実際には多い」
「ユウマはジルファーレ様の本当の強さを目にした事がある?」
「いえ、助けてもらった時にしか……?」
「それなら余りピンと来ていなくても仕方が無いと思うわ」
「そうなんですか?」
「えぇそうよ?だってそれこそジルファーレ様が命を賭けて本気で相手を叩き潰そうと思えば、恐らく国の一つや二つくらい本当に落とせるわよ?」
「……え」
「おいそんな目で見るなユウマ。私だって傷つくんだぞ?」
「あっ、ごめんなさい」
「ふふ」
元々王国の騎士団は精鋭揃いで有名ではあったが、世界最強という名を冠する存在にまでその名を轟かせたのは、間違いなくジルファーレ個人の強さによるものであった。
「それだけの強さを持つ存在を囲っているこの王国はね?表面上は仲良くしてくれているように見せてはいるけれど、今ではどの国よりも警戒されているのよ。例え長い間友好を結んでいた国だったとしてもね?」
「友好を結んでいたとしても、ですか?」
「えぇそう。だって人は人を裏切って来た歴史があるから。そういう歴史を歩み続けて来た生き物だから」
お互いに手を握り合っている中、後ろに回している手には常にナイフを握り締めている。
それは襲われるかもしれないという恐怖から自分の身を守る為の自衛のナイフかもしれないし、逆に不意を突いて刺し殺そうとする攻撃のナイフかもしれない。
「だから怖いのよ、ジルファーレ様がいる今のこの王国が」
ミゼーレの言葉を聞いて何も言えなくなり黙ってしまったユウマに、今度はエルダリアが口を開く。
「当然だけどジルファーレ様が恐れられている理由の一つとして、その強さ故にそれを利用しようとする存在がいるっていう問題もあるからなのよユウマ」
「利用、ですか?」
「そうよ。だって世界には本当に多くの思想を持った人間が存在するんだもの。世界を混乱させたいと願うような狂人がいるかもしれないし、国を乗っ取り我物にしようと考える者だっているかもしれない。そして中には世界の覇権を握り世界征服を目論んでいるなんて者もいたっておかしくはないわ」
「世界を……?」
「えぇそう。それが人というものだから」
「…………」
「そしてそういった連中にとって一番邪魔なのは誰だと思う?もしくはそういった連中に利用された場合に最も恐ろしいのは誰だと思う?」
「…………」
「王国やジルファーレ様の意志だけなら大丈夫だとしても、現実はそうじゃないから皆恐れているのよ。それこそ今で言えばユウマ?Aという国の人間がBという国の人間の振りをして貴方を連れ去り、そしてそのまま殺されでもしてみなさい?もしその事実に気が付かずにいれば、Bという国はどうなると思う?直接Aという国が手を下さずとも、ジルファーレ様がBという国を沈めてしまう、そうは考えられない?」
「…………」
「そして更に言えば、ジルファーレ様がBという国に攻め入っている間、王国にジルファーレ様がいないという状況すら作り出せるのよ?今言ったみたいに仮に世界を狙っている国があれば王国を落とす絶好の機会になるとは思わない?」
「…………」
「まぁそれは極端な例だがつまりはそういう事だユウマ。私がそれを望まずとも誰かがそうなるように仕向ける者は必ず出て来る」
「だから、ジルを……?」
「そうだ」
そこで黙って聞いていたヴァルナが口を開く。
「んーつまりはあれか?団長様がいなくなれば利用出来なくなっちまうけど、逆に利用される事も無くなるから消せるなら消しちまおうって、そういう事か?」
「そういう事ね。それに加えて今エルが言ったように、ジルファーレ様がいないというだけで王国を落とす絶好の機会となるのよ。仮にいたとしても身重になったジルファーレ様であればどうとでもなる、そうなればこの国に勝てると思っている何処かの国のお偉い様方達も結構いるんじゃないかしら?」
「へー……舐められたもんだな」
顔には笑みを浮かべているが、ヴァルナのその瞳は一切笑っていなかった。
「という訳でだ。私が身重になっている間、何としてでも守ってもらわねばならん。いくら最強と謳われているとはいえ、腹の中の子を傷つけるような真似をする訳にはいかんのでな」
「勿論ですジルファーレ様。そして無事に守り切ったその暁には―――」
ミゼーレのその言葉に、ジルは深い笑みを浮かべる。
「あぁ、お前達もそれを求めるのであれば宿すといい」
エルとミゼーレのみならず、その意味を理解したヴァルナとエリカもまた、その顔に深い笑みを浮かべた。