どれくらいそうしていただろう。彼の腕の中で、私は波の余韻に身を委ねていた。呼吸はもう落ち着いていたけれど、体の内側はまだ熱を帯びている。彼の指が私の髪をゆっくりと梳いていた。その感触が心地よくて、私は彼の胸に額を押しつけたまま動けずにいた。
ふと、気づく。彼の中にあるものがまだ硬さを保っていることに。私の内側で、彼はまだ熱を持ったままだった。私は顔を上げた。彼の顔を見る。行灯の光が、その輪郭をぼんやりと浮かび上がらせている。彼の目は、まだ私を見ていた。ずっと見ていたのかもしれない。ずっと、待っていたのかもしれない。
「まだ」
私の声は掠れていた。それでも、伝えたかった。まだ終わっていない。あなただけが、まだ。彼は少しだけ首を横に振った。
「無理しなくていいよ」
その優しさが、胸に刺さる。無理なんかじゃない。私はもっと知りたい。自分の体が、彼と一緒にどこまで行けるのか。高校までの私なら、ここで止まっていた。母の声に従って布団を分けて、朝までじっと目を閉じていた。でももう違う。私は二十歳で、大学生で、自由だった。自由に彼を求めることができた。
私はゆっくりと体を起こした。彼が驚いたように私を見上げる。その胸に手をついて、私は彼の上に跨るような形になった。浴衣はもう、肩から落ちて腰のあたりでくしゃりと丸まっている。剥き出しの肌に夜の空気が触れる。でも、寒くはなかった。むしろ熱かった。
「私が、動くから」
そう言って、私は彼の中にいるものを受け入れ直す。さっきより深く、彼が私の中に入ってくる。その感覚に私は小さく息を呑んだ。彼も息を詰めている。私は彼の肩に手を置いて、ゆっくりと腰を動かし始めた。初めての動きだった。自分の意思で、自分の体を動かす。どうすればいいのかわからなかったけれど、体が勝手に覚えていた。彼の呼吸が少しずつ乱れていく。その音を聞いていると、自分の内側がまた熱くなっていくのがわかった。
彼が上半身を起こす。私の背中に手を回して、抱きしめるような形になる。私たちは向かい合って座っていた。彼の胸と私の胸がぴったりとくっつく。心臓の音が、ふたつ重なって聞こえる。彼の腕が私の背中を強く抱く。私は彼の首に腕を回した。額が触れ合う。鼻先が触れ合う。唇が、ほんの数ミリの距離で止まっている。
彼が私の名前を呼ぶ。その吐息が、私の唇にかかる。私は応える代わりに彼の唇に自分の唇を押しつけた。初めてのキスだった。酒の味も、何の味もしなかった。ただ温かかった。彼の唇は少しだけ乾いていて、でもすぐに柔らかくなった。彼の手が私の腰を掴む。その指が、私の肌に食い込む。私は彼の唇を離さないまま、もっと深く彼を受け入れた。
抱き合ったまま、私たちはゆっくりと揺れる。彼が下から私を支えて、私が上から彼を包み込む。さっきまでの波とは違う。もっと静かで、もっと深い波。私の体の奥のほうで何かがまたほどけ始める。さっきよりもゆっくりと、でも確実に。彼の吐息が私の耳元で深く刻まれる。その音が、私の名前を呼ぶ声が私をさらに奥へと押しやっていく。
「また、きそう」
私は彼の耳元で囁いた。自分でも驚くほど素直な言葉だった。彼が私の腰を掴む手に力を込める。それが合図だった。私の体が、ふたたび大きく波打つ。内側から何かが溢れ出していく感覚。私は彼の肩に顔を埋めて、声を押し殺した。でも声は漏れた。彼の名前が、私の唇からこぼれ落ちる。
彼の腕が、さらに強く私を抱きしめる。私はその腕の中で二度目の波に身を委ねた。さっきよりも長く、深く。体の芯が溶けていくような心地よさ。その中で、私ははっきりと感じていた。彼がまだ私の中で硬いままであることを。
波が引き始めたあと私は彼の胸に寄りかかったまま、荒い呼吸を繰り返していた。彼の手が私の背中を優しく撫でる。その手のひらは汗ばんでいて、熱かった。私は顔を上げて彼を見る。彼の額にも汗が浮かんでいる。私はそっと、その汗を指で拭った。彼が少しだけ笑う。その笑顔に、私はもう一度キスをした。今度はもっと長く。